この話は、ある人物の能力に関する話が主題です。
もし能力に関する情報を、今後の話の中で自分で考えて行きたいという場合は、読まないことをお勧めします。
なお、この話を読まなくても、今後の話が分からなくなるといったことは無いはずです。
閑話休題 ある少女に対する考察
報告書を読み直す。
改めて見ても信じがたい。それは、観察対象としても研究対象としても、まさに極上の人物だろう。それこそ、この機会を逃せば後百年はこんな機会にめぐり合えないと思えるほどの。
そしてもっとも信じがたいのは、私自身があの子をそういう対象で見たくない、と思ってしまうこと。
元宮廷魔導師であり、現ヴィレア魔法学園学園長。そんな肩書きが、邪魔だと言う衝動すら生まれてしまっていること。
軽く首を振って、自嘲した。あまりにも、私らしくもない。
大体、朝にあの子と話をしていた時だっておかしかったのだ。主が使い魔を無下に扱うのは、確かにあまり許されることではない。
だが、イセリナさんが本心から使い魔を粗暴に扱うはずがない。そんな事、私には分かりきっていたはずだ。
「カルナさんでも~、あの子の事になると、変わってしまうのですね~」
あの時のイセリナさんの、そんな言葉がよみがえる。確かに私は、あの子に対する情をイセリナさんにぶつけてしまっている。イセリナさんには……悪いことをしてしまったかもしれない。
……もっとも、人がせっかく援助していたと言うのに、ただ惰眠を貪っていたのは万死に値する。そこに関しては、イセリナさんにも深く反省してもらいたいところだが。
そこまで考えたところで、扉をノックする音が聞こえて来た。
「学園長。セティスです」
「どうぞ」
私の返答を聞いて、ヴィレア魔法学園の受付嬢……セティス・レイクトールが入ってきた。
「……お仕事中でしたか?」
「いえ、かまいませんよ。この資料は、貴女が報告に来た人物の調査内容と関係していることですから」
私の言葉に、セティスの表情が一瞬動く。
「貴女も、気になりますか?」
「……任務としても、個人としても、気になります」
セティスの素直な答えに、私は軽く笑みを浮かべた。……本当に、信じがたい。
「素直ですね、それなら教えてあげましょう。ただし、その前に貴女の報告を聞かせてください」
「了解しました」
そういってセティスが一礼をする。
「ご命令通り、彼女……ミハル・トウマの転入時の様子を伺ってきました」
「様子はどうでしたか?」
「断言します。……彼女は、異常です」
予想通りの返答だった。
「通常、全ての人間に好意を持たれる事は不可能です。それは、たとえどんな人間にも例外ではないでしょう」
セティスに対して首を振って、続きを促す。
「彼女は間違いなく……初めて出会ったはずのAクラスの全ての生徒に、好意を持たれて居ました」
「……例外は?」
「確認しましたが、ありませんでした」
その報告に、私は笑みを浮かべて頷く。セティスがそう言うのであれば、間違いは無いのだろう。
そして、これだけそろっているのならば、もはやそう信じるより他はない。
「貴女がそういうのなら、その報告に間違いは無いんでしょう。調査の協力、ありがとうございます」
「あの……それで」
「?……ああ、そうでしたね」
改めて私が持っていた資料を開く。それはイセリナからの報告だ。
「彼女はね、魔獣に襲われない性質を持っているそうです」
「……はい?」
「彼女が居るだけで魔獣は近寄らず、彼女が来るだけで魔獣は去っていく。……そう、まるで、彼女自身が魔獣避けでもあるかのように」
「……信じられません」
セティスが顔をしかめる。
「私は、貴女の報告も全て含めて考えて……彼女が、常に周囲に【魅了】を掛けているのだと思っています」
【魅了】の魔法は、人に対して好意を抱かせる魔法だが、魔獣に対して使った場合は何故かその魔獣が逃げ出すと言う効果を持っている。
「そんな馬鹿な。報告では、彼女はまだ魔法を使えないはずです。それに、彼女に魔法を使っている形跡はありません」
「そうね。でも、私達は知っているはずですよ?」
何を、と言いかけたセティスが眼を見開く。
「例のあの人と同じ、魔力を使わずして魔法を発動させる……もしくは意識もせずに常時発動させることが出来る、特異体質の事……ですか」
「そう。アレは既に自覚していますが、彼女はきっとこのことを自覚していないでしょうね」
自覚していれば、それこそ国でも世界でも容易く支配できるだろう。彼女のそれは、それほどまでに危険なのだ。
「しかしそうなると、貴女には辛いお仕事になりますね」
「……いえ、かまいません」
彼女に与えた仕事は観察すること。しかし、たったそれだけでも、彼女はえもしれぬ罪悪感に襲われるはずだ。
……そう、彼女の真の恐ろしさは、自分に牙を向けようとする相手を事前に封じ込めてしまうことにある。人も魔獣も、自らが好意を抱く相手に、牙をむくことは出来ないのだから。
ためしに、私は彼女を倒す方法を考えてみる。……考えようとするだけで私の思考は停止し、彼女に対する罪悪感で心が満たされた。
つまりはそういうこと。彼女に出会った人物は例外なく彼女を傷つけようとすることは出来ない。出来るとすれば、傷つけることが愛情表現なのだと勘違いしている輩ぐらいだろう。
「このことは、国に報告するのですか?」
「不思議なことを言いますね。それは、本来国からの監査役である貴女が決めることでしょう?」
自分で言っておきながら、意地の悪い言葉だと思った。そんな権利など、既に私達には無いと言うのに。
以上、主人公ミハルに対するカルナさんの考察でした。
ミハルのチートっぷりと、ミハルに対する周囲の好感度が妙に高い理由をカルナさんが語ってくれています。
ちなみに、セティスさんはミハルが学園に入った時に初めて出会った受付の人です。
……そういえば、今回はシリアス全開ですね。あまり暗い話ではありませんが、いつものコメディ色を期待された方は申し訳ありませんでした。
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