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旅男! 作者:吉岡果音

第二章 水晶の洞窟

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血族

 遠い昔。太古の森に彼らはいた。
 岩の間から、光の差し込む洞窟の中。

「ユリエ、ルーク。ここでお別れだ。今まで本当に、本当にありがとう」

 そこには、一人の逞しい青年と、妖精の女の子、そして、純白の――翼を持つ馬――ペガサスがいた。

「ユリエ、ルークをよろしくな」

 青年は、妖精のかわいらしい女の子に呼びかけた。

「……本当に行っちゃうの?」

「うん。そのほうがいいんだ。この不思議な力で満ちた森で暮らすほうが、きっとお前たちには合っているはずだ」

「うん……」

「またいつか、ニンゲンがお前たちの力を必要とする日が来る――。そのときは、どうかよろしく頼む――。でも、本当はそんな日が来ないほうがいいんだけどな」

「……うん」

「じゃあ、元気でな!」

「うん! どうか、お元気で!」

「幸せにな……!」

「大好きだよーっ! 私、ずっとあなたのこと忘れないから! それに、カイのことも! カイが目覚めたら、よろしく伝えてねーっ!」

「俺も大好きだよ! ユリエとルークのこと、一生忘れないよーっ!」

 男は妖精の女の子――ユリエ――とペガサス――ルーク――と別れ、洞窟を抜け、太古の森を後にする――。

「さて。帰るか! 俺の懐かしい故郷に……!」

 明るい朝日で満ちていた。



 キースとアーデルハイト、そしてドラゴンのゲオルクは、森に降り立った。

「休憩、休憩―」

 ずっと飛びっぱなしだったゲオルクを休ませてあげるためだった。

「ゲオルク、ほんとありがとなー! 二人運ぶのは重いだろ? ごめんな。大丈夫か?」

「きゅー」

 キースに頭を撫でてもらって満足そうなゲオルク。

「ありがとう、キース。ゲオルクのこと気遣ってくれて」

 アーデルハイトが微笑む。

「ほんと感謝だよ! ゲオルクは俺たちのこと乗せて飛んでくれてるんだもんなあ!」

 キースはゲオルクをぎゅうっと抱きしめた。ゲオルクは目を細めごきげんである。

「ふふ。ほんと、優しいのね」

 アーデルハイトがそっと呟いた。

「ん? 今なんか言った?」

「なんでもないわ! 仲良しねって言ったのよ!」

 ふわり。

 木々の間から、キースの前になにか白いものが舞い降りてきた。

「あっ! 白い鳥の羽だ! なんの鳥の羽だろう? でっかいなあ!」

 とても大きな白い羽だった。

「なんだろう? なにかいいことあるかもー!」

「……この森はなんだか不思議な森ね」

「不思議って?」

「なんだか空気感が違うの」

「古い巨木が多いから?」

「うん。でもそれだけじゃない。実はさっきからちょっと不思議に思ってたの」

 木々の間に、小さな人影のようなものが見えた。

「ん? なんだろう? 今の」

 小さなそれは、木の枝の陰にさっと隠れたように見えた。

「なんだ?」

 キースはなにかが見えた辺りに近づき、枝の間を覗き込んでみる。

「あっ!」

 小さな若い女性だった。ピンクの大きな瞳に、ふわふわの長いピンクの髪をしていた。小さいけれど、人間の女性と変わらぬ服を着ていて、まるで人形のようだった。そして、背中には白い蝶の羽がついていた。

「こんにちは! 初めまして! 私、ユリエっていいます」

「妖精だわ……!」

 アーデルハイトが声を上げた。

「私、ずっと待ってたの。ルークもずっと待ってるわ」

「待ってた……? 俺たちを?」

「んー。『俺たち』っていうより、あなたを、かな?」

 ユリエはかわいらしく小首をかしげた。

「俺の名はキース。彼女はアーデルハイト。で、向こうにいるのがドラゴンのゲオルク。で、ユリエ、ルークって誰?」

「ルークはペガサスよ」

「ペガサス! そんなものもいるんだ!」

「うん。その羽は、ルークの羽よ」

「えっ! そうだったんだ」

「あなたが本当に、私の待っていたあなたか、確かめるためにその羽を風に乗せたの。ちゃんとあなたの手まで飛んで行った。やっぱりあなたは、私の待ってたあなただった!」

 ユリエはじっとキースを見つめていた。

「……あなたは、ほんとに似てる……。あの人に似てる。間違いないわ。嬉しい。会えて本当に嬉しい」 

「え? 似てる? なにに、誰に似てるっていうんだ?」

 ――ユリエはどうして、会えて嬉しいって言ってるんだ?

