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Caminando Caminando
作:いもっこちゃん



氷穴


館の火が煌々と灯り寒々とした景色に彩を添える。館では廊下といわず中庭、豪華な広間でさえ梱包された荷物でごった返している。
静かな斜面で後ろの喧騒を聞きながら居場所の無くなったテオとレツは暗い地平線と星明りを見ていた。
「あのような者共と旅をするとは思ってもいなんだ」
「良いではありませんか。私はあの詐欺集団を気に入っているのです。何か憎めないのです」
「さもありなん。帰り着けば父上に良い土産を贈れる。国はたくさんの人手を必要としているが民は減るばかりじゃ。元気の良い男衆や女衆はいくらでも欲しい」
「戦で農民が居なくなるのですか?」
「そうではない。戦は私が幼い頃に父上が二度呼ばれて出向いただけじゃ、父上の手勢は竜兵士ばかり、敵をこけおどして四散させれば役目は終わる。民が減るのは土地のせいだとシンシは言う。シンシとは私の育ての親だ薬師でもある。広い森には御山の水が染み出て沢が出来る。森の中に人が入り少々木を切ることによって水は空に逃げるが手入れの行き届かない森は大きな土砂崩れをおこし人を大勢巻き込むのだ。災害も命を失うが最悪なのは次の担い手が生まれぬ事だ」斜面は眺めが良いとはいえ四方はどこまでも続く黒い山並みで空にはいく筋もの流れ星が流れて消えていく。
「テオ、冷えるであろう。先は長い。今日は屋根のある寝床で休ませてもらおう」
テオの背中を軽くさすり冷えて固まった筋肉の感触をレツは感じた。
身体を温める薬草をテオに食べさせねばなるまいと、思ったところ、
「少々でしたらいただきましょうか?オートでしたね名前は」
「そうじゃそうじゃ!物分りが良くなったのうテオは」からからと高笑いをする主を心地よく見ながらしみじみと長生きしている幸せをかみ締めているテオである。

