第51話「12進数」
異世界Cマート繁盛記! 書籍化第1巻! 本日発売です!
ダッシュエックス文庫より!
イラストはGJ部でおなじみの「あるや」さんです!
いつもの昼下がり。いつものCマートの店内。
皆が食べている昼食は、向こうの世界のおみやげのピザだった。
今日、仕入れに行ったとき、帰りがけにピザ屋の前を通って――。
へー、デリバリーのピザって店でも買えるんだー、と思って、テイクアウトだと半額というのぼりを見て、バカエルフとエナに、おみやげを持っていってやろうと思いついたわけだ。
案の定、バカエルフはくいついてきた。
「おっふ! 肉味がします! おっふ!」
ふははは。ばかめ。
おまえがいま食っているのはベジタブルピザだ!
肉など一片も入っておらんわ!
こいつは――とろけたチーズを「肉味がします!」とかいって無心で食っている。まあその食べっぷりはちょっと可愛いけども。
「エナはシーフードが好きなのかー?」
「……よくわかんない」
「それ。丸いやつ。それはエビといって。海に住んでる生き物だぞー」
「うみ?」
「ああ海だ」
「……よくわかんない」
エナも会話よりとろけたチーズに夢中らしい。はふはふ言いながら、伸びきったチーズを、びったん、とか、ほっぺたに張り付けて、困っている。
うむ。
かーいー。かーいー。
「ひー、ふー、みー、3人だと4切れずつになるな」
ベジタブルピザが12切れ。シーフードピザが12切れ。
ちなみに、ミート系のピザがなかったのは、ちょっとしたバカエルフに対するいたずら心だったが……。ぜんぜん効いてない。
「あー。それですよ。マスター」
「なにが〝それ〟なのかわからんが。俺のはやらんからな。エナのもだめだぞ。エナは食べ盛りなんだからなー。いっぱい食べろよー。大きくなれよー。俺が食いしん坊怪獣からガードしてやるからなー。安心しろよー」
「……大きいほうが、いいの?」
「もちろんだ」
「……じゃあ。いっぱい食べる」
エナは真剣な顔をして、ピザを手に取った。右手と左手と、それぞれに違うピザを取って、むしゃむしゃと食べる。
「よし食え。バカエルフに食われる前に食え」
「あのぅ……? わたし、エナちゃんのピザを狙っている話になっています?」
「そんなことをしたら、俺が許さんからな」
俺はエナの保護者として、バカエルフのやつに、きつく言った。
こいつの食い意地は、よく知っている。
「いえ。ですから。わたしがしていた話は――。マスター、それですよ」
「どれだよ?」
「ピザの切り方ですよ」
「は? 切り方がなんだって?」
「まえにマスターは、言いました。なぜこの世界の算法は12進数であるのかと。10進数でないのかと」
「言ったっけ?」
「言ってますよ。いつも。銀貨1枚でお買い物して、銅貨1枚のものを買うと、お釣りが銅貨11枚になるので、いつも、ぶちぶち文句言ってるじゃないですか」
「お客さんには、言ってねえよ」
「そこは信頼してますよ。――でも、わたしには言いますよね」
「おまえには言ってもいいじゃん」
「そこも信頼してますって。――だから、12進数になってる理由です。それが」
なんか、バカエルフのやつは、こそばゆい言葉を連発する。
褒めたって、ピザはやらんぞ。3人で3等分だ。平等で均等で、それがWIN-WINの法則だ。
「どれよ?」
「だからピザです。ピザの切り方。それ、もし10等分になってたら、どうなってるんですか?」
「ん? ええと……」
「一人。3.333333……以下省略、枚だな」
「小数はなしです」
「じゃあ。おまえが3枚で、俺とエナが4枚ずつだな」
「いえマスターはそういうときには、ご自分が3枚で、わたしとエナちゃんには、なんだかんだいって4枚にすると思いますけど」
「しねえよ」
「あとマスター、それ11枚の分け方と勘違いしてますよ。10枚だったら、わたしとマスターが3枚で、エナちゃんが4枚になるんじゃないですか?」
「うっ……」
バカエルフのやつは、薄く微笑みながら――。
「まあとにかく10進数だと、困るわけです。うまく割れる数は、2と5しかありません。だから12進数になっているんです。12進数であれば、2でも3でも、4でも6でも、どういうふうに割ることもできますよね」
「ほー。へー。はー」
俺は感心した。
なるほど。そうか。
「昔はこの世界も、10進数だったらしいですよ。指の数が両手で10本の種族は、必然的に10進数になってしまうみたいです。だけど、はじまりの魔法使いが、この世から、あらゆる争いをなくそうとして――。大地に翻訳魔法をかけたり、色々とやった偉業のなかに、算法も改めもありました。そこで12進数になったわけです」
「ほー。へー。はー」
なんか異世界っぽい。
異世界には異世界の歴史があった。
「わたしたちも、もし、12進数になっていなかったら、ピザの取り合いで、ケンカになっていたかもしれませんねー」
バカエルフが、うまくまとめる。
それがあまりにも、上手で、綺麗にまとまりすぎていたので……。
ちょっと悔しい。
「……なんねーよ」
俺は小さくつぶやいた。喧嘩なんかしない。俺たちがするはずがない。
次は12/25の更新予定です。
Cマート書籍発売記念! イラスト公開第3弾は、今夜中の予定~。