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第25話 使い魔少女の信奉者
 
 誰かが見ている気配がした。
 
 ゆっくりと、意識を覚醒させる。まだ頭が覚醒しきれず、半分寝ぼけた状態のままだったが構わず俺は体を起こす。
 
 ばたばたばた……と騒がしい音が響き渡る。誰かが近くに居るのだろうか?
 そう考えて、ふと自分が図書館の裏手の木の下で寝ていることを思い出した。
 と言うことは、騒がしいのはクラスの誰か……フォルかメイフィールドさんか、あるいはゼノガルド君辺りが近くに居るのか?
 
 ……って、ひょっとして寝顔見られたのか?俺。
 
 辺りに、それらしい人物が居ないか見回す。寝顔ぐらい……とも思うが、やはり見られるのは少し恥ずかしい。
 
 そして、俺の視界が一人の少女を映し出した。
 
 流れるような銀に光る髪の毛。二つの眼に宿る優しげな翠色の瞳。芸術的なほどに整った顔立ちと……絹のように白く滑らかな肌と、服の上からでも分かる完璧なプロポーション。
 そして何より、うっすらと頬が桃色に染まっている……陶酔とした表情。
 寝ぼけていた意識が一気に覚醒し、俺はその全てを兼ね備えた少女の姿に、少しの間見とれてしまった。
 
 少しの間をおき、俺は我に返る。まだ挨拶もしていない相手の容姿を観察するとか、いくら寝起きだったとしても呆けすぎだ。
 彼女に何かを言おうとして……一瞬迷う。自分から名乗るべきとかそんな事が、頭をよぎる。
 
「……ええっと、君……誰?」
 
 だが、口に出た言葉は相手の名を聞く言葉だった。
 言った後に少し失礼だったか……とも思った。本来、相手に名を聞く前に自分から名乗るのが礼儀だったはずだ。
 相手もそう思ったのだろうか?俺の問いかけに、特に返してくる様子は無い。……ひょっとしたら、失礼な奴だと思われているかもしれない。
 
「え、ああああえええとわ、私の名前はセレスティナ・A・ミストレスですっ!!」
 
 そんなことを考えていた俺をどう勘違いしたのか、目の前の少女はその高貴さをかなぐり捨てる勢いで慌てだした。
 え?何?えと……なんでこんなに慌ててるんだろ?というか、むしろ怯えている?
 
「そそそそ、そのですね、ああああの、その聖女様の姿に見惚れてしまいまして、その、おおお起こすつもりはその決して!!」
 
 ?いや、とりあえず意味が分からない。聖女って何?というか、起こすつもり??
 
「あ、えと、悪いんだけど」
「は、はいいいいいっ!!!」
「うん、そこまで怯える理由も分からないけど、とりあえず落ち着いて?」
 
 俺の言葉にこくこくと頷いて、深呼吸を始める。息を大きく吸って、吸って吸って……ってちょっと待て。
 
「ちょっ!?ちゃんと息は吐いて!」
「ぶはぁっ!?す、っすすすみませんっ!!」
 
 何だか、意味が分からない。この子、さっき見た完璧な少女と同一人物だよね?
 
「せせせせ聖女様のお手を煩わせてしまうなど、やはり私は天罰を受けてしまうのですねっ!?」
「いや、本当に意味が分からないから、それ」
 
 とうとう言っている意味が分からなくなってきたので、とりあえず突っ込みを入れる。
 だから聖女って何?天罰って……そんな仰々しい事が出来る奴が、この場のどこに居るんだよ。
 
「えええとえとえとそのその、わわ私は構いませんから民の方たちまではどどどはわぁっ!?」
 
 あまりに動揺しすぎたのか、こちらに近づこうとして足をもつれさせ、転倒してしまう少女。幸い少し離れていたためか、こっちに被害は無かったのだが……。
 
「いたたた……」
 
 転倒した少女自身は、腕を地面に強打していた。ひょっとしたら怪我をしているかもしれない。
 
「大丈夫か?そんなに慌てたりしなくて良いから、とりあえず落ち着いて」
 
 その少女を言葉で落ち着かせながら、俺は覚えた魔法の中に治癒魔法があったのを思い出す。たしか……。
 
【minor healing《小治癒》】
 
 ウィンドウを開いて記述する。意図した文字が間違いなく記述された事を確認し、発動させる。
 
 すると、少女が軽く光に包まれ、苦痛にしかめていた顔が次第に戻っていった。
 
「あ、ありがとうございます」
「いや、構わん。たまたま発動体を持っていただけだしな」
 
 元々は、ウィンドウに表示される文字の確認のために持ち歩いていたのだが、まさかこんなところで役に立つとは思わなかった。
 座った状態の少女に、手を差し伸べる。意図に気づいたのか、その少女は手を握り返し、
 
