第9話 深まる絆と少女の笑顔
「え、え~っと……ハルちゃん、いい加減機嫌直して欲しいな~、何て思ったり」
「…………」
顔を覗き込もうとするセルニアを、涙目のまま一睨みして顔をそむける。
「あ、あらら~、本気で怒らせちゃったかしら~?」
若干動揺した様子のイセリナ。当たり前だ。あんなことして、怒らないほうがおかしい。
「ハルちゃん、何でそんなに怒ってるの?あの時のハルちゃん、とっても可愛かったのに……」
フォル。君は、そういうことを知るには、まだちょっと早いんじゃないかな?とりあえず教えたイセリナ、いっぺん地獄で反省して来い。
あれから一日、未だに俺は三人を許す気にはなれなかった。と言うか、下手に許したりすると絶対常態化する(特にフォル)ので、簡単に許すわけには行かないのだ。
本当に酷い目にあった。最終的には気絶してしまい、朝起きたときには体中が筋肉痛になってしまっていたのだから、どれだけ……その、激し、その……な、なんでもないっ。
と、とにかく!起きて直ぐに昨日の事を思い出し、赤面している最中に突然抱きついてきたイセリナを全力で振りほどき、集まってきた三人を威嚇して、この状況となったのである。
「ほ、本当~にごめんっ!!いくらハルちゃんが可愛いからって、手を出したりしちゃ駄目だよね!ダメだったよね!」
「…………」
謝るセルニアを、涙目のまま全力で睨み付ける。最初の出来事に加えて今回のことなので、謝られた程度で警戒を解くつもりなんてさらさら無い。
大体、今の俺の体は、まだ10歳ぐらいの女の子のはずなのだ。それを無理やり……その……ああもうっ!
「ふかーーーっ!!」
突然威嚇しだした俺に、三人が目を丸くする。怒りとか恥ずかしさとか悔しさとか、その他もろもろの感情があふれて暴走してるのが分かる。
……暴走してるって、分かってても制御なんてしない。出来ない。三人とも、暫く反省してればいいんだ!もうっ!知らないっ!!
そんな感じで暫く威嚇したりしていると、ようやくフォルも、俺が昨日のことで怒っているのだと気づいたようだ。俺に対して悲しげな表情を浮かべて何度も謝り、イセリナに非難の目を向け始めるようになってきた。
「あ、あらあら?フォルちゃんまでそんな目をしなくても~。だって、その、あの時のハルちゃん、本当に可愛かったじゃないの~」
「お師匠様っ!ハルちゃんは今、本気で傷ついてるんだよ!?本気で怒ってるんだよ!?本当に可愛くても、我慢できないくらい可愛くても、ハルちゃんを傷つけたりしちゃ駄目なの!!」
……うん、フォル。そのイセリナを説教してくれるのはとても嬉しい。でもその可愛いというのを強調するのは、あまり嬉しくない……かなぁ……。
「あ、あらあら~。その、セリーちゃんなら、分かってくれるわよね~?セリーちゃんは、あの時物凄い乗り気だったのですから~」
「え?ぅぇぇえ!?いや、そのっすごく可愛かったし、幸せな時間でしたけど……ここまで怒られるのなら、しないほうがいいカナって」
セルニアも、イセリナの意見を否定するのはいいんだが、その言葉は聞き捨てならん。やっぱこいつに対しての警戒は、解くべきじゃないな。
孤立無援となって対応に窮したイセリナが、こっちを向いて愛想笑いをする。とりあえず、上目遣いで睨み返すことにする。
「はぅっ……こ、これは~……理性が、我慢が出来ないわ~」
「お師匠様、ダメっ!!今、これ以上ハルちゃんを傷つけたりしたら、たとえお師匠様でも本当に怒るから!!」
「だ、ダメですイセリナさんっ!!今手を出したりしちゃったら、ハルちゃんに本当に愛想を付かされちゃいますよ!?」
俺に近づこうとしたイセリナを、フォルとセルニアが押し留める。……イセリナ、お前絶対に反省して無いよな?
