雨宿り
夏。急な強い夕立――今風に言えば“ゲリラ豪雨”に襲われて、営業回りで外に出ていた俺は雨宿りを余儀無くされた。
ちょうど近くにはシャッターの降ろされた――恐らくもう長く店として使われていないのであろう建物があり、その軒先のスペースで雨宿りが出来そうだった。俺はカバンを傘がわりに掲げ、そこまで走った。軒先に入って辺りを見ると、既に地面に乾いている部分は無かった。見上げると、黒い雲が空を覆っている。俺はカバンからハンカチを出すと、スーツとカバンを拭いた。腕時計を見ると、午後六時。
「はぁー……」
ため息は、雨音に掻き消される。大粒の雨粒が狂ったように地面を叩き、弾けている。少しすれば止むだろうと、そこに留まる決心をした。
――パァーーンッ!
眩い光とともに、破裂音に似た音が鳴り響いた。雷は、すぐ近くに落ちたようだった。
俺は辺りが一瞬眩しくなった時、妙なものを目にした。
――バァーーンッ!
またもや、雷が落ちる。
(!)
やはり、見間違いでは無かった。
雷による稲光が辺りを照らした瞬間、俺の両隣に“なにか”が立っているのが見えた。半透明の、“なにか”が。
雷は、立て続けに落ちた。その度に、隣に立っているものが一瞬、見えた。それだけでなく、先ほどの俺と同じく雨宿りをしに来るように、辺りから“なにか”が駆けてきて、軒先に入ってくる。
俺は、動けなかった。今や両隣にいる二人だけではない。その隣の、また隣にも。後ろにも、前にも……。満員電車の車内のように、軒先のスペースは見えない“なにか”ですし詰めだった。
――俺はたまらなくなって、そこを駆け出た。
無数の雨粒が、俺の身体を叩く。
「……オメェら濡れないだろぉがよぉーー‼︎」
俺の叫びは、雷の轟音に掻き消された。