「わわっ!?」
「きゃっ!?」
 
 俺は少女を引き上げるのに失敗して、その少女に引っ張られる形でぶつかってしまった。
 むにゅっとした感触が頭に感じられるんだが……変なことを考える前に、即座に頭を引っぺがす。
 
「ご、っごごごごごごめん!」
「いいいいえ、こ、こここちらこそすすすみませんっ!!」
 
 慌ててその少女から離れ、立ち上がる。先ほど頭に感じた感触が一瞬よみがえりかけたので、頭を振って振り払う。
 
「わ、悪い。俺の力じゃ手伝うことは出来ないみたいだ。何とか一人で立ち上がれるか?」
「は、はひっ」
 
 まったく、情け無い限りである。いくらひ弱になったとはいえ、女の子一人も引っ張り上げれないとは。
 というか、さっき俺が言った言葉の意味って考えると、この女の子が重いって言うことになるんだよな。……ぐぅ、すごい失礼な事言ってるし、俺。
 
「ええと……それで、セレスティナさんだったかな?」
「は、はいっ!!」
「俺の名前はミハル・トウマ。それでセレスティナさんは何でこんなところにいたの?」
 
 純粋に疑問になったので聞いてみる。ここは図書館の裏手であり、特別に何か施設や設備が置いてあるというわけではない。
 魔法の練習なら学舎前の広場ですれば良いし、図書館に用事があるならここに来る必要は無い。
 ……ひょっとして、俺と同じように休憩に来たのだろうか?それだったら、この場を占有していたというのは、悪い事をしてしまったかもしれない。
 
「は、はいっ分かりました!聖女様のお名前は、ミハル様ですね!!」
「……は?」
 
 そんな俺の思考を、セレスティナさんがぶち砕く。
 え?さっきから言ってた聖女ってまさか俺の事?聖女ってあれだよね?神とかの祝福を受けた女の子とか、そんなあれだよね?
 
 
 ……ねぇよ。
 
 
「いや、俺は聖女とかそういうのじゃないから。絶対君は何かを勘違いしてるから」
「そ、そんなことはありません!!私が見たミハル様は、間違いなく聖女様の姿でしたっ!!」
 
 一体俺のどこをどう見たんだよ、この子は。大体俺の服装は黒のゴスロリだろ?黒い服着た聖女ってそれこそありえんだろ。
 それが無かったにしても、この子のひいき目は酷すぎる。というか、俺なんかよりも、セレスティナさんのほうがよっぽど聖女っぽいんじゃ無いのか?
 
「いやだから、絶対に違うから。ね?」
「し、しかし……」
「セレスティナさんが、俺の何を見てそう思ったのかは知らないけど、俺はそもそも使い魔だから。聖女とかはありえないの」
 
 俺の言葉に、セレスティナさんが驚いて目をみはる。さすがに使い魔で聖女は、ありえないだろうしな。
 
「まぁ、それは置いとくとして……セレスティナさんは、何でここにいたの?」
 
 とりあえず先ほどの質問を繰り返す。というか、それを聞くのにどれだけ時間をかけてるんだか。
 
「あ、ええと……その、ミハル様の寝顔に……見とれてしまって」
 
 そういって、顔を赤く染めてうつむくセレスティナさん。やばい、なに?このすごく可愛い人。
 
「え、ええ~っと……そ、そうなんだ。寝顔を……って寝顔を?」
 
 …………。
 
 急速に恥ずかしくなってきて、思わず顔を俯かせる。顔全体が、熱を持って居るのが感じられる。
 ひょっとしたら耳まで赤くなってるかも……と少し焦る。正直、寝顔に見とれられるというのが、ここまで恥ずかしいことだとは思っていなかった。
 幼馴染や妹に見られた時は、こんなことは……あ、ひょっとして相手が変態とお嬢様という差があるからか。ということは、メイフィールドさんに見られてもこうなるかも……フォルなら、結構子供っぽいところがあるから、ここまではならないと思うけど。
 
「そ、その……ミハル様は、こちらの学園の生徒なのですか?」
「あ、う、うん。セレスティナさんも?」
「は、はい。その、カルナさんの口利きで……」
 
 ふと、セレスティナさんのその言葉に違和感を感じた。……カルナさんの口利き?
 この学園の生徒達は、大半がカルナさんの事を学園長先生と呼んでいる。カルナさんと呼んでいるのは、今のところ俺だけだ。
 それに、口利きというのも気になる。口利きということは、一般的に入学したわけではなく、俺と同じように転入してきたのか、あるいは……。
 
 そこでふとセレスティナさんのフルネームを思い出した。セレスティナ・A・ミストレス。
 
 俺が今住んでいる国の名前は、ミストレス王国。国の名前を名前に入れれるのは、王族のみだ。
 
「……ひょっとして、まさか、セレスティナさんって王族の人……?」
 
 そう問いかけると、セレスティナさんの顔に驚愕の表情が浮かび上がった。
 
「な、ど、どうしてそれをご存知なのですか!?」
「あ、え、いや。セレスティナさんのラストネームってミストレスだよな?さっき自分でそういってたし」
 
 ハッと気づいた様子で、口を手でふさぐセレスティナさん。その行動は非常に分かりやすい。分かりやすいけど、そう行動するってことは、それって言っちゃいけないことだったんだよな?
 ……王族に関わる秘密を知るって、まずいんじゃね?
 
