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紳士注意。
第14話 ヴィレア魔法学園
 
「ハルちゃん。準備って、これくらいでいいのかな~?」
「ああ、筆記用具に何枚かの紙。念のために携帯食料があれば大丈夫だろ」
 
 魔法学園で必要になるものを、お互いにチェックする。基本的に必要なものは向こうで用意する、と言っていたが、念には念を入れておいた方が良い。
 
「楽しみだね~。お友達とか、たくさん出来るかな~?」
「フォルちゃんならきっと出来るよ。むしろ、俺の方が心配だな」
 
 ……何せ、俺は見た目は女の子でもこんな口調だしなぁ。
 
「え~?ハルちゃんなら、きっとすぐにお友達が出来ると思うよ~?」
「はは、ありがと」
 
 不思議と、フォルがそういってくれると、そうなんだろうと思えてくる。
 多分、俺は今までもずっと、気づかないうちにフォルに元気付けられてきてるんだろう。
 
「いつか、恩返ししなきゃな」
「?」
 
 そう、小声でつぶやく。聞こえなかったのか、不思議そうに首を傾げるフォルに、俺は笑いかけた。
 
「さ、いこっか。あんまり遅れると、カルナさんに怒られるかもしれないしな」
「うん、じゃあ行ってきま~す」
 
「は~い、いってらっしゃい~。道中、気をつけるのよ~」
 
 そう言ってにこやかに手を振るイセリナ。何だかんだ言っても、彼女も魔法を勉強する事自体は、反対していなかったのかもしれない。
 
 
 
 
 
 学園、と言っても特別何かが必要なわけではない。指定の制服があるわけでもなく、何らかの資格や試験が必要と言うわけでもない。
 イセリナは「これを着ていかなきゃダメよ~」などと言って、妙に可愛さを強調したドレスを見せてきていたが。「嘘だったらカルナさんに説教してもらうぞ」と言ったら青ざめて謝るあたり、あれは嘘だったんだろう。
 
 いい加減、少しは自重と言うものを知れば良いのに。
 
 
 
 街をでて、セプール平原を二人で歩く。遠目に動物や魔獣の姿は見えるが、特にこちらに来る様子は無い。
 意外と安全なのか?とも思うが、それでも一人で歩こうとは思わない。何せ、俺は襲われたら逃げる以外の対抗手段が無いのだから。
 
「えへへ、久しぶりの街の外だね、ハルちゃん♪」
「ん、そうだな」
「こっちには、遊びに来たことなかったよね?こっちはね、お馬さんとかがいるんだよ?」
「へぇ、乗ったりすることは出来るのか?」
 
 馬は主に、移動手段として使われるらしい。もっとも、飼いならせれれば……の話だが。
 
「それは無理かも~。以前乗ろうとしたんだけど、みんな嫌がってたの」
「そっか」
 
 やはり野生の馬じゃ難しいだろうな。大抵売ってる馬とかは、既に飼いならされた後の馬だろうし。
 
 
 
 そんなことを喋っているうちに、俺達は無事、学園にたどり着くことができた。特に道中トラブルも無かったので、ほっと一息をつく。
 
「ここが学園かな?」
「おっきな建物~。一体何人の人が住んでるのかな?」
「寮には数十人って聞いてるけど……あ、あっちが受付かな」
 
 入り口の近くに小さな建物があったので、そちらに向かう。中から、気のよさそうな女の人が顔を出した。
 
「あらあら可愛い子達ね、どうしたの?」
「今日から転入することになった、ミハル・トウマとフォルカ・エティールドです」
「あらあら、貴方達がそうなのね。話は聞いているわ。さぁ、私についてきて」
 
 そういって、女の人が俺の手を引いて歩き出す。あわててフォルも俺の手をつなぎ、後ろに付いて来る。
 女の人が俺達を連れて一番大きな建物の中に入り、なおも進んでいく。ここが学園の学舎なのだろうか?
 歩きながらそんなことを考えていると、女の人が足を止めた。目の前には一つの扉があり、『学園長室』と書かれた札が張ってあった。女の人が扉をノックする。
 
「学園長。転入生のお二人ををお連れしました」
「どうぞ」
 
 中の声を聞いた後、女の人が一礼をして入っていく。俺達も一応それに習って入っていく。
 中には、椅子に座って書類を眺めるカルナさんが居た。少し経ったところできりが付いたのか、書類を置いてこちらに向き直る。
 
 
「ヴィレア魔法学園にようこそ、ミハルさん、フォルカさん。私、ひいてはヴィレア魔法学園は、貴女達を歓迎いたします」
 
 
 そういってにっこりと笑うカルナさん。こうして、俺とフォルカは晴れてヴィレア魔法学園の生徒となった。
 
 
 
 
 
「彼が、君達が転入するクラスの担当教師です。……おい、駄犬。ボサッとしてないで、さっさと自己紹介しなさい」
 
 カルナさんに連れられ、俺達は担当教師に挨拶をするために職員室へと来ていた。……って、駄犬ってカルナさん?ちょっと今、凄まじい毒が聞こえた気がするのですが……。
 駄犬と呼ばれた担当教師は、何かプルプルと震えながら顔を伏せている。さすがにいきなり罵声を浴びせられて、怒っているのじゃないだろうか?
 