 ユリエの瞳は涙で潤んでいた。

「それじゃあ、キースにアーデルハイトにゲオルク! こっちに来て! 早くルークにも会って!」

「う、うん……?」

 とりあえず、キースとアーデルハイトとゲオルクは、妖精のユリエの後をついていくことにした。

 ――いったい、どういうことなんだろう?



 洞窟の前に来た。

「すごい……! 途方もなく大きなエネルギーを感じる!」

 アーデルハイトがなにかを感じていた。
 そのとき、キースの腰の剣が青く光った。

「あっ! 俺の剣、光ってる!」

「エネルギーに反応してるのね! この洞窟の奥から巨大なエネルギーを感じる……! いったい、この洞窟にはなにがあるの?」

 洞窟の奥へと進む。

「あっ……!」

 キースもアーデルハイトもその光景に圧倒されていた。
 洞窟は、岩の間から日の光が降り注いでいた。日の光に照らされていたものは――。

「水晶……!」

 大きな、無数の柱のような水晶が、光を放っていた。

「すごい……! あのエネルギーはここから出ていたのね……!」

 そして――、水晶の陰から現れたのは――。

「ペガサス……!」

 純白の、美しいペガサスだった。

 ――これがペガサス……なんて、なんて綺麗な姿なんだろう――。

「ルーク! ついに来たのよ!」

 ルークと呼ばれたペガサスは、キースの目の前までゆっくりと近づき、そして、ひざまづいた。

「ユリエ。いったい……?」

「キース。あなたに手紙があるの。もうずいぶん前に預かったものなんだけど――」

「手紙……?」

 古い羊皮紙だった。

 ――『おそらく、決して会うことのできない親愛なるあなたへ――
 初めまして。この手紙を読んでいるということは、北の巫女の予言が当たっていたということかな。本当は、そんな予言は外れてほしかったのだけど。新たな危機が迫っているということなんだね。
 北の巫女の予言によると、あなたは俺の子孫ってことらしいね。子孫ってことは、俺は結婚したんだろうね。んー。俺の嫁さんになる人は、どんな人なのかな? ちょっとわくわくするね!
 ごめん。脱線した。
 ユリエとルークは元気でいるかな。あの子たちは、どえらい長命らしいから、きっと元気だろうね。あの子たちは、きっとあなたによく仕えてくれると思います。俺に仕えてくれたように。あの子たちのこと、どうかよろしく頼むね。
 それから、カイのこともよろしく頼みます。もう、彼には会ってるかな? シャイな男だけど、とても味のあるいい相棒です。あなたのよきパートナーにもなっていることと思います。
 では、どうか気をつけて。皆と力を合わせてください。予言のあなたなら、きっと新たな危機を回避することができると信じています。
 あなたがいつも愛と喜びに包まれていますように。
 世界が平和で満ちていますように――。
 あなたの先祖――エースより
 追伸――雑誌の袋とじは手で開けるように!』

「エースって……! 俺のひいじーさんの名前じゃねーか!」

「ひいおじい様が、キースに宛てた手紙だったの!?」

「雑誌の袋とじって、そんなに歴史があったのか……!」

「この手紙を読んだ最初の感想が、そこ!? 確かに歴史の深さにびっくりだけど!」

 ――ひいじーさん! この手紙じゃ、よくわかんねー!

「カイって誰!? 袋とじの話はいいから、もっと説明を! 情報をくれーっ!」

「さすが、キースのひいおじい様ね……」

 アーデルハイトは妙に納得していた。

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