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Caminando Caminando
作:いもっこちゃん



命からがら


峠の斜面で待ち伏せに遇い、僧侶のキバとランは囲みの隙を突いて逃げ出したがお互い必死で逃げ出したのでバラバラになりランはもと来た道に戻り、キバは高みの見物をしていた本物の盗賊の一団に捕まってしまった。
荘園の小さな内乱の勝者が意気揚々と都からの荷物を持ち帰リ屋敷に到着する前に盗賊の集団に囲まれ荷は取り上げられ内乱の首謀者は荘園を見下ろす岩場で処刑され壮烈のお供として従者六人が枝に吊るされた。
キバは僧侶の務めとして供物代わりに吊るされてしまった。
レツに助けられたキバは木の葉をまとい体力が戻るのを待った。レツの置いていった食料と言っても木の実を轢いて粉にし作った団子が二つ。水分は夜間の冷え込みを待って葉っぱの裏に溜まった露を飲み少しずつ元気を取りもどしていた。
衣服が無いため蔦を編み葉っぱを差込んでどうにか衣服の体裁を整えて山道に行く準備をしていた矢先ガサゴソ下のほうから誰か山道を登ってくる。キバが大木の陰に身を潜めて待っているとハァハァとあえぎながら一人の若者が登ってきた。
その顔は数日前に別れたランである。髪の毛は男髪に結い上げて頭頂部で結び丸めている。
衣服も旅の支度をした男の着物である。
「すまぬが待たれよ。話を聞いてくだされ旅の方よ。盗賊に衣服を取られました。何も持ち物はございません。余分な上着一枚下穿き一枚でも恵んで下されぬか?お願いします!」キバに呼び止められ心臓が口から飛び出てくるかと思うくらいローランことトビアス王子は驚いた。
襲撃されキバと共に逃げ出したがそっと襲撃者を後からつけて大きな屋敷の前で襲撃者は別な一団に捕まった。
その騒ぎに乗じてこっそりと死者の衣服を剥ぎ取り隠れて逃げ出す機会を狙っていた。
村人が号泣しながら遺体を片付ける作業を見、恐ろしい盗賊団が居ないのを確かめると山に足を踏み入れたのだった。
ここから先は身体は自分で守らねばならぬと元の姿に戻ったのだがまさか僧侶のキバが生きていてトビアスに声を掛けるなどとは思いもよらない。
せわしくこの状況を切り抜けるため言い繕いを考えているトビアスである。
「キバ殿・・でございますか?」
「おお、やはりラン様でありましたか。ご無事で何よりでございます」ランの顔を見るなり
さめざめとキバは泣き出してしまった。
「どうなされました?持ち物は?衣服は・・水浴びでもなさっていましたか?」こうなったら仕方が無かった。男言葉を隠して使い慣れた女言葉で通すしかない。
「良くぞ聞いて下さいました。わたくしあなたと共に逃げ出しましたがすぐに別な方に捕まえられて領主の仇討ちに巻き込まれて吊るし首になりました」
「では、私が見ているのは幽霊になったキバ様ですか?」
「そのような・・アア本当に自分が生きているのが不思議です。親切な若者が通りかかり助けられて息を吹き返したのですよ、そこへあなたが・・ありがたいことです。で、何用にそのような格好をしていますので?おお!!申し訳ありません気が利かなくて。女の一人旅この様な危険な場所、男装をして泉まで行こうと考えられたのですね。確かにそれは良い考えです」なんと賢い女性だろうとキバは感心している。
危険な場所で二人の親切な人間に出会って遠い本殿に祭られている女神様に胸に拳を作りあてがい感謝の祈りを捧げた。
僧侶キバの振る舞いをトビアス王子は緊張の面持ちで眺めていたがこれからも騙しおおおせるか不安になった。
「女物の着物は逃げる途中で捨てましたの。アタシの粗末な着物でよければ」古い着物を差し出すとキバはありがたく受け取り木の陰で隠れて着替えて出てきた。キバの顔はローランの出現で勇気百倍である。
「ありがたく着せていただきました」汚い着物の上に葉っぱの腰巻をして葉っぱで作った袋を幾つも下げた姿はとても知的な僧侶のキバではなかったが。その物腰はいつもと変わらず婦女子には思いやりの有る一歩下がっての対応である。

