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旅男! 作者:吉岡果音

第三章 足し算は、無限大

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のんべえたちの、それぞれの朝

「カイ。早く兄さんたちや妹さんに会えるといいな」

「はい」

 宿泊する部屋の窓から見える三日月を眺めながら、キースとカイはまた飲み直していた。すっきりとした辛口の日本酒のような酒である。

「ノースカンザーランドって、どんな国なんだ?」

「冬は寒く厳しいですが、四季折々の花が彩る美しい国です」

「そうか」

「早く故郷に帰りたいか?」

「……正直、ちょっと複雑です」

 そう言って、カイは笑った。

「これからのことを考えると、どうしても――」

「ただの帰郷じゃないからな」

 戦いが、待っている。クラウスとの運命の戦いが。

「……それに、俺は今まで過ごしたキースの故郷のほうが、実は気に入ってます」

「え? そうなの?」

「穏やかでいいところですよね」

「周りが山だらけで、なにもないド田舎なんだけど」

 山々に囲まれた、澄んだ空気の静かな村。

「……戦いが終わったら」

「うん」

「俺は、またキースの故郷で暮らしたいな」

 カイは、天空に輝く三日月を見上げる。

「じゃあ、兄妹みんなでこっちに来ちゃう?」

「セシーリアは無理ですよ! ノースカンザーランドの大事な任務がありますから」

「んー。そっか。そうだよな。ちなみに、もし俺がノースカンザーランドを気に入っちゃって、そこに永住することにしたら、カイはどうする?」

「俺もノースカンザーランドに住みます」

「嫁みてーだな!」

 キースが大笑いする。

「俺は剣だもん。主人がいなくては、漫然と転がってるだけです」

 カイが頬を赤くし、少しムッとする。

「お前も、もっと自由に生きられるといいのにな」

「……創られた、モノですから」

「お前はモノじゃねーよ」

「……俺は、剣です」

「お前は、カイ。カイだよ」

 キースはまっすぐな瞳でカイを見つめた。

「俺に仕えてくれている間は、自由にしていていいぞ。いなくなっては困るけど」

「自由……」

「せっかく生まれてきたんだもん! 楽しまなくっちゃね!」

 そう言ってキースは、カイのグラスになみなみと酒を注ぐ。

「とりあえず、飲めーっ!」

「キース……」

「お前が飲めるクチでよかったよ」

 キースが、ふふふ、と笑う。
 カイはグラスに視線を落とす。

「せっかく生まれてきた……」

「そうだよお! この世界を、満喫しなさい!」

 カイは注がれた酒を、ぐっと飲み干した。そして、お返しにカイは、キースのグラスになみなみと酒を注ぐ。

「キースも、飲めーっ!」

「おっ! いいね! 命令口調! そんな感じでいこーぜ! 遠慮はなしだあ!」

 キースはカイの頭をぐしゃぐしゃに撫でた。お返しに、カイもキースの頭をぐしゃぐしゃにした。

「ははは! 髪がぐしゃぐしゃー!」

「あはははは! キースもぐしゃぐしゃですよー!」

 酔いが回っていた。なんでもないことが楽しく笑えてくる。

「お前なんか、こーしてやる!」

「やりましたね!? キース! お返しに、こーしますーっ!」

 他愛のないことで盛り上がり、くだらないことに笑い合う――。
 そして、ばったりと床についた。
 明るく、優しい光の三日月の夜。



 キースは夢を見ていた。
 キースは、夢の中で子どもに戻っていた。
 キースは、故郷の山を見上げる。キースの育った村は、盆地の真ん中にあった。あの山の向こうはどうなっているんだろう、幼い頃から、キースは山の向こう側、広い世界に出ることを夢見ていた。

 ――ひいおじいさんは、世界中を旅していたって言ってたっけ――。

 剣術の才能のあったひいおじいさんのエースは、若い頃、武者修行のために旅に出たという。キースは憧れを持ってその話を聞いていた。

 ――俺も、山の向こう、世界中を旅してみたい――。

 急に、目の前に背の高くたくましい体つきの青年が現れた。

「やあ。元気かい?」

「もしかして……エースじーさん?」

 キースは大人の姿に戻っていた。見上げていた目線が同じ高さになった。

「あなたが、エースじーさんなのか?」

「ふふ。みんなのこと、よろしくな! 頼んだぞ、キース!」

 ――ああ、よかった! 俺もエースじーさんに会えたんだ!

