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墓穴を掘ったヒロイン ―― 恋愛ゲームだと思いました? 残念。これは現実です

恋愛の悪役令嬢モノを見ていたら、急に書きたくなりました。
中編の積りで書いてたらクライマックスだけ書きたくなってこうなりました。

※誤字のご指摘を受けて更正しました。
 後、後半に加筆しました。
 貴族ってドロドロしてナンボだよね!!(偏見
+
 煌びやかなシャンデリア。
 豪華な内装のホール。
 美味しそうな料理。
 着飾った男女。
 談笑の泡が生まれ、そして消える。
 今宵は舞踏会(プロム)。年に一度のお祭り騒ぎ ―― トールデェ王立学院最大のイベントだ。
 参加者は学院生とOBOGであれば誰でに参加する資格がある。
 但し、必ず男女ペアである必要があるが。
 そして、資格者に相方(パートナー)として誘われれば、学院部外者すら参加可能と言うフリーダムな催しだ。

 年の瀬やってる辺り、年忘れ忘年会みたいなものだと思えば分りやすい。
 飲んで騒いで年の憂さを忘れようって事だ。
 とはいえ貴族階級が生徒の中心なのが我がトールデェ王立学院なので、ある程度の節制(・・)は必要だけれども。


 そんな中に居る俺は、名前はウィルビア・ゼキム。
 ゼキム伯爵家の次男で、特徴は転生者って奴だ。
 転生者。
 嘘じゃないよ。
 子供の頃に事故って、その際に前世を思い出した訳だ。
 いや、びっくりしたね。
 科学万能な平成から、剣と魔法のファンタジーな世界なんだから。
 凄いね、魔法。
 死んでも割と高い確率で生き返れるんだよ? 信じられないってものだ。
 後は、モンスター。
 <黒>って言われている連中、敵はゴブリンだのオークだのがゴロゴロしている人外魔境。

 ま、それはとも角。
 貴族階級でも上から数えた方が早い勝ち組な家(今のトールデェ王国には侯爵位を帯びた家が無いので上から二番目なのだ! しかも公爵家は3つしかない。しかも1つは王太子の称号用なので実質2家だけ。後は三頂五大(ビック・エイト)の8家を除けば貴族で上位なのは伯爵家なのだ!!)に生まれて俺、良いね。
 とはいえ、転生して平成知識でチートだオラァ! とならないのが、この社会の悲しい所。
 農業とか魔法技術のアシストで、平成の時代と同じようなレベルになってるので、チートも糞も無いってな塩梅。
 商売とか技術とかも、専門家が彼是としているので、素人が半可通な知識でアイデアを出しても、既にそれは通った場所ってのが多々あったって訳だ。
 世の中、世知辛い。
 だからこそ(・・・・・)、俺は頑張っている。
 剣と魔法、それに教養と。
 勉強する楽しさってのを十分に味わっている。

 だから今日は、そんな俺へのご褒美デーという奴だ。
 美酒美食に舌鼓を打ち、着飾った美女を見て目の保養をし、悪友たちと馬鹿話をする。
 そんな素敵なプロムだ。

 後で、パートナー殿と踊っても良いかもしれない。
 残念ながら婚約者(コブ)持ちだけど、こんな機会であれば不義だの密通だのとそしられる事はあるまいさね。
 ああ、楽しみだ。
 彼女さんは美人だからね。



 そんな浮ついた俺の気分を叩き壊す様な怒鳴り声が響いた。


『もう我慢できん!』


 どうやら節制の出来ないお子様が居たらしい。
 プロムが学院主催とはいえ運営と管理は学生、生徒会が行っている。
 今年の生徒会は実に評判が悪いと言うか、諸々の行為によって評価が駄々下がり気味なので、そこで騒動が発生した日には自惚れ屋の生徒会会長さんは怒髪天を衝くだろう。
 ご苦労な事だ。

 どうでも良いけど。
 何だかんだと叫んでいるが、自分の評価に繋がるのだ。
 美人で出来物、しかも公爵家令嬢というゴイスーな婚約者が居るとはいえ伯爵家の四男という、実に微妙と言うか飼い殺し一直線な立場なのだ。
 しかも、その婚約者がらみで色々とあり過ぎて、立場は悪化する一方。
 なので必死に頑張るでしょ。
 止めるでしょ。
 収めるでしょ。

