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旅男! 作者:吉岡果音

第九章 白く輝く季節へ

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吟遊詩人

 一同は、広場に出た。
 中央には噴水があり、人々の憩いの場のようだった。

「あっ! 吟遊詩人だわ!」

 広場の片隅に、楽器を持った若い男性がいた。吟遊詩人とおぼしきその若い男性は、この広場に着いたばかりのようで、辺りにはまだ誰もいない。

「吟遊詩人?」

 キースは、吟遊詩人について知らなかった。キースの故郷では、見たことも聞いたこともなかった。

「世界中を旅しながら、歌や楽器を演奏しているのよ。彼らは、様々な国の伝承や歴史、また、恋愛の歌などを歌っているの」

 アーデルハイトが、吟遊詩人についてキースに説明した。

「へえー。そうなんだ」

 吟遊詩人は、輝く銀色の長い髪を、後ろで一つに束ねている。物憂げな表情、華奢な体つきで、芸術を愛する詩人のような雰囲気があった。

「きっと、叙情豊かな歌詞、美しい音楽を奏でるんだろうな」

 一同は、吟遊詩人の前で足を止める。
 吟遊詩人は、長く美しい指で、弦の張られた楽器を奏で始めた。

『昔々の物語
魔法使いと 名匠は
四つの道具を創り出す
杖 杯 剣 鈴
聖なる道具
国を平和にするために
魔のものどもを はらうため――』

 ん!?

 吟遊詩人の歌詞を聴き、一同驚いた。

『聖なる巫女は先を視る
遠い未来の物語――
杖 杯 剣 鈴
四つの道具に忍び寄る
不吉な影を 悪しき魂
悪しきものから守るため
世界を平和に保つため
聖なる道具は散り散りに――』

 んんん!? この歌は――!

 どう考えても、ヴァルデマーや北の巫女、カイたちのことを歌っているようだった。

 どうして……!? 秘密にされているはずなのに――!

『一人の若者生まれ来る
剣を扱う力持つ
一人の若者 旅に出る
夢のお告げに導かれ
剣を携え 仲間と共に
世界の平和を守るため
悪しき魂 はらうため――』

「俺のことじゃん!」

 思わず、キースは叫んでしまった。

「キース!」

 不用意に名乗り出てしまったキースをたしなめるため、とっさにカイも叫んでしまった。

 しまった――! キースの名前を知らせてしまった……! 相手が何者かもわからないのに!

 カイはうっかり叫んでしまったことを悔やむ。もしかしたら敵に通じるものかもしれない、こちらからむやみに情報を出すべきではなかったのに、とカイは思った。

 しかも、名前というものには、その人を形作る重要な要素が含まれている。魔法や呪術に使われてしまったら――!

 カイは、唇を噛みしめた。

「吟遊詩人のあんちゃん! 俺はキースっていうんだ! なあ、なんであんたは俺たちのこと知ってんの?」

 明るく大きな声で、謎の吟遊詩人に思いっきり話しかけるキース。カイは卒倒しそうになる。

「キース! なに陽気に話しかけてるんですかっ!」

「えっ!? だって、めっちゃ不思議じゃん!」

「不思議じゃんって……!」

 思わず、カイだけではなく、アーデルハイト、ミハイル、宗徳、妖精のユリエも声を揃えてキースの言葉を繰り返してしまった。
 吟遊詩人は顔を上げ、キースとカイを見つめた。

「私が、あなたがたを知っているって……?」

 吟遊詩人は、ゆっくりとした口調で逆に問いかけた。

「ああ。今の歌、俺たちのことを歌ってただろ?」

「ええ……!? どういうことでしょう? 今の歌は、私が作ったまったくのオリジナルソングなのですが……?」

「オリジナル……ソング……?」

 吟遊詩人はとぼけているのではなく、本当になにも知らないようだった。

「ひらめいたんです。自然に歌詞が」

「ひらめいた……?」

「はい。不思議な内容だなあと自分でも思うのですが……」

「へー! すげーなあ! あんた天才じゃん!」

 キースが叫び、一同腰砕けになった。

「ほ、本当になにもご存知ではないのですか……?」

 おそるおそる、カイが尋ねる。

「ご存知って……、そんな、そんな不思議なことが実際にあるのですか……?」

 吟遊詩人の銀色の瞳には動揺の色が浮かんでいる。まさか、自分の歌が実際に起こったことを物語っているなど、とても信じられないといった表情だ。

 この人が、嘘を言っているとは思えない――。

 一同、顔を見合わせた。

「なあ! それじゃ、続き歌ってよ! どうなんの? そのあと!」

 キースが、明るく歌の続きを催促する。

「え……? あ……、はい」

「中断させて悪かったな。ぜひ、続きを聴かせてくれ!」

「は、はい――」

 吟遊詩人は、ふたたび楽器を奏で始めた。

『若者たちは北へと向かう
聖なる巫女の住まう国
四つの道具を守るため
世界の平和を保つため
杖 杯 剣 鈴 四つが揃う
悪しきものに渡してならぬ
悪しき道へと進めてならぬ
四つの道具は平和のために
四つの力は正しき道へ』

 ひと呼吸置いてから、吟遊詩人は楽器を激しくかき鳴らす。
 どうやらサビに入るようだ。

『私は詩人
吟遊詩人
三度の飯より歌が好きぃぃぃぃぃ
どうか皆さん聴いてってぇぇぇぇぇ
お金もちょっぴり置いてってえ
歌ではおなかが満たされぬ
現実的なものもいる
ああ 欲しい お金 おかず お味噌汁
ついでにふかふかお布団も』

