どういうわけだ。
なんの嫌がらせだ。
えな○かずきが実写版ドラ○もんをやる記念か。
おれには関係ないと思いますが。
ある朝、十時きっかりにチャイムが鳴った。
いつもどおり、シカトして、おれは二度寝をするつもりだったんですよ。おれはね。
だけど、かったるそうなオヤジ(他人)が、『笹尾さ〜ん!宅配で〜す!』というから、おれは朝五時に帰宅した、へどろのような身体に鞭打ち、対応したんですよ。
サインでいいだろ、手書きで。と思って、手ブラです。
玄関開けたんですよ。そしたら、結構でかい段ボール箱がオヤジの背後にあって、大きさは百四十五センチくらいですかね。
すっごい迷惑そうな顔されて、『署名お願いします』と言われて。
変な契約書が下に挟まれてないか、一応確認して、名前書きました。
『笹尾 慎一』と。
宅配のオヤジは『ど〜も〜』と言って、一応おれのまえにその長方形の段ボール箱を押してくれたんですよ。気持ちね。
これはもう、おれのものですが、一応、差出人を見てみました。何となくでしたけど、『モリモト商会キャンペーン事務局』って書いてあって、おれ知らないですよ。
こんな怪しげな商会屋さんなんて。
よく、元・地上げ屋?とか言われたりするんですけど、しがない焼き鳥屋の店主であって、三十後半?とか言われますが、まだ二十八歳だったりするんです。
オールバックのロン毛なのは、天パをまとめるのは結んだが早いと思って、髭はあんまり若くみられたくないから生やしてるだけで、手入れもしている甲斐あって、老けてみられます。
おれは、時々、なぜか職質(職務質問)されることもありますが、至って普通の庶民であって、税金のちょろまかし方も知らず、きちんと納めてるし、借金はないですし。毎日真面目に暮らしてるんです。
いきなり送りつけられて来た荷物にちょっとドキドキしながら、開けるかどうか迷っているくらい、普通の男なんです。おれ。
――で、
結局、三十分くらいですかね。悩んで、開けたんです。
箱に耳当てて、爆弾かも?って想像したりして。
でも、やっぱり、好奇心に勝てなくて。
重さも微妙な重量感があって、新型サーバーだったらいいな。とか、淡い期待を抱いたんですよ。
まだ、夢見てもいいだろうと思いました。
――で。
もう、箱開けて腰抜かしましたよ。
一人で、『うわぁああっ』とか叫んで。
おれ、四捨五入したら既に三十路ですよ。
先輩の彰太さんとかには『もう少ししっかりしてほしい』とか心配されるんですけど。
……余談ですが。
中を見ると、体育座りっていうんですか、あの三角に足を折って両手で膝を抱く座り方。
小学校とかの体育時間の座り方。蛇足ですが、あれちゃんとすると腹筋に効く気がします。
そんな座り方で、女の子が入っていたんですよ。
「えぇえ〜?」
おれは混乱しました。だって、箱詰めの女の子ですよ?
しかも、ネコ耳ついてて、寝息を立ててたので、死体ではなさそうですけど。
普通に生きてて、税金も納めてて、あんまりお客さん入らないですけど、焼き鳥屋してる独身男にこんなサプライズ、どうリアクションしろと言うんですか。
おれは辺りを見回しました。彰太さん達がドッキリを仕掛けたのかと思ったんですよ。
あの人達ならなんでもありのような気がして。
でも、誰も飛び出して来る様子もなくて、ベランダの窓からは、飛行機のモーター音とか遠くに聞こえて、近所の犬の吠える声とか、散歩させてるおばさんの世間話の笑い声とか、小春日和の午前中の柔らかい陽射とか、日焼けしたレースのカーテンが風にそよいでるとか、そんな平穏な背景なんです。
おれ、白昼夢見てるんですよね?
新型サーバーの夢を見たいと思いましたけど、こんな夢見るなんて、やっぱり深層心理って難しいと思います。
それにネコ型ロボットって、水色で二頭身半くらいで、二ミリぐらい空中を歩いてて、ずんぐりもっくりしてるヤツで、おれたちの世代はしゃがれた声で、引き出しから出て来る奴ですよね。
最近、変声期を迎え、甲高くなって、人の成長とは逆を行く。さすが四次元ポケットは伊達じゃない。
そんな、ある意味マイウェイマンな、すでにネコ型でもない(ここも我道をいっている)そんなロボットですよね。
段ボール箱の中で体育座りをしている、色白のネコ耳つき美少女な筈がない。
ていうか、コレ、もはや人間ですよ。
おれはいつの間に犯罪の片棒を担がされてしまったのでしょうか……。
――いや、否。これはもう夢です。
そう思いたい。
こんなファンタジックな現実から逃避して、おれは、どこに行けばいいというのでしょうか……。
しかも、事もあろうか、動き始めたんですよ。
……彼女が……。
「……うにゃ?着いたナリか?」
……コ○助ですかッ?!
