第22話 主に対する評価
「それで、昨日君が突然消えたのは、なんだったんだい?」
「そういえば、そのことはまだ聞いてませんでしたわね」
席について一息ついていると、ゼノガルド君とメイフィールドさんからそんな事を尋ねられた。
そういえば、俺は昨日の顛末を二人には話していない。二人も少しは心配しただろうし、話しておくべきだろうか。
「ああ、俺の主にいきなり呼び出されただけだ」
ちなみにフォルは、一晩経った今もイセリナに対して怒ってるらしい。どうやら、俺が身動きできない状態にされたのが大きかったようだ。
……師匠よりも、その使い魔のほうを大事にする弟子ってどうなんだろう?とちょっと思わなくも無い。まぁ、イセリナなんだし、いっか。
「呼び出されたって、魔法で……かい?」
「ちょっとお待ちなさい、それより気になる言葉が聞こえましたの」
さらに尋ねようとするゼノガルド君を押しのけ、メイフィールドさんが一歩前に出る。
「主と言いましたね?主というのは、どういうことですの?」
……そういえば、まだ二人には言ってなかったか?
「ああ、俺は使い魔なんだよ」
俺の言葉に、二人が目を丸くしてしばらく固まった。あれ?何かまずいことでも言ったか?俺。
「ちょ、ちょ、ちょっとお待ちなさい、貴女が使い魔って、本当ですの?」
「本当だよ。というか、そんな嘘ついてもしょうがないだろ」
「それは……また、驚きだね。まさか、人型の使い魔をこの眼で見られるなんて」
む……人型の使い魔って、そこまで珍しいものだったのか。確か、魔法使いはこの国だと数千人ほどいて、人型の使い魔は大体数体いるかぐらい……。
十分珍しいじゃん。異世界渡りのほうに気をとられすぎてて、少し感覚が狂ってたか。
「それで、そのご主人様はどんな方なのですの?ミハルさんのご主人様と言うほどですし、相当すばらしい方だとは思いますけど」
…………………………。
「天然で、常に半分ボケてるほぼニートなお姉さん。時々暴走して襲ってくるのが特徴だな」
にこやかな俺の答えに二人が再度呆然とする。でもまぁ、俺が見てきたイセリナって、今の言葉でぴったり当てはまってるしな。
「え、ちょ、ちょっとミハルさん?貴女、本当に使い魔なんですの?」
「え?使い魔だけど……何でだ?」
「いや、普通使い魔がそこまで主を罵倒したりすることは、出来ないはずなんだがね?」
「いや、罵倒じゃなくて事実だし」
さらに二人が呆然とする。そういえば、俺って使い魔なわりに結構イセリナを蹴っ飛ばしたりしてるよな。
……まぁ、いいか。何せイセリナなんだし。蹴っ飛ばしたりするのも、暴走して襲ってきたときだけなんだし。
「普通使い魔は、主に絶対服従するものなんだが……ミハル君は、人型だからだろうかね?」
「分かりませんわ。そもそも人型の使い魔なんて、私も初めて見ましたもの」
二人が何やらぼそぼそと相談する。どうでも良いけど、しっかり漏れ聞こえてるぞ。
しかし絶対服従ねぇ……イセリナに?正直、お断りしたいところなんだけど。イセリナが強制的に俺に何か……ん?そういえば、イセリナって確か、最初に俺を強制的に動かしてたよな?何であれ以降、それをしないんだ?出来なくなったのか、別に理由があるのか……?
突如降って沸いた疑問。あれこれ考えてみるが、理論的な答えは出てこない。
そして出た結論は、『イセリナだからそのことを忘れたんだろう』というものだった。イセリナだし、ありえるよな。
……俺の中のイセリナが、ちょっと酷い扱いになってると思わなくも無い。
「ああもう、何がどうあれ、ミハルさんはミハルさんですわっ!たとえ使い魔でも、私のミハルさんを妹にしたいと言う気持ちは変わりませんの!!」
「ぼ、僕だってそうさ!ミハル君がたとえ使い魔でも、悪魔であったとしても、僕のミハル君を妹にしたいという気持ちが変わるはずが無い!!」
二人もどうやら結論が出たらしい。いい加減、妹云々は諦めてくれた方が楽なんだけどなぁ……。
そんな会話を続けていると、教室内にレオナルド先生が入ってきた。同時に始業の鐘が鳴り響く。
だが、それにも関わらず、教室内のざわめきは収まらない。むしろ、先生が入ったとたんにざわめきだした?……っておい。
「おいおい、みんなどうしたんだ?いつもに無く騒がしいじゃないか」
「おい、先生。ちょっとそのにやけ顔やめろ。っつか、一度顔洗って頭冷やして来い」
とりあえず、クラスの全員の声を代弁する。さすがに俺は、二十台の男のにやけ顔を延々と見続けるような趣味は持ち合わせていない。
「はっ!かしこまりました!ミハル様!!」
やたらときびきびした様子で、教室から出て行くレオナルド先生。
様って……まぁ、いいか。頭を冷やせば戻るだろうし、何やら教室中から変な視線が集まってるような気がするけど、とりあえずは気にしない事にしよう。
「なぁ、魔力って具体的な量を調べること出来ないのか?」
休み時間に入り、4人での勉強をしていた俺は、ふと気になっていたことを聞いてみた。
