第58話「キングス・フィールド」
いつもの昼すぎ。いつものCマートの店内。
だが、今日のCマートは、いつもと違って、大混雑だった。お客さんで賑わっているわけではない。
客じゃない連中が大勢押しかけてきて、大混雑しているのだった。
「おまえら、なんで、うちくんの? ホームパーティなら、誰かの家でやれ」
「ホームパーティではない。重要な会合だ」
キャンデーをぺろぺろと舐めながら、クソガキ――〝キング〟が、そう言って返してくる。
こいつ、うちの店を、ぜったい、喫茶店かなにかと勘違いしている。
友達たくさん連れてきて、貸し切りパーティをはじめやがった。
商品の棚なんて、いくつか、店外に追いやられた。
「マスター。これは名誉なことですよー。キングがこんなにたくさん集まるなんて……。歴史上でも、滅多にないことなんですよー」
俺の右隣に立つバカエルフが、そんなことを言ってくる。
クソガキ――もとい、〝キング〟どもがテーブルと椅子を占領しているものだから、俺たちは全員、立ちっぱなしだ。
「しらねーよ。どーでもいーよ。うっせ。ばーか。……だいたい、キングじゃねえじゃん。キングスじゃん。これ複数形じゃん」
クソガキどもは、半ダース以上、一ダース未満ぐらいはいた。
何人いるのかなんて、癪だから、数えてやんねー。
男の子のもいるし、女の子もいる。割合としては、だいたい半々くらいだ。
皆、頭に王冠を載せている。
皆、この世界の人々平均よりも、いい服を着ている。
真っ赤なマントを羽織ったりしているのは、うちの街の〝キング〟だけだが――。
お坊ちゃんも、お嬢ちゃんも、誰も、いい〝おべべ〟を着て、金髪碧眼で、たいへん見目麗しくいらっしゃる。
これはべつに、金持ちであることをアピールするためでなく、一目で〝キング〟だとわかるための識別子だとかなんだとか――。
うちのキングは、そう言うのだが――。
俺はぜったい、信じねー。
いいとこのお坊ちゃんお嬢ちゃんだってことを自慢したいに決まってる。成金が全身をピカピカにするのと同じだ。
うん。そうに決まった。
「おちゃ。です」
うちのお茶汲み名人、エナが、皆にお茶を配ってゆく。
いつにも増して、かしこまっている。
皆、年下ばかりなのだから、そんなに緊張することねーのに。
「おい。てめーのせいだぞ」
俺は左隣にいる男を――肘でどついた。
こいつは「ファントム・バレッタ」とかいう、そこそこは有名な冒険者パーティの、セインとかいう男。
なんでか、皆からは、「勇者セイン」とか呼ばれている。
だがこんなゴロつきのチンピラ冒険者が、勇者のはずがない。まえ、アンデッドの大群に襲われたとかで、ハナミズたらして泣いていた。
もし仮に万が一、本当に〝勇者〟なのだとしても――。
きっと〝村勇者〟とか、そんな感じだ。
おらが村の勇者とか、ぜったい、そういうローカルな感じの、しょっぱい、ご当地勇者なはずだ。
「………」
セインは答えない。真面目くさった顔で、突っ立ったままだ。
「なんか言えよ」
「ああ。すまない。キングスの警護に集中させてくれ。俺は今日はそのためにここにいる」
なんか真面目くさった顔で言いやがった。
うそをつけ。
こいつがうちの店にくる目的は、だいたい、ナンパだった。
こいつは隙あらば、うちのバカ店員を自分のパーティに引き抜こうとするのだ。ナンパするのだ。
だから俺は、このナンパ師とバカエルフの間に立っているのだ。
決してガードしているわけではない。
日当缶詰9個で雇える、格安の労働力を失うわけにはいかんのだ。ただそれだけだ。
そしてこいつは、バカエルフだけでなくて――。隙あらば、エナにまで微笑みかけるのだ。幼女を口説くロリコンなのだ。
顔だけは割とイケメンなものだから、エナは緊張してしまい――。店の雰囲気がいろいろ変わってしまう。邪魔っけなやつなのだ。お邪魔虫だ。チェーンソーの替えなら、いくらでも用意してやるから、とっとと、剣を持って帰れってんだ。
ばーか。ばーか。ばーか。
エナが緊張してしまっているのは、きっと、こいつのせいだろう。
こいつがすぐ口説くからだ。
しかも俺とはクチきけねーとか? なんなのこいつ?