 俺、アイツは嫌いなんでどうでも良い。
 見たくもない。
 チラと人だかりをみて、視線を逸らす。


「おい、ウィル。厄介事になりそうだな」


 と、話し相手の悪友が俺の腕を突いた。
 笑ってる。
 コイツもあのボンボンは嫌ってる。
 というか馬鹿ボン(あかんたれ)が好きな奴は居ないだろう。


「酒の飲み過ぎが暴れたんだろ、阿呆と馬鹿がぶつかるならそら結構ってね」


 どっちが阿呆でどっちが馬鹿かは分らんが、似たようなものだ。
 トールデェ王立学院は国では随一の高等教育機関だけれども、同時に、貴族階級の人間であれば誰でも入学出来るし、それ以外にも相応の学費さえ払えば解放されているのだ。
 コネ作り、箔付けで入ってきて、金の力で暴れる馬鹿も多いのだ。
 フリーダム。
 そういうべきかもしれない。

 所が、人ごみを観察していた悪友が呆れた様に洩らした。


「違うぞ、アレ」


「あ?」


「阿呆と馬鹿じゃないぞ。阿呆()馬鹿だ。色ボケ生徒会長サマが遣りやがった」


「ハァ!?」


 慌てて見れば、怒鳴り散らしているのは我らがトールデェ王立学院の今季生徒会長、チャールズ・アバランテ伯爵家令息だった。
 顔が赤いのは怒りがアルコールか。
 何時もの取り巻き集団。
 魔法の天才児やら軍政の鬼才君、後はアバランテ伯爵家へと誼を通じようと言う手合い達。
 うじゃうじゃ居るけど十把一絡げ、一山幾らの連中だ。
 綺麗な貌やら格好やらをしてるけど、どうにもあの連中の目は気に入らない。
 なーんか、臭うんだよね。
 臭いのさ。
 と、その中に緑っぽい髪が見えた。
 電波(ヒロイン)だ。
 名前はラッヒェル・ランメルツだったか。
 余り裕福とは言えない商家のお嬢さんだけど、圧倒的な治癒魔法の才と学力とで特待生として学に入学してきた才女さんだった。
 そこはどうでも良い。
 アバランテの生徒会長のお気に入り(・・・・・)らしいが、それもどうでも良い。
 問題は、何か知らんが俺に付纏ってくることだ。

「お兄さんに不満(コンプレックス)があるんでしょ? でもウィー君なら決して負けてないよ」とか、
「ウィー君はウィー君だもの」とか、
「私の事、ライヒって読んでね」とか、

 知り合い程度の相手なのに、俺の名前を勝手に略称にして、意味不明瞭な事を言って来る奴なのだ。
 馴れ馴れしくしてくる。
 顔は可愛い系だけど、その行動は受け入れられない。
 ぶっちゃけてウザい。
 言外に関わってくるなと告げてもガン無視してくる。
 実にウザい。
 俺が剣の修練をしていれば「頑張り過ぎると調子が悪くなるから、息抜きをしよう?」とか言って邪魔するし、自習室で勉強していれば「差し入れだよ!」と言って黒焦げのおやつを持ってくる。
 飲食禁止の場所に、だ。
 脳みそが湧いているとしか思えん電波の娘だ。
 それで学力があれば良いが、治癒魔法の才は兎も角、学術(リベラル・アーツ)では才があるようには見えない。
 勉強している様にも。

 国に3つしかない高等教育の場、エリート校と言える学院に入学してきてこの体たらく。
 親は泣いているぞ、きっと。


「表情、表情がキツイぞ?」


「俺、アイツらは嫌いなんだよ」


「俺だって嫌いだ」


 断言する悪友。
 というか、学院で生徒会長と取り巻き一同を嫌ってない奴の方が少数派だろう。
 誰もが、俺も含めて権力を持った馬鹿とは関わり合いになりたくないと放置しているだけで。


「トップ・ファイブは仲が悪い事で」


「はん。公爵伯爵(アッパーノーブル)で1まとめにされても、仲良くする義理は無いね」


 現在、学院に居る人間の実家で伯爵位以上の実家なのが5人居る。
 だから一まとめにされての呼称(トップ・ファイブ)
 とはいえ、それで俺が奴らと仲良くする必要なんて無い訳で。
 1度は生徒会に誘われたが、丁重に断らせてもらった。
 臭いのが移るといかんからな。


