表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
91/142

第082話「一輪車無双」

「無双ネタ……、ですか?」


 ジルちゃんが、きゅるん、と首を傾げる。


 青い目が大きくなる。

 ふんわりゆるふわウエーブの金髪が、たとえヘアピンでガッシガシに固めてあっても、やっぱり揺れる。


「うんそう。無双ネタ。……なんかないかな?」


 いつものように定期便で、冷蔵庫ぐらいある分量の荷物を運んできた力持ちのスーパー女子中学生を、紅茶とお菓子とで捕獲して、俺はそんなことを聞いていた。


 しっかし……? クリスマスのあとって、中学校とか、あったっけ?

 なんか……? ジルちゃん制服なんですけどー?

 大掃除したり、通知表もらったりとかは、あったっけ?


 うーむ……。もう忘れかけとる……。

 そんな昔でもないはずなんだがなー……?


 まあ、それはそれとして――。

 わからないですよ? ――という顔をしているジルちゃんに、俺は、説明をした。


「無双ネタっていうのは、つまり、この店で扱うと大人気になりそうなアイテムのことなんだ」


 俺はこれまでヒットした商品列伝を、ずらずらと並べていった。

 塩に始まり、レジ袋だの、ぷちぷちシートだの、へんなモンが、じつは大ヒットしたことを伝える。


 ジルちゃんは、しばらく、うーん、うーん、と考えていたが、ややあって――。


「シュシュとか?」

「しゅしゅ……?」


 なんかJC用語を言われた。じぇんじぇん、わからん。


「なにそれ?」

「ほら。まえ、わたし、みんなで泊まりで来させてもらったとき。髪をツインテールにしていて――」


「ツインテール? してたっけ?」


 そんなキャピった、ラノベキャラみたいな髪型、してたことあったっけ?

 ジルちゃんは目が青くて髪が金髪なことを除けば、ごく普通のカッコの、ごく普通の、スペック以外は、フツーの女子中学生であるわけで――。

 そんなミックミクな髪型で来たこと……、あったっけかなー?


「ほら、二つ縛りの、お下げで――」


 と、ジルちゃんは、さらさらとホワイトボードに絵を描いた。

 なんのことはない。ジルちゃんの言ってるそれは、単なるお下げだった。美津希ちゃんがジャージ姿のときにやってるアレだった。


「そういえば……? そんなような髪型、してたかな? してたよーな気が……?」

「してましたよー」


 ジルちゃんは、BUUU と、くちびるを震わせて、洋風の本式ブーイングをやった。


 なんと! 数ヶ月も前の女の子の服装を覚えていないと、失格してしまうらしい。

 俺、俺俺俺っ、この無理ゲー、無理っ!


 そういや翔子にもよく言われてたなー。髪型変えたの服装変えたの、それに気づかないのと――。ヘアピンの色が変わってたとか、変Tシャツの動物が変わってるだの、いちいち、気がつくかっつーの。


「シュシュってのは、こんなやつです。髪ゴムに飾りがついたようなやつです」


 ジルちゃんは、またさらさらと、ホワイトボードに絵を描いた。

 なんだ。髪ゴムじゃん。

 なら、はじめっから、そう言ってくれれば――。


「髪ゴムはー、あれだなー。売ったことはないけど。たぶん。だめだなー」


 と――、俺は、道行く、おばさん、お姉さんを指し示す。


「うん? なんだ? エナ?」


 お茶のおかわりを持ってきててたエナが、なんか、俺の服の裾を、ちょいちょいと引くので――。


「うん? エナは、欲しいって? 髪ゴム? ……その、シュシュとかゆーやつ?」


 エナは黒髪を揺らして、こくんと首を折った。

 でもその黒髪は、顎先にかかるか、かからないか、というあたりで――。


「でもまだ伸びてないから、いらんだろー?」


 とか、そう言ったら――。


 ばーんと、お盆でぶっ叩かれてしまった。

 エナは、プンスカと、なんだか怒って行ってしまった。


 ……なぜに?


 考えても詮無いことなので、俺は考えるのを諦めて、ジルちゃんに向き直った。

 なんでかジルちゃんは、テーブルに突っ伏して、笑死寸前……。

 そんなに笑うとこだった?


「ファッション関係じゃなくて、なんか、ない?」

「ええと、じゃあ、フラフープ?」

「なぜにフラフープ」


 ファッションから離れると、いきなりフラフープになる、ジルちゃんの感性、不思議すぎる。


「こっちの世界。いろいろ見て回っていますけど。フラフープは見たことないですし。遊び道具も素朴だから。アリかなー、って思って」

「なるほど」


 そういえば、ガキがなにで遊んでいるのかということは、見に行ったことないなー。


 あれ? ひょっとして、アキカン1個で無双できるんとちゃう?

 ――缶ケリとか?


 もしかして缶さえなくても無双できるんとちゃう?

 ――ケイドロとか?


