第16話 不思議な交渉
普通、授業と聞けば教師が黒板に学ぶことを書いたり、参考書を見ながら言ったことを生徒が覚えることを言うと思う。
あるいは……教師と生徒が協同で、新しいことを覚えていく。少なくとも、俺の認識はそれで間違いないはずだ。
つまり、何が言いたいかというと、
「今日こそ、その体を吹き飛ばして、普段の言動を反省させて見せますわ!!」
「甘いな甘いな甘いぞ!!その程度では、俺の心どころか、体に響かせることも出来ん!!」
少なくとも、こんな口上が繰り広げられるような授業は、授業とは言わん。
生徒達からレオナルド先生へと、大量の光の弾が飛んでいく。そしてそれを、仁王立ちのまま片っ端からかき消していく先生。
開始早々、授業は非常にカオスな展開へと移っていた。もちろん、原因はレオナルド先生である。
……まぁ、入ってきて早々、今日は女子は全員おにいちゃんと呼べ!!とか叫べば、そりゃあブチキレもするわな。
かくいう俺も呆れ気味。女子の中で否定的じゃないのは、フォルぐらいだろうか?
「わぁ~、きらきらして、綺麗だね~」
といっても、フォルはフォルでこの状況を楽しんでいる訳だが。
次々と、光の弾が生み出されては先生にかき消されるという、この危険極まりない状況を見てもなお、その感想なのだから恐れ入る。
「はっはっはぁ、どうした?俺の体を吹き飛ばすんだろう?まだ俺に、一発たりとも当たってないじゃないか!」
「くぅ~……この化け物!一体貴方はどうなってるんですのっ!!」
余裕の表情を見せる先生に対し、生徒達は既に疲労を見せ始めている。様子を見る限り、どう見ても生徒達の方が分が悪い感じだ。
そんな中、ふと俺とフォルが参加していないのに気づいたのか、先生が俺達に声を掛けてきた。
「お、ミハル君とフォルカ君は、参加しないのかね?もし一発でも俺に当てれたら、何でも言うことを聞いてやるぞ?」
参加しろっつったってなぁ……フォルは知らないけど、俺は魔法をまだ覚えてないし。かといってこんな弾幕の中、接近戦を挑むとかありえんし。
大体、全ての魔法を直前でかき消してる時点で、俺がどうこうできるような相手じゃ……ん?待てよ?
ふと、ある事を思いついて先生や生徒達の様子を注意深く見てみる。……ふむ、この様子なら、試してみる価値はあるか。
「えっと……確か、メイフィールドさんだったっけ?ちょっとこっちに来てくれないか?」
「……?何ですの?一体」
表情に疑問を浮かべつつ、メイフィールドさんが近づいてくる。一応先生に聞こえないように、思いついたことを聞いてみた。
「はぁ?それは確かに出来ますけど……そんなことして意味などありますの?」
「いいからいいから。後、ちょっとみんなに合図して、一斉に魔法を撃つようにお願いしてもいいか?」
「……仕方ないですわね。悔しいですけど、このまま続けていてもこちらが消耗するだけですし、貴女の策とやらを見せていただきますわ」
まだ納得した様子ではないが、明らかに不利な状況ということもあるからか、俺の提案を承諾するメイフィールドさん。
「はっはっは、作戦タイムかい?先生としては、どんな策で来てもかまわんぞ?」
そして、仁王立ちのまま余裕の笑みを見せる先生。死角から飛んで来た光の弾をかき消すあたり、その余裕は本気なのだろう。
「じゃあ、お願い」
「分かりましたわ、みなさん!今から合図を出しますので、その合図に従って一斉に魔法をお願いしますわ!!」
メイフィールドさんの掛け声に、全員が頷く。教室内に、緊迫した空気が流れ始める。
「ふっふっふ、魔法を集中すれば俺に届くとでも?まだまだ甘い」