「ふ、ふふ、無駄よ。ハルちゃんの前ではたとえ二人掛かりでも、私を止めることは出来ないの。さぁ、ハルちゃん。私の手で再度鳴き声を!!」
押し留めようとする二人を引きずって、イセリナがこちらに駆け出す。……ふ、ふふ、はははっははははっ
「いい加減にしろっ!!この変態女ぁっ!!!」
二人を引きずったまま駆け寄ってきた変態女の顎に、俺の全身の力を込めたアッパーが炸裂する。両腕を封じられ、理性を失っていた変態女はその衝撃をモロに食らい……
引きずっていたフォルとセルニアを巻き込みつつ、その場に倒れこんで気絶した。
朝食……は、結局ごたごたで食べ損なってしまったので、昼食。
俺のアッパーによる気絶から目が覚めたイセリナは、ようやく頭が冷えて来たのか平謝りで謝ってきた。
……正直怒りは収まってないのだが、とりあえず許すことにした。いつまでも怒っていてもしょうがないし、何より養ってもらってる身だからというのもある。
「いやぁ、何か悪いですね~。私まで食べさせてもらっちゃって」
「あらあら~、いいのよ~?セリーちゃんは、フォルちゃんのお姉さんなんですから~」
何故か、セルニアも一緒に昼食を食べることになった。なんでも、セルニアは普段は外で食べているらしい。
「あ~、イセリナさんのお料理おいしいわぁ。毎日食べれるフォルやハルちゃん、羨まし~」
「ん?料理なら、確かフォルも手伝ってるんじゃなかったか?」
「ぅぇえ!?……そ、そうなの?そうなの??」
「うん。お師匠様に、教えてもらったの~」
ニコニコと笑顔で答えるフォル。それを見て、セルニアの顔色が徐々に悪くなっていく。
「……ああ、セルニアも料理が苦手なのか」
「うっ!?……そ、そうですよ、苦手ですよ~。おね~さんが作る料理は不味いって、近所では評判なんですよ~」
……まだ食べれるだけマシだろ。俺が作ろうとしたら、紛れも無い炭が出来たんだぞ。
「おね~ちゃんもハルちゃんも、ちゃんとお料理の勉強すれば、きっと直ぐに作れるようになるよ~?」
「ふふふ、おね~さんは……ってあれ?ハルちゃんも、料理は苦手なん?」
「ああ、以前二人にねだられて作ったら、炭が出来た」
俺の言葉にセルニアがぱぁぁ、と明るい表情を浮かべる。ちょっとマテ、何だその嬉しそうな顔は。
「おお、意外だけど意外でもないような、とにかく心の友よ、こんなところに居たのかぁ~」
「くっつこうとするな。蹴り飛ばすぞ」
両手を広げて迫ろうとしたセルニアを、威嚇する。拒絶されたセルニアが、暗い表情を見せた。
「はぅぅ……まだまだ、おね~さんが信頼を取り戻すのは、難しそうですよ?」
「あ、あらあら~。本気で嫌われちゃったかしら~?」
セルニアがイセリナに助けを請い、助けを請われたイセリナが冷や汗をたらす。
「……別に、嫌ってはいねぇよ。……抱きついたり、触って欲しくないだけで」
「うっ」
「あら~」
俺の言葉に、さらに冷や汗を流す二人。まぁ、しばらく反省するまでは、絶対に触れさせるつもりは無い。
「……ハルちゃん。ハルちゃんに触っちゃ、ダメなの?」
俺達のやり取りを見て不安になったのか、悲しげな表情でそう尋ねてくるフォル。……むぅ、さすがにフォルは……そうだな、単に知らなかっただけだしな。
「フォルちゃんはいいよ。でも、昨日のような変なことは、絶対にしたらダメだからな?」
「うん!ありがとう!!ハルちゃん!!」
食事中にもかかわらず、抱きついてくるフォル。俺はしょうがないなと頭を掻き、フォルの頭を撫でることにした。
「えへへ、ありがとう~ハルちゃん♪」
「べ、別に礼を言われることなんて、して……ねぇよ」
そういって、赤くなってしまったであろう頬を隠すために顔をそらす。
その、これは何となく、撫でたくなってしまったから撫でたって言うだけだし。……撫でたくなったのは、俺の意思なんだから。
