第17話 ミハル式紳士限定脅迫術
「なっなっ……何を言ってるんですの!貴女は!!」
真っ先に立ち直り、反応したのはメイフィールドだった。まぁ、言いたいことは分かる。
「あ、あ、ああああのダメ教師に、あ、貴女を、お、おお襲わせるなんて……そんな、そんな事、私は絶対に許しませんわ!!」
「ハルちゃん~、襲わせるって、どういうこと?先生、ハルちゃんを傷つけたりするの?」
あ、しまった。フォルに対する説明って言うかフォローは考えてなかった。
「大丈夫。あの先生が、俺を本気で襲ったりするわけ無いだろ?だから、先生が俺に対して暴力を振るったりはしないし、俺も怪我をしたりはしないさ」
「そっか……うん、そうだよね。びっくりしたよ~」
「ああ、すまんな。フォルちゃん」
「ちょ、ちょっと待ちなさいっ!私を無視するんじゃありませんわよっ!!と言うかですね、何故そんなことが言い切れるんですの!!」
何とかフォルを納得させ、俺は安堵の息をつく。だがそこに、まだ納得していないメイフィールドが割り込んで来た。
……いや、メイフィールドだけじゃないな、クラス中の生徒達が、納得していないと言った様子で俺のほうを見て来ている。まぁ、そりゃそうか。
「ん~、とりあえず説明する前に……まぁ、アレを見てみ?」
そういって、俺は先生を指差す。それにつられて、教室内の全ての生徒の視線が先生へと向けられる。
「……あ、ありえない……そ、そんな、この、俺が?馬鹿な……そんな事、あっては……」
そこには、まるでこの世の終わりを見たかのように顔面を蒼白にし、頭を抱えて振り乱すレオナルド先生の姿があった。
「……アレは、一体何をしてるんですの?」
「いや、見れば分かるだろ?どう見ても、精神的に致命傷を負ってるようにしか見えないはずなんだけど」
理解できないと言った様子のメイフィールドに対し、俺は見たままを答える。
「そ、そういうことを言ってるわけではありませんわよ。私は何で、あのダメ教師があそこまで追い詰められてるか、それを聞いているんですの」
ふむ、まぁそう来るだろう。効果は一目瞭然だが、なぜ俺がその一手を打ち出せたのかは、恐らく理解できないだろうし。
「いや、大した理由ではないさ。カルナさんから聞いた話によれば、先生は生徒に手を出さないことを公言し、遵守してるんだろ?」
「ええ、まぁそうですけど……って、ひょっとして」
「だったら、それを崩すことを目的とした罰にすれば、ダメージを与えれるんじゃないかって思ったんだよ」
実際はレオナルド先生が紳士であることを確認し、紳士協定を語ったのがそう思った最大の理由なんだが。……まぁ、さすがにそれは説明できん。
「なるほど、いや、しかしだね?もし先生がそれに乗って、君に手を出してきたらどうするつもりなんだい?」
「そ、そうですわよ。あのダメ教師が、生徒に……貴女に手を出さないって言う確証なんて、なかったのではないですの」
いやまぁ、そのあたりは今までの言動に対して信用した。と言うしかないのだが、確かに俺も万に一つを考えなかった訳じゃない。
紳士だからと言って、誰もが誘惑に耐えられる訳ではない。自分の欲望に負け、卑劣な犯罪に手を染めてしまう人間だって、確かにいる。
そういう点では、レオナルド先生って真正の変態紳士なんだよな。襲うじゃなくて襲わせるなのに、あそこまで苦しむと言うのは相当だ。
……ん?むしろ逆に、一瞬でも襲いたくなってしまったから……一瞬でもそれを想像してしまったから、苦しんでるのか?まぁ、そこは先生にしか分からんことだし、どうでも良いか。
「まぁ、万に一つも無かったと思うけど。もし、そうなってたら簡単だ。それをカルナさんに告げれば良い」
「へ?」
「カルナさんが言ってたんだよ。あの先生は、言動はともかくとして生徒に手を出さないことは遵守していると」
「え、ええ。そうですけど……それが何か関係ありますの?」
俺の言ってることが理解できない、と言った様子の二人。
「あの先生が教師でいられるのは……もちろん、優秀だからって言うのもあるだろうけど、無害であることが一番の理由なんだよ。カルナさんはあの先生を、明らかに毛嫌いしているだろ?」
「まぁ、そうだね。学園長先生の先生に対する仕打ちは、僕でも考え付かないようなものが多いし」
