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旅男! 作者:吉岡果音

第二章 水晶の洞窟

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四きょうだい、三兄弟、八十八きょうだい

 岩間から差し込む日の光を受け、無数の水晶の柱が輝いている。

「アーデルハイト。予言に出てくる魔法使いについて、なにか思い当たる節でもあるのか?」

「え……」

 アーデルハイトのエメラルドグリーンの瞳は動揺の色を隠せない。

「きゅーん……」

 ドラゴンのゲオルクが、アーデルハイトに頬を寄せる。

「……大丈夫よ。ゲオルク……」

 アーデルハイトはゲオルクの首の辺りを撫でてあげた。

 ――やはり、アーデルハイトの事情に深く関する事柄か――。

「いいよ、アーデルハイト」

「えっ?」

「話さなくても。色々、あるんだろ? まあ、抱えている荷物が重くなりすぎたら、俺でよかったらいつでも聞くよ。でも無理に話すことはない。ごめんな。変なこと訊いて」

「キース……」

 妖精のユリエは、ペガサスのルークのブラッシングに余念がない。手紙を渡したこと、アップルパイについて熱く語ったことで、自分の責任は果たしたと思っているようだ。

 ――カイが起きないことには、詳しいことはわからないかもしれないな――。

 ひいじいさんの剣、そして今は俺の剣――、カイ。俺の相棒――。キースは腰の剣にそっと触れた。

 ――次にカイと話ができるのはいつだろう……? てゆーか、俺、カイとまともな話、してねーじゃねーか!

 「女好きでほんのりエロい宣言」、「雑誌の袋とじは手で開ける誓い」――、残念な話しかしていなかった。

「……カイ。すまん。せっかくお前の顔が見られたのに、俺、アホな話しかしてなかったな」

 キースは一人呟いた。

「いいえ。わかってますから。今更大丈夫です」

「わかってますから今更大丈夫って、どーゆーこと……、ん!?」

 目の前に、柔らかな笑顔の小柄な美しい青年――。

「カイ! もう目覚めたのか!?」

「はい。おかげ様でだいぶすっきりしました」

「カイ! おはよー!」

 ユリエが羽をはばたかせ、素早くカイのもとに飛んできた。

「カイ。北の巫女の予言について教えてくれ――。俺がノースカンザーランドに行くことは、やはり予言と関係があるのか?」

 ――あの不思議な夢――。あれはやはりただの夢ではないのか?

「はい。でもその前にまず、俺たちのことについて話をさせてください」

「俺たち?」

「はい。遠い昔のノースカンザーランドの大魔法使い、ヴァルデマー様により魂をもらった、俺たちきょうだいについてです」

「えっ!? もしかして伝説の大魔法使い、ヴァルデマー?」

 アーデルハイトが声を上げた。

「はい。そうです」

「アーデルハイト、ヴァルデマーって魔法使い、知ってるのか?」

「ええ……。魔法使いの間で、偉大なる伝説の魔法使いとして有名だわ。でも、詳しいことは隠されていてわからないの」

「はい。ヴァルデマー様は、自分の功績はなるべく隠すようにしていらっしゃいましたから。特に、俺たちきょうだいのことは――、妹を除いて――。絶対に知られないよう厳重にガードの魔法をかけていました」

「妹を除いて?」

「俺たちの妹、『清めの鈴』のセシーリアです」

「『清めの鈴』のセシーリア?」

「はい。キースさん、あなたの夢によく現れる銀の髪の少女――、彼女です。彼女が俺たちの妹です」

「えっ!?」

『助けてください――』

 繰り返しキースの夢に現れる、謎の乙女。

「あの、銀の髪の……! って、えっ!? どういうことだ!? カイは俺の夢も見ることができるのか!?」

「いえ。そういうわけではありません。俺たちきょうだいは、強い想念であれば、遠く離れていても通じ合えるのです。特に、セシーリアは隠されているわけではないので、鮮明にわかります」

 ――あの美しい少女は、セシーリアというんだ――。夢ではなく、本当に、俺に助けを求めていた――。

「カイ。セシーリアだけ、どうして隠されていないんだ?」

「セシーリアは、ノースカンザーランドの北の神殿で、清めの儀式の鈴として、今でも北の巫女様に仕えています。彼女は、場を清める強い力を持ちます。誕生からずっと、ノースカンザーランドの平和のために貢献しているのです」

「キース、あなたはそんな不思議な夢を見ていたの――」

 アーデルハイトが尋ねた。

「ああ。夢の中で彼女が俺に助けを求めていた。それで俺は、ノースカンザーランドへ行くことにしたんだ」

「キースがノースカンザーランドを目指していたのは、そういうわけだったの……!」

『どうか、ノースカンザーランドへ――』

「ただの夢かもしれない。でも行くしかないって思ったんだ。まあ、旅に出てみたい、広い世の中を見てみたいという思いはあったから、旅に出る口実って部分もあったんだけどね」

