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DIE A LOG  作者: さまー
2章 ~Die a Loger~
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30.菅武明より

 後藤晴久との対話を終えた法寺理貴。虚無感が彼の脳内を、ぐるぐる螺旋を描きながら巡っていく。

青空の元、周囲の死体を見渡しながらたったひとり、法寺理貴は立っている。

短髪で逆立たせていた髪の毛は、爆風の熱でキシキシに傷んでいた。

「次は…菅さんだな」

ひどく疲れた様子でつぶやくと、そのまま菅武明特等兵の遺体のあるところまで歩いていく。

幸い火薬の臭いのおかげで死体特有の臭さはしないが、嫌いな臭いには変わりない。

鼻を不機嫌そうにつまんで菅の前へ立つ。

「菅さん、あなたの声をお聞かせください」



 能力を発動する。辺りは真っ暗になり、聴力以外の五感は奪われる。

相変わらずなぜこうなるのかわからない。畏怖すら感じる。

「法寺二等兵卒くんか」

菅の声は柔らかく、表情の柔らかさを思わせる。

「能力、使えるんだね」

後藤と同じ反応を見せた菅。やはり同じ場で働いてきた上司と部下なのだろうと微笑ましくも思える様子が、法寺の胸を締め付けた。

「ええまあ。俺の唯一の――」


 ――唯一の、何なのだ?


 「どうした?」

言葉を詰まらせる法寺の様子に疑問を抱いたのか、菅は言葉を投げかける。

法寺は笑って誤魔化した。

「いえ…。菅さんは、後藤さんのこと、どう思ってらしたんですか?」

「後藤さん?」

質問が予想外だったのか、菅は聞き返す。死に際の様子が様子だったため、後藤に対するイメージはそこまで良くないかもしれない。

「後藤さんは、いい先輩だったよ」

法寺の表情がやや明るくなる。予想外の返答に、少し安心した。

「そういえばさ…後藤さん死ぬ前になんて言ったのかな」

菅の無意識のうちに放たれた言葉に、法寺はまた固まった。

「…そ、それは」

震える唇を抑えた。言うべきか、言わざるべきか。

思い出されるのは、悲しい過去――能力を手に入れたあの日と、そして、数年前の誰かを呼ぶあの声…

「言っていいのでしょうか…あなたにこれを言っても私は大丈夫なのでしょうか」

ここに至って思いとどまった。

「どうしたんだい法寺くん、君はそのためにここにいるんだろ?」

唯一の――


 「わかりました」

法寺は口を開いた。

「後藤さんは…あなたに…」

唯一の――


 「ただ、一言、生きろと…おっしゃいました」


 ...唯一の、『存在意義』だ。



 「そうか」

菅は小さく笑った。

「すまなかったなあ… 後藤さん。ありがとう法寺くん…もし出会えたら、俺の家族にもそう伝えてくれ」

切り替えの早さに、正直驚いた法寺だったが、それでも菅の声色からその明るげな表情は窺えた。

「後悔、してないんですか?」

恐る恐る聞いた法寺の言葉を、菅は笑い飛ばした。

「もう死んじゃったもん、後藤さんも、俺も…だから仕方ないよ」

彼の言葉が、どことなく諦めた人間の言葉のように聞こえたのは気のせいだったのだろうか。

しかし、法寺にとって、この言葉を死後であっても伝えることができたことは、『存在意義』の確立に一歩近づいたのである。

「ありがとうございました。菅さん」

「こちらこそ」


 視界が明るくなった。

煙の向こう側が少しずつ見えてくる。そういえば、周囲の状況など、全く気にしていなかった。

東側にいた自分たち、そして、南側で敵と戦闘していた中井美和大尉補佐らは無事なのだろうかと、再び南側へと走っていった。

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