「ぃぃいいよっっっしゃあああああっ!!俺のクラスに幼女二人っっ!!ついに俺の時代が来たーーーーーー!!」
 
 
 …………。
 
 
 カルナさんに視線を向ける。カルナさんは頭に手を当て、盛大なため息をついていた。オイ、本当にコイツが教師で良いのか?
 
「俺の名前は、レオナルド・クライシアだ。二人ともよろしくな。もう、本当に嬉しくて嬉しくて仕方ないぜ!」
「は、はぁ……俺はミハル・トウマ。よろしく、レオナルド先生」
「私の名前はフォルカ・エティールドって言うの。よろしくね、レオナルド先生♪」
 
 ……コイツの今の行動を見てなお、無邪気に挨拶できるフォルはすごいと思う。同時に、なんとしてでもコイツから守らなきゃ、とも思うけど。
 
「おおう、気の強そうな子に天真爛漫な子だぁ。だが、まだ甘い!俺のことは、お兄ちゃんと呼びなさい!!」
「……はぁ?」
「へ?でも、レオナルド先生は、おね~ちゃんみたいにおに~ちゃんじゃないよね?」
 
 フォルの言葉が何かの琴線にでも触れたのか、再度プルプルと震えてうつむくレオナルド先生。……何か、もう分かってきた気がする。
 
「くはぁぁぁああっその蔑むような視線!そして舌ったらずな口調!!ほんとたまら」
 
「いい加減にせんかっ!この下種犬が!!!」
 
 メキッという音を立てて、レオナルド先生が地面に叩きつけられる。……顔が地面に埋もれてる気がするんだが、生きてるのか?これ。
 
「二人とも済みません。ですが、駄犬……もとい、レオナルド先生は教師としては優秀なのです。信じがたいかもしれませんが」
 
 確かに信じがたい。が、カルナさんがそういうのなら、恐らく間違いではないのだろう。少なくとも、カルナさんは役に立たない変態を、教師として置き続ける様な性格でもないだろうし。
 
「レオナルド先生は、こう見えて生徒には手を出さないことを公言し、それを遵守しています。……真に信じがたいですが、それは事実なのです」
 
 あ~……つまりアレか、これがいわゆる紳士という奴か。まさか、異世界で見かける事になるとは思ってなかったが。
 
「不安かもしれませんが、貴女達に手を出すことはありません。これは間違いないでしょう」
「……ああ、確かにそうだな。コイツは俺達を見て狂乱して喜んでたけど、イセリナみたいに襲い掛かってはこなかったしな」
 
 俺の言葉にカルナさんが顔をしかめる。あ、何かまたまずいことを言っちまったか。
 
「……その件に関しては、後ほどイセリナさんからじっくり問いただしましょう。とにかく、レオナルド先生が安全な人であることを理解していただければ、幸いです」
 
 カルナさんから、若干オーラのようなものが立ち込めているのが見える。イセリナ、ご愁傷様。
 
「では、そろそろ始業の時間ですね。ほら、いつまで気絶してるそこの駄犬。早く起きないと踏み潰しますよ」
「んのわっ……あれ?何か、花畑のようなものが見えてたんだけど、知らんか?」
 
 それって死に掛けてんじゃん。良くコイツ今まで生き残ってこれたな……。
 
「そんなものは知りません。とにかく、始業の時間が迫っているんですから、この子達を連れてさっさと教室に向かいなさい」
「イエッサー、学園長殿。このレオナルド、お二人をつつがなくお届けすることを誓いますっ」
「そこはサーじゃなくてマムだろ。そのうち、本気でカルナさんに殺されるぞ?」
 
 思わず突っ込む俺に、レオナルド先生が嬉しそうにこちらを向く。しまった、やぶ蛇だったか?
 
「良いな、良いぞ、その突っ込み最高!何で君の年齢でサーとかマムとか知ってるのか不思議だが、それでも君は最高だ!!」
「良いから、とっとと二人を連れて行きなさい」
 
 まったく、とカルナさんがため息をつく。そんなカルナさんを尻目に、俺達はレオナルド先生に連れられて、職員室を後にした。
 
 
 
 
 
 目の前には、『Aクラス』と言う札が貼られた扉。軽く深呼吸をして、自分の気持ちを落ち着かせる。
 
「よし、それじゃあ準備は出来たか?」
 
 俺とフォルがコクッと頷く。何事にも、初めは肝心だ。
 
「じゃあ、ここが今日から君らが魔法の勉強する教室だ。さぁ……入ろうか」
 
 そういって、レオナルド先生が教室の扉を開く。こうして、俺達は学園生活の第一歩を踏み出した。
 
 
 
 
 
ついに紳士のご登場です。といっても一般の方が良くご存知の紳士ではなく……。
……はい、すみません。調子に乗りすぎました。ですが、自重する気はありません。
ここまでご覧になった方は、なぜ冒頭に紳士注意と書いたのかを理解できると思います。もし理解できない方がいらっしゃったら、紳士のルビとして変態と頭の中で書いていただければ理解できると思います。


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