「だったら、俺が手を出されたと言う事実が出来れば、あいつはここにはいられなくなるだろ。……むしろ、カルナさんの今までの鬱憤を晴らすべく、消滅させられるかもな?」
そう言って、俺はにやっと笑う。我ながら、酷い手を考えたものだと思う。
ここで、俺から誘ってる事実があるんだから……などと言う人がいるかもかも知れない。が、俺は中身はともかく、見た目は10歳ほどの子供なのだ。どんな理由があっても、手を出した時点でアウトである。
しかも、真面目に授業をするかとの二択を迫って手を出す方を選択するということであれば……まぁ、酌量の余地はあまりあるまい。俺は、本来教師がするべき事を要求しているだけなんだし。
もちろん、この策には一つの穴がある。それは最悪の場合、俺が襲われるのが確定していること。
だがまぁ……幸いなことに、俺の中身は男だ。男としての急所は十分熟知しているし、男の裸を見るだけで恐怖に震えて何も出来なくなるって事も無い。
……いや、んなもん見たくねぇし、見ずにすむならそれに越したことは無いんだけどさ。それに、俺だって男に襲われる事自体は嫌だし。
教室内が、しん……と静まり返る。生徒達の表情を見る限り、俺の説明には納得してもらえたようだ。
「いやはや……恐れ入るね。この学園に来て、たった一日足らずでそんな事を考え付き、実行できるなんて」
感心したようにつぶやくゼノガルド君。……何か、過大評価して無いか?
「そんな大したことじゃないだろ。俺なんて、ただの一般的な市民だよ」
「ははっ……それこそ冗談だろう。僕は、君の年齢でここまでの無謀ともいえる勇気を見せた人物なんて、聞いたことも無いよ」
「知ってるか?勝算がある策なら、それは無謀とは言わないんだよ。この程度なら、アレの事をある程度知ってれば勝算の判断くらい十分つけれる」
そういって俺は先生を指差す。
「何を言ってるのさ、その観察力に関しても君は素晴らしいじゃないか。通常、罰と言えば痛みを与えるのが普通だろう?」
「まぁ、そうだろうな」
「だが、君は先生には、それが通じないことをあっさりと見破っていた。さらに、たとえ気づいていても通常の感覚なら実行できないであろう策を実行した」
……いや、それは単に紳士の共通の弱点というか、紳士協定を逆手に取っただけでしかないんだがな。
あ、後、紳士であっても全ての痛みが大丈夫って訳でもなくて、前歯をクキッとやられたりするのはダメらしいね。まぁ、個人差はあるだろうけど。
「まったく、君が一体何をして来てそこまでの知識と度胸を積んできたのか、興味が尽きないね」
「そこまでになさい。ミハルさんへのそれ以上の詮索は、私が許しませんわよ?」
ゼノガルド君の言葉をさえぎるように、メイフィールドさんが割って入ってくる。
「人には、思い出したくない過去や、暴かれたくない過去があるものですわ。それを詮索するのは、失礼と言うものではなくて?」
「……確かにそれはそうだね。すまなかったね、ミハル君。どうか、僕のぶしつけな言葉を許してくれたまえ」
「あ、ああ。それは別にかまわんけど」
過去っつったって、俺の過去にそんな……あ、いや、止めよう。結構なトラウマがあるわ。俺。
「そんなことよりも、ミハルさん?貴女に、約束して欲しいことがありますの」
「?……何かあったのか?」
怒ってるような、心配しているような、何か複雑な表情を見せるメイフィールドさん。
「もう二度と、あのような事を言わないと約束しなさい。乙女が、その、襲わせるだの……決して、言ってはならないことですわ!」
あ、あ~……そういや、俺の外見を考えればあの言葉は確かにまずいか。いや、そんな易々と口に出す言葉でも無いけどな。
何せ俺は中身は男のままだ。体は女の子になってても、男に抱かれたいとは思わないし、思いたくも無い。
それに今回は偶々条件が重なった結果こうしただけであり、一般的に考えれば公衆で体を使った交渉など下策以外の何者でもない。成功しても、周囲の評判も下がるだろうしな。
……まぁ、たとえ秘密裏だったとしてもやりたいとは思わんが。
と、そんなことを考えている間に、いつの間にかメイフィールドさんが俺の顔に手を伸ばしてきていた。メイフィールドさんの指が、優しく俺の顔をなぞりだす。
「この可愛らしい顔が、綺麗な紅色の眼が、さらさらで美しい銀色の髪が、小ぶりな耳が、唇が、そして、触れれば壊れてしまいそうなほどに儚い肌が!あの様な汚らわしい男に汚されるなど……」