 急に現実的で切実すぎるサビらしき部分を歌い終え、緩やかなメロディに移行する。

『四つの道具を守るため
世界の平和を守るため
若者たちは旅に出る
旅の間の出来事が
彼らの強さと優しさに
きっと繋がることだろう
世のための旅は我のため
世のためと 思う心は
我のため
旅を終えても試練は続く
旅を終えても旅は続く
人の世は旅 魂の旅
四つの道具は語り継ぐ
若者たちの輝く日々を
たとえふたたび悪しきもの
生まれ 四つの力を狙おうとも
四つの道具は信じている
人の強さと優しさを
四つの道具は時を越え
人の強さを語り継ぐ』

 じゃらーん。

 楽器をかき鳴らす。どうやら曲が終わったようだ。

「な、なんか合間にものすごい現実的なものが入ったけど……」

 ぱちぱちぱち。

 一同、吟遊詩人に惜しみない拍手を送る。ついでにお金も。

「いやあ。素晴らしい歌声と演奏だったねえ! いい曲だったよ!」

「最後まで聴いてくださり、お心づけまで本当にありがとうございます」

 吟遊詩人は深々と頭を下げた。

「どうして、この歌を歌おうと思ったのですか……?」

 カイが、吟遊詩人に尋ねた。

「突然私の頭に思い浮かんだこの不思議な歌詞は、なんとなくとても大切なものに思えたのです。きっと、この歌が誰かを励ますことになるのではないかと思って――」

「そうですか……!」

 カイは、穏やかな微笑みを浮かべた。なぜ彼が自分たちのことを歌詞として思い浮かべたかはわからない。きっと、不思議な力がそうさせたのだと思う。カイたち四きょうだいの存在を、そしてキースたちの行動を、旅のすべてを、不思議な高次の存在が応援してくれているような、そんなふうに感じた。

 俺を、俺の存在自体を、肯定してもらえたみたいだ――。

 カイの心に、まるで日の光が差したように明るく力強いものが満ちてきた

 俺は、この世界で異質な存在の、魔法で出来た人工の存在。それでも、こうして歌として人に歌ってもらえた――! たとえ、俺の存在が誰かに知られることがないとしても、俺のことを歌ってくれる人がいる、聴いてくれる人もいる――!

 吟遊詩人にはなんのことかわからないだろう、それでも、カイは嬉しかった。

「素敵な歌声に、たくさん元気をもらえました。ありがとうございます!」

 カイは、吟遊詩人に一礼した。深い感謝の心を込めて――。

「俺も、とっても励まされたよ! ありがとう!」

 キースも笑顔で吟遊詩人に礼を述べる。

「まさか、自分の空想の歌のようなことが、現実にあるのでしょうか――」

 吟遊詩人は、信じられない、というような顔をしていた。

「あっ! いいの、いいの! 細かいことは気にしないでくれ! 意味は気にせず、いろんな国でどうか歌を歌っていってください! ほんと、元気をもらえたよ! ありがとう! これからも、歌の力で大勢の人たちを励ましていってくれ!」

 キースたち一行は、吟遊詩人に笑顔で手を振り広場を後にする。

「まさか、俺たちのことを歌にしてくれるなんて――!」

 キースは呟く。

「本当に、不思議なことがあるものですね」

「なぜか、肝心のサビの部分が吟遊詩人自身の心の叫びだったけど」

 皆、そこだけ妙にリアルな歌詞を思い出して吹き出してしまった。

「ほんと、現実的なものも大切よね」

 アーデルハイトが微笑む。

「なんだかおなかすいちったなー! 俺も、おかず、味噌汁欲しいなあ! もちろんごはんも!」

 キースが、おなかに手を当てながら叫ぶ。

「お店を見つけたら、お昼にしましょうか!」

 ミハイルが笑いながら提案する。

「そうだな! 腹が減ったら旅も出来ぬ!」

 宗徳も、笑顔で叫んだ。



 食堂に入り、注文を済ませ料理を待っている間、国境検問所で撮ってもらった写真を、それぞれ見せあった。

「四枚とも微妙に違うのね」

 連写した四枚は、皆笑顔だったが、一枚一枚少しだけ違っていた。

「全部欲しいくらいですね」

 ミハイルの言葉に、皆うなづく。とても貴重な四枚の写真。

「一人、裸がいるなあー」

 キースが、カイを見ながらニヤリと笑う。

「しょ、しょーがないじゃないですか! まさか俺が映るとは思わなかったし……!」

 カイは、真っ赤になって叫ぶ。
 幸いにも、全身写真ではなかった。ドラゴンのゲオルクたちがちゃんと後ろに納まるように撮ってあり、カイは胸より上のギリギリのラインで映っていた。

「んー。もう少しで後世に語り継ぐ変態の図になるところだったのに、惜しかったねえ!」

「変態の図とはなんですかっ!」

 皆、笑顔になった。明るい笑い声。写真と同じような、輝く笑顔。
 カイはキースにからかわれ、ちょっとすねながらも、吟遊詩人の歌を思い出す。

『四つの道具は語り継ぐ
若者たちの輝く日々を』

 そうですね。俺は、きっといつまでも、この楽しい日々を忘れない――。

 いつまでも、いつまでも。
 たとえ写真が色褪せても、皆との笑顔の思い出を、カイが忘れることはないだろう。

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