第2話 召喚されし者
「ど、どうなってんだ?こりゃ……」
いきなり襲ってきた変態女を蹴り飛ばし、昏倒させた俺は、ひとまず『何故か』そいつが持っていたロープでそいつを縛り上げて、一息を付いていた。
そして改めて自分の姿を確認し、愕然とする。
全体的に青白く、とてもじゃないが健康的とはいえない肌の色。
細く、小さく、頼りなくなってしまった腕と足。
そして、僅かにふくらんでいるのが見える胸。
何より……。
「……冗談だろ?」
そこに、男としてあるべきものが無くなっていた。
とりあえず、いつまでも裸のままで居るわけにもいかないため、俺は部屋に掛けられていたマントを羽織ることにした。
……これはあくまで、裸で居るのが恥ずかしいからなのであって、決して自分の裸を見るのが恥ずかしい、というわけでは無い。……いや、妹の裸を事故で見たことはあるのだが、それとはまた別な感じで、見ていて恥ずかしいとかそういうなんていうかその、ああもうっ!
変な方向に走り出した思考を、頭を振って何とか振り払う。深呼吸をして、ゆっくりと自分の気持ちを落ち着かせた。
「ひとまず、やらなきゃいけない事は……」
昏倒したまま、縛られた変態女へと視線を移す。正直あの様子を見て、なおも関わりたいとは思わない。が、
「今のところ、コイツに色々と聞き出すのが、一番安全で確実なんだよな……」
どうやって俺をここに拉致したのか、そもそもこの姿は何なのか。
それらを一番知っているだろう人物が起きるまで、俺は退屈な時間を過ごすことになった。
「んうぅ……あらぁ?私、なんで縛られてるのかしら~」
「ようやく起きたか、この変態女」
まだ意識がはっきりしていないのか、呆けた様子で周りを見回す変態女。
やがてその視線に俺が写り、少しずつ焦点が合わさっていく。
「あ、あら?あらあら~??」
「いきなり人を拉致して、服を脱がせた挙句に襲ってきやがって……っつーか、俺の体に一体何をした?どういうつもりなんだ?」
「あ、あらら~?」
俺の言葉に、不思議そうに首を傾げる変態女。そういえばコイツ、明らかに日本人の容姿じゃないんだが……日本語が通じるのか?
やがて何を勘違いしたのか、頬を染めてイヤンイヤンと頭を振り出す変態女。まて、何を考えた。
「まさか、召喚して早々に縛られちゃうなんて~。ひょっとして私、何か強引にされちゃうのかしら~?」
「オイコラ、ちょっとマテ、何変なこと想像してやがるっ!意味の分からんこと言ってないで、人の質問に答えろ!!」
そこまで言ってふと、女の単語が引っかかった。ショウカン?まて、そういえばこの女、最初にツカイマとか言ってたな。
ショウカンとツカイマという言葉……それに、床に引いてある複雑な魔方陣。これらが意味するものって言えば……おい、まさか。
「ふふふ、でも私も簡単には体を譲れないわよ~?……さぁ、『動かないで』?」
「んがっ!なっ……か、体がっ!?」
突如、まるで女の言葉にあわせるかのように、俺の体が金縛りにあう。
それはまるで……そう、まるで魔法かあるいは超能力のような力。さっきの単語と床の魔方陣を考えれば、絞り込むのは簡単だ。
「ま、まさかお前……魔法使いとか、言うの……か?」
自分で言っておきながら、その言葉の非現実さに笑いそうになる。いくらなんでも、この科学の発達した時代に、魔法使いは無いだろう?