「甘いかどうかは、やって見ないとわかりませんわよ!!今ですわ!!」
メイフィールドさんの声にあわせ、ざぁっと、教室中に光の弾が浮かび上がる。そして、それらが一斉に光の軌道を描きながら先生に向かって飛んでいく。
「はっはっは、きちんと魔法を合わせられたのは見事だが、それでも俺には届かないな!!」
先生の言うとおり。集中して打ち出された光の弾ですらも、先生の前にあっさりとかき消されていってしまう。
光の弾幕が薄れ、仁王立ちの先生が姿を見せ始める。
ダメか……と誰かがつぶやいた。生徒達に、諦めの色が広がっていく。だが、
「はっはっはぶへっ!?」
先生の高笑いが途中で止まり、今までとは違うゴキィッという音が教室中に響き渡る。
諦めの表情を浮かべていた生徒達が、呆然とその様子を眺める。作戦が成功したことを確認した俺は、ひそかにガッツポーズを取った。
「ぐ、っはぁ……」
頭を押さえ、そのまま倒れこむレオナルド先生。……さすがにちょっとやり過ぎたか?と、後悔が生まれた。
「ハルちゃんハルちゃん、今のはちょっと、やりすぎだと思うよ?」
「そ、そうだよな。ごめん、さっきまでのを見てたら、あれくらいなら大丈夫じゃないかと思ったんだけど……」
「うん、後でちゃんと先生にも謝らないと、だよ?」
たしなめるようなフォルの声に、俺は素直に従う。さすがに、頭を押さえながら痙攣をしている先生を見ると、やりすぎとしか思えん。
……つか、あのまま死なないよな?レオナルド先生。さすがにこんな冗談みたいなことで人殺しになるとか、すっごい嫌なんだけど。
「ええっと……い、今のは一体何なんですの?」
「え?何って……見たとおりなんだけど」
そうとしか言いようが無い。そもそも、俺がやった事を補佐したメイフィールドさんが、それを聞くのはおかしいと思うが。
「私が聞いているのは、そういうことじゃありませんの。私は、一体どうやって、あのダメ教師の頭に椅子を直撃させたのかを聞いてますの!」
そう、俺がやったことは簡単。単に座ってた椅子を、レオナルド先生に投げつけただけ。
もっとも、俺の力だけではぜんぜん届かないので、メイフィールドさんに魔法を使ってもらって、精度と威力を格段に上げてもらっている。……まぁ、それが原因でやり過ぎになった気もするが。
「いや、見ていて何となく思っただけなんだけどさ。みんな、あの先生に対して魔法しか撃ってなかっただろ?」
「え、ええ。そうですけど」
「俺は魔法についてはぜんぜん知らないけど。クラス全員の魔法を受けて、それでもそれを余裕で防いでるって事は、何か秘密があるんじゃないかって思ったんだよ」
「何かって、何の……ああ!まさかっ!?」
どうやらメイフィールドさんも、俺と同じ考えに至ったようだ。
「それで、ためしに魔法攻撃に椅子という物理攻撃を混ぜてみたら……こうなったって訳だ」
まぁ、目くらましと、魔法を集中させるのが策だと思わせる引っ掛けがあったにしても、先生は少し油断しすぎじゃないかとは思う。
「……盲点でしたわ。まさか【絶対魔法防御】を使っていたなんて」
「これは、一本とられたね。先生にも、そして君にも」
いや、気づけ。それぐらい気づけ。つか少しは物理攻撃をしようと思え。後、ゼノガルド君はいつの間に近くまで来てたんだ?
「ってか、あの先生大丈夫なのか?さっきから痙攣してるんだけど」
「ああ、アレなら大丈夫ですわよ」
そういうが早いか、むっくりと起き上がるレオナルド先生。……って、何で無傷なんですか。明らかに、何かが折れるような音してたよね?
