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旅男! 作者:吉岡果音

第五章 新しい絆の始まり

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天然百パーセント

「わあ! 宗徳はこの動物に乗って旅をしていたのか!」
 宗徳の乗ってきた動物を見て、キースは驚いた。初めて見る動物だった。大きく立派な鹿の体に、翼が生えているという動物だった。
「俺の親友なんだ。名は吉助という」
「へえ! とても賢そうだねえ!」
 吉助は、ペガサスのルーク、ドラゴンのゲオルクと挨拶を交わしているようだった。種は違えど、皆すぐに打ち解け合っているようだった。それぞれ黒い瞳を輝かせ、なんだか楽しそうな雰囲気である。妖精のユリエも動物たちの輪に入り、なにごとかきゃあきゃあじゃれ合っていた。
「なんか、皆嬉しそうだな! 俺もルークたちと一緒に遊ぼうかなっ!」
 キースなら、大型動物たちと体を張って全力で遊びかねない。
「キース」
 カイがキースに話しかけた。
「旅のこと、そして俺のこと、少し宗徳さんに話したいと思います。俺たちの旅は、普通の旅じゃない。危険が伴うものです。宗徳さんを巻き込むわけにはいきませんが、説明は必要です」
「そうだな。まあ、絶対に宗徳に危険が及ばないようにするつもりだけど、場合によっては同行しないほうがいいということも――」
「なにを言っている! 俺の刀で皆様の安全を――」
 真剣な表情の宗徳に、キースが微笑んだ。
「違う。宗徳の剣の腕を疑っているわけじゃない。ただ、ちょっと俺たち、厄介なものを相手にしているもんでね――」
「厄介なもの――?」
「ちょうど、お昼にいい時間だし、あそこの店で食事をしながら少し話しましょう」
 アーデルハイトが、笑顔で道の向こう側に見える食堂を指差した。

