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第18話 兄姉の資格
 
「い、い、妹……私に、妹……」
「み、ミハル君を妹……」
「おいおいフォルちゃん、さすがにそれはないだろ?」
 
 何やら、メイフィールドさんがぶるぶると震えだしているが、今触れると危なそうなのでとりあえず放置。というか、何かゼノガルド君も挙動が怪しいんだけど。
 
「え~?何で~?」
「メイフィールドさんは、単に世話好きなだけなんだから。今ので妹とか言ってたら、それこそクラス中が兄弟姉妹だらけになるだろうが」
 
 一瞬頭の中に、『人類みな兄弟』とかいう意味不明な単語が思い浮かぶが、即座に切り捨てる。というか意味が違う。
 メイフィールドさんは単純に、本当に世話好きなだけなのだろう。そうでもなければ、転入早々の俺達に対してこうも世話を焼こうとも思わないはずだし。
 
 事実、クラス長をやってたり、クラスの指揮をしていたところから見てもそう思う。若干の言葉のきつさはあるが、それはきっと彼女の思いやりの裏返しなのだろう。
 
「う~ん……良く分からない」
「別に姉じゃなくても、友達でも良いだろ?……あ、いや、初日から友達を名乗るのは少し傲慢かも知れないけどさ」
 
 二人から見れば、まだ俺たちはただの知り合いだろうし。そんなに早く友達を名乗れるとも思ってない。
 ……そう考えれば、先ほどの兄姉とか激しく失礼だったんじゃ無いだろうか?
 
「そ、そんなことはありませんわっ」
「そうだとも!君が友達を名乗り出るのであれば、僕等はそれを否定したりはしないっ」
 
 あ、いやまぁ、二人がそういうならそれでいいんだけどさ。俺としては、二人は十分信頼できると思うし。
 
「えへへ……じゃあ、メイフィールドさんとゼノガルド君は、もうお友達なんだね♪」
「ま、二人がそれで良いなら、そうだな」
「ちょっちょっと、お待ちなさいっ!」
 
 結論付けようとした俺達に、復活したメイフィールドさんの横槍が入る。
 
「ん?ああ、やっぱり嫌なのか?」
「え?……お友達に、なって、くれないの?」
「だ、誰もそんな事を言ってませんわ!!」
 
 涙目で上目遣いに覗き込むフォルに、あわてて否定するメイフィールドさん。
 ……いいけどフォル。それかなりダメージ大きいから、最後の手段にとっておいた方が良いと思う。というか、何故か横で見ていた俺もいたたまれなくなって来るし。
 
「わ、私が言いたいのは……その、…………ですわ」
「?ごめん、ちょっと聞き取れなかった」
 
 メイフィールドさんが顔を真っ赤にして、体を震わせていく。あ、あれ?俺なんかメイフィールドさん怒らせたか?
 
「ですから!私が貴女の姉になってもいいといってるのですわっ!!」
 
 
 
 …………は?
 
 
 
「え……と、それは何でまた?」
 
 いやだって、おかしいじゃん。え?妹ってことは義妹になるわけ?でも、俺って異世界から来た元男だし、それなら義弟ってこと?あ、いやそうじゃなくて。
 
 混乱した頭を振って、思考を取り戻す。そこでふと頭にあるものが思い浮かんだ。
 ……と言っても、ここは女子学園じゃないし。俺は『ごきげんよう』とか挨拶したり、ロザリオをもらったりするような趣味は無いぞ……あまり神様とか信じてないし。
 
「な、何でってその……あ、貴女が私の妹ってことなら、貴女の口調を直すのが正当化できるじゃないですのっ」
 
 何その理由。この人は俺の面倒を見るためだけに、俺を妹にする気なのか……何というか、もうこれは面倒見が良いと言うレベルを超えてる気がする。
 
「待ちたまえ、ミハル君を妹にするのは僕だ!僕の元、ミハル君は淑女として必要な勉強をしていくべきだっ!」
「何を言ってるんですの!私の妹を、貴方のようなケダモノに任せれるわけが無いでしょう!?」
「何をっ!?僕が妹に手を出すような、下郎に見えるとでも言うつもりなのかね!!」
 
 ……お~い、何か勝手に妹で決定されちまってるぞ?っていうか、俺の意思は?つか、ゼノガルド君。あんたは確か、さっきまでもうちょっと冷静じゃなかったか?
 ひょっとして妹という言葉が、何らかの琴線に触れたとかか?生まれるはずだった妹が……とか。
 