しーね。しーね。しーね。
「お、おかわり……どうですか?」
エナが、おずおずと、キングたちの一人に――そう聞いている。
「ええ。だいじょうぶよ。ありがとう。お嬢さん。美味しかったわ」
キングたちの一人――、上品な語りかたで、エナにそう言った。
とっても綺麗な女の子だった。
……お子様だが。
10年くらいしたら、超美人になってるかなー。……5年くらいかな?
ガキの年齢は……よくわからん。
エナも、子供だ子供だ、と、思っていたら――。〝キングス〟たちと比べると、ぜんぜんお姉さんに見えてしまう。
「プリームム。――そろそろ始められては?」
「うむ。クゥアルトゥム。始めるとしよう」
女の子が言う。呼ばれて答えたのは、うちの〝キング〟だ。
――なんだよ? こいつら名前あったんじゃん。〝キング〟っていうのが、名前だと思ってた。
「1番目と4番目って意味ですよ。マスター」
バカエルフのやつが、小声で言ってくる。
ほー。へー。はー。
なんかの会員番号か? お子様のあそびの番号か?
うちのキングが会員1番なのか。
すると戦隊ものだと「レッド」のあたりか。じゃあ4番目の女の子は「ピンク」ってあたりか。いまだと「黄色」か「白」になるか?
「6番目。ご足労頂いて、感謝する」
うちのキングが、また、よそのキングに話しかける。
「……当然だ。此度の戦を止めたのは、おまえの功績だからな。クソいまいましいことではあるが」
お。なんだこいつ。クソとか言った。ちょいワルで、ヒネくれてるヤツ、いたー!?
こいつは黒だな。はじめは敵として現れておいて、あとで味方について、四の五の言いながら、なんだかんだいいながら、助けてくれたりするやつだな。めんどくさいやつだな。いるよな。そーゆーやつ。
「私の功績ではない。すべては、そこの……店主のやったことだ」
うちのキング――プリームム君が、そう言った。
キングス全員の視線が、ずびっと、俺に集まる。
へ? 俺?
俺……? なにかやったん?
「マスター。マスター。……ほら。マスターのことですよ」
バカエルフが、肘でつついてくる。
わかってるよ。そんなん。
なんで自分が話題にあがっているのか、わかんねーだけだってば。
「店主。こちらへ。……皆に紹介したい」
「お、おう……」
呼ばれて、俺は、なんとなく前に出ていった。
なんか、キングの――うちのキングの――株をあげることになってしまうみたいで、癪だったが、なんとなく、雰囲気に飲まれて、前に出て行ってしまった。
「キングスを代表して、礼を言いたい」
うちのキングの声とともに、十人は超えてるガキどもが、一斉に俺に向けて頭を下げる。
一人例外がいて――さっきの、なんかごねてた6番目とかいうやつだ。
ぶすっとした顔でいる、そいつに――。
「――テルティウム?」
女の子が、ヒネガキに言う。
「貴方の管轄地域でしたよ。本来なら、プリームムに礼を言うところよ?」
「わかっている」
女の子に言われて、そいつもしぶしぶ、頭を下げた。
うはははは。だっせえー。
ガールフレンドに叱られてやんのー。
「なー? テルなんとかって、それ、何番?」
「3番目ですよ。マスター。このあたりの地方では、3番目に〝プロテクター〟になられたキングです」
バカエルフが教えてくれた。
ふむ。このお子様たちの戦隊チームの名前は、「プロテクター」っつーのか。
なんかそれっぽい名前だな。
「彼が、今回の戦争を止めた最大の功労者だ」
うちのキングが、そう言った。
――それで俺は、なんの話をされているのか、ようやくわかった。
このまえ――といっても、もう、2ヶ月くらい前になるのか?
