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第11話 隣人達の実力
 
 俺は、恐怖で悲鳴を上げることすら出来なかった。
 ただただ眼を閉じ、身を竦めて、これから襲い掛かるだろう痛みや衝撃を待つ。
 
 フォルやセルニア、イセリナの顔が次々と浮かぶ。三人は無事だろうか?ひょっとしたら、居なくなってしまった俺のことを心配しているかもしれない。
 両親や妹、幼馴染の顔が浮かぶ。妹はともかくとして、何も幼馴染の顔がこんなときに思い浮かばなくても……。
 
 まだ、この世界に来てからそんなに時間はたってない。日付にして約一週間ちょっと。たったそれだけで、俺は死ぬのか。
 元の世界でもまだやりたいことは……あ、いや、ぶっちゃけ俺のやりたいことって、大抵幼馴染に邪魔されそうな気はするけど、まだまだ生きていたかったという気持ちはある。
 
 
 
 こんなところで、俺は死ぬのか……。
 
 絶望と若干の後悔が俺の心を渦巻く。あの時、もう少し三人のそばに居れば、三人からはぐれることも無かったのかもしれない。
 
 
 
 ……………………。
 
 
 
「あ、あれ……?」
 
 どれだけ待っても何も起きない、不審に思って、勇気を出してかすかに目を開ける。
 実は1秒がすごく長い時間に感じられるだけであって、目の前に魔獣の口があったりしたら嫌だな……とか思っていたのだが。
 
 
 
 目の前の白い虎は、俺の少し前であくびをしていた。
 
 
 
「え?は?何で!?」
 
 呆然とする俺を尻目に、白い虎があくびを終える。そのまま襲ってくるのかと思いきや、その白い虎はその場に伏せ、ついには寝転び出してしまった。
 
「え~っと……」
 
 思わぬ平和な光景に思考が停止する。って言うか、凶暴なんだよね?出会った人を無慈悲に食い荒らすんだよね?何で、この白い虎さんは俺の目の前で寝っころがってんの?
 訳が分からないが、とりあえず俺に害意は無いってことで、良いのか?いや、害意を持ってたら、目の前で無防備な姿をさらしたりはしない……と思うけど。
 
 ひとまず、その場を離れようと手足に力を入れる。が、恐怖で完全に腰が抜けてしまっており、立ち上がることも出来ない。
 
「ぬ……くぅ……だ、だめかぁ」
 
 しょうがないので、力が入るようになるまでここで休憩することにした。気が変わって、襲ってきたりしないよな……とか思ったが、目の前の白い虎は特にそんな様子は見せなかった。
 
 
 
 
 
「よっ……いしょっ……」
 
 しばらく休憩した後、俺は何とか木を支えにして立ち上がった。まだ少しふらつくが、歩けないことは無い。
 
 それを待っていたといわんばかりに、白い虎も体を起こす。今更襲うのか!?とか一瞬考えたが、どうやら違うらしい。
 白い虎が、俺から背を向けて歩き出す。しばらく眺めていると、歩みを止めてこちらに振り返った。
 
「ええっと……付いて来いって、ことか?」
 
 敵意が無いことは分かっていても、怖いものは怖い。正直、白い虎のそばを歩くのには抵抗がある。あるのだが……。
 だからといって、適当に歩き回って森を出れるとも思えない。たまたまこの白い虎は敵意は無かったが、他の魔獣に襲われない保障など、どこにも無いのだ。
 
 仕方ないので、白い虎について歩き出す。それを見て満足したのか、白い虎も再度歩き始める。
 仮にもこの森を住処としてるんだから、もっと早く歩けるはずなのだが……俺に歩調を合わせるかのように、その速度は遅い。
 
 俺って、動物とか魔獣とかに好かれるような体質……なのか?あ、ひょっとして人型でも使い魔だから、襲われずに済んでる……とか?
 
 いくつか理由を考えるも、結局なぜこうなってるのかは分からない。無駄な思考に陥った頭を振って、とりあえずその白い虎に付いていくことにした。
 
 
 
 しばらく進んでいくと、急に前の白い虎が歩みを止めた。何かあるのか?と俺も足を止める。
 すると白い虎はこちらを振り返り、首を振る。……動作を見るに、先に進めと言ってるように見える。
 待っていても動く様子は無いので、白い虎の前に進み出る。あたりにはまだ霧が残っており、ちゃんと前を進めている自信は無いのだが……。
 軽く振り返ると、白い虎が俺に視線を合わせたままじっとしているのが見えた。……まぁ、今更襲ってくるとは思ってないけど。
 
 
 少し不安に思いながらも、霧に包まれた森の中を進む。すると、何か怒声のようなものが聞こえてきた。
 それとともに漂ってくる、血の匂い。嫌な予感を感じて、その方向へと駆け出す。
 
