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異世界Cマート繁盛記  作者: 新木伸


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第083話「オークのお客(後編)」

リクエストありましたのでー。オークのお客(後編)でありまーす。


2/08更新

イラストのあるやさんより、オーク姉のキャラデザイン、いただきました~。

挿絵(By みてみん)

 いつもの昼すぎ。いつものCマート。


 つい眠気をもよおした俺は、店の前で、ラジオ体操の第一をやっていた。

 体を動かすと眠気が飛んでくれる。


 道の向かいでガキどもが俺の動きをマネしていたりするが、気にせず、第二に入ろうとすると――。


 通りの奥のほう。街の外へと向かう方角から、なんか、目の覚めるような美人が歩いてきた。


 ちょっと逞しい系の美人だ。

 でっか~い斧を背中に背負っているのに、ぜんぜんフラつきもしないで、すたすたまっすぐに歩いている。


 なんか違和感があるなー……? と思ったら、その美人さんの肌は、緑がかった灰色で、このあいだ店に来たオークと同じ色だった。


 俺はこのあいだ店に来たオークのことを思いだした。

 そういや。あいつ。あれから来ないなー。


 エクスカリバーを買っていって、ゾンビやっつける、とか息巻いていたのだが――。

 ゾンビにやっつけられたりしては、いないだろうなー?


 と、そんなことを考えていると。


 例の美女が、すたすたすたと、俺の前にまっすぐ向かってきていた。


「お尋ねしたい。〝しいまーと〟という店は、こちらか?」

「――書いてあるだろ?」


 と、俺は、親指で店の看板を示しながら、そう言った。


共通語(コモン)とオーク語以外は読めん」


 美人さんはそう言った。

 そういやそうだ。看板は日本語だった。


 こっちの世界の共通語? ――とかゆーので、書き直すかな? まあこのままでも味があるからいっか。


「我が弟――〝牙持てしドルク〟の恩人とは、おまえか?」

「恩人かどうかは知らんけど。エクスカリバーなら売ったがな」

「ははっ。オークを見てもまったく動じない。話通りの男だな」


 なんか感心されとる。……なんで?


 ゲームの中では、さんざん見てきたしなー。オーク。

 このあいだやってきた男のオークは、なんかゲームの中のオークと、モロに印象が一緒だった。

 しかし目の前にいるこのお姉さんは、

 そもそもゲームの中にオークの女性? 雌? ――が出てくることって、あっただろーか。

 男だけの種族だと思っていたのだが。姫騎士の天敵とかだと記憶しているのだが。


 いたんだ。お姉さん。


 オークの雌ないしは女性は、見上げるばかりのご立派な体格を除いたら、わりと普通の人間で――。街中で見かけても、べつに、気づきもしないんじゃないだろうか?


 ――とか、思ったら。


 道の先から来た二人連れが、「おい……、オークだぞ」とか小声で言って、引き返していった。


「普通は……。ああだ」


 美女は、ふんとばかり、鼻を鳴らした。

 不敵に笑うと、口の中から牙が露出して、あーやっぱりオークだー、と思った。


「なんの用なん? またエクスカリバーが何本かいるとか?」

「それもある。――が。まずは我が部族を助けていただいたことに礼を言わせてもらう」


 片膝をついて、頭を垂れる。


「オークの人が地に膝を着くのは。マスター。最上級の礼ですよー」


 バカエルフが俺の斜め後ろから、そう言ってくる。

 そうなのか。



 彼女は低い姿勢で、頭のつむじを見せたまま。

 ほうっておくと、いつまでもその姿勢でいそうなので――。


「……茶でも? 飲んでくか?」


 俺はそう声をかけた。


「いや。長居をしては、店主殿に迷惑がかかろう。用事を済ませたら、すぐに立ち去ろう」

「知らん」


 堅苦しいことを言ってくるので、俺は、そう答えた。


「は?」


 美人さんは、目をぱちくりとやっていた。

 関係ないが……。しかし。睫毛ながーっ!