「あら~?私は魔法使いじゃないわよ~。私は、錬金術師ですから~」
……どっちも対して変わらんだろ。って言うか、錬金術師ってあれか?鉛を金に変えるとか、等価交換とか、そういうあれか。
どっちにしろ、非現実的なことには変わりは無い。
「ちっ……うご……け……くそっ」
「んふふ、ダメよ~?私は貴女のご主人様なのですから~。さぁ、『縄を解きなさい』?」
女の言葉に、俺の体がびくりと震える。俺の意思に関わらず、ゆっくりと体が動き出す。
「お、おい……まさかっ……!?」
勝手に動く俺の体に、俺はとてつもなく嫌な予感を感じる。顔から、血の気が引いていった。
女の後ろに立ち、俺の意思に反して、俺の手がゆっくりと女の縄を解き始める。
「ふふ、良い子ね~」
「や、やめっ……」
………………。
「あら~?あらあら~?えっと……命令はちゃんと聞いてるの……よね~?」
「ああ、多分それは……間違いないと思うぞ」
「じゃあ、何で私の縄はぜんぜん解かれないのかしら~?」
「そりゃあ、多分俺が固く結びすぎたんだろうな」
………………。
「あ、あら?あららら~?」
「俺もちょっと、結び目を解く手が痛くなってきたんだが?」
女が冷や汗を流し始めるのを見て、俺は軽くため息を付く。
起きたときに、万が一にも抜けられないようにときつく縛っておいたのだが、どうやらそれは正解だったようだ。
……まぁ、今の女の様子を見ている限りでは、縄を解くなりいきなり襲ってくるような様子は……微妙なところだな。
そのようなことを考えていると、突然部屋の扉が勢い良く開かれた。中に、小柄な女の子が入ってくる。
「おっししょうさま~!頼まれてたココルの実、取ってきた……よ?何やってるの?お師匠様。何か、新しい遊び~?」
「あ、お帰りなさいフォルちゃん~。悪いんだけど、この縄……解いてくれないかしら~?」
「は~い、あれ~?お師匠様、この子はだぁれ~?」
少女に視線を向けられ、軽く焦る。……ってちょっと待った。さすがに俺は、小学生にこの子といわれるような年齢じゃないぞっ。
「この子は、私の使い魔さんなのよ~。や~~~っと召喚に成功したのよ~?」
「わぁ~、そうなんだぁ♪」
顔中に喜びの色を浮かばせ、トテトテと駆け寄ってくる。何か行動を起こそうにも、俺の体は縄を解く行動のまま動くことは出来ない。
「私、フォルカ・エティールドって言うの。使い魔ちゃん、よろしくね♪」
「ぁ……ぅ」
その屈託の無い笑顔に、俺は思わず顔をそらした。手足は思うように動かせないのだが、どうやら首から上は制限が掛かっていないようだ。
「あれ?えっと……私のこと、嫌い……なの?」
「違うわよ~フォルちゃん。使い魔さんはね、きっと照れ屋さんなのよ~」
「む……ぐぐ……」
その言葉には、若干反論がしづらい。何せ、妹や幼馴染にも散々言われてきた事だからだ。
「……俺は東間美晴。美晴って呼んでくれれば良い」
ちらちらと目をそらしながら、俺は挨拶を返す。……多分、俺はこんなんだから照れ屋などと言われるんだろうな。
「わぁ……うん!よろしくねっハルちゃん!!私の事は、フォルって呼んでね♪」
「あ、ああ……よろしく、フォル……ちゃん」
頬が、一気に火照っていくのが感じられる。別に女の子と話すのが初めてって訳でもないのに、照れが収まらない。
「ふふ、ハルちゃんってば可愛い♪いい子いい子♪」
「はぅ……」
突然頭に手を置かれ、優しく撫でられる。その奇妙な安心感と心地よさに、思わず酔ってしまいそうになる。
……ちょっと待った、おかしい。
ふと、妙な違和感を感じてフォルに視線を合わせる。
…………フォルが、俺より背が高い?
まて、ということは……ということは、だ。
俺、背が縮んだ?いや、ひょっとして若返った……?
フォルが可愛く首を傾げるなか、俺はそのあまりの状況に、ただ呆然と立ち尽くしていた。
ちなみに縄が解かれたのは、その30分後のことである。長いこと放置された錬金術師の女は、解かれたときにその事で若干ふて腐れていた。
本編が開始されたので、ここでの予告等は終了します。
時間軸がずれたり、過去に戻ったり視点が変わる場合は、ここや前書きに注釈として書くかもしれません。
分かりづらい物や、蛇足として書いておきたいものはここに書いていく予定です。
必要なら、ネタバレにならない程度の人物設定を書きますが……必要なんですかね?人物設定。
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