ブックリスト登録機能を使うには ログインユーザー登録が必要です。
第13話 新たなる道
 
「確かに、俺にとって悪い話じゃないな」
 
 俺の言葉に、目の前の女性は喜びの表情を見せる。対して、イセリナとフォルの表情は暗いものだった。
 
「べ、別に~、ハルちゃんが魔法を覚える必要は無いのよ~?おね~さんが、ちゃんと守ってあげられるんだから~」
「それでも限度はあるだろう?それに使い魔としても、いつまでも主に守られるだけなのは嫌なんだよ」
「ハルちゃん、魔法学園に行っちゃうの?ここに居てくれないの?」
「いや、行くったっても、精々1週間って話だろう?」
 
 本当は、魔法をちゃんと覚えるには1年2年は必要なのだが、さすがにそんなに待ってはいられない。
 そんな訳で、俺は特例として1週間だけ、魔法学園で魔法の基礎を教えてもらうことにしたのだ。
 
「でも~」
「しつこいですよ?イセリナさん。彼女は自分の意思で、そうすると言っているんですから」
「そうは言いますけど~、カルナさん~……」
 
 今、俺の目の前に居る女性は、カルナ・ゼノグラート。この街の近くに立てられているヴィレア魔法学園の学園長にして、元宮廷魔導師長らしい。
 腰まで伸びた銀髪と若干鋭い黒目が特徴の、有能な秘書官って感じがする人。背は平均ぐらいで、結構なキャリアを持っている割には若々しい。
 ……と言っても、経歴を考えれば30代は行ってると思うけど。
 
 
「……何か、妙な詮索をする気配を感じたのですけど?」
「何も考えていません」
 
 
 カルナさんから妙なオーラが漂い始める。どうにも、年齢をタブーとする人たちはそういった思考に対して感が良いようだ。
 
 
 
 
 
 さて、何故カルナさんがここに来たのかと言うと、それにはどうやらイセリナが関係しているらしい。
 何でも、イセリナは実は元宮廷魔導師候補だったのだが、使い魔が召喚できないことを理由にそれを辞去していたというのだそうだ。
 ……ならば、使い魔を召喚できた今はと言うと、本人は戻って宮廷魔導師になるつもりは無いらしい。
 
「まったく、理解に苦しみますね?貴女ほどの実力があれば、私と肩と並べるのも夢ではないでしょうに」
「あらあら~、それはさすがに過大評価ではないでしょうか~」
「……本当のことなのですがね」
 
 そういって肩をすくめるカルナさん。随分とイセリナのことを買っているらしいが、昔何かあったのだろうか……?
 
「昔……ね、私はイセリナさんに、命を助けられたことがあったのですよ」
 
 そんな俺の疑問に気づいたのか、カルナさんがそう語る。
 
「貴女の特例も、その借りを返すためと言うのが一つの理由なのですよ?もっとも、私自身も貴女に興味があったりはしますが」
 
 ……ひょっとして、えらい人に目をつけられたか?俺。
 カルナさん曰く、俺は使い魔とは思えないほどの魔力を持っているそうだが……変な実験とかに、使われたりしないよな?
 
「ふふふ、安心しなさい。興味を持ったと言っても、貴女を勝手に調べたり、貴女で実験をしようなんて思っていませんから。……貴女が、それを望むのなら別ですけど」
 
 にぃっと笑うカルナさんに、俺はあわてて首を横に振る。つか実験ってあれですか、いわゆる人体実験のことですか。
 
 
「ねぇねぇ、私も……行っちゃだめかなぁ?」
「フォルちゃん?」
 
 
 そんな話をしていると、フォルがおずおずと前に出てそう切り出して来た。
 
「だって、ハルちゃんが行くなら、私も行きたいもん。お師匠様……だめ?」
「あらあら~、フォルちゃんまでそんなことを……どうしようかしら~」
 
 イセリナが困ったような表情を浮かべる。まぁ、言いたいことは、何となく分かる。
 
「フォルちゃん、フォルちゃんはここに弟子に来てるんだろ?そのフォルちゃんが、勝手に学園に行ったりするのはさすがにまずいんじゃないか?」
「別にいいと思うよ?あたしは許可するし、うちの両親ってば放任主義だからねん」
 
 
 ……どっから湧き出てきた、セルニア。
 
 
「おお?何で久々に出てきたおね~さんに、ハルちゃんはそんな視線を向けるのカナ?向けるのカナ?」
「久々って、昨日も普通に会ってただろうが。ってか、どっから出てきたんだよ」
「どこからって、普通に~……天上から?」
 
 それ、普通じゃねぇ。お前はクモか何かか。
 
「ま、それは置いといて~。フォルが魔法学園に行くってんなら、あたしは賛成。むしろ、早めに行っといた方がいいと思う」
 
 ……?今一瞬、セルニアの表情が翳った気がしたんだが。
 
「あらあら~、セリーちゃんまでそういうのね~。困ってしまいますわ~」
「……?セルニアが賛成するなら、問題ないんじゃないのか?」
 
 基本的に、魔法を覚えること自体に問題は無いはずだ。それとも、何か俺の知らない副作用があったりするのか……?
 
