表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
53/142

第47話「占い無双」

 いつもの昼過ぎ。いつものCマートの店内。


「なんですかー。なんですかー。マスター。それはなんですかー?

「ん?」


 カウンターに座っていた俺は、顔をあげた。

 バカエルフが言ってきているものが、なんなのか、すぐにはわからなかった。

 べつに食い物なんかねえし……?


「それです。それー。それはなんですかー?

「ん? これか?」


 ようやくわかった。

 俺が暇つぶしになんとなく読んでいた〝おみくじ〟だった。


 昨日。向こうに行ったとき、美津希みつきちゃんと会って、なんとなく神社にお参りなんかして、そこで引いたおみくじが財布の中に入っていたので、取り出して読んでいたのだ。


「だいよし?」


 バカエルフは俺の手元をのぞきこんで、つぶやく。


「これは大吉だいきちって読むんだ」


「仕事……。万事うまくいく。交渉……。よい友人に恵まれるでしょう。取引……。今後大きな取引があるでしょう」


 バカエルフは読んでいる。

 俺は隠しもせずに読ませてやった。まあ大吉だし。べつに読まれたって困らんし。


「なんなんです? これ?」


 バカエルフは、きゅるんと、小首を傾げた。

 悪態ついてないと、たまに、可愛い。


「あれ? こっちにはねえの? こーゆーの?」

「こーゆーの、って、どーゆーのですか?」

「おちゃ、です」


 エナがタイミング良く緑茶を入れてきてくれた。


「おー。おー。おー。ありがとうな」


 小さな頭を、なでなでとする。

 ぐりんぐりんと撫でると、首をぐるぐる回してエナは喜ぶ。


「こーゆーのってのいうのは……、占いみたいなやつ、とかだよ」

「占いってなんですか?」

「うーん……」


 どうも、こちらの世界には「占い」がないようである。

 俺はどう説明すればいいのか、迷ってしまった。


「ええと、つまり、ここには未来のこととかが――」

「未来? それは予言書のようなものですか?」

「そんなようなものかな? いやどうなのかな?」


 予言書――っていうと、どうなんだろう?


「予言書なんですか? どうなんですか? そこはっきりしてくださいよ」

「なぜ怒る? なぜ俺は問い詰められている?」


 普段、のんびりしていて、バカに見えるほどのバカエルフが、滅多に見せない真面目な顔をして、俺を追及してくる。

 エナもふんふんと鼻息を荒くして、おみくじの紙を食い入るように見つめている。


「のぞみごと、かなう、ばんじ……うまくいく。こいわずらい……なやむことなし」


 一部読めないところもあるようだが、だいたいは解読している。

 すごい。もう日本語こんなに読めるんだ。取説の翻訳を任せられるかもしれない。


「まあ、未来のことっていっても……。これは験担ぎみたいなもので……」

「げんかつぎ?」

「縁起をかつぐというか」

「えんぎ?」

「ああもう! 験担ぎも縁起もねえのかよ。こっちには」


 言葉が伝わらないことが、こうしてたまに起きる。

 前に聞いた話だと、俺とバカエルフとは、それぞれ、違う言葉を話しているそうだ。なんかそれが魔法によって、自動翻訳されているらしいのだが、こちらの言葉にないものは置き換えがきかないのか、こうして「きゅるん」と、いつまでも首を傾げつづけることが起きる。


「じゃあもういいよ。予言書ってことで」

「やっぱり予言書でしたかー」


 バカエルフはにこにこと笑った。

 なんか、ちょ~おっとニュアンスの違いがあるような気がするが。

 しょーがない。


「それで、これはどこで貰えるの物なのでしょう?」

「わたしも。わたしもっ!」


 バカエルフが言う。エナが握りしめた小さなこぶしを、一生懸命に上げ下げする。

 なんでこいつらこんなに食いつくかなー?


