表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
43/142

第39話「川の字」

 いつもの夜中。いつものCマートの床の上。


「くちゅん!」


 寝袋に入って目を閉じていた俺は、誰かのくしゃみの音を聞いた。


 かわいらしい感じだったから、きっとバカエルフじゃないはずだ。

 あいつだと、きっと、野太い感じのくしゃみを、バカっぽくやりそうな気がする。


「エナか?」


「……ごめんなさい」


 店の隅の段ボールハウスの中から、声がした。

 なんでエナは第一声からして謝ってくるかなー。そこがカワイーところなんだけど。


「寒いのか?」


 そういえば、今日はいつもよりすこし冷える感じがする。

 この異世界は、季節というものがあるのかないのか――。

 いつもだいたい、春か秋かの快適な気候なのだが、たまに、ちょっと冷える日と、ちょっと暑い日がやってきたりする。

 今日はその、ちょっと寒い日のほう。


 俺は寝袋にくるまれているし。バカエルフにはボロマントがあるし、だいたいあいつはバカだから風邪なんてひくはずがないし。


 エナには段ボールハウスしかない。

 あれはきちんと戸締まりすれば、けっこう暖かいのものなのだが……。

 しかしエナの段ボールハウスは、使いこまれて、けっこうボロボロになってきている。穴なんか空いていたりもする。


 あれでは寒かろう。俺はそう思った。


「おーい、エナー。寒いなら、こっちくるかー?」


 俺はそう声をかけた。

 何の気なしに、本当に深く考えずに、そう言った。


「えっ……!」


 段ボールハウスの中から、絶句……が、聞こえた。


 うああ?

 俺? やっちまった?


 たとえるなら、年頃の娘に「一緒に風呂に入るかー?」とか言っちゃったお父さん的な――ものすごいアウト感?


 頭から血の気が引いてゆく感じを、俺はたっぷり、30秒ほども味わっていただろうか。


「……いいの?」


 エナの言葉に、俺は救われた。

 あの絶句は、遠慮してのものだったらしい。


 暗がりの中、もそもそと段ボールハウスから這い出してくる音がする。

 そのままこっちにやってくるのかと思いきや、エナの気配は、もう一方の隅へと動いていった。


「エルフさん。エルフさん」

「うへへへへ……、マスターだめですよー、もお食べられませーん」


 バカエルフはバカな寝言を言っている。

 やっぱり食う夢を見ている。


「そんなお肉ばっかり食べさせてー……。マスター……。そんなにわたしのこと好きなんですかー」


 バカエルフはまだ起きない。


「一発なぐってやれ」


「エルフさん。エルフさん」

「んあ? あー……? エナちゃん? おしっこですかー?」

「ちがうの。あのね……」


 こしょこしょと内緒話。


「ああ。いいですよー」


 バカエルフのやつは、なにか、その内緒話を承諾。


 そしてなんでか、二人して、こっちに移動してきた。


「おいおい? な、なんだよ?」

「ああマスターは動かないでください。そのままで」

「えっえっえっ? なになに? なにされんの? 俺? されちゃうのっ?」


 エナとバカエルフの二人は、俺の隣にやってきた。

 バカエルフが、ころんと俺の隣に横たわる。

 そしたらエナが、俺とバカエルフの二人の間に、入ってきた。真ん中に寝ころがる。


 三人で一枚の毛布をかけた。


「ああ。川か」


 俺は言った。理解した。

 いったいなにが起きるのかと思ってしまった。

 R15ないしはR18指定になるようなことは、一切、なかった。

 よかった。よかった。やはり全年齢指定だった。


「川って、なんですか? エナちゃんの希望で、こうなったんですけど」


「ほら。俺の世界の字の、漢字で、〝川〟ってあるだろ」

「ああ。なるほど。なるほどー。たしかに。3人で3本で、〝川〟になってますねー。なるほどたしかにー」

「そそ。お父さんとお母さんと、子供で……〝川〟なわけだな」


 バカエルフがママ役なのが、ちょいと癪にさわる。


「え? わたしがママなんです?」

「おまえがゆーなってーの」


 俺は嫌そうな声をだした。


「わたし……、子供?」

「そそ」


 俺はよい声をだした。


 ――ぎゅうう。


「いてててて。なに? なんで? なんで俺つねられてるの?」


「マスターがバカだからですよー」


「てゆうか。つねったのだれ? おまえ? おまえ?」


 暗がりで、よくわからない。


 エナのやつが、ぴとっと、俺にくっついてきた。

 子供は体温が高いのか、湯たんぽみたいで、暖かかった。

 向こうも人肌であたたかいはずだ。三人ではいった毛布の中は、ほかほかとしている。

 これでエナも風邪をひくこともないだろう。


 俺は襲ってきた眠気にまかせて、すやすやと寝た。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