第1話:屋上
失恋だ…。
最悪だ…。
僕の初めての恋…。
愛しいあの人を取ったのは誰?
誰だ……。
もう…どうでもいい…。
人生なんかくだらない。
恋愛感情など…くだらない…。
死のう…。
今死ねば…極楽だ…
幸福だ…。
「何やってるの??」
透き通る美しい少女の声。
振り向く。
やはり少女。
真っ白な肌に見慣れない制服。
「死ぬ…楽になる…。」
僕は既に生気を失っていた。
生きる希望を……。
「死ぬってそこから飛び降りるって事??」
少女が屋上の下を指す。
「当たり前だ…。」
それ以外何があるんだ…。
「ふぅん。変な事するんだね??痛いでしょ?」
なんでこの少女は…こうも冷静なんだ……。
「この高さなら…即死だから…一瞬じゃないか…。」
「違う。そんな痛みじゃないよ。ココ。」
そう言って少女は自分の胸を叩く。
「心の痛み。」
違う…
苦しいから死ぬんだ。
今の僕なら死ぬのが苦しいワケない。
「違う…。死ねば…楽になるんだよ。」
「えっそうなの!?じゃ私も死ぬ!!」
そう言って少女は…柵を乗り越え、僕の隣りに来て微笑む。
「何冗談言って…」
そう言った時少女は既に空中に一歩踏み出した。
「…何するの??」
少女は僕に掴まれた自分の腕を見ながら言った。
僕は無意識に彼女を助けていた。
「いや…なんか…。」
「怖いんでしょ??死を間近にするのが怖いんでしょ??」
少女は僕の目を見て言った。
「私だって怖いもん。だからあなたは死んじゃ駄目!!」
少女にはさっきまで存在しなかった必死さがあった。
「はい…。」
僕はそれに素直に応じた。
多分…心の奥でその言葉を一番待ってたんだと思う…。
「じゃバイバイ。」
そう言って柵を乗り越えて帰ろうとした。
「待って!!」
僕は気付くと少女をとめていた。
「何?」
少女が首を傾げる。
「名前は…?」
「望月彩子!!君は高沢涼でしょ?」
…は?なんで…名前知ってるんだよ…。
「なぁ…なんで名前……。」
少女はいなかった。
「あれ?」
不審に思い、屋上の隅々をさがした。
でも少女はいない。
僕は気にかかる少女を頭の隅に置き、今日帰るはずのなかった家に帰った。
そう…望月彩子と言う名の少女がいなければ帰る事のできなかった家に…。




