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旅男! 作者:吉岡果音

第二章 水晶の洞窟

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アホの種別

「怪物たちとの戦いは、三日続きました。たくさんの血が流れました。しかし、幸いなことに、一人の死者も出ませんでした」

 水晶の洞窟に、カイの声が静かに響く。

「それで……、どうなったんだ?」

 キースが尋ねた。

「怪物たちを全滅させ、スノウラー山の頂上で『清めの鈴』のセシーリアの力を使い、スノウラー山と辺り一帯を清めることができました。もう二度とあの地に怪物が生まれることはありません」

「そうか……!」

「俺たちきょうだいは疲弊し、特に消耗の激しかった俺と一番上の兄である『退魔の杖』のコンラードは眠りにつきました。北の巫女様は、そのとき三つの予言を得ていました。今後ノースカンザーランドが怪物に襲われることはなくなったこと、そして――、未来、強大な力を持つ魔法使いが『知恵の杯』と『退魔の杖』を手にし、世界を破滅に導くということ――」

「『知恵の杯』と『退魔の杖』を手に……!」

 アーデルハイトの声は震えていた。カイはアーデルハイトの青ざめた顔を見ていた。しかし、あえてそのまま話を続けた。

「そして、三つめの予言は、『滅悪の剣』を扱える者、その血を受け継ぐ者が、世界の破滅を防ぐことができるだろう。その者は、受け継ぐ者の証として、水晶の森で出会った妖精とペガサスを従えている――、というものでした」

「俺のことか……!」

「はい」

 カイは、まっすぐキースの瞳を見つめる。

「キースさん。あなたが予言の救世主です」

「救世主って……!」

 ――確かに、俺のひいじーさんは、ノースカンザーランドを救った英雄の一人だったのだろう。だけど、俺が救世主って――!

「そんな救世主って……! イケメンで、救世主だなんて、まるでヒーローじゃないか! どうするんだ! 世界中の美女からモテまくってしまうじゃないか! どう準備する!? とりあえず今からサインの練習でもしとくか!」

 キースは大声で叫んだ。

「……今のセリフ、聞き流してもいいですか?」

「……うん。聞き流してくれ」

「えっ!?」

 キースの意外な反応にカイは驚きの声を上げた。

「あまりの事のでかさに心がついていけなくて……、つい現実逃避したくなって、試しに言ってみた。自分で言ってみてさすがに恥ずかしくなった。流してくれ」

「珍しいですね……。キースさんはいつもふざけたたわごとを、ただただ本気で言ってるのかと思ってました」

 カイが真面目な顔でさらりと言う。

「……俺のことただのアホだと思ってる?」

「ただのアホではありませんよ。あなたは優しくまっすぐで強い」

「……アホの部分は否定してくれないのね……」

「あなたの短所でもあり長所でもあると思いますよ」

 キースは深いため息をついた。カイの言葉にではない。予言で救世主と指名されてしまったことを、どう受け止めたらいいか困惑していた。

 ――俺はそんな大それた人間じゃない……!

 キースはうつむき手で顔を覆った。

「……俺は、好きですよ」

「へ?」

「俺は、あなたのそんなところを面白いと思い、尊敬しています」

 カイがぼそりと小さな声で言った。頬が赤い。照れてしまうが今言わなければと思い、思い切って言ってみた、そんな様子だった。

「そういう、人間的な部分が、うらやましいとも思います」

「人間的……?」

「はい。だからあなたについていきたくなります」

 カイは真っ赤な顔できっぱりと言い切る。

「救世主に必要なものは力ではありません。心です」

「心……」

 岩間から降り注ぐ明るい光。水晶は、柔らかな七色の輝きを放つ。

「……カイって、シャイなんだよね?」

「……たぶん。エースさんにはよくそう言われてました」

「その割に、結構恥ずかしいことを真正面から言ってくれるよね」

 キースも顔が赤くなっていた。

「俺は、言わなければいけないと思ったことは言います」

「……そうか。言わなければいけないって思ってくれたんだ……。ありがとう」

「だから、キースさんはそのままの自然体でいてください」

「ん?」

「あなたなら、きっと大丈夫だって俺は信じています。北の巫女様も、妹のセシーリアも。そして、兄さんたちも」

「私も大丈夫だって思ってるよ!」

 妖精のユリエが明るい笑顔で話に加わる。

「救世主らしくならなければ、などと思わないでください」

「カイ……」

「あなたらしくいてください。それがきっと、救いになります」

「俺らしく……」

「そのままの、豪快なアホでいてください!」

 ――豪快なアホ!? 俺は、そういう種別のアホなのか!?