「お前がそんな奴だから、つきあえるだよ、俺もな」


 悪友は文官志望の騎士爵家嫡男。
 だが家の爵位は忘れての友人だ。
 コイツだけじゃない。
 他にも友人は居る。
 あのバカ集団(生徒会)に参加していては得られなかった友人だ。


『誤魔化すな!!!』


 馬鹿(アバランテ)が叫んだ。
 その周囲から悲鳴が上がった。
 人垣が崩れた。
 誰かが突き飛ばされてたんだ。

 誰か。

 転んでいる誰かを、俺は見た。
 金糸の髪をコロネに(ドリルっぽく)纏めたお嬢さんだ。


「おいおい、何んて事してやがる」


 血圧が上がるのが判るが、止められない。
 突き飛ばされたのは馬鹿(アバランテ)の婚約者さんで、俺としては友人付き合いをしているお嬢さんだ。
 クリスティアナ・フォルゴン。
 フォルゴン公爵家の息女で、気位は高いが、努力を惜しまぬ才媛に何をしてやがる。
 そもそも、女性をつっとばす時点で気に入らない。


「悪い。少し騒ぎに参加してくる」


 景気づけにワイングラスを飲みほし、悪友に預ける。


「ご武運を」





「何をしている」


 声を出す。
 ゼキム家の私兵隊を指揮した時に親父に教わった声の出し方だ。
 聞かせる声を。
 命令する声を。


「ウィー君!」


 ランメルツが声を掛けて来るが無視して倒れているクリスティアナ嬢を助け起こす。
 俺の名前を変に略すんじゃねぇっての。


「大丈夫か?」


「……あり…がとう」


 気の強いクリスティアナ嬢が弱弱しく応じて来る。
 周りを見れば人垣 ―― 生徒会長とその取り巻きが囲んでいる。
 集団からの憎悪か。
 そら、凹むわな。

 立ち上がらせてから、その前に立とう。
 相手は馬鹿(アバランテ)だ。


「何のマネだ、ウィルビア・ゼキム!」


「何のマネとは此方の台詞だ。公衆面前でか弱い婦女子を相手に何をしている。恥を知れ」


「か弱いだと? 笑わせる。そのクリスティアナ・フォルゴンこそ公衆面前でか弱いラッヒェル嬢にワインを掛け、転ばしたのだぞ!」


「はぁ?」


「それだけではない。クリスティアナ・フォルゴンはか弱いラッヒェル嬢に様々な嫌がらせをしてきた。 私がしているのは制裁だ!!」


 見ればランメルツの薄桃色のドレスは、その胸元がワインで濡れていた。
 転んだというには怪我(ダメージ)は無さそうであるが。
 特に表情には、虐めを受けていたと言うが、受けていた人間特有の暗さが無い。
 どっちかと言うと自分に、状況に酔った風な目をしている。
 アルコール飲み過ぎかもしれんけど。

 俺が見たのを判ったのか、ランメルツは俺に滔々とクリスティアナ嬢が行った虐めと言う奴を述べて来る。
 曰く、呼び出しを受けて叱られた。
 曰く、話し掛けても相手にしても貰えない。
 曰く、私物が盗まれた。
 曰く、服が破かれた事がある。
 顔を伏せて、涙声っぽく訴えて来る。
 周囲のアバランテの取り巻きs’ はクリスティアナ嬢に罵声を浴びせている。
 そしてアバランテは優しく抱きしめて髪を撫で、慰めている。


「すまん、ラッヒェル嬢。俺が不甲斐ないばかりに苦労を掛けた」


「チャールズ様………」


 頬を染めて見つめ合っている。
 ナニコレ、この昼ドラっぽい空気。
 自分の世界に突入してやがる。

 というか、ランメルツが虐められていたという話は聞いた事も無かったんですけど。
 そもそもランメルツの噂って、婚約者の居るアバランテに懸想し、又、天才児とか鬼才君とかな顔と才能のある奴らには媚売りまくりの下衆姫様(ザ・ビッチ)という話だけだった筈。