「――口実――」

 アーデルハイトが呟いた。

「いえ。キースさんは純粋に助けたいと思って動いてくださいました。俺にはわかります――。俺の妹のために――。本当にありがとうございます」

「セシーリア、元気かなあ。早く会いたいなあ! ねえ、ルーク!」

 ユリエがルークに話しかける。ルークもセシーリアの名を聞き、すぐにでも会いたいとでもいうように、背中の大きな翼を羽ばたかせた。

「カイのきょうだいって何人いるんだ?」

 カイは剣だしセシーリアは鈴だし、「人」って言い方も変かな、と考えたが、でもあえて「人」と呼びたい、とキースは思った。

「『退魔の杖』のコンラード、『知恵の杯』のラーシュ、そして俺――、『滅悪の剣』のカイ、それから『清めの鈴』のセシーリア、です」

「四人きょうだいかあ! 俺は三兄弟、『イケメン三兄弟』のキース!」

「……こらこら。どさくさに紛れて余分な話をぶちこまないように」

 アーデルハイトがツッコむ。

「……キースさん。俺に名乗らなくても知ってますよ。俺はずっとあなたと一緒にいたんですから……。俺はあなたのお兄さんたちも知ってます」

「あ。そうだった」

 ついカイとは初対面のような気がしてしまう。

「でも! 俺はあえて名乗らせてもらう! 俺は『イケメン三兄弟』、三男キース!」

「なんであえて名乗るかな」

 アーデルハイトがキースの頭に縦にチョップを入れる。

「私! 私は八十八きょうだいよ!」

 ユリエが突然名乗りを上げた。それからユリエはなにかルークに話しかける。

「……ルークは七きょうだいだって! アーデルハイトは?」

「え。私は姉と私の二人よ」

 笑顔のユリエに訊かれ、つい素直に答えるアーデルハイト。

「数では私の圧勝ね! やった!」

「いつの間に競争になってたんだ……。よかったな、ユリエ。ここに魚がいなくて。魚がいたら、お前負けてたぞ」

「ええーっ!」

 わけのわからないところでショックを受けるユリエ

「……なんの話してたっけ」

「…………」

 一瞬沈黙が流れた。

「あっ! きょうだいだ! カイのきょうだいの話!」

「……そうでした」

 カイまで忘れていた。カイは気を取り直し、話を続けた。

「……俺たちきょうだいは、ヴァルデマー様の依頼によりノースカンザーランドの名匠、オースムンの手によって創られました。そして、ヴァルデマー様が俺たちに魂を入れてくださったのです」

「へええ。でもなんで杖、杯、剣、鈴なんだ?」

「……ノースカンザーランドの最北部の山、スノウラー山に住んでいた怪物たちを倒すためです」

「怪物たち!?」

「はい。スノウラー山には恐ろしい怪物たちがいたのです。年に約三日だけ、怪物たちは人々を襲いに街へ来ていました。年に三日のことではありますが、人々はずっと怪物に怯えて暮らしていました」

「年に三日……?」

 ――年に三日だけ襲いに来るって、どういうことだろう?

「スノウラー山の周りは、一年中厚い雪雲に覆われ、辺り一帯強い吹雪で遮断されているような状態にあります。しかし不思議なことに年に三日間だけ、雪雲が晴れ吹雪が止むのです。その吹雪が止むと、怪物たちは山から下りてきて大勢の人々を襲い、農作物を荒らしていく――。そして、吹雪が始まる前に怪物は山に帰っていくのです。毎年三日のことではありますが、その被害は甚大で、長い間ノースカンザーランドの深い悩みの種でした。ヴァルデマー様は、その怪物たちを倒すために俺たちを創ったのです」

「ノースカンザーランドは不思議な国で、神秘的な力の働く場所が色々あるし、魔法使いも多く輩出されていると聞いていたけど――」

 アーデルハイトが驚く。ノースカンザーランドの噂は、遠く離れたアーデルハイトの故郷まで届いていた。

「ヴァルデマー様は、『退魔の杖』のコンラードを持ち、北の巫女様は『清めの鈴』のセシーリアを持ち、怪物退治に向かいました。そして怪物退治に加わる兵士全員が『知恵の杯』のラーシュで飲み物を飲んで怪物に立ち向かうための戦術を得ました」

「もしかして……」

「もちろん、『滅悪の剣』の俺を持つのは、エースさん――、あなたのひいおじい様です」

「それが、『あの戦い』よ」

 ユリエがキースの青い瞳を見つめた――。そこに、エースの面影を見ていたようだった。
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