「あらあら~?でも、二人とも行ってしまったら~、家から可愛い女の子がいなくなってしまいますし~」
 
 
 …………。
 
 
「フォルちゃん、明日にでも学園に通い始めようか。その気なら、1週間じゃなくて1ヶ月でも1年でも、俺は良いと思うぞ?」
「え?ええ?急にどうしたの?ハルちゃん」
「あら、それは良い提案ね。私としても、1週間じゃなくて1ヶ月や1年、ちゃんと教えた方が良いと思いますし」
「いいの~?カルナおね~さんに、迷惑掛かるんじゃないの?」
「あ、あらあら~?だ、ダメですよ~?1週間でも大変なのに~、1ヶ月や1年なんて、きっと耐えられませんわ~」
 
 まぁ、使い魔なんだから、そんな長いこと離れるわけにもいかんのだがな。
 
「ねぇねぇ、さっきから離れる云々って話だけどさ、別にこっから通えば良いんじゃないの?」
「……へ?」
「学園っていったら街から出て直ぐなんだし。フォルと一緒なら、平原ちょっと歩くぐらい危険でもないしさ」
「あ~……そっか、そういえばそうだったな」
 
 頭の中の地図を思い出す。ヴィレア魔法学園は、ヴィレアを包むようにあるセプール平原に建てられている。
 街からの距離もそこまで遠くは無い。一般的な子供なら若干不安はあるが、フォルなら危険らしき危険は無いだろう。
 
「何も、寮に入らなきゃ学園に通えないって訳じゃないしね~」
「あらあら~、そういえばそうでした~。忘れてましたわ~」
「イセリナさんは、魔法学園に通ったことがあるはずですが。ひょっとして、そんなことで反対をしていたのです?」
 
 カルナさんの目が光り、イセリナが冷や汗を流し始める。……うん、カルナさんにだけは、なるべく逆らわないようにしておいた方が良いかも。
 
 
 
 
「といっても、俺はあんまり魔法の勉強ばかりに注力は出来ないんだよな……イセリナは真面目に働かなくて、正直不安だし」
「あら?……それは、どういうことですか?」
「え?いや、イセリナは普段、錬金術も雑貨屋の運営もほとんどしてなくて、収入があるように見えないからさ。魔法を覚えてきたら、こっちの手伝いもやらないと」
「…………」
「あ、あらあら~」
 
 イセリナが、大量の冷や汗を流し始める。……あれ?ひょっとして俺、何かまずいことを言ったか?
 
「イセリナさん?」
「は、はい~?」
「貴女、まだ召喚して間もないこんな幼い使い魔に心配されるほど、働いていないのですか?」
「え、ええと~……」
「そうなんですね?」
「は、はい~」
 
 カルナさんが、ゆっくりと顔に笑みを浮かべる。その笑みを見た瞬間、俺の背筋に強烈な寒気が走った。
 ダメだ!この人間には逆らうな!!と、本能が告げる。その殺気の対象となっているイセリナは、あからさまに恐怖で震えだしていた。
 
「ふふ、ふふふふふ……貴女には、ちょっとお説教が必要なようですね?」
「ひぃ~、そ、それは~」
「何か反論が?」
「あ、ありません~」
 
 横を見ると、フォルが恐怖に震えていた。セルニアもかなり青ざめた表情を見せている。
 
「ではまず、この子達は1年間、魔法学園に通わさせてもらいます。その間に貴女は、錬金術師としての仕事をきっちりとしてもらいますよ。良いですね?」
「は、はいぃぃ~」
 
 何だか、うやむやのうちに1年通うことになってしまった。……良いのか?これ。
 
「カルナさん、ちょっと良いか?」
 
 正直今のカルナさんに声を掛けたくないのだが、後で何かあっては困るので質問をする。
 
「質問を許可します」
「俺は一応使い魔だし、あまりイセリナから離れたりして魔法の勉強をするのは、よくないんじゃないのか?」
 
 それは、極々一般的な疑問。使い魔が主と離れて大丈夫なのか?
 本に書いてある限りでは、使い魔は主なくしては活動ができないはずだ。
 
「問題ありませんよ。使い魔でも、貴女は人型ですから」
「はぇ?人型だと、そういうのって違ったりするんですか?」
「……そうでしたね、そもそも人型は珍しいので、あまり知られていないのかも知れません」
 