 あ、そう言えば俺にも来てたか。
 俺、剣と魔法は中々だからな。
 剣だけだとパークスの野郎が上っぽいけど。

 まぁいい。
 取りあえず、確認しておこう。


「やったの?」


「してませんわ」


「だよね」


 納得する。
 そもそも、以前に聞いた時のクリスティアナ嬢のランメルツへの評価が、婚約者(アバランテ)の人生経験相手になら丁度良いかもしれないというモノだったし。
 嫉妬が無いのかと聞けば、そもそもが政略結婚の相手で恋愛感情も無いのでどうでも良いと云う有様。
 家と家。
 血統の盟約が政略結婚であり、アバランテの個人の是非はどうでも良いのだから。
 で、このアバランテの現状である。
 愛想の外面だけでしか対応もしたくなくなるというものだ。

 とはいえ、ここまで虚仮にされては笑ってられないのも事実。
 クリスティアナ嬢、キッと目に力を入れて言葉を発した。


「チャールズ様、そこのランメルツ嬢に対する虐めなど、私は一切やっておりませんわ」


 正々堂々との宣言にアバランテもランメルツも鼻白む。
 昼ドラか何かのゲロ甘な空気が壊されて不機嫌の模様だ。
 そこから怒涛のクリスティアナ嬢ターン。

 呼び出しを受けて叱られた。
 ― 学院で相応しからざる言動があった為の教育的指導をしただけ。
 話し掛けても相手にしても貰えない。
 ― 礼儀の無い挨拶に対して返事をしない事も教育であり、そもそも、話し掛けに応じる義理は無い。
 私物が盗まれた。
 ― 一切、存じません。
 服が破かれた事がある。
 ― 一切、存じません。

 怒涛のラッシュである。
 拍手したくなる位に、威風堂々たる姿だ。
 空気が壊れるからしないけど。


「なっ!?」


 絶句したままの2人。
 と、外野が下卑た野次を飛ばし出したので鎮圧する。


「黙れ」


 睨んでもおく。
 元々がアバランテ伯爵家にすり寄って甘い汁を吸おうという連中である。
 であれば、同じ伯爵家令息の俺に逆らう筈もなく押し黙った。

 というか、お前らが非難したクリスティアナ嬢はトールデェ王国で2つしかない公爵家の1つ、副王家との誉れ高きフォルゴン家のお嬢様だぞ。
 頭が悪すぎるとしか思えない。
 いや、居る(・・)のか。
 最近、クリスティアナ嬢が愚痴っていた奴が。

 ほら、人垣を割って出てきた。


「姉上、己の罪を認めないとは失望しましたよ!!!」


 クリスティアナ嬢の実弟、フォルゴン公爵家の三男坊であるアレクシス・フォルゴンだ。
 ちんちくりんな小坊主風だが目力は姉同様にある。
 ま、まだまだ可愛いものだけど。
 コイツもアバランテというよりも、ランメルツの取り巻きになってやがる。
 あのお嬢ちゃん、ホントにどうなってんだか。

 アバランテも根っこは阿呆だったが、それなりだった。
 それなりじゃなきゃ、家柄だけで生徒会会長なんて就けやしない。
 他にも天才児や鬼才君も、このアレクシス坊やだってそうだ。
 取り巻きのコアな連中は将来を嘱望されてた(・・・・)奴らだ。
 そう、過去形。
 教師の一部が愚痴ってのを聞いたが、色恋に走ってて使い物になりゃしないって感じらしい。

 将来すら棒に振っての恋、か。
 だけど恋のレースは既にアバランテが勝ってるっぽいのに、よーやるもんだ。
 マジで。


「私は、家の名に誓ってしていないものはしていないわ」


「姉上! していないなら、その証拠を出してください。証拠も無いのに人に信じさせるなど無理です。身内である私だって信じられません」


「ではアレク、私がしたという証拠は何処をお出しなさい」


「被害者であるラッヒェル嬢が言っているですよ! それ以外の証拠何て必要なんですか!!」


 呆れてた俺の横で、アレクシス坊やからの糾弾は続いている。
 但し、内容は空疎極まりない。
 3行で纏める事が出来る位に。
 1、泣いているのが理由。
 2、証拠が無いのは消されたから。
 3、泣いている姿を見て良心の呵責は無いのか。
 コレは酷い。
 子供の理屈(ヒステリー)、感情論で魔女狩り何かと一緒だ。


「話にならん」


 呆れる以外に言い様がない。
 と、炎に加油される。


「アレク君、聞いて! クリスティアナ様だって悪意だけでやったんじゃないと思うの。私がチャールズ様の御傍に居たいって思ったから悪いの。姉弟で喧嘩するなんて止めて!!」


