第23話 発動体との契約
魔法学園に入学してから、数日ほど経った。俺はメイフィールドさんやゼノガルド君の手伝いもあり、魔法の基礎的な事についてある程度理解出来るようになって来ていた。
それに伴い、俺はカルナさんに学園長室へと呼び出されることとなった。何でも、魔法を使う条件を満たすための儀式を行うらしい。
魔法と聞いて、大体の人が思い浮かべるもの。それは詠唱と魔方陣だと思う。
よくあるファンタジー小説とか、あるいはゲームとか。長い詠唱をした後に魔法をぶっ放したり、魔方陣を描いてゴーレムを作ってみたり。
俺は初め、この世界の魔法もそういう代物なのだと思っていた。だが、メイフィールドさん達の言葉を聞いていると、どうにもそうでは無いらしい。
「はい、それじゃあミハルさん。この杖を握って【authentication】と唱えて見てください」
「……【authentication《認証》】?」
訳が分からないまま、カルナさんの言ったとおりに喋ってみる。
……何も起きない。
「あら?……あ、忘れていました。その前に、ミハルさんの名前をその杖に書き込む必要がありましたね」
カルナさんがボケるとは珍しい。明日は雨でも降るんじゃないだろうか?
「普段は担当の先生方にお任せしているので、すっかり忘れてしまっていたのですよ。お恥ずかしい限りです」
なるほど、っていうか、俺何も言って無いんだけど。カルナさんひょっとして俺の心とか読んでるのか?
「それぐらいなら、表情と動きで何となく分かります。ありました、これでここにミハルさんの名前を書いてくださいね」
む、う。俺ってそこまで分かりやすいのか。ちょっとショックだ。
カルナさんからペンのようなものを渡されたので、指定された場所に名前を書く。ミハル・トウマ……で良いかな。
「はい。それでは再度、先ほどと同じ言葉を唱えてみてください」
「……【authentication《認証》】」
ふわり、と俺の周囲に光が浮かび上がる。これと同じものを、俺はどこかで……って、【使い魔召喚】じゃねぇか!?
「ちょっこ、これって!?」
「安心してください、すぐに収まりますから」
慌てる俺をなだめるように説明するカルナさん。その言葉どおり、しばらくすると光は次第に収まっていった。
「無事に、契約は成功したようですね。おめでとうございます」
「え、え~っと……ありがとうございます?」
いきなり契約とか言われても……ん?契約?ああ、これがメイフィールドさんたちが言っていた、発動体との契約と言うやつなのか。
何でも魔法を使うには、今俺が持っている杖のような発動体が必要で、発動体を介して魔法を使うための力を世界から引き出すことが出来るのだそうだ。そして、その力を引き出すために必要なのが、魔力らしい。
イメージ的には鍵の付いた自販機のようなものか。発動体でとりたいジュース(魔法)の鍵を開けて、魔力で対価を支払って、ジュース(魔法)を受け取る。
発動体によって発動できる魔法が変わってくるらしいし、イメージ的には間違ってないはずだ。……自販機に鍵をつけること自体が意味不明、という意見は聞かない。
「そうそう、貴女に渡したその杖は練習用の杖なので、極簡単な魔法しか使えませんよ」
あ、やっぱり。まぁ、いきなりいろんな魔法とか使えても、混乱するだけだろうけど。
「しかし、それ以外は他の物と違いはありません。魔法を練習するのなら、その杖でも十分可能なのですよ」
それはありがたい。発動体によって扱いが全部違うとか言われたら、かなり困ることになりそうだし。
「魔法の実習に関しては後日行われますので、その時に先生から教えてもらってください」
あ、ここで教えてくれるわけじゃないんだ。まぁ、こんなところで変に魔法使ったりしたら、危ないだろうしなぁ。
学園長室に置いてある資料一つとっても結構重要そうだし、下手に魔法を使って燃えたりでもしたら、本当に洒落にもならない。
「以上です、何かご質問は?」
「今のところは無いかな」
本当は聞きたい事は色々とあったのだが、何も今カルナさんに聞かなければいけないことではない。
むしろ、俺としてはカルナさんをあまり拘束したくない。いくら仕事が早いといっても、それが俺のためにいくらでも時間を使って良いということでは無いのだから。
聞きたいことがあれば、レオナルド先生やメイフィールドさん達に聞けばいいのだ。本来カルナさんには、仕事が終わったあとも相応のやらなきゃいけない事があるはずなんだし。
「そうですか、少し残念ですが」
「……?」
何やら、残念そうな表情を見せるカルナさん。……何か、質問して欲しかったのだろうか?
