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第7話:最後の願い





目を開いた。




部屋はいつのまにか真っ暗だった。




どうやら…眠ってしまったらしい。




ララは…どうなったんだろう。




泣きやんだんだっけ??






覚えてない…。




上半身を起こし、暗闇に目を凝す。




何かおかしい…。






いつもと違う気がする…。






段々視界が広がっていく…。




ララがいない…。






僕は確かめようと急いで電気をつけた。






ララは…どこにもいなかった。




テーブルの上に一枚の手紙が行儀よく置いてあった。






僕はその手紙を手にとる。




『私はあなたのお望み通り、ここを出て行きます。あなたもあんな話を聞いたら私と一緒にいたくないでしょ?だから内緒にしてた。あなたとできるだけ一緒にいたかったから…。いきなりでごめんなさい。あなたに力を使って寝かせたの。涼と居た時間は一、二日くらいで短かったけど…楽しかったよ。さようなら。』




その手紙には涙が滲んでいた。




僕の涙ではない…



ララの綺麗な涙。






僕は家を飛び出した。




ララの手紙を無意識に握ったまま…。




ララの行く場所に心当たりはなかった。




とりあえず、僕の知る限りの場所を探した。




だが…どこにもララはいなかった。




だいたい…こちらの世界にまだ居るかどうかも怪しいのだ。




そう考えた後、僕はまだ探していない場所を思い付いた。




ララがいる証拠はなかったが…なぜか…絶対にそこにララがいると思った。






僕は明るくなりかけた空の下で学校の門を飛び越える。




ドアの鍵はあいていた。




薄暗く不気味な階段を駈け登る。




そして最上階まできて、荒れた呼吸を整える。




そしてゆっくりと屋上へのドアのノブを回した。




案の定、鍵はかかっていなかった。




ドアを開く…そこにララがいた。




あの制服を着ていた。




ララが気配に気付いて僕の方を振り向く。






ララは…泣いていた。








「どう…し…て??」




ララが信じられないという顔で言った。






「君なら…望月彩子ならココに来ると思って。」




そう…彼女なら…ココにきただろう。




「君は…この学校の生徒だったんだろう??」




よく見ると望月彩子の制服の胸あたりには…この学校の校章がつけられていた。






「入学式くらいしか来なかったから…生徒とはいいづらいけど…。」






「制服が変わってしまった事を知らず、君はこの学校にその制服で来ていたんだろう?」








望月彩子は何も言わずに首を縦に振った。




そしてまた僕に背を向ける。




「もう…お別れね…。涼が私を見つけたご褒美に、最後の願いを聞いてあげる。」






望月彩子は仕事上の

「ララ」

になって僕に言った。




できるだけ明るい声で言っているのがわかった。







「ずっと…ここに居て欲しい…。」




僕は少女を後ろから抱き締めた。




「それは…できない…。それは私の望む事だもの。涼の両親を…合わせてあげる事はできる…。」






震えていた…。

ララの肩は震えていた。






「………。」






僕は黙った。




確かに…よく顔も覚えていない両親には会いたかった。




でも…ララ…望月彩子にも…ずっと側に居て欲しかった。






「ゴメン…時間ないから…。呼んであげる。」






僕はそれに口出しをしなかった。




結局どちらでも良かったのだ。






すると少し強い風が吹いた。




懐かしい…心地のいい風…。






「涼…。」




後ろから優しい女性の声がした。




ララから離れ、僕は振り返る。




どこか懐かしい…男女がそこに居た。




男は照れくさそうに頭を掻き、女な女神のような微笑みをこちらに向ていた。






「母さん…父さん…。」






「でかくなったな。」




男がやっと一言そう言った。




僕は走り出した。






両親のもとへ。






母さんは腕を広げて歓迎した。




父さんは、僕の後ろにいた少女を見ていた。




「母さん…。」




母さんの胸に顔を埋めて泣いた。




「あらあら、もう高校生でしょ。男の子なんだか…泣かないの。」




小さな子をあやすような口調だった。




母さんは僕が1歳の時に交通事故で死んだ。




甘えられる時間があまりに短かったのだ。




父さんは…その2年後、自殺をした。


しかし自殺といっても外傷はなく、薬を飲んだわけでもなく、謎の死に方だった。眠っているみたいで僕は父さんが死んでいるとは…信じていなかった。







父さんを横目で見ると、僕の視界にはいなかった。






ララの大きな泣き声が後ろから聞こえた。






そして何度も

「ごめんなさい」

と謝罪の言葉をくりかえしていた。






わかってた。








ララの話を聞いてから、僕は父さんの謎の死を自殺だと判断した。






父さんは医者だった。




腕のいい医者だった事はよく覚えている。






そんな父さんが自慢だったから。




誇らしかったから、僕は友達にも、近所の人にも自慢した。










そんな父さんは…ある日を境に、様子がおかしくなった。




明るくて面白かった父さんだったから…その日の事はよく覚えている。




父さんは仕事から帰ってくるといきなりテーブルに伏せた。




いつものだっこがなかったので、僕は父さんのもとへよった。










父さんは泣いていた。






僕は3歳ながら父の泣く所を見てどうようした。




それから父さんはあまり多くを語らなくなった。




その半年後、父さんは死んだ。






「ごめんなさい…っ私……私…」






ララはまだ泣きながら父さんに謝っていた。







「もういいんだ。私が望んだんだよ…。苦しい事をさせてすまなかったね。私は…君に感謝しているよ。そもそも僕が謝るところだ。」




僕は母さんに抱き付いたまま目を閉じる。







「違う…私は……あなたを恨んで…ほとんど…私が望んで…許せなくて…。」









「ララ…殺してくれてありがとう。」




父さんはそう言った。






僕はまた15年前を思い出す。






「パパ?」




僕は泣いている父さんを心配して話かけた。






「お腹いたいの??お薬欲しい?」






そう僕が言うと父さんは顔をあげて微笑んだ。







「パパ…人を助けられなかったんだよ。パパはちっとも凄くはないんだよ、涼。」




「パパはシェカイ1かっこいいんらもん!!」






舌足らずな口調で僕は言った。






「涼の中では…ずっとそうでいさせてくれ。」






呟くように父さんは言っていた。





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