「ハルちゃん。ハルちゃんに、新しいおに~ちゃんとおね~ちゃんが出来たよ?良かったね♪」
「いや、良く無いだろこれ?っていうか、二人ともいきなり喧嘩を始めるなってば」
 
 俺の制止も聞かず、二人の言い合いがエスカレートして行く。二人とも、今にも魔法でも使いだして来そうでかなり怖い。
 
「止めないで欲しいですわ!姉として、妹の貴女に手を出そうとする不逞の輩を、見過ごすわけには参りません!!」
「まだ言うのかね!!僕も兄として、妹への純粋な愛を侮辱する者は見過ごせない!」
 
「……だから、何でもう既に妹扱いなんだよ」
 
 この二人はまだ、常識的な方だと思っていたのだが……とりあえず人の話を聞けよ。後、二人とも俺の意思ぐらい確認しろ。
 そんなことを考えていると、二人の目前に、長方形の光る板のようなものが浮かび上がる。おい、これってまさか魔法か?!
 
「覚悟なさい。今日こそ貴方に、裁きの鉄槌を下して差し上げますわ!」
「ふ、それはこちらの台詞さ。今日こそ君を、僕の前に跪かせて見せる!」
 
 二人の目は明らかに本気である。というか、こんなところで魔法を使われたりしたら、俺どころかフォルまで巻き込まれるだろうがっ!
 
「待てっ!二人ともいい加減にっ!!」
 
 
 
 バンッ
 
 
 
 教室中に何かを叩きつける音が鳴り響いた。……これは、俺が出した音ではない。
 
「一体何をしているのかしら?お二人さん」
 
 教室中の視線が、教室の出入り口へと集中する。そこには、険しい表情でうっすらとオーラを漂わせるカルナさんの姿があった。
 
 
 
 
 
「まったく……互いをライバルとし、研鑽を積むのはかまいません。しかしそれは、当たりかまわず魔法を撃って良いということではないのですよ?」
「か、返す言葉もありませんわ」
「僕も、少し頭に血が上りすぎていたようです」
 
 カルナさんの言葉に、二人が青ざめた様子で反省をする。
 俺達から事情を聞いたカルナさんは、それからずっと二人に対しての説教を続けていた。
 
「大体、ミハルさんの為だとおっしゃっていましたけど……あの場で魔法を撃てば、巻き込まれていたのは当のミハルさんだったのですよ?」
 
 その一言に二人が目を見開く。……確かにあの位置だと、確実に巻き込まれていただろうな。
 
「頭に血が上っていたとはいえ、守るべきものを傷つけてしまうのでは本末転倒です。魔法を扱うものは、常に冷静さを忘れてはならないはず。それは、二人とも理解していますね?」
「「はい……」」
 
 メイフィールドさんとゼノガルド君が、がっくりと肩を落とす。俺を巻き込みそうになったと言う事実は、どうやら二人に重くのしかかってるようだ。
 
「ミハルさんの兄や姉として、頑張りたいと思う気持ちは分かります。ですが、」
 
「ちょっと待てい。あんたまでもがそう言うか」
 
 とりあえず、聞き流せないことを言い始めたので会話に割り込む。このままだと、本気で妹化が既成事実にされかねない。
 
「ミハルさん、今は二人の説教を」
「いいから聞け。何度も言うが、俺は二人の妹になるつもりは無い。それは二人が勝手に言い出したことだろうが」
「なっ!?わ、私が姉では、不服と言いますの!?」
「ぼ、僕では君の兄としては不足だというのかい!?」
 
 いやお二人さん。不服とかそういう意味じゃなくて、とりあえず考えろ。
 会ってからまだ一日も経っても居ないのに、突然妹にされるとかどんなだよ。しかも、俺が養女になるとかそんな話でも無いし。
 
「あら、そういうことでしたか。でしたら、私から簡単な解決策を提示しましょうか」
「解決策?いや、そもそも」
「私から見ても……二人は、ミハルさんの兄や姉には相応しいとは思えません。兄や姉というものは、常に妹の事を考え、守り通すもの。たとえ何があろうとも、危害を加えてしまうなど論外でしょう」
 