「あ、ああああのあの、どうかそれはご内密にっ!!」
「それはいいんだけど……でも、セレスティナさんの名前で、今まで気づかれてなかったのか?」
 
 国の王族ともなれば、それなりに名前も知られているはずである。この姿でその名前を名乗っていれば、直ぐにでも気づかれそうなものなのだが。
 
「えと、それはカルナさんに協力してもらっていまして、今はセレス・ゼノグラートと名乗っているのです」
「あ、そういうことね。さっきは偽名と間違えて本名を言ってしまったということか」
 
 それなら納得できる。……ついでに、この子がうっかり屋さんだということも理解した。
 
「あれ?でもゼノグラートって確か……」
「はい、カルナさんの子供として、入学させてもらっているのですよ」
 
 なるほどね。……でも、カルナさんって確かまだ若いよな?こんな年齢の子供が……ああ、養子を取ったことにすれば良いのか。
 
「ええっと、じゃあセレスさんって呼んだ方がいいのかな?」
「いいえ、私の事はセレスとお呼びください」
「?いやだから、セレスさんで良いんでしょ?」
「いえ、ですからセレスとお呼びください」
 
 ……ちょっとまった、まさか。
 
「まさか……呼び捨てで、呼べと?」
「はい」
 
 そんな馬鹿な。あんた仮にも王族だろ。
 
「そんなことできるわけ無いだろ?セレスさんは女性で、俺より年上なんだぞ?」
「それでも構いません」
「いや、こっちが構うんだってば」
 
 俺が呼び捨てで呼ぶのは、イセリナとセルニアぐらいだ。フォルですらちゃん付けで呼んでいる。
 ……そう考えると俺の呼び捨ての基準っておかしいのか、いや、あの二人は言動がアレだから呼び捨てにしてるって言うのもあるけど。
 
「ミハル様がなんとおっしゃられても、これは譲れません」
「いや、というかそのミハル様って言うのも止めて欲しいんだけど……なんで様付け?あ、聖女だからって言う理由だったら、それは無いってさっき言ったよな?」
 
 セレスさんの両目が、真正面から俺に向けられる。どこか、悲しそうな目つきに見える。
 
「ミハル様がどうおっしゃられても、私はミハル様を聖女様なのだと信じています。ですから、私にはミハル様を敬意を持たずに呼ぶことなど出来ません」
「う……むぅ」
 
 どうやら意外と頑固なお人のようだ。というか、その容姿でその悲しそうな目を向けられるのは、精神的に結構きつい。
 
「どうしても、ダメか?」
「申し訳ありませんが、たとえミハル様のお願いであっても、聞き届けるわけには行きません」
 
 しょうがない、と軽くため息をつく。というか、その目で見られ続けるのが精神的にかなりきつくなってきた。
 
「分かった。呼び方は好きなようにしてくれて良い。ただし、こっちもせめてセレスさんと」
 
 …………。
 
 いや、ダメだからな?そんな悲しそうな目で、見つめられても……見つめられ……。
 
「……セレス」
「はいっありがとうございます」
 
 呼び捨てにしたとたん、セレスがすばらしい笑顔を見せる。
 ……何というか、負けた気がする。いや、何にって聞かれても困るけど。
 
「おっと、もうこんな時間か……そろそろ教室に戻るか」
「ミハル様!!」
 
 教室に戻ろうとする俺を、セレスが止める。
 
「その……また、お会いできますよね?」
「同じ魔法学園に通ってるんだから休憩時間にもでも会いに来れば良いじゃないか」
「……はい、ありがとうございます。ミハル様!!」
 
 そういって、今度は笑顔で俺を見送るセレス。戻っていく途中で気になって振り返ると、まだその場から動かずに、笑顔で俺を見送っていた。
 
 
 
 ……良いけど、君も次授業あるんじゃないの?
 
 俺のちょっとした疑問を、はるか後方から聞こえた謎の叫び声が答えてくれた。やっぱり、セレスはうっかり屋さんで間違いないようだ。
 
 
 
という訳で新キャラです。
王族関係者でかつ聖女様至上主義者です。ミハルの事を聖女様と信じてやまないため、ミハル至上主義ともいえます。

……というか、登場人物で名前つきの大半が、ほぼミハル至上主義状態なんですよね。何この異常なハーレム。



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