山道を登りつめれば又その先に幾重にも重なる山並みが広がる。
口には出さないがテオはあのたなびく雲の彼方まで辿り着いてもレツの求める者はいないだろうと思った。巷ではくだらぬドラゴン信仰が復活しつつある。まず遠い過去においてドラゴンである竜は隣に住むものであったはずが語り継がれる部分では途方も無い聖人に祭られている。
その聖人を頼って出奔する馬鹿な首領も出てきた。そして所領地を捨てて消えるのだ。守護者が居なくなった領主の家族はもとより町や村々は近隣の国々からの奪い合いになる。
当然武力の強いものがその土地を管理するが見捨てられた民を奴隷同然に扱う王が多く、逃げ出す民も後を絶たず民が居なくなった田畑は荒廃するばかりである。
目の前の頑丈な若者はいたって古風な平和主義者で。出会って数ヶ月以上にもなるのに出会ったときのまま真面目で一本木、素直かと思えばかなりのへそ曲がりでもある。
人の踏んだ道はなくなり獣道もなくなりレツは垂れ下がった蔦や腐った倒木を乗り越えて風の強い開けた場所に出た。
レツは背中の荷物から枯れ草と水を出してテオに差出し、一休みをさせて一人ガラガラと大きな岩が繋がる先に様子を見に行った。
広い岩場の上でやっと一息つけたテオである。レツはいつもテオの身体を気遣いながら進むからテオは食べるにも歩くにも苦労は無い。それでも長いこと日の日差しも少ない森の中を歩くのは老体にはきつい。レツの居ないところで心底開放感を味わうテオである。
「大地の裂け目だ!地獄への風が舞い踊る場所に着いたぞ」ぴょンぴょんと岩の角に飛び移って嬉々としてレツが飛んできた。
「最初の関門だな。見るかい?テオ」レツの満面の笑顔は子供のようである。
「そのようなものが有るわけが無い。貴方様の見たものはただの谷ですじゃ」草を食み水を飲んだテオは若者のはしゃぎ方におおらかな気持ちでこたえられる余裕がある。
この世で驚く事は全て体験してきたとテオは思っている。
頑丈な四肢を岩に下ろしてしたり顔のレツの後についていく。岩の向こうには又厳しく尖った岩の原っぱをついていけば突然突風がテオの鬣を空に向かって吹き上げた。
「これはこれは・・・」テオは一瞬閉じた目を大きく開き目前の谷間・・峡谷を見ていた。
前足が片方次の一歩を踏み出そうと上がったまま止まっている。その一歩で峡谷の深淵に吸い込まれそうである。
「認めるだろう?地獄の風が吹き荒れる谷・・・だ」にこやかにテオの隣で谷底を見下ろし、強風の中立っているのにレツは風を楽しんでいる。
「さようで・・残念でございますな。私は神獣ではありませぬゆえ飛んでいけませぬ。レツ様もこのような場所で旅の終わりをむかえるのは不本意でしょうがあきらめるのもまた人の生きる道ですぞ。ほんに恐ろしい眺めです・・・な・・」足元の風が大きな音とともにテオに襲い掛かる。
谷底を覗いたテオの目には黒々とした谷の先には霞がかかって見えない。恐らく軽く一里はあるとテオは見た。
「大丈夫だ。少し時間がかかるが任せておけ。近くに面白い形の岩が有るでな、あそこで待っておれ。山歩きで体力が落ちたであろう?」そういってテオを安全な場所に移動させるとレツは巨大な裂け目のへりに立ち谷を見下ろしている。
裂け目は左右にギザギザに分かれその間に吹く風は地獄の風と呼ぶにふさわしい不気味な音と強烈な突風である。
レツは対岸の壁を睨み長い時間を過ごした。それからへり伝いを右に一日左に一日かけて歩いた。テオの不審げな目を無視してひたすら何かを思案している。
レツの思慮深さには一目置いているテオはレツの言う通り森で消耗した体力を戻す事に専念した。












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