「それは無理だよ。魔力を正確に測る方法は、今のところ見つかっていない」
「もしそれが出来たら、かなりの大発見になりますわよ?」
「ん?じゃあ魔力の高い低いって言うのはどうやって調べてるんだ?」
「正確な魔力を測ることは出来ませんけど、自分より相手の魔力が高いか低いかを判別できる魔法がありますの」
ああ、なるほどね。それでカルナさんは俺の魔力を調べてたってことか。
「けど、もしも魔力を正確に測れるようになれば、それは僕達魔法使いにとって大きな進歩になるだろうね」
「ん?……何でだ?」
「魔法使いは、魔法を使えば使うほど、魔力切れの恐怖と戦う必要が出てきますの。事前に魔力を測れるのなら、ある程度は安心して魔法を撃てるんですのよ」
そういえば、魔力が完全に切れると気絶するんだったな。安全なところならともかく、交戦中に気絶なんてしたら確かに致命的か。
完全に切れなくても、切れかけてくると身動きが取れなくなってくるらしいし……大雑把に自分の魔力がどれだけ残ってるかは感じられるらしいが、正確に測る手段があれば測っておきたいのは確かか。
それに、どの魔法がどれだけ魔力を消費するのかは、今のところ判明していない。
魔力を正確に測れるのなら、魔法を使う前と使った後を計測して差分で消費魔力も測れる。なるほど、確かにそれは大きな進歩と言えるだろう。
「ハルちゃんなら、いつかきっと見つけれるよ♪」
「そうですわね。ミハルさんなら、いつか魔力を測る方法を見つけれるかもしれませんわね」
「……おいおい、二人とも。それは買いかぶりすぎだろ」
「そうかな?ミハル君は、僕等が考え付かなかったことをいくつか既に実行している。買いかぶりすぎと言うほどじゃないと思うがね?」
……なんであの変態紳士の扱い方を知っていただけで、ここまで持ち上げられなきゃいけないんだ?
しかし、測る方法ねぇ……糖度計とか温度計みたいな感じで測れるのか?まず魔力に対して何らかの反応する物がなきゃどうにもならんよな。
近くの魔力によって膨張したり収縮したり……ってちょっと待った、そもそも人の魔力って常時外に漏れてるのか?漏れてなかったら、温度計のような測り方では測りようが無いか。
ダメだな、思いつかん。もっと魔法や錬金術についての勉強を進めれば、あるいは思いつくのかもしれんが……。
そこまで考えて、ふと自分が魔力を測る方法について科学的な見方も含めて、真面目に考えていることに気づく。……ああ、案外三人の言うことも的外れとは言えんかもしれない。
休憩時間が終わり、また、授業が始まる。
授業の内容はだんだん分かるようになって来てはいたが、いまだに分からないところが多い。
ひとまず先生の言っていることの要点を紙に書き出して……ふと、外で何かが動いたのが見えた。
外へと視線を移すと、そこには俺達と同じ学園の生徒達が出入り口に向かって歩いていた。
……そういえば、この学園には俺たちのクラスのほかに、Bクラスと言うものもあったな。
外の光景に、自分の記憶を掘り起こす。学園の規模の割には、クラス数も生徒数も少ないと思う。
もっとも、魔法や錬金術を扱うと言う点を考えれば、学園の規模が大きいのは不思議ではないのだが。
「ハルちゃん、どうしたの?」
「ん?いや、なんでもないよ」
小声で尋ねてくるフォルに小声で答え、軽く首を振る。意識を外から戻し、再度先生の言葉を紙に書き出し始める。
外に出る……ということは、つまりは実習の時間なのだろう。魔法か、錬金術かは知らないが。
ちなみに俺はまだ、実習を受けたことは無い。というか、魔法をまだ使えないので受けようがない。
魔法の時は場所が平原だから、まだ見学をすることも出来るのだが、錬金術の時は場所が森だから、最低限の護衛用の魔法を覚えるまでは教室で居残りをするしかないのだ。
幸い……というかなんと言うか、俺が居残りをしている時はカルナさんが来て勉強を教えてくれる事になっているので、暇をもてあますことは無いらしい。
ちなみに、それを聞いた時「仕事を放り出して俺の相手してて良いのか?」と聞いたら、「仕事なんてその頃には終わらせてます」と帰ってきた。
さすがはカルナさん。イセリナ何かとは大違いである。
「ハルちゃん、何か考え事?」
「いや、なんでもないよ」
どうやら手が止まっていたらしい。今は授業中だ、他ごとを考えるのは控えた方がいいか。
そう思った俺は、思考を切り替え、再度授業に集中することにした。
「さて、この条件だと結果はどうなるか。俺のむす……ゴホッゴホッ、あ~、メイフィールド君、答えてみなさい」
「……はぁ」
一応、先生も先生なりに努力してるみたいだしな。半分言いかけたあたり、どうもあれは地でやっていたみたいだが。
前回はっちゃけてたので今回は平凡に。
ミハルはイセリナさんに対しては結構酷評です。頑張れ、イセリナさん。
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