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第48話「占い禁止」

「失礼。予言書を売っているというのは、こちらかな?」


 いつもの昼過ぎ。いつものCマートの店内。


「おー。キングか。どうした? アメもらいにきたかー?」


 なんか堅苦しいことを言いつつ、入ってきたキングを、俺は笑顔をで迎えた。

 いつも偉そうな態度でいるこのクソガキ――もとい、おガキ様は、皆から〝キング〟と呼ばれている。

 なんかガキなのに、街の顔役っぽいことをやっているようで、皆から信頼を受けている。

 俺もこのガキには大きな借りが一つあって、「飴ちゃん永年無料」の約束をしている。


 キングはアメちゃんが好物だ。いくら大人びたことをやってても、そういうところは、やっぱガキだ。


「ほれ。飴ちゃんだ」


 俺は棒付きキャンデーをつきつけた。

 だがキングは受け取らず――。

 あれ? そういえば、今日は飴を舐めていない。お茶を飲むときにも飴を手放さないのがキングなのだが。


「こちらで〝予言書〟を売っていると聞いたのだが」

「ああ。〝おみくじ〟なら売ってるぞ」


「すごいんですよー。未来のことが書いてあるんですよー」

「あたるの」

 バカエルフとエナの二人がそう言った。

 握った手を上げ下げやっている。バカエルフの仕草だったが、エナにうつった。まあ、かわいーから、べつにいいが。


「キング――。おまえも一枚引いてくか?」

「もちろん。そのつもりだ。確認しなければならないからな」


「へんに難しいポーズなんて取らないで、引きたーい、って、言えばいいんだ」

 俺はティッシュの空き箱を差しだした。


 紙箱は酷使されてもうボロボロだ。

 もうちょっとそれっぽい御利益のありそうな箱に替えようと思ったのだが……。神社にあるような六角形の木の箱とか。

 皆は気にしていないので、俺も気にしないことに決めた。

 こちらの世界は、はったりとか飾り気とかいったものに無縁で、そのへんが気軽だ。

 化粧をして歩いている女の子さえいないくらい。エナやオバちゃんやバカエルフや、近所バーちゃんの顔ばかり見て過ごしていたから、このあいだまで気がつかなかったのだが……。

 こちらの世界の女の人は、化粧している人が、一人もいない。


 あ? ひょっとして化粧品とか、持ってきたら、ものすげー勢いで売れるんじゃね?


