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旅男! 作者:吉岡果音

第三章 足し算は、無限大

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二人と一妖精、一剣の夜

「これ、美味しーねえ!」

 妖精のユリエが、キースの頼んだスープを飲んで満足そうな顔をする。

「そういえば、ユリエとルークは、どうしてエースじーさんに出会ったんだ?」

 キースがユリエに尋ねる。ユリエは今度は揚げ物に挑戦していた。ふうふうと息を吹きかけ一生懸命冷ましてから、ユリエにとっては巨大な肉の塊にかじりつく。

「んーとね。食べられそうになってたところを、助けてもらったの!」

 ユリエは口をもごもごさせながら答えた。

「食べられそうになった?」

「そう! でっかい怪物にね、私、食べられそうになってたの。あっ! でも私とルークは別々のところで助けられたのよ。出会ったのは私のほうが先。私、助けてもらって、それでエースのこと大好きになって、エースと一緒に旅に出ることにしたの。しばらく旅を続けてたら、今度は別な森で怪物に食べられそうになってたルークを見つけたの」

「ルークも食べられそうになってたんだ」

「うん。エースは、ルークのことも助けてあげてた。それで、ルークもエースのこと大好きになって、私たちについてきたの。それで、三人……、えーと、一人と一妖精と、一ペガサスで旅をすることになったの」

 ――一人と一妖精と、一ペガサス……。

 その数え方! とキースは笑ってしまった。

「エースはちょっと悩んでた。つい助けたけど、怪物はただ自分が捕らえたご飯を食べようとしてたわけで、それを殺して自分の好きな生き物だけ助けるのは勝手なエゴじゃないのかなんとかかんとか。でも、そこでハッと気が付いて、ごめん、今のは独り言だから気にするな、忘れてくれ、お前らの前で言う話じゃなかった、って言ってて、なんだか私、難しい言葉だけどそのエースの独り言が忘れられないの。忘れてって言われると、余計覚えちゃうのかなあ?」

「うーん。そういうもんなのかもしれないなあ」

「私もルークもよく食べられそうになるの。たぶん、美味しいんだと思う」

 そう言いながらユリエは肉の揚げ物をひとつ、ぺろりと平らげた。

「そうか……。美味しいのか……」

「あっ! キース! 変な目で私を見ないでっ!」

「変な目?」

「今、私のこと、食べようかって思ったんでしょ!?」

「んー。そうだなあ。食べちゃおーかなあ?」

 キースは、がおーっとおどけながらユリエに顔を近付ける。ユリエは、きゃーっと叫びながら、皿の上を飛び回った。キースは愉快そうに笑う。

「ははは! 冗談だよ! 食べるもんか! ユリエはかわいくて大切な友だちだよ!」

「わかってる! キース、だあい好き!」

 ユリエはキースの首の辺りに抱きつく。揚げ物の油で、小さい手がべたべただ。

 ――忘れてって言われると、余計覚えちゃう、か――。

 キースは、アーデルハイトの顔をちらりと見た。
 自分は、アーデルハイトに、クラウスのことは忘れろ、と言った。アーデルハイトは、大丈夫だろうか。余計、複雑に意識しているのではないか。一層、クラウスのことが重く心にのしかかってしまったのではないか。だからさっき、アーデルハイトはおかしな態度をとったのではないか、とキースは考えた。

 ――アーデルハイトは、心配なときに心配しろって言っていた。心配だよ。ほんと、心配だよ! 俺は!

 でも、アーデルハイトは「大丈夫だから」、とも言っていた。

 ――大丈夫なときは大丈夫だから、とも言っていた。どっちなんだ!? 今は、大丈夫なのかそれとも心配すべきなのか!?

 アーデルハイトはユリエに笑顔を見せながら食事を続けていた。

「んー。わ、わからん。どっちなんだろー……」

 アーデルハイトとキースは目が合った。
 アーデルハイトはさっと頬を赤らめ、下を向いた。

 ――ん?

 思い返せば、さっきから、アーデルハイトはキースと目を合わせないし話もしていない。

 ――んんん!?

 アーデルハイトはフォークで揚げ物を取ろうとしたが、失敗していた。もう一回改めて取ろうとしたが今度はフォークのほうを落としてしまった。

「あきらかに、変だよなー……」

 そう言うキースも、スプーンですくったスープを、ぼたぼた下にこぼしていた。

「キース! こぼしてるよ!」

 アーデルハイトが気が付き、教えてあげる。

「あっ! ほんとだっ!」

 しかし、そういうアーデルハイトもまた揚げ物を落としていた。
 カイは、そんな二人の様子を見て思わず吹き出す。

「あはははは!」

「カイ! なに笑ってんだよ!?」

「な、なんでもないです!」

 ――こぼしたのが、そんなにおかしいのか?

