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第12話 平和な街での平和な一時
 
 あれから数日。
 
 
 俺は夕食や雑貨の買い物のため、街へと出かけていた。ある程度の店の位置も既に覚えたので、特に付き添いなどは居ない。
 
 既に俺はイセリナの使い魔として、街の人たちにも知られるようになっていた。
 ……それはいいんだが、挨拶や買い物に行く先々で、みんなが俺の頭を撫でようとするのは何故なんだ?拒否しようとすると、一様に残念そうな顔を見せてくるし。
 
 答えの出ない疑問に頭をひねりながら、道を歩く。この街は治安が良いらしく、よほど裏路地でも歩かない限りは警戒する必要は無い。
 ……一度だけ、ガラの悪い男に絡まれたことがあったんだが、何故か近くに居たおっちゃんおばちゃん達が、総出で追い払ってくれた。包丁やら鉈やらを振り回して男を追い回すと言う光景は、若干怖いものがあったのだが……。
 
 そういった事もあったからだろうか、それ以来街中でトラブルに巻き込まれたことは無い。街の人たちには感謝しておくべきかな。
 
「いらっしゃ~い、おっハル坊じゃねぇか。今日も買い物か?」
「おやっさん、今日も元気そうだな。今日も俺は買い物だよ。何せイセリナ達が、俺一人では街の外に出してくれないし」
「そりゃあたりめぇよ。おめえさんか弱いし、こんだけ可愛いんだから、一人で街の外なんかに出たら直ぐにさらわれちまうだろ」
 
 がっはっは、と豪快に笑うおやっさん。このおやっさんは食料品店の店主で、いつも食料を買うときにお世話になっている人だ。
 見た目どおり力強く、豪胆な性格をしている。街の人たちで俺の口調を気にせず笑ってくれるのは、このおやっさんを含めて数人ほどだ。
 
「俺だって、剣術とか魔法とか覚えれば大丈夫だと思うんだがなぁ……」
「そりゃ~難しいんじゃねぇかな。フォル坊やセルニア嬢ちゃんは反対してんだろ?イセリナ先生も、魔法は教えれないって話だしよ」
 
 おやっさんの言うとおり、初めはフォルやセルニアに剣術を……と思ったのだが、二人に猛反対されてしまったのだ。曰く、『ハルちゃんが剣で戦うなんて信じられない』だそうで。
 ならば、とイセリナに魔法を教えてもらおうとしたら、今度は教えるのは苦手と答えられてしまった。イセリナ本人は魔法を使うことが出来るのだが、使うのと教えるのではやはり大きな差があるのかも知れない。
 かといって、街の外にあると言う魔法学園に通う訳にも行かない。学費がどれだけ掛かるのかも知らないし、入学時期も過ぎてしまっているそうだ。……簡単に転入って訳にもいかないだろうしなぁ。あまり、イセリナの近くからは離れられないって言うのもあるけど。
 
 そんな訳で、俺自身の戦力強化策は出だしからつまづいてしまっていた。
 
 身の安全を確保出来ないまま、街の外に出るわけには行かず。街の外に出るときは必ず、三人のうちの一人と一緒に出ることになっている。
 だが、いつまでもこの状況のままで居るわけにも行かない。いずれ、俺が一人で街の外に出なきゃいけない事態になるかもしれないし、何より三人に負担を掛けっぱなしというのは心苦しい。
 
 
 
 
 
 とはいえ、ここまで焦ることは無いと言う意見もあるだろう。まだこちらに来てから知識も経験も浅く、俺の今の体格を考えればもっと成長してからでも遅くは無い。
 
 だが……正直まともに錬金術師としても動かず、作った道具や薬を売るための自前の雑貨屋もほったらかして、日がな一日のんびりしているイセリナを見ていると……このままじゃまずい、としか思えないのだ。
 というか、雑貨屋を経営していると聞いたときも驚いたが、その雑貨屋を初めてみたときは本気で驚いた。全ての商品が埃まみれの雑貨屋って、一体誰が来るんだよ。
 あわてて掃除しようと思ったのだが、イセリナが言うには、置いてある商品は全て使い物にならなくなっているらしい。
 まぁ、確かに青いはずのポーションが緑色になってたとか、羽帽子らしきものを触ってみたら崩れ落ちたとか、少し調べるだけでも説得力は十分にあった。
 