 食事を注文してから、カイが口を開いた。
「宗徳さん。俺たちがノースカンザーランドを目指して旅をしている理由は、ある強大な力を持つ魔法使いによって盗まれたものを取り返すためなんです」
 あまり詳細なことを話すことはやめておいた。
「魔法使いから盗まれたものを取り返す――」
 宗徳はカイの言葉をゆっくりと繰り返して呟いた。
「どうも、その魔法使いの背後には、人間ではない魔物のようなものがいるようなのです」
「魔物か――!」
「ですから、我々と行動を共にするとなると、宗徳さんにもいつ危険が及ぶか――」
「俺のことなら心配には及ばん! 俺も長旅だが、様々な危機をこれまで刀一本で切り抜けてきた。気になさらずとも大丈夫だ」
「そうですか」
 はったりや強がりなどではない。宗徳が数々の戦いをくぐり抜けてきた男であるということは、匂いとでもいうのだろうか、その身にまとう雰囲気、目の光の鋭さ、そしてなにげない所作から、カイやキースにはひしひしと伝わっていた。
「それから、俺のことなんですが――」
 カイは、宗徳のダークブラウンの瞳を改めて見つめる。そして、一呼吸置いてから――。
「俺は、人間じゃありません」
 自分について、告白をした。
 宗徳は黙ってカイの言葉を飲み込むかのように聞いた。そして、ゆっくりと口を開いた。
「……やはり、そうか」
 宗徳は、ぽつりと言った。宗徳の顔に、驚きや動揺は見られない。
「えっ? 『やはり』?」
 驚いたのはカイのほうだった。思わずカイは逆に聞き返していた。
「なにか……、どこか……。人とは違う気配だなと思っていた」
 思わずカイとキースは顔を見合わせた。
「すごいな……」
 思わずキースが呟く。宗徳は、すべてを見通すかのような眼差しで、ただカイを見つめている。
「なにか……。まるで、刀のような鋭さと重さを感じる――」
 宗徳は、カイの魂の本質を肌で感じ取っていた。
「ビンゴーッ!」
 思わず、キースは椅子から立ち上がって叫んでいた。
「キ、キース……」
 カイはキースの袖を引っ張り座るよう促す。
「声がでかいですよ!」
 店内の客が、なにごとかとこちらを見ていた。
「ごめん! ピッタリ当ててたから思わず……」
「ピッタリ当ててた……? ということは、カイはもしかして、刀なのか……?」
「……はい。俺は、剣です」
「そうか……。すごいな」
「すごいだろー!」
 なぜかキースが胸を張る。
「俺は、人の姿に変化できる剣です。戦闘時は、剣として戦います。驚かれないよう、話しておくことにしました」
 料理が運ばれてきた。宗徳、キース、アーデルハイトの分で、人形のように小さい妖精のユリエは皆でつまむ大皿料理と大盛りにしてもらったアーデルハイトから分けてもらうことにした。カイの分は食事が必要ないため、ない。
「わあい! 美味しそーっ! いっただっきまーす!」
 ユリエが声を弾ませ、小さな手を合わせ挨拶をする。皆も続いて食事の挨拶をした。
「そうか……」
 宗徳がユリエをじっと見つめる。
「ユリエさんは、体が小さいからそんなには食べられないんだな」
「ん? それはそうだろう」
 キースが、スプーンで炒めたご飯をすくいながら返事をする。野菜たっぷりのチャーハンのようなものだった。
「初めて見る」
 宗徳は、妖精を初めて見るんだな、一同はそう思った。
「知らなかった」
 宗徳は、妖精のことをあまり知らないんだな、一同はそう思った。
「どこの国の方ですか?」
「は……?」
 誰が? 誰のことを尋ねてるんだ、一同がそう疑問に思った。
「浮遊の術をお使いとは、すごいですね」
「はあ……?」
 まさか……、と一同思う。
「ユリエさんのような小さい方は、初めて見ました」
「はいーっ!?」
 一同、椅子から転げ落ちそうになった。
「ま、まさか宗徳、ユリエのこと、人だと……!?」
 おそるおそるキースが尋ねる。まさか、まさかそんなことが……?
「えっ!? 人じゃないのか!?」
 宗徳が叫んだ。
「誰がどう見ても妖精だろーっ!?」
 即座に一同ツッコんだ。
「ええーっ!?」
 宗徳は、心底驚いているようだった。細い目が大きく見開かれていた。
「羽あるし、ユリエは妖精百パーセントだっ!」
「よ、妖精百パーセント……!」
「おう! 混じりっけのない、天然素材の純妖精だっ!」
 思わずキースは、ユリエが妖精であることにわけのわからない太鼓判を押す。
「なんで……、なんで俺の正体を見抜けてユリエのことがわからない……」
 カイは頭がくらくらしていた。
「そうか……。ユリエさんは妖精さんだったのか……」
「そうだよー。私はシダ植物の妖精さんだよー。よろしくねー!」
 ユリエが笑いながら自己紹介する。
「妖精……。だから、小さいんだな……」
 妖精……、小さい――、そこで、宗徳はハッとした。
「もしかして、カイも剣の妖精さん!? だから小さいのか!?」
「俺はただのおチビさんですっ!」
 思わずカイは顔を赤くして叫んだ。カイは自分の言葉で自爆していた。
 あーあ、とアーデルハイトは頭を抱えた。宗徳って、鋭いのか目が節穴なのか……。おそらく、「天然」というものなんだろうなあとアーデルハイトは思った。
「ははは! ナイス宗徳! それでこそ俺らのメンバーだな! 宗徳、改めてよろしくな!」
 キースは、グッジョブ! と言わんばかりに宗徳に親指を立てグッドサインを出した。
「カ、カイ……。すまん……。傷つけるつもりは……」
 宗徳が、すまなそうにおろおろしながらカイに謝る。
「酒、持ってきてください! 強いやつ!」
 飲んでなきゃやってられない! カイは店員に酒をオーダーする。
 キースは、ただ腹を抱えて笑っていた。
 ――宗徳、サイコーだな!
 外は穏やかな晴れだった。窓から差し込む柔らかな日差しが、新しい仲間との絆の始まりを祝福していた。
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