「ラッヒェル嬢、貴方は天使だ。だけど君は被害を受けている。なら加害者には罰が与えられなければならないんだ。例え、それが実に姉であっても!!」


 うわーおー 三文芝居も真っ青だ。
 見れば、このホールの耳目が全て集まっている。
 というか、空気が悪い。
 凍ってる。
 群衆さん達の目がマジで冷たいよ。
 ですよねー だ。
 年に一度のお楽しみを馬鹿騒ぎ(ソープオペラ)で潰されちゃタマランってなもので。

 発狂&発情の2人は放っておいて。

 腕を組んで鷹揚()に2人を見ているアバランテだけど、組んだ腕がギリギリと服を握ってる辺りに嫉妬心が丸分りだ。
 子供だ。
 他の天才児も鬼才君も嫉妬の心が隠せてない風だ。
 そして取り巻き達は一般の連中の空気を読みだしたらしく、及び腰。
 実にグダグダだ。


「さて、どうしたものか。助け舟に出てきたつもりで、助け舟にもなりゃしない」


「あら、私は救われたわよ?」


 ぼやいたら、クリスティアナ嬢が返してきた。
 お、貌に力が漲っている。


「そう?」


「そうよ。少なくとも私は孤独じゃないって思えたから。アリガトウ」


「どういたしましてお嬢様」


 茶目って言う俺。
 俺とクリスティアナ嬢の関係は意外と長い ―― といっても、学院に入学してからだが。
 入学して、チョイとした事があって知り合って。
 今では一緒に茶も飲む良い友人関係だ。
 友人だよ?
 だって、幾ら美人でもクリスティアナ嬢は婚約者が居るから、そんな相手に懸想する様な不埒者にはなりたくないってもので。
 とは言え、そうは思わない奴も居る訳で。


「それは何だ、クリスティアナ嬢!!」


 声を荒げるアバランテ。


「僕と言う婚約者が居て、君は男を侍らせているのか!!」


「侍らせるなど。ウィルビア様は友人ですわ」


「嘘を言う! そもそも、伴侶(パートナー)を得られないお前が何故、ここに居る!? 来れぬ筈だ」


「だから、俺が誘わせて頂きましたよ? 折角の美華がこの場に無いのは彩が欠けると思いましてね」


「貴様! ふてぶてしくも不貞を口にする!!」


「おいおい。舞踏会(プロム)伴侶(パートナー)が皆して恋愛関係で結ばれてなければなんてなったら、この場に来れるのは殆ど居なくなるぞ?」


 特に、ランメルツにホの字の奴らは此処には来れないだろうし。
 というか、ランメルツを伴侶(パートナー)にしながらクリスティアナ嬢を束縛しようって、凄いな。
 一夫多妻が認められてる我がトールデェ王国だけどさー チョイと、独占欲が強すぎない? と思う訳で。


「煩い! もう我慢出来ない!! ラッヒェル嬢を虐め不貞を働いたその罪、謝れクリスティアナ嬢!!! でなければ君との婚約など破棄だっ!!!!」


 ストレートに婚約破棄とか言い出さない辺り、激昂してても計算しているのかもしれない。
 クリスティアナ嬢が公爵家令嬢なので、輿入れともなれば持参金でウハウハ。
 或は、婿入りすれば次期公爵候補になんて皮算用しているのかもしれない。
 小さい。
 人間が小さい。
 実に小さい。

 と、アレクシス坊やも乗ってくる。


「そうだ姉上、ラッヒェル嬢に謝れ! 僕はチャールズ様の秘密(・・)を知っている。だから言う。我がフォルゴン家とチャールズ様の結びつきを邪魔するなら姉上、貴方は我がフォルゴン公爵家から追放だ!!!」


 秘密という言葉(フレーズ)は興味深いが、アバランテ自体には興味が無い。
 だからスルーして、そっとクリスティアナ嬢を見る。
 強かった。


「謝りません。上に立つ者が罪なきにも関わらず頭を下げては国家の、鼎の軽重を問われると言うものです」


 瞳に炎が揺れて引く気配なし。
 流石は副王家、我らがトールデェ王国女王陛下に血が近いだけはあると思わせてくれる。
 ゾクゾクする力具合だ。

 決して大声では無いものの、その声はホールの隅々にまで染み込む様な声だった。
 正に副王家、フォルゴン公爵家の人間の矜持という奴か。
 実に見事。


「見事だ」


 と、俺の内心を代弁してくれた奴がいた。
 誰? と見回せば、人垣の向こう側。
 自然と人垣が割れて道が出来た。
 その先に居るのはただ美しいのではなく強い美しさを持ったキリッとした男前の女性だ。
 ウェーブの入った豪奢な髪と、輝かんばかりの碧眼。
 凄い美人であるが、その身を包むのはドレスではなく純白の、男向け礼装だ。
 誰、じゃねぇ!
 こんな場所にドレスコード無視で登場できるのは、ルールを作る側の人間、王家の王女だけだ!!