「ナワトビとか、売ってみたら、どうですか?」

「ナワトビか」

「女の子向けなら、ゴム跳びとか」

「ゴム紐かー」


 軽くてかさばらなくて、仕入れ用バックパックの端っこに詰め込めそうだな。こんど仕入れてみるかな。

 でも縄跳びの縄も、ゴム跳びのゴム……はないんだけど。こっちの世界には。

 そんな、わざわざ持ってこなくても、こっちにあるもので出来ちゃえるものではなくて――。

 それよりも、もうすこし、絶対こっちじゃ無理! ――的なもので、仕入れ甲斐のあって、ガキどもものすごい笑顔になって、すっごく夢中になるような、子供用遊具とかは――。


「こっちの道路。舗装されてないから、ローラースケートとかスケボーとかエスボードとか、無理ですよねー」


 エスボードって、なんじゃ? しらんぞ?


「ああ。じゃあ! 一輪車、どうですか? 一輪車!」


 指先を小さく合わせて、ジルちゃんは名案を思いついたかのように、顔を明るくさせた。


「一輪車かー。なるほどっ!」


 俺もうなずいた。

 なるほどー。ある程度小さくてー。ある程度ー。こちらの世界では無理げなアイテムでー。

 なんか、無双できそうな気がする。


「よし! じゃあ一輪車を仕入れに行くか!


 そうと決まれば、レッツのゴーだ!


 俺は椅子から腰をあげた。


    ◇


 一輪車はそれなりに大きさがあって、いつものバックパック(エナのプレゼント)には入らないので、キャリアに何台か重ねて、こちらの世界へ持ちこんでみた。


 スーパーJCジルちゃんの積載量をもってすれば、一度に何十台も輸入できそうだが……。

 まずは先行お試しということで――。俺が一回で運べる台数がちょうどいい。

 ウケないものを大量に持ちこんで、不良在庫にするのは忍びない。


「うーむ……」

「UMMMM……」


 俺とジルちゃんは、店の店頭で、うなり声をあげていた。

 売れん。まーったく、売れん。


「これ? なんにつかうの?」

「これはな。乗り物だ」

「どうやってのるの? まるいわっか。……一個しかないから。倒れちゃうよ?」


 エナが、とことことやってきて、一輪車を、ぺたぺた触っている。

 乗り物だといわれるので、地面に立てようとするのだが、タイヤが一個の一輪車は、どうやっても、まっすぐに立ってくれない。


「たたないよ? のれないよ?」


 エナが俺に聞く。俺はジルちゃんに聞く。そしてジルちゃんは――。


「こうやって乗るんです」


 ひょい、と跨がって、ひょいひょいと乗りこなしてしまう。


「ほー」


 俺とエナは、ぱちぱちと拍手をした。


 そしたら、これまでぜんぜん興味のなかったガキどもが、わらわらと寄ってきた。


 一輪車の上で上手にバランスを取ったジルちゃんは、右に左に急旋回。

 タイヤ一個なのに、ぎゅりぎゅりとすんごい機動をしてみせる。土煙があがるほど。


「おねーちゃん! すごいすごいー!」


 子供たちに大ウケ。拍手喝采。


 ジルちゃんはさらにテンション・アゲアゲになって、その場で、ぽうんと跳ねて――。なんと、バク宙を決めてみせた。


 え? これ、すごくね?

 バク宙すごいし。

 助走もなしでその場でバク宙決めるのは、もっとスゴイし。

 それを一輪車に乗った状態でやるとか、超、スゴくね?


 まあ、冷蔵庫を担いでくるような、スーパーJCなのだから……。不思議はないっていうか……。そのくらいできて当然というか……。

 何百キロの巨大な荷物を背負ってきて、地響き立てつつ置いてゆく光景には見慣れても、こっちの高機動バージョンのほうを見たのは、初めてなので――。


 俺は、かなり、びっくりしていた。


 ジルちゃんは声援を受けると、ますます調子づいていって――。


「よっ、はっ、とっ」


 一輪車のサドルの上に、なんと、立ち上がった。

 そして、さらに――。


「ほっ」


 一輪車のサドルの上で、逆立ちまでやった。しかも手は片手。――それで器用にバランスを取っている。


 ここまでいくと、もはや、軽業の領域だった。

 サーカスで、こんなん、見たことがある。

 ジルちゃん、いますぐ、サーカスで活躍できてしまえそう。


 一輪車、というより、サーカス技は、こちらの世界の皆に大人気だったようで――。


 しかし……。おーい。女子中学生~? ぱんつ見えてんぞ~?


   ◇


 一輪車は売れた。ヒット商品となった。

 しばらくの間は、俺とジルちゃんでせっせと運びこんだ。

 ジルちゃんが一度に50台ぐらい運びいれるその脇で、俺は5台くらいを、ちょろちょろと運んだ。


 お代は、お求め安くリーズナブルな――銀貨二枚。

 買えないガキんちょのためにCマートではレンタルもやっている。


 なんか、異世界←→現代世界、交換レートを考えると、ひどく赤字な気がしないでもないが……。

 皆(特にガキんちょ)が笑顔になっているので、よしとしよう。


 Cマートおよび、その周辺道路は、本日も笑顔だった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