「はっはっは、話は聞いたぞ?やるじゃないかミハル君、君の観察力と作戦はまさしく見事だ!」
「あ、いや、すみません。挑発されたからといっても、ちょっとやりすぎました」
「いやいや、気にすることは無いぞ?俺も、久々に生徒からの愛を受け取って上機嫌だからな!」
……いや、気にしろよ。って言うか、椅子の一撃が愛って、本当に変態紳士なんだな、こいつは。
「それに一撃を当てたのだから、約束どおり言うことを聞かねばなるまい。さぁ、何でも望みを言うが良い!」
「……何でも?」
「その通りだとも!君が望むなら俺の肉体美を見せてもいいし、俺のすばらしい魔法の威力を見せてあげてもいい!」
……ふむ、まぁ、ぶっちゃけそんな望みなんてどうでも良いし。生徒を挑発などしないで、真面目に授業をしてくれさえすれば良い。
そう思って、口を開く。
「ちょっと待ちなさい、ミハルさん!!」
だが、それをメイフィールドさんが押し留める。……?何か、叶えて欲しい願いでもあったのだろうか?
「おっと、メイフィールド君は何も言ってはいけないよ?他の生徒達も同様だ。君らが何かを言えば、それはミハル君の願いではなくなってしまうからね。そうなってしまえば残念だが、俺にはその願いを叶えるつもりは無い」
「くっ……」
ん?何だそりゃ。別に誰かが俺に叶えて欲しい願い事を言ったからって、俺がその願い事を採用するかは分からないんだし、わざわざ釘を刺す理由なんて……。
いや、待てよ?ひょっとして、こういう機会は以前にもあったのか。まぁ、この先生の性格からして、俺とフォルだけにあんなことを言うとは思えんしな。
俺はメイフィールドに軽く視線を向ける。若干の怒りと憤慨が、その表情から見て取れた。……ふむ。
「まぁ、俺は今日転入してきたばかりだし、先生に願うこともそんなに無いけど……あえて言うなら」
まぁ、これは転入してから最初の授業を見て、誰もが思うことだろ。
「先生には、生徒を挑発したりせずに真面目に授業をして欲しい」
それを聞いて、先生の笑みがいっそう深まっていく。……やはりそうか。だが、甘いな。お前はその願いを、即座に了承するべきだったのだ。
「ただし、基準は俺達生徒の基準で。先生の基準で真面目だったとか、先生の基準なら挑発じゃないとか、そんな戯言は許さんから」
ピシッと先生の笑みが凍りつく。やはり、その逃げ道を考えていたか。いや、むしろ実際に実行していたのだろう。先ほどの、メイフィールドさんの様子を見る限りは。
しかし、これだけではまだ一歩足りない。あくまでこれは口約束。そんな約束など忘れた……などと言われる可能性はあるのだ。だから、もう一手何かが欲しい。
俺が知っている先生の情報は、正直少ない。それでも、その中から何とか弱点を探り出してみる。
恐らく変態紳士である以上、物理や魔法問わず攻撃は無駄だろう。むしろご褒美だとか言いかねない。まぁ、変態紳士である奴が恐怖するものなんて、そうそう……ん?紳士?
ふと、俺はある方法を思いついた。奴が言っていた事を考えれば、失敗はしないはず。後はその策を用いた場合のリスクと……反応ごとの対処方法。
……これなら、いける。
「とはいっても、これはあくまで口約束。簡単に破ることは出来ると思う。……だから、この約束を破った場合、先生には罰を受けてもらうことにする。いいな?」
「お……?おお?ああ、いいだろういいだろう。どんな罰でも、先生は喜んで受け付けるぞ?」
凍りついた表情を復帰させ、再度笑顔を取り戻す先生。罰と聞いて、約束を破っても大丈夫になりそうだとでも思ったのだろう。
大半の苦痛をご褒美とし、喜ぶであろう変態紳士にとっては、罰という存在は願ったり叶ったりだ。むしろ、率先して約束を破りに来るかもしれない。
……だが、それは甘いな。俺はお前の望む罰をくれてやるほど、無知ではないのだ。
「ああ。罰の内容は簡単だよ。お前に、俺を襲わせるだけだ。……そう、もし約束を破れば、俺はたとえ無理やりにでもお前に俺を襲わせるからな」
そういって、俺はにやっと笑う。一瞬の静寂の後、教室中に困惑が広がっていくのを、俺は黒い笑みを浮かべながら感じ取っていた。
というわけで……すみません、石を投げないでください。
ミハルが大分壊れてます。でも、これはミハルなりに考えた上での策なんですよ。
ということで、詳しいことは次回判明するはずです。
+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。
この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。