 セルニアの質問に対し、カルナさんがそう言って髪を軽く掻き上げる。何か、すごく様になっていた。
 
「本来、使い魔は主からあまり離れることは出来ません。距離にすると、活動範囲は約4ケルほどでしょうか」
 
 4ケルとは大体4kmのこと。つまり、普通の使い魔は半径4kmの範囲なら、自由に動ける。
 
「その距離を越えてしまえば、使い魔は活力を失い、身動きが取れなくなります」
 
 使い魔は、主の魔力によって活動している。当然、主から魔力を受け取れる範囲を外れれば、活動できなくなるということだろう。
 
「しかし、人型に限りその制限は解除されます。人型とそれ以外の使い魔の最大の違いは、食事を取るか否かです」
「……あ、そうか。そういうことか」
 
 確かに本で書いてあった使い魔は、食事は必要ないと記述されていた。だが、俺は食事を取っているし必要としている。
 
「つまり、人型の使い魔は、主からの魔力とは別に活力を得られると言うことです。もっとも、主を失えばやがて活動不可となってしまいますが」
 
 さすがに、主を失っても生き続けることは出来ないようだ。だが、これで納得した。
 
 例えどれだけ離れていても、使い魔は主から最低限生存するだけの魔力を得ている。それは、どれだけ使い魔を遠くに離しても使い魔が消滅しないという、本の記述からも理解できる。
 ただ、その状態では活動するのに必要な魔力を得ることは出来ない。その分を、人型の使い魔は食事によって得ることが出来るということだ。
 つまり、人型の使い魔は主に関係なく行動することが可能と言うことだ。……さすがに離れっぱなしとかは、使い魔としてどうかと思うし、主に命令をされれば、それに応じる必要はあるだろうけど。
 
 
 
 
「どうやら、理解していただけたようですね」
「はい」
 
 カルナさんが満足そうに頷く。なるほど、教育者なんだなぁ……と思わず感心する。
 
「えっと、難しいお話はわかんないんだけど、ハルちゃんは大丈夫って事なの~?」
「そういうこと」
 
 
「あらあら~、そういうことだったのですか~、驚きました~」
 
 
 ピシッと空気が固まる。カルナさんが仁王のようなオーラを漂わせて、ゆっくりとイセリナに振り返る。
 
「イセリナさん?人型の使い魔を手にしたあなたが、何故そのようなことすら知らないのです?」
「え?ええ~っと、それは~」
「ひょっとして、まさかと思いますが、それ以外の使い魔の事についても調べてない……とは言いませんね?たとえば、そう。召喚して一週間は、外に出てはいけないこと……とか」
「あ、あらあら~?ひょ、ひょっとして私~、ハルちゃんに無理をさせていたのかしら~?」
 
 ビキィッとその場の空気の質が変わった。その瞬間、カルナさん以外の全てが、完全に凍りつく。
 圧倒的な恐怖。あの、ホワイトタイガーに出会った時の恐怖ですら、霞んで見えるほどの……恐怖。
 
「は、はははハルちゃん……」
 
 ガタガタと震えながら、フォルが俺の手を握る。大丈夫、と握り返そうとするが、思うように手に力が入らない。
 大丈夫、この殺気は俺には向けられてない。そう思っていても、全身の震えがとまらない。
 
 これが……元宮廷魔導師長の力なのか。ぶっちゃけこんな形で知りたくは無かったけど、これは確かに……すごい。
 セルニアも、あのイセリナですらも顔面を蒼白にさせている。……もはや、この仁王を止める手段は……この場に存在しない。
 
 
「ふふ、分かりました。貴女のことは、よくよく理解させていただきましたよ」
 
 
 ぞくり、と震えた。ただの言葉が、こんなにも寒気を催すものなのか?
 
 
 
「イセリナさん、ちょっとこちらへ。ああ、今日は眠らせませんよ?ゆっくりと、貴女の不勉強(サボり)を懺悔させて上げましょう」
 
 
 
 ゆっくりとイセリナに近づき、首根っこをつかんで引きずっていく。その光景を、この場の誰も止めることは出来ない。
 そして、仁王がゆっくりと部屋の扉を開ける。その先の光景はいつもと変わらない風景のはずなのに、まるでその先が地獄であるかのように見えてしまう。
 
 
 
 
 
 パタンと扉が閉められる。部屋の空気が一変し、残ったみんなが安堵の息をつく。今日は色々とあったけど、これだけは言えるだろう。
 
『カルナさんだけは、絶対に怒らせてはいけない』
 
 俺は何となく、魔法学園に通う上で一番重要なことを今教えられた気がした。
 
 
扱いとしては第二章のプロローグ扱いです。

というわけでこれから第二章として、ミハルの学園での生活が始まって行きます。
何とか、学園に入ってからつまらなくなったということが無いようにはしていこうかと思いますので、よろしければこれからも読んで行っていただけると幸いです。



+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。