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旅男! 作者:吉岡果音

第一章 旅男、キース。旅女、アーデルハイト

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どうか、よい旅を……!

 小さな町の商店街。キースとアーデルハイトは旅に必要な保存食や消耗品を買い足していた。

「ん? なんだこの張り紙」

 商店の壁に張り紙があった。張り紙は何枚か貼られていた。

『迷い魚探しています――見つけてくださったかたには薄謝をお渡しします』

「まっ、迷い魚ぁ!?」

「魚が逃げ出しちゃったのね」

「そんなの見つかるのかぁ!?」

 薄謝、というのが少し気になったが、魚探しは自分には関係ないこと、とキースは思い立ち去ろうとした。

「キ、キース! 足元……!」

 アーデルハイトがキースの足元を指差していた。

「えっ!?」

 なにごとかと足元を見ると――、魚がいた。

「なんで魚―っ!? ここ、道路だぞっ!?」

 道路の上で魚は、キースをじっと見上げていた。

「な、なんか陸地でも平気そうね……」

 ――迷い魚、ほんとに見つけちゃった……!

「よくわかんねーけど、早く飼い主に届けよう! でも魚、手で触っていいのか?」

「ちょっと待って」

 アーデルハイトが、なにやら呪文を唱え始めた。

「えっ? えっ? なに?」

 ぽわん。

 空中に、水の球が現れた。

「なーにーっ!?」

 キースはただただ驚き、目の前に浮かんでいる不思議な球を見つめる。

「実は私……」

 アーデルハイトが呟いた。

「えっ!?」

「――魔法使いなの」

「ええーっ!?」

 ――魔法使い!? 噂には聞いてたけど、本物は初めて見た! アーデルハイトは魔法使いだったんだ――!

「だからか! だからアーデルハイトは武装もせずに、ドラゴンに乗って女ひとりで長旅に出ているんだ!」

「え……。まあ……、そうね」

「修行?」

「うん……。まあそんなとこ」

「へえー。俺の住んでた村にも昔は魔法使いがいたらしいけど……。すげえな! かっこいい!」

「……お魚さん、陸上でもあなたは平気なのかもしれないけど……。ここに入ってね」

 アーデルハイトは、そっと魚を魔法の水の球に入れてあげた。
 張り紙の主の家の場所を見ようと、改めて目をやる。よく見ると、隣に貼ってある張り紙も同じような内容が書かれていた。

『迷い象探しています――見つけてくださったかたには薄謝をお渡しします』

「迷い象!? 象も逃げ出したのかよ!?」

「キース! う、後ろ……!」

「うわあっ!」

 キースの後ろに象がいた。象もなにかを訴えるような目でキースを見つめていた。

「なんで俺の近くにいるんだよっ!?」

 象はキースの隣でおとなしくしていた。

「これ……。同じ家の張り紙ね。もう一枚あるわ」

『迷い大蛇探しています――見つけてくださったかたには薄謝をお渡しします』

「大蛇ぁっ!?」

 キースは嫌な予感がした。そしてその予感は的中しているようだった。

「キース……」

 大蛇はすでにキースに巻き付いていた。やはり、なにかを言いたげな目をしている。

「な……、なんだかよくわかんねーけど……。まとめて全部連れてくぞっ!」

 町のはずれにある立派な館だった。

「この家か……。それにしても、これだけの生き物が逃げ出してるってことは……。もしかして、みんな、この家が嫌なのか? そうだとしたら……、果たして家に帰していいものか……」

 しかし、館の前に来た魚も象も大蛇も、いきいきと目を輝かせとても嬉しそうに見えた。

「帰りたいみたいよ」

「うーん。なんなんだろう。こいつら。冒険したかったのか?」

 館の呼び鈴を鳴らす。

「こんにちはー。なんか知らんけど、一網打尽にしてしまいましたぁー!」

「キース! 一網打尽って……」

 すぐに館の奥から執事のような男性が現れた。

「これはこれは……! 皆を連れて来てくださったのですね……! ああよかった! お嬢様がさぞかしお喜びになることでしょう!」

 執事は心から嬉しそうな笑顔になる。

「これ、みんなペットなのか?」

「ペット……、というより、みんなお嬢様の大切なお友だちなんですよ。本当にありがとうございました。さあどうぞ、どうぞ中にお入りください、まずはお茶とお菓子をご用意いたしますね」