 ……そんな説得力いらねぇ。
 
 
 
 そんな訳で、錬金術師や雑貨屋として何とか復帰するためにも、俺が一人で動けるようになっておいたほうがいいのだ。
 イセリナは「別にいいんじゃないかしら~」などと言っていたが、そういうわけにも行かない。蓄えというのは、いくらあってもやがてなくなるものだし、何より自分の主がそんなニートっぷりを発揮するのは、精神的にもきつすぎる。
 フォルはフォルで、森に行って取ってくるのは香辛料やココアの原料、後は食べるためのきのこぐらいだし……それも自分達で使う分だけ。フォル、君はイセリナの弟子になって、一体何を習ってるんだ?
 とりあえず、数日間かけて何とか店の掃除のめどは付いてきたのだが……何せ、売るものが無い。街で原料を買うのは高く付くし、まだ錬金術をほとんどやったことが無い俺では、失敗の可能性も低くないのだ。
 
 
 何か、微妙に手詰まり感が出てきた気がする。イセリナに一人で外に出たいと言ったら、何やら考えごとをしていたのだが、イセリナのことだからろくなことじゃないだろうし。
 
 
 
 
「それで、今日は何を買いに来たんだ?俺としちゃあ、遊びに来たってんでもいいんだがよ」
「仮にも商売人なんだから、冷かしを歓迎するなよ。これとそれとそれ、4つずつお願い」
「あいよっハル坊の元気そうな顔も見れたし、ちっとはサービスしとくよ」
 
 おやっさんが提示した金額は、相場より若干安めの値段だった。まけてくれるのはありがたいが、自分から値引きするのは商売人としてどうなんだ?
 
「ありがと、また必要になったら来るよ」
「おう、いつでも来な!遊びにでも構わんからよっ」
 
 一礼をする俺に、笑顔で手を振るおやっさん。多少の違いはあれど、街の人たちの反応は大体こんな感じだった。
 
 
 
 
 
 食料は買ったし、頼まれていた服も買った。後は……雑貨屋で傷薬か。
 
 ……確か、雑貨屋を経営している錬金術師なんだよな?俺の主。
 
 何故自前で用意せず、わざわざライバルの店に買いに行くのか。首を振ってそんな疑問を振り払い、俺は街にあるもう一つの雑貨屋へと向かう。
 
 既に一度行ったことのある店だが、イセリナの店とは違い、こざっぱりしていて人気のあるお店だった。
 店主さんもいい人そうに見えたし……何か、イセリナを妙に目の敵にはしていたが、その使い魔の俺に対しては優しく受け答えしてくれた。ちなみに女性で、セルニアと同年齢ぐらいの人だ。
 
 ひょっとしたら、過去にイセリナとの間に何かあったのかな……いやまぁ、イセリナと暮らしていて、その何かの心当たりは山ほどあるわけだが。
 
 
 
「あっ」
「おっと」
 
 そんなことをぼ~っと考えていたら、道行く人にぶつかってしまった。
 
「す、すまん。ぶつかってしまって」
「いえ、こちらこそすみませんでした」
 
 こちらに非があるので、素直に謝ることにする。あまり、考え事をしながら歩くのは良くないか。
 
「あら?貴女、ここらでは見かけない子ですね。最近この街に来たのですか?」
「え?ああ、ちょっと違うかな。俺は最近召喚されたばかりの使い魔だから」
「あら、そうだったのですか。珍しいですね、人型の使い魔なんて」
 
 そういって優しげに微笑む女性。……う~ん?何か雰囲気がイセリナに似ているような?
 
「それで、ご主人様はどなたですか?ひょっとしたら私が知っている人でしょうか」
「主人の名はイセリナ。一応、錬金術師をやってるらしい」
 
 イセリナという言葉に、目の前の女性が反応する。イセリナってそこまで有名人物だったのか?
 
