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第35話「ティーパーティ無双」

 いつもの午後。いつものCマートの店内。


「うーん……。やはり香りがいいですねー」

「そうか?」

「エルフの飲み物って気がしますー」

「おまえそれ自分が高貴な生き物とか言ってる? 正直。ドン引きだぞ?」


「色がきれいだねえ。この緑の色がおもしろいねえ」

「一般的にいえば、オバちゃんには番茶のほうが、イメージに合うかと思う」


「ふむ。午後にティーを嗜む文化か。これは広めてもよいかもしれんな」

「おいクソガキ。なんでおまえがここにいる。呼んでもないのにやって来て、当たり前のような顔をしてお茶を飲んでんじゃねーぞ?」

「マスター。キングに不敬ですよー? せっかく来ていただいたんですからー」


「ふむ。これは茶か。茶だな。わしは忙しいのだが、店主がどうしてもと言うなら、飲んでやらんこともない」

「おいツンデレドワーフ。忙しいなら店帰って鉄叩いてろ」


「おちゃ……、です。……どうぞ」

「やあ。ありがとう。ところで君は勇者セインの名は耳にしたことはあるかな?」

「おい自称勇者。うちの子を口説くな。あとなんでおまえまでいる?」

「愛用のエクスカリバーが刃こぼれしてしまってね。新しいものを頂こうかと」

「変な伝説的な名前を勝手につけるな。あれは《ゾンビクラッシャー》だっていってるだろ」


「もう、マスター。さっきからうるさいですよ。皆が来てくれて、賑やかになって、嬉しいって、言えないんですか?」

「べつに来てくれって言った覚えねーし。迷惑だし」

「はいはい。皆さんすいませんねー。うちのマスター、ツンデレなんですー」

「おいおいおい。誰がツンデレだって? ツンデレはドワーフ一人で充分だろ」

「じゃあ、ドツンデレでー」

「盛るなよ」


 俺は悪態をついた。

 今日は異世界から〝緑茶〟なるものを持ちこんでみた。ああ――〝異世界〟とゆーのは、この場合、現代日本のことを指す。

 最近は、もうすっかり、こっちの世界が自分の居場所と感じてしまっている。


 緑茶を持ちこんでみたら、バカエルフのやつが、ふんふん匂いをかいで、歯をそのまま口に入れようとするから、おでこを押さえて遠ざけて――一緒に持ちこんだ急須にお湯を注いで、3分蒸らして、適当なマグカップに注ぎ分けていたら、オバちゃんがなんだいなんだいあたしにナイショでおいしいもの食べる気かいと乱入してきて、その分も注いでいたら、キングとエセ勇者とツンデレドワーフまで、たまたま来店して、もうしっちゃかめっちゃかになったので、商品棚を脇に移動させて、店の中央にテーブル席を作った。

 もうほとんど喫茶店である。


 しかし、エナはよくやってくれている。いっぺん緑茶を淹れてみせたら、すぐ隣でじっと見ていて、一発で覚えた。

 教えてもいないのに、勝手に覚えた。

 賢い。いい子だ。


「エナ。おまえも。もういいから。自分のいれろ。ここにこい」

「はい」


 エナは俺の隣にやって来た。バカエルフとの間に、ぎゅーっと、入ってくる。

 ここにこい、というのは、テーブルにこいという意味だったのだが……。

 まあいいか。


「しかし。コーヒーは最初、人気なかったのに、緑茶は大人気とはなぁ」

 俺はつぶやいた。


「甘いですし」

「ああ。そういやこれ。玉露とかいうやつだっけ」


 使い道のない現地通貨がいっぱいあるので、あまり悩まず、かなりいいやつを買ってきた。


 俺のまだわずかに残っている庶民的感覚が、200グラム1480円は高級品と金切り声で叫んでいるが、でもきっと、お茶の専門店にでも行けば、この10倍くらいの値段のものもあるんだろう。