「迷惑とか。しらんし。おまえの弟とやらが来たときにも、他の客に説教するはめになったんだが……」


 俺は、はあっとため息をつくと、店の運営方針について、一気に語り出した。


「ここはCマートで、俺が店主だ。よって俺がルールだ。この店のモットーは、みんなニコニコ笑顔でWINWINだ。ここは誰でも買いに来ていい自由の店だ。オーク族だろうがキング族だろうが、みんな平等だ。客として来たなら、差別も特別待遇もなしだ」


「なんと。キングと同等か。我らオークが」

「俺にとっては同じ客だ」


 ――てか。キングとかいったって、飴ちゃん舐めてる、単なるお坊ちゃまじゃん。


「惚れた」

「は?」

「あ、いや……。人柄に惚れたという意味で。べつに他意はなくてだな……」


 俺もいまちょっとびっくりした。はつじょーき? ――とかゆーそっち系かと思った。


「とにかく。入れ。茶でもしばいていけ」

「ああ。うむ。しばいていこう」


    ◇


「我らは、遥か昔は、人に害をなす種族だったそうだ」


 お茶と茶菓子。

 あっちの世界産のお菓子を、夢中で食べていた美人さんは、キノコの森から、おせんべいから、バームクーヘンまで制覇していったあとで、ようやく喋りはじめた。

 それまでずっと無言。夢中で食べてた。ちょっと萌え。


「はじまりの魔法使いに調伏された我らは、いまはアンデッド族どもを封じ込めた、地下世界の境界を守る防人さきもりとして――」


「なーなー、〝防人〟って? なに?」

「守る人のことですよー」


 俺が小声で聞くと、バカエルフが教えてくれた。


「――私が遠征、ええと……遠出して戻ってくれば。我が弟が、半死半生で――」


「え? あいつ死んじまったの!?」


 ええっ!? ええーっ!!


「……いや。早まるな。死んでない。半死半生だが、いま療養中だ」

「あー……、なんだ。よかった」


「本来ならば弟が来るべきだが。姉である私がかわりに礼に参った」

「だから礼とか、いいっつーの。ただ商売しただけだっつーの。笑顔が見れれば、俺はそれだけでいいんだっつーの」


 俺がそう言うと、オーク姉は、牙を剥いて笑った。


「いい笑顔だったそうだぞ? ……一千のアンデッドを倒しきり、力尽きはしても、なお倒れずにいた弟は、一振りの剣を抱えこんでいたそうだ」


 剣じゃなくて、それ、チェーンソーだけどな。


「それはこちらの店で買ったものだと聞かされた。かの人類の英雄――勇者ケインの使う剣と同じものだと聞かされたときには、正直、耳を疑った。そんなものが、どうして、我らオークの手に――」

「俺が売った」


 オークだろうがニセ勇者だろうが、客として来れば売る。

 それだけのことだ。


「弟は代金もろくに支払っていなかったそうだが?」

「いや。定価分は、きちんともらったぞ。……他のお客さんがカンパしてくれてたからな」

「うむ。後ほどその彼らのところにも礼をしにいくつもりだ」


「べつにいいんじゃないか? おまえの弟が、なんか困ったことがあったら、命をかけるとか、なんかそんな約束してたみたいだし。弟の約束だ。弟に守らせろ。姉が尻ぬぐいとかするもんじゃない」


「うむ。オークは約束を違わん。友のためには命をかけよう」

「だから大袈裟だっつーの」

「店主殿も。困ったときには頼ってくれ。弟と部落の恩人だ。私の命をもって贖おう」

「まー、なんかあったらなー」


 オーク姉は、えらい体格がいい。

 積載量が必要なときには、頼り甲斐がありそうだ。ジルちゃんとこの姉キと、どっちが積載量があるのかなー?