「とりあえず、フォルちゃんが待ってると思うので、失礼します」
「はい、ではまた」
そういって俺は、学園長室を出る。扉が閉まる直前に見えた学園長の表情が、妙に寂しげに見えたのは……俺の気のせいだろう。
「へぇ~。じゃあ、それがハルちゃんの発動体なんだね~」
「ああ、まだ練習用だけどな」
そういって俺は杖を見せる。樫の木を削りだして先端を丸くし、若干の装飾が加えられた一品だ。
……これ、武器には使えんよな。下手に衝撃を加えると、付いてる装飾とかもげるだろうし。
「そういえば、フォルはもらわないんだな」
魔法学園に入学した生徒は、もれなく練習用の発動体をもらうことが出来るそうだ。
もちろんタダではないのだが、俺は特例でタダにしてもらっていた。……ひょっとしたら裏でイセリナに請求書が届いてるかもしれんが。
「うん。だって私、発動体持ってるもん♪」
「あれ?そうだったのか」
初耳である。いや、今まで尋ねたことも無かったけど。
「これが私の発動体だよ。お師匠様からもらった、特別なものなんだ♪」
ちなみに、フォルとイセリナとの仲は既に修復済みである。イセリナがフォルに用意していたデザートを見せたら、あっさりとフォルの機嫌は直ってしまっていた。
恐るべきは甘味の威力か……いや、甘いものは俺も好きだけど。
……それはともかく。
フォルが差し出した発動体を見る。T字型の非常に小型な杖のようなもので、先端は平たい金属、持つ場所は布のようなものが巻かれている。
「随分と小さいんだな。でも、持ちやすそうだし軽そうだし、便利そうではあるか」
「えへへ、私の宝物なんだ。お師匠様も、これは大事にしてねって言ってたんだよ♪」
なるほど、ひょっとしたらこれはイセリナの手製の発動体なのかもしれない。発動体は錬金術で作られるらしいし、イセリナも……一応、錬金術師のはず……だし?
あるいは、イセリナがどこかで買ってきたものかもしれないが。まぁ、どっちでも良いや。
重要なのは、イセリナがフォルに渡したことと、フォルがそれを宝物だと思っていること。
その過程を詮索するなど、無粋なだけだしな。
「それは良かったな。ちゃんと、大事にするんだぞ?」
「うん♪」
フォルが頷いて、発動体を大事にしまいこむ。やっぱりフォルっていい子だと思う。
学園からの帰り道、魔獣の出る平原での、穏やかな会話。
……そういえば、この平原って魔獣が居るんだよな?この数日一度も襲われたこと無いけど、何でなんだ?
軽くあたりを見回す。遠めに動物や魔獣らしき姿は見えるが、こちらに近づいてくる様子は無い。
「なぁフォル。この辺りって、いつもこんな感じで静かなのか?」
「え?えっとね~、この辺りはいつも大体こんな感じだよ?本当にたま~に、狼がこっちに来たりすることがあるんだけどね~」
なるほど、単に俺が警戒しすぎてただけか。
まぁ、そこまで頻繁に襲撃のある地域なら、学園も建てれて無いだろうしなぁ……良く考えれば、街の近くでもあるし。
何よりも平和で居られるんなら、それに越したことは無い。というか、フォルに守られるだけの状態で襲われたくねぇし。
……自分で考えてて情けないと、若干俯き気味に首を振る。ふと気がつくと、そんな俺に対して心配そうな表情でフォルがこっちを見ていた。まったく、無駄に心配させてどうするんだ俺は。
「おっかえりなさ~い」
「……まぁ、突っ込まんけどさ。ただいま、イセリナ、セルニア」
「ただいま~、おね~ちゃんも、お家に来てたんだね♪」
家に戻ると、そこにはセルニアの姿があった。
まぁ、何をしに来たのかは大体分かってるから問題ない。どうせ俺に会いに来たとか言うんだろうし。
「今日は、ハルちゃんに会いに来たのだ~。魔法学園に通うようになってから、中々会える機会が無くて寂しかったんよ~?」
そういって俺に抱きつこうとするセルニア。とりあえず顔を手で押しのけて拒絶する。
「んぶっ相変わらず、ハルちゃんは冷たいのでしたとさ」
「いい加減、見境無しに抱きつこうとする癖を止めろよ。……ったく、しょうがねぇなぁ」
突然その場に座り込んでのの字を書き出したので、しょうがないからその頭を撫でてやることにした。……あくまで仕方なくだからな。
「ひゅぃっ!?ふわぁ……」
「あ、お姉ちゃんいいな~。ハルちゃんに頭、撫でてもらってる~」
俺に頭を撫でられて陶酔するセルニアと、羨ましそうにそれを眺めるフォル。……俺に頭を撫でられるのって、そんなにいいものなのか?
まぁ、俺には一生わからないことなんだろうが。自分の頭なんぞ撫でても、何の感慨も浮かばねぇし。
しばらく撫でた後、セルニアの頭から手を離す。今度は、隣で物欲しそうな顔をしたフォルを撫でることにする。
「えへへ~♪」
余程嬉しいのか、極上の笑みを浮かべるフォル。
「はふぅ……おね~さん、まだ頭の中がふわふわするですよ」
「ハルちゃんに頭を撫でてもらうと、とっても気持ち良いんだよ。ハルちゃんだ~い好き♪」
二人の頭を撫でていて、ふと、こういうのも一種のハーレムと言うのかな?と少しだけ思った。でも、女の子になってからハーレムが出来てもなぁ……。
その後、二人の頭を撫でている姿をイセリナに見つけられ、イセリナがが加わった。断ることも出来ず、しばらく俺は三人の頭を撫で続けることになってしまった。
まぁ、頭を撫でたらイセリナとセルニアが妙に大人しくなることが分かったので、今度暴走しそうになったら一度撫でてみるのも良いかもしれない。
いや、さらに暴走するだけか。止めておこう。
ようやく、ミハルが魔法を使うための条件が揃って来ました。
しかし、この作品ではシリアスが控えめな都合上、魔法があまり使用されないという事態に陥りそうです。
……いっそ、徐々にシリアスに転向していくのもアリですが。でも、作者は暗い話が比較的嫌いなのであまりドロドロとしたのにはならないはずです。
※ルビとか失敗。……見た目良くないけど気にしない。
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