「ぅぅ……うらやましいなぁフォル。おね~さんも頭を撫でて欲しいよ」
「あらあら~、ハルちゃんの頭を撫でるのもいいけど、ハルちゃんに頭を撫でられるのも、気持ちよさそうでいいわね~」
外野の二人が何か言っていたが、無視する。
「そういえば、明後日にはハルちゃん、お外に出てもいいんだよね?」
「ん?ああ、そうだな」
もうそろそろ大丈夫な気もしていたのだが、あまり無理をして、また倒れたりする訳には行かない。
……昨日も、誰かさんのお陰で気絶したわけだしな。今日明日は、ゆっくりと休んで十分体力を回復しておきたい。その間に、筋肉痛も治るだろうし。
「じゃあ、明後日はみんなで森に採取に行こうよ~。お師匠様もずっと家に居るし、おね~ちゃんも暇なんだし」
「あら~、それは素敵ね~」
「ぐっ!?フォ、フォル?お、お姉ちゃんは別に、暇だと言うわけじゃあなくてね?」
「え?お姉ちゃん、一緒に来れないの?ダメなの?」
「ぐぅっ!!??い、行きます行きます行かせてください!!望むところです、依頼なんてやってられるかっ!!」
「いや、依頼は受けてるんならちゃんとやれよ」
とりあえず、冷静に突っ込んでみる。確か冒険者は、一度受けた依頼を破棄するとギルドからのペナルティが加わるはずである。
「だいじょ~ぶだいじょ~ぶ。まだ今回の依頼は、依頼人との契約まで行ってないしさ。破棄してもまだ違約金も出ないレベルよん」
いや、それでもランクに関わるギルドポイントに対して、ペナルティが発生するはずなんだが……?
……ああ、そういうことか。こういうことを繰り返してるから、未だにランクがEなわけね。
「あのぅ、ハルちゃん。何かおね~さんを呆れるような目で見てきてないカナ?見てきてないカナ?」
「ん?別に、ある一つの疑問が解決しただけだから、気にするな」
「ぬぅ……おね~さんが関わってそうな気がするんだけど……何か、聞かないほうがいい気がするから聞かないでおくよ」
大正解。聞いたら確実に、セルニアは落ち込むだろうしな。
思わず口元に浮かびそうになった笑みを、手で隠す。フォルがセルニアと俺を交互に見て首をかしげた。いかんいかん、あまりセルニアをいじめててもしょうがない。
「そうね~、それじゃあ明後日、みんなでお弁当を持っていこうかしら~」
「賛成~。私、ハルちゃんの分も頑張って作るね♪」
「ぬぬ……お弁当かぁ、あたしだけ携帯食料はちょっと嫌だし、どこかで作ってもらうかな」
三人が明後日の相談を始める、ふと、まだ俺が答えていないことに気づいたのか、フォルが不安そうな顔をこちらに向けた。
「ハルちゃん、ハルちゃんも一緒に来てくれるよね?」
「……フォルちゃんの頼みなら、断らないよ」
別に断る理由ももう無いし、今までの分フォルに付き合うのも悪くない。
「えっへへ~、ありがとう、ハルちゃん♪」
余程嬉しかったのか、会心の笑みを浮かべるフォル。それを真正面から見てしまい、俺は思わず赤面して顔を伏せてしまった。
「はれ?どうしたの?ハルちゃん。何か顔、赤くなってるよ~?」
「な、なんでもない、なんでもないよ。ちゃんと行くから、よろしくな」
少し心配そうなフォルに、何とか顔を見せて笑いかける。フォルもそれに安心して、また満面の笑みを返してくれた。
「はぁ……か、かわいいわぁ~。ほんとハルちゃんってば可愛いわぁ~」
「……顔を赤く染めて、うつむき加減に笑うハルちゃん……た、たまらん、可愛すぎなのですよぉ」
……とりあえず、大人二人は少しは自重しろ。頼むから。
大人組み二人がちっとも自重しません。
怒って笑って……頭を撫でて、子供組みは仲良くなっていってます。
次回は、少しは話が進むと思います。
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