 カイだけがわかってしまっていた。お互いを意識しすぎてぎこちない動きの二人。笑ってはいけないと思ったが、笑ってはだめだと思えば思うほど妙におかしくなってきて――、こらえきれず爆笑してしまった。

 不器用すぎる! とカイは思った。

「……人間って、本当に素敵ですね」

 カイはまだ、くすくすと笑っている。

「ああっ!?」

 キースにはなにがなんだかわからない。もちろん、アーデルハイトもユリエも。皆、きょとんとしていた。
 本当に、愛すべき素晴らしい生き物です――、カイは心の中で呟いた。



「アーデルハイト! 酒でも飲むか!」

 いきなり、キースが言い出した。

「えっ……」

「飲めないわけじゃないんだろ? ここは飲んで、ちょっとスカッとしよーぜ!」

「私も飲む―っ!」

 ユリエも飲みメンバーに立候補した。

「大丈夫なのか? ユリエ」

「うん! 私、こー見えて大人だもん!」

「あんまり飲んじゃだめだぞー」

 そう言いながら、キースは、ユリエにも飲めそうな甘く軽めの酒をとりあえず最初の一杯として店員にオーダーする。ユリエと一緒に飲むことにしたのだ。まさか、ユリエに一人分は飲ませられない。
 アーデルハイトも、ためらいながらカクテルのような酒を注文した。

「俺も飲もうかな」

「えっ? カイは飲めねーんじゃねーの? 食べ物とかいらないって……」

「酒だけは、実は別なんです」

 ニッと、カイが笑った。



「クラウスのばーか! キースのばぁーかっ!」

 結果、アーデルハイトが一番飲んでいた。二人と一妖精、一剣の、とても楽しい酒盛りになった。どうでもいいくだらない話でおおいに盛り上がった。
 すっかり出来上がってふらつくアーデルハイトを、キースが支えながら宿に向かって夜の町を歩く。実は、先に宿をとっておいたので、寝床の心配はない。しかも、近い場所に決めておいてよかった、と思う。この状態で知らない町をあちこち歩くのはさすがになあ、と苦笑する。アーデルハイトはさっきから何十回も、クラウスとキースのばかーっ、と叫んでいた。

「アーデルハイト! 私は? ユリエのことは?」

「ユリエ、ユリエちゃんは、おりこうさんよ」

 アーデルハイトがにっこりと笑う。

「やったー! じゃ、カイは? カイのことは?」

「カイは……。うーん。やっぱりばか、かな?」

「ア、アーデルハイトさん!」

 がーん。ついに一緒にされてしまった、カイはショックを受けた。
 部屋は二つとっておいた。アーデルハイトは、もうほとんど眠っているような状態だった。キースは、アーデルハイトを抱きかかえ、ベッドにそっと運んだ。

「ユリエ。アーデルハイトのこと、頼むな」

「うん! 任せて!」

「……待って」

 アーデルハイトが呟く。

 ――寝言か。

「行かないで……。私を置いて、行かないで……」

 アーデルハイトは、うわごとのように呟いていた。

 ――クラウスの夢でも見てるのか――。

「お願い……。置いていかないで……。キース……。私と、一緒にいて……」

 ――俺!?

「キース……」

 キースは、ふっ、と微笑んだ。

「大丈夫だよ。アーデルハイト。一緒だよ。一緒に行こうな。ノースカンザーランドへ」

 アーデルハイトは、安心したかのように深い眠りへと落ちていく。艶やかなその唇は、密やかに咲く花のように微笑んでいた。
 キースは、アーデルハイトの滑らかな金の髪をそっと撫でた。

「じゃあ……。ユリエ。お休みなさい」

「うん! キース! お休みなさい!」

 キースは、廊下で待っていたカイと共に部屋に向かう。

「……今夜は星が綺麗でしたね」

「うん」

「……三日月も、とっても綺麗でした」

「うん」

「とてもいい晩です」

「うん……!」

 キースはそのとき、輝く星々や神秘的な三日月より、まるで天使のようなアーデルハイトの寝顔を心に思い浮かべていた。
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