あ、あの~……メイフィールドさん?貴女ちょっと今何を考えて……いや、ちょ、本気でその顔怖いです。
「断じて!許されることではありませんわ!!ミハルさん!!」
「は、はいぃっ!?」
「アウストレーゼ家の娘として……いえ、メイフィールド・D・アウストレーゼとして、貴女に命令します!!あのようなことは、二度とおっしゃらないでください!!いいですね!?」
「は、はいっ!わかりましたっ!!」
完全に勢いに飲まれる形で承諾する。うん、無理。今のこの人には逆らえない。逆らっちゃダメとしか思えない。
「まったく、分かればいいんですの、分かれば。……それと、貴女の口調だって、出来れば直して欲しいんですのよ?」
うげ、まだ終わってなかったか。
「いや、んなこと言われても……もうこれに慣れちまってるしな」
街の人たちにも言われたことはあるが、慣れてしまっている以上はしょうがない。無理に直すのも面倒だし。
……それに、もし元の世界に戻れるとするなら、この口調のままじゃないと困るのだ。万に一つでも、女の子の口調をあの幼馴染や妹に聞かれようものなら、一体どうなることか……。
そんな事を考えていた俺の表情から、何かを読み取ったのか、メイフィールドさんが軽くため息をつく。
「はぁ、しょうがないですわね。無理強いはしませんわよ」
「悪いな、不快な思いをさせちまって」
「別に、不快などとは思っていませんわ。ただ、単にもったいないと思うだけですから」
そういって、メイフィールドさんが俺の髪を触る。さらさらと髪の毛が流れる。
「この可愛らしい容姿に、見事な服装。鈴を奏でるような声に、脆く、儚さを演出する青白い肌……。後は口調さえ相応しいものに変えてしまえば、完璧でしたのに」
……そういえばすっかり忘れていたが、俺の服って、あの黒ゴスロリ服で固定されてるんだよな。いつ洗ってるのかは知らないけど、いつの間にか汚れとかなくなってるんだよな……。
まぁ、もう慣れたから、これを着て外に出るのは恥ずかしくは無いんだが。間違っても、元の世界に戻ったときにそういったのを着ないようにしないと。
って言うか、
「さすがにそれは持ち上げすぎ。メイフィールドさんのほうが、よっぽど綺麗だし素敵だろ?」
何より、さすがは育ちが違うって言うべきなのか、佇まいからして俺とは別格だ。
俺は育ちがそんなに良いわけでもない。つか元男なんだから、女の子の嗜みなんぞほとんど知らない。
……特に初めてのトイレのときなんか……いや、止めよう。あの事はこっちに来てからの、最初にして最大の黒歴史だ。
「な、何を言ってるんですの。そ、そんなことはありませんわよ」
「だって、佇まいとか優雅だし、いかにも綺麗な女の人って感じで。俺じゃあそんな雰囲気は出せないからなぁ……」
「そ、そんなもの、貴女だって学べば容易いでしょうに。何なら、私が教えて差し上げますわっ」
いや、そこまでしてもらわなくても……と思ったところで背中に軽い衝撃が走る。
振り返ると、満面の笑みを浮かべてフォルが抱きついてきていた。
「えっへへ~」
「ん?どうしたんだ?フォルちゃん」
フォルはいつもにまして、嬉しそうだ。何かそんな嬉しいこととかあったか?
「だって何だか、ハルちゃんにおね~ちゃんが出来たみたいだもん」
……子供は時に、思いもしないような爆弾を放つ事があるという。
「み、ミハルさんが妹……?」
「い、妹だと!?」
フォルの放った爆弾は、見事にメイフィールドさんの何かに致命傷を与え、ゼノガルド君を巻き込み、これから起きる波乱を生み出していった……。
はい、え~っと……良い子は絶対に真似を……え?誰も真似しない?まぁ、普通そうですよね。
というわけで、以上がミハルが暴挙に出た理由です。恐らく普通の感覚の人には実行不可能だと思いますが、元々周囲が変態ばかりだったのと、元男だったという理由からやらせてみました。
……作者が、こういうのを書いてみたかったというのもありますが。
ちなみに、ミハルは自分の事を常識人だと思っていますが……さて、みなさんにはどう映っているのでしょうか?
+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。
この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。