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第20話 それぞれの努力
 
「う~ん……?」
 
 休憩時間に入り、初めての授業から開放された俺は、自分で紙に書いた内容をみてうなり声を上げていた。
 
「ハルちゃん、どうしたの~?何かわからないことあった~?」
 
 そんな俺が気になったのか、フォルが尋ねて来る。
 
「あ、いや、そういうわけじゃないんだけどな」
「でも、ハルちゃん、さっきからうなってるよ?何か先生の言ったことで、解らないこととかあったんじゃないの?」
 
 確かに、レオナルド先生の言っていたことを、俺は半分も理解していなかった。……いや、変態紳士的な意味ではなく、転入生でかつ魔法の基礎知識がまったく無い俺には、今行われている授業は難しすぎたのだ。
 と言うか、先ほどの授業は本当に魔法の授業だったんだろうか?言葉の端々をつなげると、錬金術のような、何かを生み出すための技術を扱う知識……という印象を受けたんだが。
 
 とは言っても、まったく解らなかったわけでもない。大体半分は解ったんだから、嘘は言ってない。うん。
 
 ……ごめんなさい。
 
「すみません、本当は半分以上解りませんでした」
 
 見栄を張っている事に気づかれたのか、疑うような目を向けて来たフォルに俺は素直に謝った。
 
「えへへ、やっぱり。でもしょうがないよ。ハルちゃん魔法のことぜんぜん知らないんだから。それに、私だってぜんぜん解らなかったんだしね♪」
 
 
 ……時々、フォルのことが良く分かりません。何故そんな事をそこまで明るく言い切れるんだろうか?不思議だ。
 
 
「フォルさん、貴女ねぇ……そんな、己の無知に胸を張っていてどうするんですの?」
「ふっ、でもそれも無理も無いことかもしれないね。僕等とて、今まで無為に過ごしてきたわけでもないのだから」
 
 まぁ、ぽっとでの俺達がいきなり理解出来てたら、この学園の生徒達の立つ瀬は無いか。
 
「とは言っても、解らないままだと今後がまずいんだよな……なぁ、この学園って図書館とかあるか?」
「ええ。図書館なら、学園に入ってこの建物の右側に見える小さな建物がそうですわよ」
 
 メイフィールドさんの言葉に、俺は学園に入ったときの記憶を掘り起こす。そういえば、視界の端にそんな建物が見えていた気がする。
 
「それじゃあ、後でそっちに行ってみるか。学園の図書館なら、魔法について書かれた本もあるだろうし」
 
 その前に、カルナさん辺りに尋ねて、読む必要のある本の目星をつけておいたほうが良いか。さすがに、図書館中の本を調べまわるわけにも行かないしな。
 
「お待ちなさい、貴女がそんなことをする必要はありませんわ」
「……?何でだ?今の授業は、基本知識も無しに理解できるような内容じゃないだろ?」
 
 特に専門用語とかが出てくると、それがまず何なのかを理解しないことには手の出しようが無い。
 
「まったく、私が何故ここに居ると思っているんですの?」
「……え?いや、それは……魔法の勉強のため?」
「そういうことを言ってるんじゃありませんわっ!私が言いたいのは、何のために自分の席からここまで移動して来ているのかを尋ねているんですのっ!」
 
 いや、そんなことを言われても。俺はメイフィールドさんじゃないし、心を読んだりすることなんて出来ないしなぁ。
 
「ふふ、君は相変わらず回りくどいね。さぁ、ミハル君とフォルカ君、こんな素直じゃない子は放っておいて、僕が勉強を教えてあげようじゃないか」
 
 ……ああ、そういうことか。
 
「良いのか?俺達に勉強を教えてると、ゼノガルド君の勉強の時間が減るだろ?」
「ふっ……もし、迷惑じゃないのかと思ってるのなら、それは大きな間違いさ。僕は自分の意思で、君達に教えたいと思っているのだから」
「あ、ああ。まぁそこまで言うんなら」
 