    ◇


 オーク姉は、堅苦しいことをたくさん言って――。

 お茶と菓子を大量に食べ散らかして、そして俺の手を、何度も何度も名残惜しげに握って――。

 そして、引き上げていった。


「毎度ありー」


 俺はそう言って見送った。

 「エクスカリバー」の注文が10本、入った。

 10本もあると、一度じゃ持ってこれないなー。

 あと、あのオーク姉の体格だったら、いつものサイズでなくて、もっとデカいチェーンソーでも振り回せるんじゃないのかなー?


 なんか、まえにカタログで、「山林用」とかゆー、エラく根が張るが、エラく強力そうなチェーンソーを見たことがあった。


 いわゆる「斬馬刀」みたいなやつ?

 あのオーク姉。ずっと背負っていた巨大斧が、なんか、数百キロはありそうだったので、鉄塊にしか思えない斬馬刀とか振り回すのも、余裕な感じがする。


 それも持ってくっかなー。

 と、オーク姉の見えなくなった道の先を、しばし、見つめていた俺は――。


「……で、おまえ、さっきから、なにしてんの?」


 脇に向けて声をかけた。


 店の入口の脇で、もたれかかって、腕組みをしていたニセ勇者のやつは――。


「心配しなくても、今日はスカウトには来ていない」


 こいつは、しょっちゅうやってきては、うちの店員をナンパしてゆくのだ。


「んなことやってみろ。マジで蹴って帰すからな。……で、なんの用なんだよ?」

「いや。女オークが来ていたというのでな。……念のため、だ」


 なにが念のためなんだか。

 あとその、指先を「すちゃっ」とかやってくる仕草。カッコいいとでも思っているのか。


「アホか。帰れ帰れ。客が来て茶をしばいて、帰っていった。――それだけだ」


 俺が言うと、ニセ勇者のやつは、意外そうな顔をした。


「おまえ……、彼女が誰か知らずに話をしていたのか?」

「しらん。どうでもいい。……って、ちゃんとわかっていたぞ? このあいだきたオークのお姉さんだそーだ」


「いや、だから……、後方方面地下世界を統括する、将……」

「しょう? なに? なんなの?」

「……いや、おまえは、そういうやつだったな」

「だから、なんなの?」


「ああ……、そうそう。換えのエクスカリバーを貰えないかな。わりと痛んできた」

「いいけど。10本注文入ってるから。……そのあとになるぞ?」


 俺は、しぶしぶ、ニセ勇者のやつを店内に招いてやった。

 まあ注文するなら、茶ぐらいは、だしてやろう。


 本日もCマートは、ニコニコ笑顔に満ちていた。

 とくに語るべきことは、なにひとつ、起きてはいなかった。

作中に書き切れなかった、設定など。


○裏設定

「オーク族」

 人の住む地表と、地底のアンデッド領域との中間圏に居住する亜人種族。

 アンデッド類との闘争は絶えないが、闘争本能に満ちている彼らにとっては、むしろ「生き甲斐」。

 人類圏にアンデッドが出ないための防波堤としての役割を持つが、過去の出来事や、その性質から、人類および亜人種の多くからは、忌み嫌われる存在。


 雌は優勢種であり、身体強健、知性にも優れる。

 雄は雌に比べて劣勢種であるが、言語を解するだけの知能はある。

 雄が雌と「つがう」ためには、「相手に勝つ」必要があるため、弱い雄は、なかなか「つがう」ことができない。

 かつて大昔には、そうした弱い雄たちは、体格貧弱な姫騎士などに群がっていったらしい。だが人との争いがなくなった今日では、学者と小説家だけがそれを知る。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 「優勢種」「劣勢種」という表現は誤解を招くので避けた方が良いかと(生物学にそのような呼称はありません)。 そもそも遺伝における優勢・劣勢は遺伝形質の発現確率についていうもので、能力とし…
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