「ブリジッド王太子殿下!」


 ランメルツノ取り巻きの誰かが悲鳴のように声を上げた。
 さもありなん。
 王族の前で、こんな醜態を晒していたのだ。
 そら、魂消るってもので。

 割れた群衆、取り巻きの間を歩いてくるその姿。
 昔、遠くから拝謁した時も感じたけど、本当に美人だ。
 その、フルネームでブリジッド・ディージル・オーベル・トールデェはトールで王国の第1王女、王位継承第1位であり、ディージル公爵でもある女傑さんだ。
 この学院のOGだけど、来てたのか。
 隣にはリード公爵家の嫡男、ヤンリー・アルレイドも居る。
 と、傍にはアルレイド家の大剣、パークス・アレイノートも居た。
 他にも腕の立つ奴らがぞろぞろと。
 トールデェ王国次世代の武断派集団勢ぞろいって所だね。
 怖い怖い。

 皆で慌てて礼をする。


「よい、今宵は無礼講。私は王族としてではなく、1個人の卒業生として此処に居るのだ」


「有難く」


 視線が合っているクリスティアナ嬢が、淑女の礼をとった。


「さて、無礼講とはいえ貴君らは些か盛り上がり過ぎている。年に一度の楽しみであろう? であれば揉め事は後日に改めてはどうだろうか」


「ですが、クリスティアナ嬢が証拠などを隠蔽、或は捏造する可能性があります。今ここで決着をつけるべきです」


「付けられるのかね?」


「直ぐにでも」


「どうやって?」


「このクリスティアナ嬢が全てを告白すれば良いのです!」


 馬鹿だ。
 馬鹿が居る。

 あ、殿下も呆れてる。


「それはクリスティアナ嬢は否定しているぞ?」


「ですが殿下の、王家の威を、名を持って虚偽を禁ずれば!!」


 虎の威を借るというレベルじゃない。
 コイツ、本当に駄目かもしれんね。
 というか、コレとの婚約関係が今日、廃棄されてもクリスティアナ嬢にとってはプラスなんじゃないの?


「良かろう。ではクリスティアナ・フォルゴン、汝に我が名に於いて尋ねる。そのラッヒェル・ランメルツを虐めたか?」


「いいえ、殿下。我が名に誓ってその様な事はしておりません」


 強い目と目のぶつかりあい。
 殿下もクリスティアナ嬢も揺るがない。
 誰もが固唾を飲んで見守る。
 俺だって、だ。

 しばしの沈黙。
 そして殿下が頷いた。


「で、あるか」


 莞爾と笑い宣言した。


「クリスティアナ・フォルゴンに罪無し」


「馬鹿な!?」


 声を荒げたアバランテ。
 その無礼を咎めず、殿下は視線を動かす。
 相手はランメルツだ。

 誰もが、クリスティアナ嬢に殿下が問うた時よりも緊張している。
 空気がピリピリしている。


「次はラッヒェル・ランメルツ、汝に問う。クリスティアナ・フォルゴンに虐めを受けたとの話、相違無いか?」


「わ、わ、わ……わた、私、私は、そのクリスティアナ様に、その、私、私」


 当てられた王家の威。
 その前に震えるだけのランメルツは、涙をポロポロと零して周りを見る。
 アバランテを含めて誰も動かない。
 取り巻き達は、目線を合わせようともしない。