「エースじーさん!」 

 エースは、笑っていた。穏やかな笑顔だった。
 そこで、場面がいきなり変わった。
 神殿。神殿らしき建物にキースは立っていた。

「ありがとうございます。旅に出てくださって――」

 目の前に、美しい銀の髪の少女が現れた。

「セシーリア!」

「キースさん。カイ兄さんのこと、そしてラーシュ兄さんのことよろしくお願いいたします」

「うん! カイのことは任せてくれ! そして、セシーリア、待っててくれ。ラーシュ兄さんは、必ず俺たちが助ける。そして、セシーリアのことも、コンラード兄さんのことも必ず守るから!」

「ありがとうございます……。本当に、ありがとうございます」

 セシーリアは深々と頭を下げた。

「きっと、守るから――!」



 朝を迎えた。

「おはよう。カイ」

「おはようございます。キース」

 二人とも、頭が爆発したようにめちゃくちゃな寝ぐせだった。

「……エースじーさんの夢を見た。それから、セシーリアに会った」

「そうですか! さっき、俺もセシーリアと交信しました」

「俺、初めて、セシーリアとちゃんと会話したよ。今までは一方通行な感じで会話はできなかったけど、今回、初めて会話らしい会話が出来た」

「距離が前より近くなったのと、俺が目覚めたためですね。より強く、あなたの夢に語りかけられるようになったのでしょう」

「へえ。なるほど。元気そうで、安心した」

「はい。セシーリアは元気ですよ」

 にっこりとカイは笑う。

「元気なのはなによりだ!」

「……エースさんは、どんな感じでした?」

「笑ってたよ。穏やかに。そして、皆のことよろしく頼むって言われた」

「そうでしたか……! 笑ってましたか……!」

 カイが、嬉しそうに笑った。

 キースもカイも、起き抜けで、まだぼーっとした顔をしていた。

「……ひでえ頭だな」

「キースもですよ」

「あれ? カイ。寝ぐせがついてるってことは、人の姿のまま寝たってこと?」

「そうですね」

「じゃあ、添い寝しちゃったの?」

「そうですね」

「……いやん」

 キースは両手で自分の胸をおさえた。

「なにやってんですか」

 カイは呆れる。

「……頭洗わねーと寝ぐせ、とれねーな」

「そうですね」

「…………」

「…………」

 だっ、と、風呂場のほうに二人とも走り込む。

「わはは! 俺が先だあ!」

「俺が先です!」

 きゃあきゃあと風呂場の前でふざけ合う。全くの無駄な競争――。いい大人が、である。



 アーデルハイトは、ベッドの上でぼーっとしていた。

「ユリエちゃん……。おはよう」

「おはよー! アーデルハイト! 気分はどう?」

「うん……。大丈夫」

 気分とか体調より、とアーデルハイトは思う。昨晩のことを、ところどころしか覚えていない。アーデルハイトは、自身の振る舞いについて不安になった。

「ユリエちゃん。私……、昨日の夜、ただただ叫んでいたよーな……」

「うん! 叫んでたよ!」

「だ、大丈夫かな。私、変なこと、言ってなかった?」

「ばかって言ってたよ。クラウスとキースと、ついでにカイのことも」

「…………」

 アーデルハイトは頭を抱えた。かすかに頭痛もする。
 でも、と思った。酔った暴言が「ばか」くらいならまあいいか、キース、カイ、ごめん、と心の中で呟いた。

「あ、あとは……?」

「んー。それだけ、かな?」

「よ、よかったあ……!」

 自分が酔って、変なことを口走ってないか、気がかりだった。

「あ! あと、行かないでって言ってた」

「『行かないで』?」

「キースに、お願い、行かないで、って言ってた」

「え……!」

「私と一緒にいて、って言ってた」

「…………!」

「よかったね! アーデルハイト。キースは、大丈夫だよ、一緒に行こうってはっきり言ってたよ!」

「…………!!」

 アーデルハイトはベッドの上で真っ赤になっていた。
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