文化祭前日
せっかく互いの思いを確かめたふたりではあったが、幸か不幸かゆっくりとした時間を持つことは出来なかった。
文化祭が近くなり、事前の用意を免除されていた接客係も、他の係の手伝いをしないと間に合いそうになく、まどかも誠も忙しい日々が続いていた。
そしてとうとう文化祭の前日。
忙しさに忘れかけていたが、誠達も明日のための試着をしないといけない。
誠達はそれぞれ指定されたクラスメイトの家へ向かった。
「あれ、一柳は俺達とは別なの?」
同じ男子接客係の宗志が、不思議そうに声をかけてくる。
確かに、宗志達が集まる家とは別の家へ、誠は来るように言われていた。
「人数が多いから分けられたとか?」
「ふーん……まあいいや。じゃあ次に会うの当日かな? お互い、明日は頑張ろうな」
宗志達が笑顔で手を振り、指定の家へ向かう。
誠もそれに手を振り返し、地図に書いてある家へ向かった。
計測の時に中心になっていた美丘楓の家が、誠の集合場所になっていた。
初めて行く、まどか以外の女の子の家に、誠はいくらか緊張する。
そしてそれ以上に、「どんな服を着せられるのだろうか……」と誠は心配していた。
それほど迷うことなく、誠は楓の家についた。
大きな2階建ての一軒家で、玄関からも広い庭がちらっと見える。
インターホンを押すと、しばらくして楓がドアを開けた。
「どうぞ。入って」
「お邪魔します」
誠は礼儀正しく一礼して、玄関をくぐる。
玄関にはいくつもの靴が並んでいて、すでに他のクラスメイトが来ているようだった。
ただ……女の子の靴ばかり……?
誠は一抹の不安と疑問を抱えながら、楓の後について廊下を歩く。
突き当たりの扉を開けると、楓が中にいる人達に声をかけた。
「一柳くんが来たよ」
すると、中から「きゃあ!」と華やかな声が響く。
んっ? いったい何事っ!?
誠が導かれるままに中に入ると、接客係の女の子達が揃っていた。
その中には、まどかもいる。
「あれ、まどかさん」
誠が不思議そうに声をかけると、まどかは嬉しそうに答えた。
「師匠! いらっしゃい。頑張りましょうね」
「うん……そうだけど……あれ?」
やっぱり自分、来るところを間違えてない?
頭の中に ? が並んでいると、楓が誠の肩をたたき、
「こっち」
と別部屋に案内する。
後ろで、女の子達がきゃっきゃっと何か嬉しそうに騒いでいたが、全員が口々に喋っているため、何を言っているのか聞き取れなかった。
楓にすぐ隣の部屋に案内され、中に入る。
楓の部屋なのかベッドや机、本棚が置いてある、けっこう広い空間。
窓はカーテンで閉められ、まだ外は明るいというのに電気がつけてあった。
着替えるために、外から見えないようにしてくれているようだった。
「一柳くん、コンタクトは持ってきてくれた?」
「あっ、はい」
そう、楓が先日、メガネではなくコンタクトを用意して欲しい、と言ってきた。
1日使い捨てのを最小単位で購入すれば、そう高くないから……と言われ、指示のとおり買ってきてあるが、やはり当日は眼鏡なしでいくらしい。
眼鏡がないほうが、もしかしたら自分とバレないかも知れないので、そのことに抵抗はなかった。
誠は鞄からコンタクトを出してみせると、楓はうなずいて、いきなり、
「じゃあ、脱いで」
と言ってきた。
「……えっ?」
「恥ずかしがらないで、早く服を脱いで。試着してもらうけど、着かたがあるから私が手伝うから」
着かた? 手伝う?
脱ぐって……?
「パンツ一枚になってくれる? そうしたらブラジャーをはめてあげるから。初めてで解らないでしょ?」
えーーっと…………聞きなれない言葉が…………。
「ええい、めんどくさい。私が脱がせるわよ」
楓が近寄ってきたので、誠はあわてて自分で服を脱ぎ始める。
恥ずかしいが、上を脱ぐのは何とかできる。くつしたもいい。
しかし、ズボン……これも……ですか?
「ズボンも。見慣れてるから、気にしないで。私を男と思ってもらっていかから」
楓はむしろ苛立っているように見えた。
誠はその迫力に押されて、ズボンを脱いだ。
これは、かなり恥ずかしい。
誠は顔を赤くして立ちすくむ。
何となく、手で色々と隠してしまう。それぐらいは許して欲しい。
楓はそんな誠の様子を眺めながら、「うん、うん」とうなずいている。
正直、その視線が怖い。
「よし、じゃあブラジャーからいくよ」
楓はそう言いながら、ブラジャーを取り出し、誠の前に出す。
「ここに手を入れて。後ろで止めるから。胸はパットが入っているから大丈夫」
何が大丈夫かは解らないが、とにかく指示に従った。
「次はこれが下着」
誠はそれが何かは解らなかった。
薄手の可愛らしい下着と、パンツの上からはくと思われる、黒くてタイトなレーサーパンツのような物を渡され、それを指示に従って着替える。
「次はこれね」
真っ白いシャツ。袖を通して、ボタンをしめる。
「はい次。これはちょっと私が手伝うわ」
着慣れないものが出された。
チェックのスカート?
えっ、スカートですか?
にぶい誠も事態を飲み込み始め、さぁーっと血の気が引いた。
「あの……つかぬことをお伺いしますが」
「何?」
「僕は何の姿に……」
「……見れば解るでしょ」
最後のジャケットを広げて見せる。
可愛らしいブレザーの制服。
自分達の高校のものとは違う、どこから仕入れてきたか解らないが、センスの良い可愛らしい制服だった。
しかも、スカート丈が短い。
「……無理です」
「ここまで着ておいて、何言っているの。はい、ジャケット着て。まだこれからなんだから」
これからって……。
楓は、ひと通り着終わった誠を少し離れて眺め回す。
近づいて、袖の長さを確かめたり、胸や腰のあたりを確認する。
ぶつぶついいながらノートに何かを記載して、閉じる。
「はい、じゃあ。また脱いで。次ね」
次って?
誠が戸惑うなか、楓は先ほどのブレザーを持って隣の部屋にノートを渡しながら、修正点を指示している。
誠は短パンTシャツに着替えさせられ、また部屋を移動させられる。