「さて、返答や如何に?」


「私、私、わ、わ、わた、私、そ、その、私 ___ 」


 ほほ笑む殿下。
 笑い顔って、稀に怖いよね。


「焦らずにゆっくりと言えば良い。さぁ、返答を」















「結局、ランメルツの自作自演だった訳か。別の誰かに虐められた訳でもなく」


「そうらしいわ。虐められる弱さを、男を落とす武器にしたのよ。あの子は強いわ」


「強い、ね」



 波乱の舞踏会(プロム)から1週間。
 情勢は落ち着いてきた。
 それまで実家で彼是としていて忙しかったらしいクリスティアナ嬢が漸く、学院に復帰した。
 忙しさからか、少しほっそりとなった彼女と再会したのは鍛錬場 ―― 学院の裏山に自分たちで作った武術の練習用の広場だった。


「強いわよ? 少なくとも私よりも」


 持ち込んだティーセットで優雅に黒茶を飲みながら笑うクリスティアナ嬢。
 俺もご相伴にありつく。
 流石は公爵家の茶葉、彼女が淹れてくれる黒茶は実に美味い。


「俺には理解出来ん強さだな」


「それは、ウィルビア様が強いからよ。貴方はこの学院で有数の剣士、<剣師(ソードダンサー)>だもの。でも、ランメルツ嬢にその強さが無いわ。無いからこそ別の、女の強さを求めたの」


「<剣師(ソードダンサー)>ね。そんな大層なモノになった覚えは無いんだがね」


 肩をすくめる。
 御大層な2つ名を付けられているが、俺は只、剣が好きなだけだ。
 体を動かすのが好きだから。
 だからこの場所も作った。
 勉強だけでは体が疼くから。

 そう、ここは学院の正式な施設ではない。
 トールデェ王立学院は(リベラル・アーツ)を修める場であり武に関しては自己鍛錬のみとなっていた為、学院の許可を得て自分たちで作ったのだ。
 水場の側に。
 木を倒し、土を均し、東屋だって作ったそこは、武の鍛錬を行う人間の園だった。

 そんな場所にクリスティアナ嬢が来るようになったのは、裏山を散策している際にこの場を発見したからだった。
 武の鍛錬に来ているという訳じゃなかい。
 本を持って来たり、或はランチボックスを持ってきて楽しんでいた。
 どうにも彼女にとって、俺やパークスといった極限られた人間しか利用していなかったので、他人と触れ合う煩わしさから逃れられる場であったようだ。


「ご謙遜。貴方は実力で裏打ちされた強さがあるわ。それは彼女や、或は彼ら(・・)とは違うものよ」


「彼ら、ね。そう言えば君が学院に出てこれたのは、処分が?」


「ええ、決まったわ」


 騒動の原因、ランメルツの取り巻き達。
 終わってしまえば憐れみしかない彼らには、それぞれがそれぞれに相応しい処罰が下されたとの事だった。
 取り巻き達には始末書と反省文だけだった。
 軽くは無い。
 記録には残るのだ。
 フォルゴン公爵家の息女に対して愚かな行為をしたという事が。
 最早、出世など望めまい。
 ザマー だ。

 クリスティアナ嬢の弟、アレクシス坊やは学院の退学とフォルゴン公爵領にて一文官として働く事となった。
 此方も決して軽くは無い。
 少なくともフォルゴン公爵家の庶子として外の家に婿養子として入る事は無くなったのだから。
 姉を貶めようとした行為に公爵家当主が激怒した結果だった。
 それでも家から追い出さないだけ温情であるかもしれない。

 次は主犯格のランメルツ。
 此方は単純に退学だけだ。
 とはいえ、フォルゴン公爵家令嬢を貶めようとしたという事実は残る。
 であればその実家、商家と今後取引をしようとする人は激減するだろう。
 実家からすれば余波で大迷惑という奴だが、製造物責任(PL)って奴だ。
 諦めて貰おう。

 そしてチャールズ・アバランテだが、クリスティアナ嬢との婚約関係の破棄は当然としても、伯爵家子息としての全権の剥奪、そして永蟄居となった。
 他の連中と比較すると、些かと言わずに厳しい処分となっている様に思える。
 永蟄居 ―― 終身に渡って外出も許されないとなれば、結婚も出来ない。
 完全な飼い殺し。
 若気の至りという奴もあるのだから酷過ぎない? とも俺は思ったが、その理由をクリスティアナ嬢が明かしてくれた。


「表向きとしては主犯として、だからかしら。でも真実はそこではないわ」


「?」


「秘密。そうアレクが口にした、あの人の秘密が原因なの。知りたい?」


 好奇心は猫も殺すとはよく言ったものだが、何だがクリスティアナ嬢、言いたい ―― 聞いてほしそうに見えたので頷く。


「知りたいね」


「そう。じゃぁ教えてあげる。あの人は先王陛下の子だったのよ」


「いきなり大きい話になったな」


 というか爆弾だ。
 先王は今上陛下との間に設けた子は2人、ブリジッド王太子殿下とアルリーシア殿下だ。
 側室は何人かいたらしいけど、子は居ない筈。
 だよね?