おれは唖然として、段ボール箱から立ち上がった彼女を見ていることしかできなかったんです。
年頃の女の子が、鈴付首輪と全裸で立ち上がる。親御さんが見たら嘆きますよ。
いきなり段ボール箱の中に詰
「御主人様ナリ〜〜☆」
おれの思考を遮断して、女の子は飛び出して来る。
「うわぁああっ!!!!」
さすがに、怖いでしょう。無防備な全裸の女の子といえ、いきなり、キャットウ○マンばりの敏速な飛びつきかたされたら。
おれは、腰を抜かす寸前くらいで布団の部屋に逃げ出したんですが、やっぱり、勝てませんよね。キャットウ○マン。
バッ○マンと渡り歩ける身体能力を備えてるんですから。いや、この娘はむしろ、あの豊満な女性とは程遠いんですが。
「御主人様〜〜ぁ」
「えぇえ〜〜?」
おれに抱き着いて頬擦りをしながら、ゴロゴロと喉を鳴らす少女。
おれにどうしろっていうんですか。
其ノ一、十八禁。
其ノ二、十五禁。
其ノ三、二十二禁。
おれ二十八なので、どれもフリーパスですが。
学生時代に友達から回してもらったエロ漫画の様な展開に、大人になった今、思いつくのは……
“○○詐欺”
この娘に勢い任せで、いかがわしい行為を働いた場合、後日改めて怖い人達が現われ、絶対払えない様な、金額の請求をされて、せっかくきれいに生きてきた人生を台無しにされる危険な可能性があるわけです。
よく心配されてますが、おれだって、そのくらい考えるんですよ。
「ちょっと、待った!」
おれがそういうと、子猫ばりに戯れついていた彼女の動きが、びたりと止まったのです。
おれは女の子の様子を伺いながら、入っていた段ボール箱の方へ向かいました。
あの丸いプチプチの衝撃吸収材が、かなり誘惑してきましたが、おれはその潰したい衝動を抑えながら、なにか、説明書、あるいは、変な規約書がないか調べてみました。
同梱されていたのは、胸元が開いた袖が短いモコモコ付きのワンピースと紙切れでした。
『よっ☆ラッキーガイ!おめでとうございま〜す♪
モリモト商会キャンペーン事務局より、“頑張ってるちょっと残念な……男前”のあなたへ☆
ちょっとムフフなプレゼント♪
全っ然、怪しくないし、コワいお兄さんもこないし、完全無料!メンテナンスもバッチリ受け付けます!
厳選された美少女ネコ型メイドロボットと素敵な毎日を送ってくださいね☆
もし、いらなくなったら……、可哀相だけど……、夢の島に棄ててください……(泣)
では♪ハバナイスディ!
モリモト商会キャンペーン事務局・代表取締役・森本エリ
電話092-***-****』
福岡の局番ですか。
しかも、残念な……ってどこから情報を仕入れて言っているのでしょうか。
夢の島……。
名ばかりの廃棄処理場です。
(泣)って、あんまり深く考えてないだろ。
とにかく、おれはこの番号に電話をかける事にしました。
だって、いきなりこんなものを送りつけられて、迷惑じゃないはずがないでしょう。
……………ぷるるる〜!
……ぷるるる〜ぷるるる〜!
『もしも〜し!こちら、モリモト商会カスタマーセンターです!』
まったく誠意の感じられない声が受話器から聞こえました。
「あ。あの、笹尾と申しますけど、今朝お宅からネ、ネコ、ネコ型ロボット……」
くっ、くそっ。なんか恥ずかしいぞ!