館に灯が消えたのは明け方近く。陽が昇り完全に辺りが明るくなってテオとレツが外に出てみれば館の前にはどこにこれだけの物があったのかとも思われる行李や木箱が山積みになっている。
ジュが眠そうな目をこすりテオに朝の挨拶をする。
「あんなぁ夜遅くに連絡が来てよ。俺らは先に荷物を雪祠の前においとくって」ドード親方は何をしている?のテオの問いかけにジュは嬉しそうに答える。
「うん。荷車の底や着物の中に宝を隠すのに苦労してるねん。綺麗な着物の上に汚い着物をかぶせて縫いつけたりとやることが多くてよ家の中は恐ろしいでよ。俺は子供だで鈍いと言われとるがそんなことは無い。見せてやるからな。速くやれるところをよ。顔さあらって速く汚い着物に着替えるだ寒いからないっぱい着こむだよ。一緒に歩けたらいいなぁ」
「うん。後で。あ、兄ちゃん!俺はわかっていたよ帰って来るのは」少年は一人でしゃべっているのに気がつかずに気分よく歩いていった。
こしらえていた荷物を背中に背負ってテオと共に前庭で待っているとくたびれた衣装のドードがかしこまってやってきた。
「イドが案内しますついて行ってくだせぇ」
「あいわかった」と答えればほっとした顔のドードが手を上げると待ち構えていたイドと数十人の男衆がレツ同様に荷物を背負って山の斜面を歩き始める。
たくさんの大岩の中のひとつの前で左に折れて氷河沿いに下っていくと急にぽかり広い穴に出た。
水しぶきのかかる崖を用心しながら降り、ぽっかりと大きく開いた氷の穴が目の前に広がる。
穴の前にはすでにたくさんの荷物が列を作り待機している。
「穴の一番低い部分にあわせて荷が作ってありますんで、んだが途中で鉄砲水が押し寄せてくるかも知れねぇで、それだけは注意せんといけましぇん。レツ様はしんがりのそりに乗って下せ。なぁに登ってくるより降りるほうが早いんで。途中綱が切れたときの用心にヤッコの実が穴にはあります。では覚悟を決めてくださいましな。勾配がゆるくならねぇと止まりませんで。それまでしばしお別れでございます」イドは高揚した顔でレツに説明をすると手下の顔を見回してうなずきあい各々そりのついた荷物の上に駆け上って荷物の中に隠れた。
空のそりを見つけてそりの底板にレツとテオが立つと姿は見えぬが出発の合図の声が上がる。
「そぉぉぉぉーれぃー」緩やかな斜面に並ぶそりの留めを外すとそりはその重みで静かに穴の中に引き込まれる、一台が下りると次の一台が数珠繋ぎになって氷穴を進む。
最初は突っ立っていたがそりの速度が速まるにつれレツは片手をそりの背にもう片手はテオの首筋に置きテオが離れぬよう努めた。
そりは薄く青い色の氷の中に引き込まれる。穴の先からは荷そりの上で恐怖を紛らわすために素っ頓狂な雄たけびが響き渡る。
「面白いの!」お気楽なレツは落下するそりの上で満面の笑みで次から次に狭い横穴や奇妙な氷の陰影に興味を示している。
先を行くそりの飛沫がびしびしと顔にかかる。テオは男たちの上げる嬌声が怖くてならない。
やがてそりはゆっくりとした速度で走行し始めそのうちに平らな場所で止まってしまった。
荷そりを避けながらイドがちょうちんを持ってやってきた
「すみませんね氷が崩落してて、ちょいと横穴に放り込んでしまいやすからしばらく待っていておくんなせ」
「あいわかった!手伝おう」
「いえ!とんでもないこって。氷くらい俺らがどけまさぁレツ様はここで食事でも・・・」イドが照れながらしゃべっているがその先にはテオが大きな瞳でちょうちんの灯を見ている。
「オオーイ。イドやーレツ様が氷をどけてくれたがやー」と前方より男衆の声。
「へーー?」レツとイドが入れ替わり荷そり隊はゆるりと前進し始める。
氷穴で五回の食事を取り六回目の食事休憩のときイドが嬉しさと緊張をどう表現していいかわからない変な顔で現れた。
「出口につきやした。これより先は勾配が上りで外からの滑車でそりを引き上げます。出た先は森に囲まれた大きな滝のある池でござんす。そこより沢の脇を通ってオンズコーって領主の居た屋敷にレツ様には留まっていて貰いたいのでござんす。なんの三日もかかりやしやせん。
へー、三日もかかるとどこかの穴が凍って詰まっちまうもんで」
「私への心使いありがとう!だが私はそなたらの百倍は役に立つぞ。遠慮はするな荷揚げや力仕事は馴れておる。国ではしょっちゅう岩を転がしては杭で止めていた」にこやかにレツはそりを降りて複雑な顔で笑顔を作るイドを後ろに従え先頭のそりまで歩いた。
そこにはぴんと張った綱が一本そりの土台に結ばれている。
「任せておけ」そういい残すと足場の悪い氷の穴の中をすいすいとレツは登って滝つぼの脇の穴に顔を出した。
「なるほどよく出来ておるな」ちょうど大風呂敷に滝の水を溜め込んでその水の重さで何艘もある荷そりを引き上げる装置になっている。
滝の水は川の大風呂敷に溜まり少しずつそりを引き上げる。滑車の下には十人からの屈強な男衆が途中にある滝中腹の穴の入り口で登ってきた荷を掴もうと待っていた。
仕組みがわかるとレツは足場を固めた。
「引き上げる。掛け声をかけたときに止めて少々綱を緩めるそのときに荷を降ろしなさい。では」いきなり上段の穴から人の声がしてゆっくりと溜まって降りていた皮袋がたいした水量でもないのにぐいぐい下がっていく。
「オーー。イド久しぶりやなー」「おー」「おー」の声で挨拶は終わり。
「いざ!」「へー」で緩んだ綱を手前に引き寄せてせっせと荷物を下ろす。何度も何度も繰り返してそりは空っぽになった。
最後のテオの番には感嘆と尊敬の声が男たちの間に上がった。
「りっぱな馬やのう」「王様の乗り物や」「本物を見たのは初めてじゃが」イドは自分の馬でもないのに良い気分でテオを池のほとりの柔らかな草地まで案内し、こっそりとテオに耳打ちした。
「あんたさんが一番のレツ様の従者さまじゃから、わしもドード親方様の次でエエ従者の一人に入れてくれるようお願いしてくれや」そういってテオの首筋を優しく撫でた。












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