「お待ちなさいっ!!」
 
 勉強を教えてもらうように頼もうとしたところで、メイフィールドさんが割ってはいる。
 
「……何かね?メイフィールド君。僕はこれからこの子達に勉強を教えなければならないんだ。邪魔はしないでもらおうか?」
「何を言ってるんですの。貴方が誰かを教えることなど、出来るはずが無いじゃないですの。さぁ、この二人のことは私に任せ、さっさと引っ込みなさい」
「おいおい、二人ともいきなり喧嘩を始めるなよ」
 
 突然勃発しだした喧嘩に、俺は思わずため息を付く。この様子だと、休み時間が終わるまでに対策が決まりそうに無い。
 かといって解決案も……いや、待てよ?
 
「それだったら、どっちかが俺でどっちかがフォルちゃんに教えてくれんか?フォルちゃんも良く分かってないみたいだし」
 
 どの道、二人同時に教えるのは難しいだろう。それなら、一人ずつ教えてもらった方が余程良い。
 
「そうか、確かにそうだな。なら、メイフィールド君にはフォルカ君を担当してもらおうか」
「な、何を言ってるんですの!?貴方がフォルカさんを担当すればいいじゃないですのっ!」
 
「おいおい。二人とも、そんなにフォルちゃんに教えるのが嫌なのか?」
 
 確かに、フォルに何かを教えるのは難しそうではあるけど、そこまで嫌がるんなら……。
 
「そ、そういうわけではないのだがね……」
「そ、そういうわけではありませんけど……」
 
 ほぼ同時に否定する二人。……何だかんだ言って、実はこいつらって仲良いんじゃね?
 
「ね~ね~ハルちゃん。お勉強するなら、みんなですれば良いんじゃないかな?」
「みんな?あ~なるほどな。4人でって言う方法もあったか」
 
 なるほど、そういう発想もあったか、直ぐには思いつかなかったな。
 確かにそれなら教える側も互いの知識不足を補えるだろうし、教わる側が教えあうことが出来る。
 ……つか、何で最初にそれを思いつけなかったんだ?俺。
 
「二人とも、それなら問題ないか?」
「ああ、僕としてはそれでかまわないよ」
「ええ、私もそれならかまいませんわ」
 
 ……またかぶってるし。まぁ、「本当は仲が良いんじゃ?」とか口に出すと絶対怒り出しそうだから言わないけど。
 
「じゃあ、二人とも悪いけど、これからよろしくな」
「えへへ~、みんなでお勉強頑張ろうねっ」
「ふっ、僕に任せてくれたまえ」
「ふふふ、ちゃんと丁寧に教えて差し上げますわ」
 
 自信満々の二人を見て、なんとも心強いものだと思う。そんな二人に負けないようには、魔法を学んで行きたいと思った。
 
 
 
 
 
 ちなみに、先ほどの授業が本当に錬金術の勉強だったことに気づいたのは、二人に指摘されてからのことである。ある程度本を読んだといっても、やはり俺はまだまだこの世界では無知なようだ。
 
 
 
 
 
「よし、今日の授業はここまでだ。みんな、ちゃんと俺の愛を受け取ってくれたか?」
 
 若干ウザそうな視線を受けて、満足そうにレオナルド先生が頷く。
 
「よ~し、では今日のところは解散だ、みんな、お疲れ様」
 
 ひとまず今日の授業は終わったらしい。正直、まだ半分も理解できなかったが、何となく魔法については理解できてきた気がする。
 といっても、俺はそもそも、魔法を使うための条件をまだ満たしていないらしい。だから、その条件を満たすまでは、どれだけ理解しても魔法を使うことは出来ない。
 
 軽く伸びをして、席を立つ。帰り支度をを始めた俺に、レオナルド先生から声が掛かった。
 
 
「あ、ミハル君はきちんとご褒美を頼むぞ」
 
 
 ……ちっ覚えてやがったか。まぁ、踏むぐらいなら別にかまわんが。
 
「はいはい、それで……って、おおっ!?」
 
 突然、俺の周囲が光りだす。誰かが魔法でもかけたのかとあたりを見回すが、周囲のクラスメイト達も驚くばかりで、そんな様子は見当たらない。
 
「み、ミハルさん、それは!?」
「強制転移魔法か!?ミハル君、すぐにそこからっ」
 
 メイフィールドさんとゼノガルド君の叫び声が響くのと同時に、俺の視界が真っ白に染まる。
 
「な、なぁっ!?」
 
 訳がわからないまま、とりあえず俺は身構えた。どんな魔法を掛けられたのかは知らないが、いつ攻撃が来るともわからなかったからだ。
 
 
 