「向こうの世界の、神社とかで……。だからおまえらは、もらえねーの」

「そんなぁ……」

「ええーっ……」


 二人は大いに落胆した顔をした。


 バカエルフのほうは、正直、どーでもいいのだが。まーったく本当になにひとつ一切どうでもいいのだが。

 エナがしょんぼりしているほうは、ほうっておくことはできない。

 これでもいちおう〝保護者〟という自覚がある。


「わかった。わーった。わかったから。1時間マテ」


 俺はメモ帳とワリバシとティッシュの空き箱を持ってきて――工作をはじめた。


    ◇


 一時間経った。


「マスター。まだですかー。もう半セムトは経ちましたよー?」

「まーだだよー」


 俺は執筆に忙しい。

 はじめのうちの数枚は、いちおう文面とか整合性とか考えながら書いていたのだが……。

 十数枚も書く頃には、もう適当。思いついたものの垂れ流し。


「もーいーかーい?」

「まーだだよー」


「もーいーの?」

「まーだ」


 二人が言う。俺が答える。すっかり別の遊びになっている。

 女どもは、きゃっきゃっきゃっ、とか言いながら喜んでいる。

 なにが楽しいのか。俺だけ労働してるのだが。


 そして俺は、ようやく最後の1枚を書き終えた。


「ほいよ。おわったぞ」


 ばさっと十数枚の紙束を重ねてカウンターのうえに置く。

 十数枚の紙束は、手製の「おみくじ」だった。


 箸には先っちょに番号が書いてあって、それをティッシュの箱に入れてある。

 向こうの世界の神社で100円で引く〝アレ〟を完全に再現してみた。


 紙束のほうも工夫した。

 大吉から中吉から小吉から――。あとたしか、〝末吉〟とかゆーのもあったはずだし。

 もちろん。凶とか大凶とかも入れてある。ただし割合としてはいちばん少なくしてある。

 「吉」のほうが喜ばれるはずなので、そっちを多めに入れてある。

 大凶なんて、たったの1本しか入れてない。


「よし。くじを引け」

「はーい! はいはーい!」


 手を出してくるバカエルフの手を、ぴしっと冷徹に撃墜して、箱をエナに向ける。


「ほい。エナからだ」

「……えと?」


 ここで「わーい」とならずに、「いいの?」という目で他人を見るのが、エナという女の子だ。だから保護してやらなければいけない女の子だ。


「先に引いていいですよー」

「だそうだ。……ほら」


「ひくよ」


 エナは箱をしゃかしゃかと振り、割り箸を一本、取り出した。


「ひいたよ」


 じっとみる。


「じゅう、いち……ばん」


「十一番は、これだなー。……おお。大吉じゃんか」

「それ? すごい?」

「すごいすごい。一番いいやつだぞ。それ」

「わ……」


 エナはなにかを言いかけて――。また他人を見る。

 エルフの娘が穏やかに微笑んだのを見て、ようやく――。


「……わーい」


 喜びを表現した。もちろん。小声で。


「マスター。マスター。マスター。わたしも。わたしも。わたしも」

「一回言えばいいっつーの」


 バカエルフはいつでも大事なことは三回繰り返す。ほんと。バカなやつ。


「ほいよ」


 俺はティッシュの箱を差しだした。

 バカエルフは、しゃかしゃかしゃかしゃかと、気合いを入れまくって、バカみたいな勢いで振り回して――。


 引いた。


「大凶……、だな」

「それはいいやつですかー? ですかー? ですかー?」

「いちばん悪いやつ」

「ノオオオオオオーーーーーーッ!?」


「ちなみに。おみくじというのは、悪いやつが出たら、引き直してもいいんだぞ」


 バカエルフがあまりにもガチに本気に落ちこんでいるので、俺はそう言ってやった。

 あれ? だったかな?

 凶が出たときに、結んで帰ってくると、ノーカウントになるルールなのだと、このあいだ美津希ちゃんに教わった。

 引き直しルールのほうは、どうだったっけ……?


 まあ。いっか。

 Cマートおみくじルールでは、そうなのだ。そうに決まった。

 俺が店主だ。俺がルールだ。


「じゃあ……! もういっかい! ご先祖様――お願いいたしまするぅ!」


 気合いを入れて引き直した、その結果は――。


「大凶」

「ノオオオオオオオ!」


 大凶なんて、一枚しか入れてないのに。2回も続けて引き当てるとか、なんたる運。いや。不運のほうか。


「もいっぺん!」

「大凶」

「NOOOOOOOOOO!!」


「もいっぺん!」

「また大凶」

「うわああああああーーーん!」


 その後、バカエルフは、7回つづけて大凶をひきあてた。

 笑うに笑えない。

 こういうものを、あまり信じていない俺ではあるが――。

 ここまでくると、なにかあるんじゃないかと思ってしまう。


 店の隅っこで、膝を抱えて、しくしく泣いているバカエルフにため息をついていた俺は――。

 ちょいちょいと、シャツの裾を引っぱられた。

 エナが自分のおみくじを差しだしてきていた。


「ここ。なんて書いてありますか?」


 ちょっと難しいところがあって、読めなかったらしい。


「ん? ああここはな。恋愛運。気長に待つが良いだろう」

「そっか」


 エナは、にっこりと微笑みを浮かべた。

後日。「Cマートおみくじ」は、Cマートの主力商品になったようです。

皆が競うように引きにきたとか。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