「フォルちゃん!?セルニア!?イセリナ!?」
 
 ようやく姿が見えてきて、俺は三人の名を叫ぶ。良く見ると、三人共大勢の狼に囲まれている。
 俺の声に気づいたのか、狼に囲まれた三人が、いっせいにこちらを向く。
 
「は、ハルちゃん!?だめ、今はこっちに来ちゃダメだよっ!!」
「だめよハルちゃん!今すぐそこから逃げてっ!!」
 
 フォルとセルニアがそう叫ぶのと同時に、狼達が一斉にこちらを向く。忘れていた恐怖心が、一気によみがえった。
 
「ひっ!!?」
 
 たとえ狼でも、この数に一気に襲われればひとたまりも無い。俺は再度恐怖に目を閉じ、死ぬことを覚悟した。
 
 
 
「あ、あれ?」
 
 だが、そんな俺の覚悟が、セルニアの間の抜けた声に砕かれる。ゆっくりと目を開けると、そこには散り散りになって、その場を離れていく狼達の姿。
 
「た、助かった……のか?」
 
 腰が抜けてその場にへたり込む。今日はこれで二度目か……と、自分の情けなさが恥ずかしくなる。
 
「ハルちゃん!大丈夫!?怪我は無い?!」
 
 あわててフォルが駆け寄ってくる。フォルのほうが、狼に囲まれたりしてて怪我をしたのではと思ったが、特にそんな様子は無い。
 
「大丈夫、怪我とかはしてないから……ちょっと、腰は抜けたけど」
「そっか、よかったぁ……ハルちゃんが怪我とかしてたら、どうしようかと思ったよ~」
 
 そういって、ぎゅっと抱きしめてくるフォル。心配してくれて嬉しいやら心配させてしまって申し訳ないやら、複雑な気持ちになってしまう。
 
「本当よ、ハルちゃんってば、一人で居なくなっちゃうもんだから……本当に心配だったんだよ?」
「ハルちゃんが居なくなって直ぐに~、狼さんたちが~たくさん出てきてしまって~、囲まれてしまったのですわ~」
 
 ……は?
 
「俺がいなくなって直ぐに、狼に囲まれたのか……?」
「そうそう、おね~さんはもう焦ったよ~。直ぐにハルちゃん探さなきゃいけないのに、どんどん狼が集まって来るしさぁ」
 
 周りを見渡すと、結構な数の狼の死骸が転がっていた。……なんていうか、三人共実は結構強いんだな。
 
「でも、ハルちゃんが無事でよかったわ~」
「うんうん、ハルちゃんが怪我なんてしたら、大変だもん」
「いや、俺からすれば、あれだけの狼に囲まれても三人共怪我をしてなかったことに、安心したいんだが?」
 
 周りを見る限り、結構激しい戦闘だったみたいだし。
 
「もう、ハルちゃんってば~。私が狼相手に、怪我なんてするわけ無いでしょ?」
「……は?」
「そうそう、フォルにあたしにイセリナさんまで居て、狼相手に怪我とか。さすがに恥ずかしいよ?」
「……へ?」
「お姉ちゃんってば~。あれくらいなら、私一人でも怪我なしで倒せるよ~?」
「…………」
 
 訂正、俺の周りには、中々の化け物がそろっているようだ。たとえ狼であっても囲まれて無傷って、どれだけ力の差があるんだよ。
 
「二人とも張りきっちゃって、お姉さんが出る幕がなかったわ~」
「いや、イセリナさんがやる気だすと森に被害が出るし。そうなると、一緒に居たあたしが怒られるんよ」
「あらあら~?私も、ちゃんと手加減くらいはするわよ~?」
「イセリナさんは以前、手加減で平原の一角にクレーターつくったっしょ。だめだめ」
「あら~」
 
 ……イセリナに至っては、どうやら相当の化け物らしい。ってか手加減でクレーターを作るってどんなんだよ。
 
「ハルちゃん、今日は疲れたでしょ。あまり採取できてないけど、今日は帰ろ?」
「……そうだな」
 
 色々なことがあったし、二度も恐怖で腰を抜かしてしまって、正直疲れた。
 なんていうか、俺の情けなさが際立ってる気がする。い、良いんだよっイセリナが強いって分かったんだし、俺は非戦闘要員でもいいのっ。
 
 
 
 
 とか、言ってられないよなぁ……仮にも使い魔なんだから。とりあえず家に戻ったら、剣術か魔法を教えてもらうようにお願いしてみるか。
 
 そんなことを考えながら、イセリナとセルニアに目を向けると……腰が抜けてしまった俺をどちらが背負うかで、本気でじゃんけんをしていた。まぁ、今回は仕方ないか。
 
 
 
 
 ちなみに勝ったのはイセリナだった。
 
「うふふふ、ハルちゃんの温もりが心地良いわ~」
「くぅ~、くやしいっ次は絶対勝つんだからっ!」
 
 
 
 
 
ズコーは控えめにお願いします。

と言うわけで、イセリナ達の救出劇や覚醒したチート主人公による戦闘シーンを期待した方、申し訳ありません。
この小説の大体の方向性は、この1話で解るかと思われます。つまり、今後も戦闘シーンはあまり期待できません。

ほのぼのやコメディ中心でシリアスは控えめ、今後も変態ちっくな人たちが主人公を中心にして騒ぎ立てる。
そんな作品ですが、それでもよろしければ、これからも読んでいっていただけると幸いです。


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