 ただ、どんな食べ物もそうだが……。

 値段と味が比例するわけではない。10倍の値段がするから、10倍うまいのかといえば、そんなことはない。

 すこしはうまいのは確かだろうが……。せいぜい、1.5倍とかそんなんだ。2倍うまくはないはずだ。


「おや? なにか珍しい香りがしますね。お茶の一種ですか?」


 聞き覚えのある声が、戸口のほうからした。


「あっ――あなたは」


 俺は思わず椅子から立ちあがっていた。

 このイケメンには見覚えがあった。


 俺がはじめてこちらの世界で商売をはじめたとき――。

 塩を高値で買い上げてくれた人だった。

 そこで手に入れた砂金を元手にして、俺はこのCマートを開いたのだ。


「立派な

「さあさあ。どうぞどうぞ。いまちょうど、緑茶を試飲していたところです」


 俺は商人さんのために、席を作った。


「マスター。へんですよー。男の人には、たいてい冷たいのに」

「ばーか。この人は恩人なんだよ」

「恩人だなんて。そんな。こちらも儲けさせて頂いております」


 デキる男、商人さんは、イケメンのくせにいつも下手したてだ。


「マスターがお世話になってますー」

「……ます」


 バカエルフとエナが、揃ってぺこりとお辞儀する。


「よいお店ですね」

「たいしたものでもないですよ。あまり品物が持ちこめないので。これ以上大きくできなくて」

「いえ。お客さんを見ればわかりますよ。そこがいい店かどうか」

 商人さんは、キングやおばちゃんやドワーフやエセ勇者に、にっこりと微笑んだ。


「皆が笑顔でいらっしゃる。win-winの、いい商売をなさっておいでだ」

「いやー。そんなー。べつにたいしたこと考えてやってるわけじゃないんですけどね」


「うっわー。マスターが敬語使ってますよー。使えたんですねー」

「だまれビッチエルフ」

「うわーい、昇級しましたー」


「そういえば、あのとき以来ですね」

 俺はそう言った。

 街の中央部に行くこともあるが、商人さんの姿を見たことは一度もなかった。


「しばらく遠くに行っていましてね」

「貴方が塩を持ちこむでしょうから。相場は暴落するはずで。ですから遠くで売って儲けてきましたよ」


「え? 迷惑でした?」

 俺はぎょっとした。

 〝相場〟っていうのは、ウロ覚えで、いまいちよくわからないが……。物の値段のことのはずだ。

 自分のやったことで、商人さんになにか迷惑をかけたのだろうか。


「いえいえ。とんでもない」

 商人さんは笑った。


「商人にとって、相場は常に正義です。ある物を欲しがる人と、売りたがる人と、その釣り合いが取れた点が、相場であり、値段というものです。むしろ相場を操作する者がいたら、それこそ〝悪〟といえますね」


「ほー。へー。はー」


 まあ、なんかよくわからないが、よかったらしい。

 俺はほっとした。


「おちゃ……、です」


 エナが新しく淹れたお茶を、商人さんのところに持っていく。


「ありがとう」


 イケメンが微笑むと、エナは、ささっと、俺の腰の後ろに逃げてきた。顔だけ半分出して、こそっと見ている。

 商人さんが、イケメンなせいか、はじめて会う相手だから、人見知りしているのか、どちらなのかは、わからない。

 前者でも、しかたねえかなー、とは、思う。

 それほどこの商人さんは、爽やかなイケメンなのだ。


「うん。おいしい。……これは流行しそうですね」

「そうですか」

「すこし融通していただけますか?」

「喜んで」


 俺は笑顔で答えた。

 明日の仕入れは、緑茶何十キロという量になりそうだった。

商人さんのルックス、変更しましたー。

ドラクエのトルネコみたいなおじさんから、まおゆうの青年商人みたいなイケメンに、チェンジですー。過去話も修正しました。

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