第075話「少女マンガ無双?」
全体話数。100話は余裕で突破することが「確定」していますのでぇー。通し番号が、三桁対応になりましたー。
「ふんふん……」
床の上にぺたんと女の子座りしたエナが、鼻息も荒く、熱心に読み耽っているのは――。
少女マンガ。
木の床の上にマンガを広げて、自分も座りこんで、さっきから、ずーっと読んでいる。
あまりにも、もの凄い集中力で読んでいるので――。邪魔しちゃ悪いと思い、俺は物音をたてずに気を遣っていた。息遣いにも注意を払うほどである。
……まあ。きっとたぶん。
金たらいをひっくり返して、どんがらがっしゃんギニャー! とかやったとしたって、気づきもしないに決まっているのだが。
ちなみに「ギニャー」のところは、昼寝に来ているお猫様がびっくりしてあげる鳴き声だ。スーパーJCのジルちゃんをこの世界に呼び込んだ、黒い毛並みもお美しいお猫様が、Cマートの床の一角をなぜか気に入ってしまって、よく昼寝をしている。
べつに邪魔にもならんので、放ってある。
エサもやらんが、居着くのは勝手。Cマートでは、人もエルフも魔物も動物も、ニセ勇者であっても、みんな平等。魔物はべつにやってこないが。ニセ勇者なら、来るなっつーても、よく来るが。
少女マンガは、試しに買ってきたものだった。
りぼんのついてるコミックス? とか、なんか、そんなようなシリーズのなかから、適当に持ってきた。
どの本がおもろいか、なんてことは――本なんか読まない、俺みたいな人間に、わかるはずもないので――。
いっぱい山積みされてるのが、きっと、おもろい本なんだろう――と、賢く目星をつけて、買ってきたわけだが……。
べつに「少女マンガ」で無双できると思ったわけではない。こっちの世界で、向こうの文字が読める人間は、かなり少ない。
前はバカエルフとエナの二人だけだったが、最近は、少々増えていて――。
たとえばツンデレドワーフが「金属の本」を読みたいがために、字、覚えやがった。――どんな執念だ?
オバちゃんも、あちらの世界の料理レシピ本をプレゼントしたら、なんか読めるようになっていた。こんどJS/JC向けファッション誌をプレゼントしようと思っている。
あとは、キングとキングス連中あたりと、キングのとこに詰めているロリ学者さんあたりも、もうとっくに読めるみたいで――。連中。賢いし。
――って、けっこういるもんである。
こんど、本、すこし持ってこようか。しかしどんな本を持ってくりゃいいのかな?
俺が考えてもわかるわけがない。やはり美津希大明神にお伺いするのが、一番だな。
ちなみに「少女マンガ」は、思いつきで持ってきたはいいが、どうしたものかと、扱いに困って――。
見た目JSないしはJCのオバちゃんが、こーゆーの好きなんじゃないかと思って、持っていったら――。「オバちゃん、こーゆーの、わっかんないわよー。発情期、きてないしねえ」とか、意味不明の言葉とともにノーサンキューされてしまった。
俺はすっかり興味をなくして、ぽいっと、テーブルの上にうっちゃっておいたら、気づけばなんとエナが食いついていた。
しかもこの超反応。
金たらいがひっくり返ったって、気づきもしないような、この集中――。
――どんがらがっしゃん! ギニャー!
「あー、ごめんなさいですー」
バカエルフのやつが、本当に、やりやがった。金たらいひっくり返して、轟音を立てていた。バカだこいつ。
そしてお猫様も「ギニャー! キシャー!」と興奮されている。あーほらやっぱ、「ギニャー」って付くじゃん。なるじゃん。
……エナを見る。
まったく気づいていない。……金たらいひっくり返しても気づかないくらいじゃなかった。本当に気がつかなかった。
「……おわっちゃった」
しばらくして――。
エナが、ぽつんと、そう言った。
床の上にぺたんと、アヒルさん座りをしたまま、ぼんやりした目で、俺のことを見上げてくる。
――その様子が。うん、かーいー、かーいー。
「……ねえ。つづき」
「うん? ……ああ、それ、一巻だけしかないんだ」
俺は言った。
「……二巻。ないの?」
「あるけど。ここにはないなぁ」
俺は言った。
だって一巻だけしか買ってきてないもん。
「あっ……、ごめんなさい」
えっ? えっえっ? ……なぜ謝る?
ここにきた最初の頃は――、エナは、謝ってばかりだった。
それが最近はなくなったと思っていたら……。
なんか……? いま? 謝られた……。
「あのべつに……、催促したわけじゃなくって……。これ。すっごく、おもしろかったから……、だから……、その……ごめんなさい」
エナはまた謝ってきた。
「え。あ。はい」
俺は一秒でバックパックを出してきた。二秒で肩に担ぐ。三秒で「仕入れ」の準備を完了した。
「仕入れー……、いってくるわー」
「はい。いってらっしゃ~い」
五秒目あたりには、バカエルフに見送られて、店を出た。
しっかし、エナは、いつまで経ってもエナだなー。
催促くらい、してくれたって、いいのになー。
そしたらマッハで買ってくるのにー。
はーい。
店主さん、「書名」をよく確認せずに、出ちゃいました~。
ここ大事でーす。
ということで、次回につづきまーす。