「そうかしら? 貴族家では良くある話よ。当主がメイドに戯れに手を付け、そして子が生まれるなんて」


 達観していると言うべきか。
 割と生い話だけどクリスティアナ嬢、照れる気配は無い。
 コッチが逆に照れるというか、居心地が悪くなりそうだ。
 なんたって男だ、種を蒔く側なんだから。


「ゼキム家は当主(親父)や郎党も含めて割と淡泊なんだよ」


「あらあら」


 笑われた。
 誤魔化す為にも頬でも掻いておこう。
 否、話を先に進めさせよう。
 それが良い。
 それが良いと思います。


「だが、良くある話なら何でアバランテに婚姻の自由が無くなるんだ?」


「濃ゆすぎる王家の血、だからよ。そもそも、お手付をしたんだから側に迎えれば良かったんだけど、残念ながら先王が戦死しちゃったのよね」


「………王国歴214年の国土大防衛戦か。ああ確かにあの時にジュレマイア王が」


 〈黒〉の大侵攻に迎撃の矢面に立った当時の王、ジュレマイアは直率の兵と共にリード高原で迎撃戦を指揮し、そして討ち取られた。
 それが16年前。
 で、アバランテの年齢は15歳。
 そういう事、ね。


「無くなられた先王に代わって妃であったエレオノーラ様が女王に即位なさった」


 先王の子、今上陛下にとっては中々に微妙な相手だね。


「214年防衛戦で国が乱れた状況で陛下の政治基盤は万全じゃなかったわ。婚外子、だけど紛れもない王家の子。であればチャールズ様は火種にしかならない」


 婚外子とはいえ王の血筋。
 下手な貴族と結ばれては、それこそ反乱の旗印などに王家の血が悪用される恐れがある、というか実例があったか。
 50年だか前に王国を揺るがした大内乱、侯爵家が消滅する原因となった〈十三候家の乱〉。
 あれは確か、当時、不遇をかこっていた王子が、王家に不満を燻らせていた旧帝國貴族家(オールド・ノーブル)とかを自称していた13侯爵家と結託して起こした内乱だったか。
 正に下剋上。

 あの内乱って確か国家へのダメージが半端なかった筈だから、〈黒〉を撃退したばかりの状況で不安定要因を排除したかったという陛下の気持ちは良く分るってなものだ。


「だから、アバランテ伯爵家に預けられた訳か。あの家の忠の篤さは筋金入りって聞いている」


「そう。但しチャールズ様に正しい血筋は教えぬ様に育て、そして我がフォルゴン公爵家に受け入れて血を吸収する。正に政略結婚だったのよ」


 だが、それは潰えた。
 更には、王家の血筋という事がそれなりに知られるようになってしまっているっぽい状況。
 こら積んだね。
 アバランテの人生は。


「だから永蟄居、か」


「そう。可哀想だけど血は残させないわ。只の1滴であっても」


「怖いね、上級貴族(ハイノーブル)って奴は」


「そうかしら?」


「で、その秘密を知った俺はどうなるんだ?」


 風が吹いた。
 クリスティアナ嬢の髪が揺れた。


「そうね、取りあえず子供の頃からの婚約者と弟を失った可愛そうな乙女を慰めるのはどうかしら?」


「それは、悪く無い」


 手を伸ばせるようになったのは、とても悪く無い。
 俺はそっと_____



何か、ブリジッド王太子殿下が美味しい所を全部持って行った気がする件。
いやまぁ、元ネタが銀河の妖精シェリル・ノームとフィラ・マレル殿下の悪魔合体な漢女的王女様なので仕方が無い気がする。
というか外見は金髪のシェリル。
手が付けられんのでビクター君、早くもってけ、コレ。

尚、悪役令嬢なクリスティアナの外見は、華琳様である。
尚々、ヒロイン()はヒドインだけど別に邪神様じゃありません。
違います。
違うったら違います。
緑な髪だけど、気のせいです。


あれ、変だな窓が明るい、誰か来た____

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