おれが注文したわけでもないのに、この屈辱感はなんなのでしょうか。
「あっ!ど〜も〜!残念な……男前、日本代表ばりの笹尾さんですね?!うわ〜生声聞けちゃった!」
「日本代表って……バカにしてるんですか?おれだって、ムカつく時くらいあるんですよ」
「やっだな!人聞きの悪か〜〜!んなわけないじゃないですか!で、どうされたんですか?残念な……男前の笹尾さん」
「いちいち残念な、の後に間をつけないでください。ていうか、その呼び方よしてください」
いかん。本題がずれている。
「あの、荷物の件なんですが、返品したいんです」
「あ、チェンジですか?」
電話番はしれっとした声で訊いてきた。
「チェンジですかって……デリ○ルじゃないんですからって、いや、そうじゃなくて、突然あんなの送られても困るんですよ。お返しします。維持費もないですし、世話もする暇ないですから……」
「あ、そうですか。そこは、やっぱり、残念な……笹尾さん」
「やっぱりって、なんか違うくないですか?だから、間をつけないでください。とにかく送り返しますんで住所教えてください。送料はこっちが負担して構いませんから」
「やだー!そんなこといって、あたしに会いに来たりしない?きゃっ☆」
なんなんですか、この人は……おれは咳払いをして、話を続けました。
「いや、しませんから。なんなんですか。その無駄な心配。てか、貴女が代表取締役の森本さんですか?なんでカスタマーセンターの電話番までしてるんですか」
「アナタとワタシを繋ぐ灼熱ホットライン☆」
「いや、結構ですから。住所教えてください」
「ちっ。ツレねえなあ。そのまえに、まだアンジェラchanは起きてないですか?」
お客様に舌打ちをした。時代はサービス業の下克上なのでしょうか。
「アンジェラ……ちゃん?」
「贈り物のネコ型メイドロボットです」
おれは振り向いて布団の上で女の子座りをした、全裸のロボットを見ると泣きそうな眼で、こちらを見返してきました。
「御主人〜〜、まだナリか〜〜?」
……………………。
「コ○助みたいなしゃべり方するアレですか」
「イエッス!ザッツライ!御主人言うてるやろ」
なんで、九州なのに、うさん臭い英語と関西弁なのでしょうか……。
「はぁ……言われてますが……」
「あ゛ぁ゛あ゛ぁぁぁッ!ジーザスッ!!!」
なんだか受話器を置いてしまいたい気分になりましたが。だめなんでしょうか。
「だめだ!あんたやっぱり残念な……男前ッ!」
「うるせぇよ」
思わず言葉も悪くなりますよ。なんなんですか。さっきから。この人。
「アンジェラchanはアナタを御主人様と認識してしまったんです!」
「えぇえっ!?」
「後はアナタがどんだけ鬼になれるかにかかってます!」
「そんな無責任な!」
「いや、アフターケアもメンテナンスも無料でしますよ?可愛い一人娘ですから」
「一人娘って……あんた、さっきチェンジですかって訊いてきましたよね?てか、親のくせに可愛い娘を全裸で男の家に送りつけるんですか?!」
「いや、そこは〜、一応、ねぇ?それにロボットやし?そ・う・い・う目的で☆提供しとーわけやけんね〜!エネルギー源はソーラーパネルと、動・物・性・蛋・白・質!分かりますやろ?ダ・ン・ナ!そこは男なら!!よっ☆むっつりスケベ!」
「……おれは望んでませんけど」
「クーリング・オフすると?公の機関で、ネコ型メイドロボットの」
ぐっ……!
なんか屈辱的だ!
「……もういいです。自分で棄てに行きます」
「すッ、棄てるの?!あんなカワイコチャンを?!あんたオニだ!!血も通ってないのか?!」
電話の向こうの頭の可哀相なひとが、ドナドナを歌い出しました。この人の十八番なのでしょうか。ビブラートが妙に上手くて腹が立ちます。
「……ぐっ!なんかもう電話代勿体ない気がしてきたので、切ります」
おれは二番が始まる前に電話を切りました。
「御主人様ぁ、終わったナリか〜〜?」
ネコ耳を倒して、上目遣いで訊かれました。
こんなとき、どうしたらいいんでしょう。
やっぱり、秋葉原にでも、売りに行くべきでしょうか。
きっと高額な価格で取引され、新型サーバーで、おれはネオ・ドフトマスターになれると思うんですが。。。
「御主人様ぁ、お腹空いたナリ〜〜」
コ○助口調で減点とかされないでしょうか。
……いや、そんな問題じゃなく、どこからどうみても人間に見える、ネコ型ロボット少女を売っ払ってしまうなんて、良心の呵責に耐えられそうにありません。
――しかし、このままでは、おれは変態になるんです。
やっぱり、それは、なんか、嫌じゃないですか。
「御主人様のミルクが欲しいナリ〜……」
そのセリフもどうかと思いますが。
……もしかして、彰太さん達が企画モノの新しいAVでも、隠し撮りしているのではないか。
動物性蛋白質なら、とりあえず牛乳でも買いに行こう。
彰太さん達なら、盗聴器とか、隠しカメラとか用意できそうな気がしたんです。
てか、おれ、なにかしましたか。
なんの罰ゲームですか。コレ。
そうだった。
とりあえず、服を着てもらわなければ。
……おれは嵌められません。絶対に。
2007年3月5日(月)
キャットウーマン・ダイアリーより抜粋。
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