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新月の音色
作:灯夜


 秋の夜空は月が映え
 風が小枝を揺らしてゆく
 一人きりの並木道


 今日、僕は八年越しの片思いに決着をつけた。
(もっと悲しいと思ったけど。)
じめじめした気持ちは無く、これでよかったのだと思える。
あの楽しかった日々を、別れを惜しむ様に思い出す。


 フルートの音色、吹奏楽部の発表会、壇上で演奏する姿に一目惚れした。
(我ながら単純な理由だ。)
その凛とした立ち姿に惹かれたのだろう。
そして、会話する機会は意外なほど直ぐに訪れた。


 中二のクラス替え、同じクラスになっていた。
しかも席は隣同士。
「はじめまして、佐久間 綾です。以前は二組だったんだ。よろしくね。」
すごく嬉しくて、何気ない会話が楽しくて毎日が楽しみだった。


 そして、季節は冬。
毎年お馴染みの、クリスマスコンサート。
僕はこの日、発表会後に告白をしようと決めていた。
ついに最後の曲も終わり、みんなが帰る中で綾の所へ向かった。
「お疲れ様。」
「あ、どうだった。」
「すごく良かったよ。今、平気?」
「うん、片付けは明日だからね。何?」
「そっか、綾は今フリーだよね。」
「そうだよ。」
「ずっと好きだったんだ、付き合ってみない?」
(言ってしまった。ミスはないよな?)
「・・・。」
(この間が怖いよな。)
「ありがとう。でも、ごめんね、拓海とは友達でいたいんだ。」
「そっか、悪いな変なことで時間取ってしまって。」
(顔は強張ってないよな、せめて情けない所は見せたくないよ。)
「いいよ。でも、これまで通りいこうよ。友達としてだけど、好きだし。」
家に帰るまでは、いつもの自分でショックは見せないように努めた。
でも部屋で一人になったとき、振られたんだと実感して悲しくなった。

(大丈夫、綾が困るような態度はとっていない。)

(きっと明日には、いつもの僕になってるから。)

(だから、せめて友達で良いから側に。)

 次の日、いつも通りの登校。
「おはよう。」
いつもと変わらない、綾はにっこり笑って挨拶してくれた。
だから僕もいつも通り。
「おはよ。」
と返した。


 それからも僕達は、大体いつも一緒だった。
 僕に彼女が出来た時も。
 綾に彼氏が出来た時も。


 そんな日々の中僕達は大学生になっていた。
そんなある日、いつも通り綾との電話。
「なんかさ、考えてみればうち等も結構古い付き合いだよね。」
「中二からだから、もう六〜七年って所か。」
(僕は一年の頃から知ってたけど。)
「なんかさ、これから先もなんとなく拓海とは連絡取ってる気がするよ。」
(少し気持ちがざわつく。)
気持ちは、まだ変わってなかった。
他の誰かと付き合っているときも、綾に恋人がいる時も。
変わらずに好きだけど、それは徐々に変化していた。
身を焦がすようだった中学生の時と違って、想いが綾に負担にならないように。
「そっか、でも男は基本的に独占欲が強いから結婚したりすれば難しいと思うよ。」
「それでも、なんかずっと一緒にいられる気がするの。」
その言葉が嬉しかった、でも綾はどう思ってその言葉を言ったのだろう。


 大学でも綾は吹奏楽のサークルに入っている。
今日はそのコンサート、客入りはぼちぼち。
こんなに長く一緒にいるのに、音楽に詳しくない僕。
最後は綾のソロ。
ゆっくりとメロディーが流れ出す。
今日、僕はこのコンサートが終わったら何も言わずに綾の側から離れようと決めていた。
教授に留学を進められている、このまま中途半端で側にいるのは辛かった。
だから今日だけ昔の自分、明日教授に留学を受けることを伝えよう。
そして、ステージの幕が下り僕は会場からそっと離れた。


 新しい旅立ちには良いよるだ。
 月明かりが辺りに満ちている。


 不意に誰かが木の後ろから飛び出してきた。
「どこに行くつもりだったのかな?」
僕の顔を下から覗き込むようにして、見上げてきた。
「カーテンコールは、まだ終わってないよ。」
「主役がこんなとこで油売ってていいのかよ。」
(よせよ、諦めきれないんだ。どうしても期待してしまう。)
「ヒロインだけじゃ舞台は成り立たないっしょ。」
(・・・え?)
「ヒーローを迎えに来たの、これ持ってね。」
花束を渡される。
「早くしないと、お客さん帰っちゃう。」
手を引っ張られる。
「おい、待てよ。」
「もー、ほら急ぐ。」
それでも僕は立ち止まった。
振り返った綾の戸惑った顔。

(だめだ、伝えたい。)

(まだ、変わらずに好きなことを。)

(一度振られてるのに・・・。)

「月が綺麗だ、ここだって良いステージだよ。」

理屈じゃなく、どうしても言いたかった。

(望みは無いかも、でもしょうがない。)

(惚れた弱みか。)

「ずっと好きだよ。」

「今までも、これからも。」

「ずっと一緒と言われて嬉しかったけど、でもこの気持ちは変わってくれなかったんだ。」

「友達として過ごしていくのは出来なかったよ、済まない。」


 言い終えて、綾の顔を窺う。
「あはは、純情なやつぅ〜。」
ほっぺたを突付かれた。
「茶化すなよ、本気なんだ。」
綾の瞳が僕を捉える。
綾の顔は、口調と違って真剣そのものだった。
「あんたは、つらいときも、うれしいときも、いつだって私の側にいたよね。」

「だから、多分拓海が考えてるより私はずっとあんたの事が好きだよ。」

「ただ、一度振っていたし。」

「徐々に変わってく気持ちに気付いた時は、彼女いるし。」

「まったく、早くいいなさいよね。」


 鼓動が早まる、少しだけ混乱している。
「いや、お前そんな雰囲気微塵も感じさせなかっただろ。」
(違うだろ、嬉しいって、言うこと他にあるだろ。)
「もちろん、なによ女の子に告白させるつもり。」

後ろ首に手を回される。

「おい、何を・。」

言葉は彼女自身の唇で塞がれた。

「捕まえた、離さないから。」

(まったく。)

「大好きだよ。」














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