「……アホだから、どーすればアホじゃなくなるか、そもそもそれがわかんねーんだけど……」

「それでいいんです!」

 それでいいのか……、なんだか釈然としないキースだった。

 ――思いっきりほめられてんのか、けなされてんのか……。

 カイの言葉は純粋な心からのものだった。余計始末が悪い気もするが――。



「その三つが北の巫女様の予言です」

 カイは、まっすぐな瞳で告げた。
 それにしても、とキースは思う。

 ――アーデルハイトの動揺は、いったいなぜだろう――。

 アーデルハイトはずっと黙ったままだった。

 ――いつものアーデルハイトなら、カイの「アホ」発言に即座に同意しそうなものなのだが……。

 不思議に思うキースをよそに、カイが再び口を開いた。

「大魔法使いヴァルデマー様は、まず『退魔の杖』のコンラードを、そのままスノウラー山に隠すことにしました。スノウラー山は、年に三日を除き吹雪で閉ざされる自然の要塞です。隠すにはうってつけの場所です。それから、『退魔の杖』のコンラード……、コンラード兄さんは、争いを嫌っていました。俺と同じように、もう目覚めてもよいころなのですが、コンラード兄さんは、今もスノウラー山で自分の意思により眠り続けています――。自分が予言の魔法使いの手に渡り、悪用されることのないように、と――」

「そうなのか……。今でも眠り続けているのか……」

「ヴァルデマー様は、俺たちきょうだいが一つ所にいるのば危険だと判断しました。『清めの鈴』のセシーリアの力は、場を清めるというものなので、悪用される危険性はまずありません。彼女はノースカンザーランドにそのまま残すことにしました。『知恵の杯』のラーシュ、ラーシュ兄さんは、ヴァルデマー様の一番弟子のアントン様に預けられ、アントン様の故郷に隠されることになりました。そして俺は、エースさんに託されました。エースさんが天寿を全うするまで、俺はエースさんと共に過ごしました。そしてエースさんの遺言で納屋に隠されたのです。将来、予言の血を受け継ぐ者が必ず見つけるだろうと信じて――。そして、本当にキースさん、あなたが俺を見つけてくれました」

「俺がお前を見つけたのは、偶然じゃなかったのか……」

「私とルークとこの森で出会うのも、運命だったのよ!」

 ユリエがウインクした。

「そうか……。運命……か」

 ――この旅は、俺の使命、というやつなのか。

 キースにはよくわからない。自分がそんな特別な運命の人間とは思えない。ただ――、ただ、胸の奥に熱いなにかが湧きたつような感覚があった。キースの青い瞳は、洞窟の天井、岩間から差し込む光を見据えていた。

「『知恵の杯』のラーシュは、アントンさんとやらの子孫が隠し持っているのか?」

「ラーシュ兄さんは……」

 カイは視線を下に落とした。なにか表情に出すまいとしているのか、美しいその顔に苦悶の色が見えた――。

「――行方がわかりません」

「えっ……!」

「ラーシュ兄さんは……、おそらく、もう予言の魔法使いの手に渡ってしまっています」

「なんだって!」

「自ら、固く意識を閉ざしているのだと思います。キースさんと俺が旅立つ三日前から交信できなくなりました」

 アーデルハイトが叫んだ。

「……カイ! どうしよう……! やっぱり、やっぱりそうだったのね……!」

 取り乱すアーデルハイト。エメラルドグリーンの瞳に、みるみる涙があふれてきた。カイは静かにアーデルハイトを見つめていた。

「アーデルハイトさん……。ラーシュ兄さんのことを知ってるんですね……」

「そうなのか!? アーデルハイト!」

「私の……、私のただの思い過ごしだと思いたかった……! でもきっと、あれがカイのお兄さんだったんだわ……!」

 アーデルハイトの頬を涙が伝う。

「ごめんなさい……。カイ……。予言の魔法使いは、私の幼なじみ、私の……、別れた恋人なの……!」

「アーデルハイトさん……!」

「ごめんなさい……! 私、彼を止められなかった……!」

 アーデルハイトは、その場に泣き崩れた。
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