 
 
「……?」
 
 ふと気がつくと、真っ白だった視界は元に戻っていた。急に全身から力が抜けて、その場に座り込む。辺りを見回して、俺は愕然とした。
 
「うふふ~、ハルちゃん、お帰りなさ~い」
 
 そんな俺を、満面の笑みで迎えるイセリナ。もし幻覚でないのなら、俺が今居る場所はイセリナの家の中である。
 
 ……コイツは、一体何をした。
 
「お、おい、ちょっと待てどうなってる?何で俺がここに居るんだ?」
「うふふ、おね~さんが極秘に習得していた、【使い魔帰還】の魔法が、やっと成功したのよ~」
 
 何だそりゃ?使い魔を帰還させる?
 
「この魔法はね~、使い魔がどこに居ても、主の下に戻すことが出来るの。これで、ハルちゃんが危険な目にあっても、すぐに帰ることが出来るのよ~?」
 
 イセリナの説明を聞いて納得する。そういえば、ちょっと前に何か考え事をしていたようだが、これを覚えようとしていたのか。
 
「これで、いつでもハルちゃんに会うことが出来るわ~」
 
 
 魔法が成功したからか、上機嫌のイセリナ。だが、コイツは自分がしでかした事に気づいているのか?
 
 
「おい、イセリナ。お前アホだろ。間違いなくアホだろ」
 
 これから起こるだろう出来事を考え、俺はため息を付く。
 
「あらあら~?ハルちゃん、おね~さんにアホはちょっと酷いんじゃないかしら~」
「ほう?なら、フォルちゃんはどうするつもりだったのか、言ってみろ」
 
 俺の問いに、ピシッと固まるイセリナ。考えてなかったんだな?
 
「その【使い魔帰還】とやらを使うことを、フォルには伝えて無いんだろう?どうやって、俺が先に家に帰ったことをフォルに伝えるんだよ」
「あ、あらあら~?」
 
「それともう一つ。何だか知らんが体から力が抜けてまったく動かんのだが、心当たりは無いか?」
「え、え~と……それは、この魔法を使うと、戻ってきた使い魔は一時的に動けなくなってしまって~」
 
 
 …………。
 
 
「そんな魔法を、気軽に使うんじゃねぇっ!!」
「あ、あらあら~」
 
 怒鳴る俺に動揺するイセリナ。本当に何も考えてなかったんだな、こいつ。
 
「それで、どうするんだ?俺は動けないし、イセリナがフォルを迎えに行くのか?」
「あらあら~。それが、おね~さんも疲れててしばらく動けないのよ~」
 
 
 
 ……はぁ?
 
 
 
「何でだ?疲れてるって、そんな」
 
 ちょっと待った、コイツさっき『やっと』成功したって言ってたよな?
 
「…………動けるようになるまで、どれくらい掛かる?」
「2時間ぐらいかしら~?」
 
 イセリナの返答に俺は軽く首を振る。……力が抜けているせいか、頭をたったこれだけ動かすのですら大分きつい。
 もはやこれはフォローのしようが無い。これから起こるだろう事態をいくつか考え、俺はその憂鬱さにため息をついた。
 
 
 
 
 
 その後、泣きながら帰ってきたフォルを落ち着かせるのに、俺とイセリナが苦労したのは言うまでも無い。
 
 そして、事情を知ったフォルがしばらくイセリナに口を利かなくなったのだが……まぁ、それは自業自得だろう。
 
 
 
イセリナさん、南無。

ようやく魔法学園に転入してから、一日目が終わりました。一日の割には長かったような気がします。


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