「引いたぞ」


 キングは無造作にくじを引き出した。しゃかしゃかと振ったりしない。。


「ん。……凶。だな」


 大凶と合わせて、たったの1本しか入っていないハズレを、キングは見事に引き当てた。


「それは? よい未来なのか? 悪い未来なのか?」


 俺は引き出しから「凶」の紙を取り出すと、キングに押しつけた。

 コピー機がないから手書きだ。最近はエナの仕事になっている。おかげでエナは字がどんどん上達してゆく。


「失せ物……見あたらず。仕事。動かないほうがよいでしょう。友人。いまの友人を大切に。恋愛……きっといい人が現れます。……うむむ」


「ちなみにもう一回引くと、やり直すこともできる」


 なんか本気でなやんでいるっぽいので、俺はそう言ってやった。

 本家本元のおみくじのルールではどうだったか知らんが、ここ、Cマートおみくじのルールでは、そうなっている。

 俺が店主だ。俺がルールだ。


「なんと。未来を変えることができるのか! 引く! 引かせろ!」


「おっと。すまんな。サービスなのは最初の一回だけだ。運命を変えたくば、きちんとお代を払ってもらおうか! ――ふははははハッ!」


 俺は悪役っぽく笑った。


「いくらだ?」

「銅貨1枚だな。――ちなみにいまの紙、返してくれれば、錫貨1枚でいいぞ」


 料金なんてほとんどないようなものだが……。

 結果を書いてある紙のほうは、エナがせっせと手書きで作っているので、その労力に見合う金額を頂くことにしている。


「あとで届けさせよう」

「おいおまえ。錫貨の1枚も持たずに駄菓子屋……じゃなくて、うちの店きたのかよ?」


 俺は呆れた。鼻水たらしてるガキだって、錫貨の1枚くらいは握りしめてくるぞ。本当なら銅貨1枚するところを、錫貨1枚でやってるわけだが。


「キングの名において約束しよう。あとで必ず届けさせる」

「いやお前の名前なんかで約束されたってなー。……まあいいか。ほれ。引け」

「うむ」


 キングはくじをもう一つ引いた。

 こんどのくじは――。


「……ん。おお。末吉だ」

「それは? よいのか?」


「ああ。中の上ってところだな。もう1本、引くか? 次は大吉が出るかもしんないぞ?」


 大吉は十数本のうちに3本入れてある。テンパってしまった客が、躍起になって引きまくったら、そのうち出てくるぐらいの確率にしてある。

 駄菓子屋のババアみたいに、当たりくじをわざと入れずにおくとかいう、阿漕あこぎな商売は、Cマートの商法ではない。


「大吉……というのが、いちばんいい運命なのか?」


 キングがごくりと喉を鳴らした。

 震える手をくじの箱に伸ばしてくる。

 ああこいつはギャンブルにハマる側だなー、とか思いつつ、俺は見守っていた。


「い、いや……。やめておこう」


 キングはくじを引かずに終わった。見事に自制しきった。


「私の運勢など。どうでもいいのだ。いたずらに運命改変などしてはならんのだ」


 やめる理由が、お小遣いを無駄遣いしてしまうから――ではなくて、なにか変な小難しい理由だった。

 キングらしいといえば、らしいのだが……。

 俺はそこに興味を持った。


「運勢を変えると、なにがいけないんだ?」

「未来を変えてはならない、とは言わない。だが時間干渉には、厳密な観測と、干渉に足る大きな理由が必要で――」

「未来なんか変えねえって。変わるわけねえだろ」


「え?」

 なに言ってるのかわからない、という顔で、キングは俺を見上げた。

 その顔が、年相応に幼いもので――。当然、そんな趣味などまったくないわけであるが、ちょっと「カワイイ」などと思ってしまった。


「なに言ってるのかわからねーよ。くじを引き直したら、そりゃ運勢(、、)は変わるが、未来なんか変えられるわけねーだろ」


「え? 運命を変えるのではないのか?」

「だから、なんで?」

「げんに予言は変わっているではないか」

 2枚の紙をぺらぺらとやって、キングは言う。


「それ予言じゃねえし」

「え?」


「あー、ほら、バカエルフ。おまえのせーだぞ。おまえが〝予言〟とかゆーから、信じちゃった可哀想な子が、ここに一人!」


 俺はバカエルフを指差した。糾弾した。

 いーけないんだー、いけないんだー、と、やった。


「えー? マスター。言ったじゃないですかー。わたし。聞いたじゃないですかー。予言書ですかーって」


「だから俺は予言じゃなくて験担ぎだって説明しただろ」

「だからその〝げんかつぎ〟っていうのは、いったい、なんなんですかー」

「うーん。縁起が良くなるもののことなんだが……」


 そういえば前回もここで、こんな同じような不毛なことをやっていたような気が……。


「おい。キング。おまえならわかるんじゃないのか? こいつより頭良さそうだし」

「あ。ひどーい! わたしけっこうアタマいいほうなんですよー?」

「うそだ! ぜーったい! うそだ!」


「いや。痴話喧嘩はほかのときにやってもらえるとよいのだが」

「痴話喧嘩じゃない! そんなんじゃない!」

「〝ちわげんか〟って、なんですかー? なんですかー? なんですかー?」

「うるさいおまえはだまってろ!」


「あの。説明……。書きました。これなら……、どうですか?」


 エナがすすっとやってきて、キングにメモ書きを手渡した。

 そしてささっと引っ込んでゆく。人見知りはまだ直っていない。


 しかしエナのやつ。キングと同い年ぐらいに見えるのに、敬語とか使ってるし。

 ガキ同士友達になっちゃえばいいのに。


「ふむ……。予言書でないのであれば、きちんとこうして知らせておけば……、まあ問題はあるまい」


 キングは紙の文章を読むと、そう言った。


「なんて書いてあるんだ?」

 だが俺は読めない。こっちの世界の文字は覚えていない。


「ふふっ。マスターったら、こんな字も読めないんですかー? 〝ぷりーず〟ってゆったら、読んであげてもいいですよー?」

「ぷりーず」

「はやっ!」


 エナはくすくすと笑いながら、紙を読みあげた。


「これは予言書ではありません。未来が変わるわけではありません。未来が変わった気分になって気持ちが明るくなります。なお感覚には個人差があります」


 おお。エナ。ナイス。


 後日――。

 Cマートおみくじは、予言書でなくても人気になった。店にやってくる人は、皆、一回は引いていって、本日の「ウンセー」を確かめてゆくようになった。

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