「ちょっちょっと待ちなさい。貴女、あのイセリナさんの使い魔で……間違いないのですね?」
「俺が知ってるイセリナは、一人しか居ないはずだが……何かあるのか?」
 
 俺の返答に、目の前の女性が口を押さえてぶつぶつとつぶやき始める。……何なんだ?一体。良く分からんが、あまり関わらない方が良いかもしれないな。
 
「すまんが、俺は今から雑貨屋に行かないといけないんだ。じゃあまた」
「あ、ちょっと待ちなさい!」
 
 その場を立ち去ろうとして、足を進めたとたんに肩をつかまれる。拍子にバランスを崩しかけて、何とか立て直す。
 
「な、何だよもう。何かまだ俺に用事でもあるのか?」
「イセリナさんに話があるの、今すぐ私を連れて行ってもらえませんか?」
 
 ……人の話を聞いてなかったのか?こいつは。
 
「今から雑貨屋に行くところだといってるだろうが。その後にしてくれ」
「なっ!?……いえ、そうね。ごめんなさい。イセリナさんは家に居るのですね?」
「俺が出かける前は、家に居たよ。その後出かけたかは知らない」
「そう、分かりました」
 
 そう言って早足でその場から離れていく謎の女性。……そういえば、互いに名乗りもしてなかったな。
 
「……ま、いっか」
 
 特に気にせず、俺は雑貨屋へと向かうことにした。別に急ぐほどではないが、時間を食ってしまったのも事実だ。
 
 
 
 
 
「ふふ、傷薬ね。はい、どうぞ。ミハルちゃん」
「ありがとう。はぁ……イセリナも錬金術師なんだから、傷薬ぐらい自前で用意できれば良いんだけどな……」
「あの人にそれを求めるのは……いえ、ごめんなさい。あんな人でも、ミハルちゃんのご主人様だもんね」
「あ、ああ。まぁそうなんだよな」
 
 あんな人って……やっぱりイセリナは、この店主さんに嫌われているようだな。
 
「ああ、ミハルちゃんがうちの子だったら、こんな苦労なんてさせないのに……。ねぇ、今からでもいいからうちに来ない?ミハルちゃんなら歓迎するよ?」
「使い魔なんだから、さすがに無理だろ。それに、俺があの家から居なくなると、フォルも悲しむだろうしさ」
 
 それはうぬぼれ……では無いと思いたい。ただ、フォルの場合は、同居人がどんな相手でも居なくなったら悲しみそうではあるのだが。
 
「そっか、あの(アマ)はともかく、フォルカちゃんからミハルちゃんを引き離しちゃ、かわいそうよね」
「そういうこと。気持ちだけは、ありがたく受け取っておくさ」
 
 そういって軽く笑う俺に、店主さんは「残念」といってペロッと舌を出した。……っていうか店主さん、今、悪意を持ってアマって言ってませんでした?
 
「代金はこのお値段で良いわよ。アレならともかく、ミハルちゃんなんだしね」
「ありがとう。何か、悪いな」
 
 そう言って提示された代金を支払う。やっぱり、相場より若干安かった。
 
「良いのよ別に。もし良かったら、買うものが無くても来てくれればいいの、ミハルちゃんなら歓迎するわ」
「おやっさんといい……商売人が冷かしを喜んだらいかんだろ」
「あら、それじゃあ、ミハルちゃんがもっと女の子らしい口調に変えてくれる、というのでも良いわよ?」
「……それはちょっと勘弁してくれ。まぁ、気が向いたら来るよ」
 
 店主さんの言葉に苦笑をもらしながら、俺は雑貨店を出る。見上げれば、青かった空はすっかり茜色に染まっていた。
 この分なら少し急げば、暗くなるまでには帰れるか。そう判断した俺は、茜色に色づく街の景色を眺めながら、少し急ぎ目に帰ることにした。
 
 
 
 
 
 買い物を終え、家にたどり着いた俺を、イセリナと先ほど出会った女性が待っていた。
 
 そして、そこで話される出来事が、俺のこれからの運命を大きく変えていくことになる。
 
 
 
前話を第一章の終わりとすると、この話は第一章と第二章のつなぎとなります。

ミハルの街での日常。
基本的に、街の人たちはミハルに対して好意的です。



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