 んなアホな。そんな常識聞いたことも無いし、そんな常識を適用されたら、俺は素で兄失格になるじゃねぇか。
 っていうか、この世界の大半の兄や姉は失格になるんじゃないのか?それだと。あと、さりげなく妹だけなのな。弟の場合は適用外か。
 
「そ、そんな……今の私では、まだ、足りないと言うことですのね……」
「く……悔しいけど、今の僕は、まだまだ未熟と言うことか……」
 
 お二人さ~ん?何を真に受けてるんですか~?ほんとこの人たち、誰かどうにかして。
 
「諦める必要はありません。貴方達はまだまだ成長するのでしょう?それとも、彼女を置いて諦めてしまうのですか?」
 
 いや、諦めて欲しいんだけど。後、カルナさん。二人をたきつけるのは、止めて欲しいんだけど。
 ゆらり……とメイフィールドさんとゼノガルド君から、オーラのようなものが立ち上がる。二人の目が、鈍く輝いた。
 
 
 
「諦める?このメイフィールド・D・アウストレーゼたるものが、諦めるですって?ありえません。この私が妹……いえ、ミハルさんを置いて逃げ出してしまうなど、死にも匹敵する屈辱ですわ!!」
「諦めるだと?ふっ……このゼノガルド・C・トロイホース。随分となめられたものだね。だが、今はその屈辱に甘んじよう。その屈辱を元に、必ずやミハル君の兄となるための力を、僕は掴み取ってみせる!!」
 
 
 
 ……何で、そこまで必死になるのか分からない。後、カルナさんも、満足げな表情で頷くな。
 カルナさんに対して非難の目を向けると、カルナさんが満面の笑みを返してきた。思わず、ため息を付いてしまう。
 
「あら、ため息をつくと幸せが逃げてしまいますよ?」
「その原因を作った方が、一体何を言ってらっしゃいますかねぇ?二人をこんなに炊きつけて、どうするつもりなんだ?」
「私はこれが、この現状を解決するもっとも良い方法だと思ったのですよ。これは貴方にとっても、悪い話ではないはずですよ?」
 
 いや、悪い話じゃないって、もう二人俺を妹にする気満々じゃねぇか。
 
「二人は、貴女のために強くなることを決意してますから。貴女にとって利益になることはあっても、害になることは無いはずですが?」
「いや、俺のために……とかは、本人の自由だから別に構わんのだがな?成立すると、もれなく兄と姉が生まれるのが問題であってな?」
「そうですか。まぁでも、こうなってしまった以上、もうあの二人は止められません。諦めなさい」
「いきなり諦めろ宣言!?もうちょっとカルナさんが責任ぐらい取れよっ!!」
 
 たきつけるだけたきつけて、こっちに丸投げするとか……カルナさんは鬼かっ!?
 
「では二人とも、貴方達が兄や姉として相応しいかどうかは、ミハルさんに決めてもらいます。これはミハルさんも関わることですから、かまいませんね?」
「はいっ」
「もちろんだとも」
 
 ちょっそのまま無視して、いつの間にやら審判役まで……って、あ、そっか。
 カルナさんがこっちを見てクスリと笑う。なるほど、初めからそうするつもりだった訳ね。確かにそれなら俺としても問題は無くなるか。
 
 審判約が俺なら、基本的に俺が認めるまでは妹にならずに済む。どうしても嫌なら、ずっと認めなければ良いんだし。
 
 ……しかし、何か俺をダシにされた気がしてしょうがないんだが。カルナさんとしては、二人が奮起するなら万々歳なんだろうけどなぁ……。
 
 
「ミハルさん」
 
 
 俺の思考を、メイフィールドさんの言葉がさえぎる。振り返った俺の手を、両手でそっと包み込む。
 
「今はまだ、頼りないかもしれませんが、必ずや貴女の理想の姉になって見せますわ。その時を……ご期待なさいませ」
 
 そう言って、少しだけ恥ずかしそうに笑うメイフィールドさん。
 その笑顔を見て、まぁいいか。と少しだけ思った。きっとこれを引き金としていろんな騒動が起きるだろうけど、騒動なんて(そんなの)とっくに元の世界で慣れている。
 
 なら、こんな学園生活だって悪くないかも知れない。そんな気持ちを込めて……俺はそっと、メイフィールドさんの手を握り返した。
 
 
 
 
最近、大体1日1本ぐらいのペースになってきました。
しばらくは、このペースを維持しようと思います。


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