どこか遠くの街で戦争が起きそうだという話があった。
それを止めるために、俺はちょっと頑張った。
いま、その話をされているわけだ。
「彼のおかげで我々はこうして――」
「――ええ? ああいや! ぜんぜんそんなことないって! 俺はただ塩を運んだだけで――! しかも俺は10分の1しか運べてなくて。あとダウンしていただけだし。残りはぜんぶ、ジルちゃんとそのお姉さんと、ジルちゃんのカレシとが運んでいて――。あと商人さん! そう! 隊商率いて10トン運んでいったのは商人さんだから! だいたいほとんど功績は商人さんだから! 最初に言いだしたのだってそうだし! だから礼を言うなら俺より商人さんのほうで――って? なんで商人さんいないの?」
「うむ。商人氏の功績も無論であるが。彼はいま二つの街への物資の交易で忙しくてな。――なにしろ商人なのでな」
ああ。なんかそんなこと言ってた。
二つの街の戦争は止まったが、いろいろ、足りない物がたくさんあるので、交易商人は大忙しなのだと。
このあいだ立ち寄ったときに、そういえば、言ってた。そんなこと。
――ん?
なんか空気がおかしいな?
セインとエナが、目をまん丸に見開いて、俺を見つめている。
なにかに驚いているような顔?
そしてバカエルフのやつはといえば――。くすくすと笑って、俺を見ている。
「キングスの話を遮られるのは、マスターくらいなものですねー」
ん? なに? 俺なにかやったん?
「いや。構わない」
うちのキングが答える。
ん? ん? ん?
なに? なんなの? ガキの話を遮ったくらいで、びっくりされるとか、笑われるとか?
いったい、なんなの?
「――話の続きだが。彼のおかげで、我々は、集まって話しあうことに決めた。これまで各個がバラバラに活動していたわけだが。それでは今回の戦を止められなかった。今回のような事態は、再び、起きるかもしれない。我々は〝プロテクター〟の本能として、それを座視することはできない」
うちのキング君が、なんか、難しいことをくっちゃべっている。
ガキにはああいう時期ってあるよな。なんかむずかしい、それっぽいことを、コッコつけて言いたくなる時期ってものが。だれでもいっぺんはかかる、ハシカみたいなもんだな。
「ここにこうして、我らは、集まった。……第一回。キングス・フィールドの開催を宣言する。〝世界の平和のために〟」
うちのキング――プリームム君が言う。
ほかのキング――。たぶんみんな番号付き――の子たちが、一斉に、声を揃えて――。
「〝世界の平和のために〟」
今日のCマートは、ガキのお子様会に占領されていた。
まあ、そういうこともある。たまにはいいか。
この店では、俺が店主だ。俺がルールだ。
俺が「いい」といったら、それは、「いい」のだ。
今日は、いつものゆるふわまったりではなくて、ちょっと雰囲気の変わった話でした。世界観掘り下げ回ってところでしょうか。
深読みされるのも、店主さんと同じに「ガキの超平和プロテクターごっこ」あたりで理解されておくのも、どちらでもー。紐解くならラリィ・ニーブンあたりでしょうか。
次回からは、いつものCマートに戻ります。
あと、新木は、新連載をはじめました。
よろしければ、ぜひ、ご覧になってくださーい!
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「出戻り転生。~元勇者、異世界へ戻る~ 」
http://ncode.syosetu.com/n0138dh/
現実世界で取るに足らない生活を送っていた主人公。
脳裏に浮かんでやまないのは、異世界で「勇者」として活躍していた「夢」だった。
トラックに跳ねられ、異世界に転生してみると、
数十年前にパーティを組んでいた仲間の美女が、俺のことを待ち受けていた。
「お久しぶりです。マスター」
かつて自分が救った平和な世界で、レベル1からイージーモードで再出発!
レベル1の仲間たち(美女&美少女)に慕われまくって!
明るく楽しく! 自重しない超ニューゲームを! 俺は、するっ!!