 華やかな香りのお茶とパウンドケーキがキースとアーデルハイトの前に並べられた。

「お嬢様は、ずっとお体の調子が優れず……。学校もずっとお休みになっているんです。外出もほとんどかなわず、同じくらいの年齢のお友だちもできないままで……、寂しい日々をお過ごしなのです」

「そうなんですか――」

「お嬢様が、どうしてもあなたがたに直接お礼を申し上げたいそうです。今日はだいぶお嬢様のお加減も落ち着いているご様子。申し訳ありませんが、お茶を召し上がる間だけでも、お嬢様のお話相手になってはいただけませんか?」

 執事の横にいた象と大蛇と魚が、心なしか嬉しそうに見えた。どこか誇らしげにも見える――。

「こんにちは! みんなを見つけてきてくれて、本当にありがとうございました!」

 金の巻き毛に青い瞳のかわいい女の子だった。肌の色は雪のように白く、華奢な手足のはかなげな少女だった。

「いや……。見つけたというより、こいつらが俺の近くに来たんだ」

 ――みんな、なにか訴えるような目をして――。

「そうなんですか! 本当によかった……。この子たち、どうしてなのかわからないんですけど、よくいなくなっちゃうんです……。私のこと、嫌いになっちゃったのかな……」

 つぶらな瞳から、大粒の涙がこぼれた。すぐに象と大蛇と魚が少女のもとにかけより、流れる涙をなめてあげようとした。魚は、陸上でもまったく平気だった。魚までもが頬の涙をなめてあげようとジャンプしている――。魚、お前もか! とキースは内心ツッコミを入れていた。

「それは違うと思うわ! 彼らは、あなたのこと大好きなのよ! きっと、あなたに人間のお友だちを作ってあげようと思って、外に探しに出たのよ!」

「うん。奇妙な話だけど、俺もそう思う。俺がこいつらを連れて来たんじゃなくて、俺たちがこいつらに連れられてここに来たんだ。俺たちは君の友だちになれそうだと思ってくれたんじゃないかな」

 象も大蛇も魚も、満足そうな顔でキースとアーデルハイトを見つめていた。

「そう、そうなの……? みんな、私のために……?」

「まったくもって不思議ですが、私もそのように思います」

 執事も大きく頷いた。

「……あなたがたは、私のお友だちになってくださる……?」

 少女がおそるおそるキースとアーデルハイトに尋ねる。

「ええ!」

「こんなんでよければ! お近づきのしるしに、旅の面白い話を教えてあげようか!」

 キースは、今までの旅でおきた出来事を面白おかしく話してあげた。少女が笑顔になるように、なるべく夢のある楽しい話にした。少女は顔を輝かせ、珍しい異国の話、美しい自然の風景、不思議な精霊の話などを夢中になって聴いていた。

「私はお医者様ではないから完全に治したりはできないんだけど――」

 アーデルハイトはそう前置きをしてから、少女の具合がよくなるように治癒の魔法をかけてあげた。少女の頬に、明るいバラ色が差してきた――。

「本当にありがとうございました。なんとお礼を申し上げてよいか――」

 深々とお辞儀をし、執事は大金をキースに渡そうとした。

「いっ! いえいえ! そんなにいただけませんっ! だって――。俺たちは彼女の友だちですから――!」

「いいえ。これはどうぞお受け取りくださいませ。ほんの気持ちでございます。そして、もしよろしければ旅の帰り道にでもどうかお立ち寄りください。お嬢様にまた不思議な旅のお話をなさってください――」

「もちろん……! こちらこそ、本当にありがとうございました!」

 キースとアーデルハイトは館を後にしようとした。部屋の窓から、少女が声をかける。

「キースさん、アーデルハイトさん! 本当にありがとう! 私、お二人の結婚式に出られるよう、早く元気になるからーっ!」

 キースとアーデルハイトは転んでしまった。

「……なんで、結婚式……」

 アーデルハイトがよろよろと立ち上がる――。あの子の目に、私たちはいったいどう映ってたのやら――、アーデルハイトがため息をついた。

「わかったよーっ! 結婚できるよう、俺も頑張るからーっ!」

 キースが大声で返事をすると同時に、アーデルハイトがキースの頭をグーで殴っていた。図らずしてベストなタイミング、夫婦漫才のような「あうんの呼吸」になっていた。

「本当に、お似合いでございますよ……」

 二人を見送りながら、執事がそっと呟く。

「どうか、よい旅を……!」

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