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第3話 決断 オレは女子になる!(改)

 朝になって目を覚ますと、昨日のことを思い出した・・・


あれは夢だったのだろうか? それともオレは本当にセーラー服を着てしまったのだろうか?

いくら考えても現実のこととは思えなかった・・


・・やっぱり夢に違いない・・オレには女装趣味などないのだから・・・



 オレが一階へと降りて行くと、母と妹はすでに起きていた。

「おはよう・・・」

オレがいうと、母も妹も「おはよう」とかえす。いたって普通の朝だった。

やっぱりあれは夢だったんだな・・


 そんなことを考えていると、朝食の用意をしていた母が

「有希、昨日の写メ送っといたから。」という。

「写メ?」

「ほら昨日セーラー服着て写したやつよ。有希の携帯に送っておいたから。」

「え!?」

やはりあれは夢じゃなかったのか!オレが驚いて立ち尽くしていると

「え?!お兄ちゃんセーラー服着たの?!あたしにも写メ見せて!」

妹は無神経にはしゃぎだした。

それを聞いた途端、オレは言い様のない恥ずかしさと同時に、無性に悔しさがこみ上げてきた。


 「・・うっ・・・あ・・あれ・・・?」

急にオレの目から涙が溢れだした。

「あ!お兄ちゃん泣いてる~!おかあさん、お兄ちゃん泣いてるよぉ!」

麻衣の声が大きく響く。オレはオレで、なぜ自分が泣いているのか自分の気持ちが良く判らなかった。ただ涙が後から後から溢れてくる。

「麻衣、あなたちょっと自分の部屋に行ってなさい。」

母は妹を2階へ追いやると、オレのところに来て、オレの身体を抱きしめた。

「有希・・ごめんね。かあさん悪かった。有希がそんなに不安だったって気付かなかった・・・」

「・・・うっ・・ううっ・・・」

オレ自身も気付かなかった。オレは不安だったのか?たしかにそうなのかも知れない、オレはこのところ感じていた胸を締め付けるような漠然とした気持ちが、不安からきたものだと思うと少し落ちついてきた。母親の胸で泣くなんて子供のころ以来だったが、オレはしばらくの間、赤ん坊のように母の胸で泣いた。


そして、昨日の晩・・セーラー服を着たときの気持ちが頭の中によみがえり・・オレの心を熱く満たしていくようだった・・・



 泣いて落ちついたオレに母が言った。

「有希、あなたが嫌なら白鴻に行かなくてもいいのよ。1年間勉強して来年またどこかを受けてもいいし、何かやりたい事があるならそれでもいいし・・・」

オレは少しの間考えてみた。でも、昨日セーラー服を着た時に感じた気持ちに嘘はつけなかった。

「・・・ううん・・・オレ行くよ・・・昨日の事が本当にあったのなら、オレ昨日決めたから・・・」

「ほんとにそれでいいの?」

「うん。」

オレははっきりと頷いた。もう迷いは無くなっていた。オレは・・・オレは・・・

「それじゃぁ、かあさん今日、白鴻に連絡しておいていい?」

「うん。」

オレは笑顔で頷いた。


 オレは・・・女子高生になるのだ。



‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥



 オレは登校するとすぐ、担任に白鴻女学園に行くことにしたことを告げた。

「そうか・・・大変だろうが頑張れよ。卒業までは校長も全面的に協力するといってたからな。」

「はい。よろしくお願いします。」

協力といわれても何をしてくれるのかはわからなかったが、オレは深々と頭を下げた。


 昼ごろに母から連絡があり、明日いちど母と共に白鴻女学園に行くことになった。

携帯電話を切ってから、ふと今朝のことを思い出した。オレはもう一度携帯を開き、母が送った写メを見た。


 そこにはセーラー服を着たオレが写っていた。

写メのオレは髪の毛が少々短すぎる以外は女の子にしか見えない。オレは自分がこんなに女っぽいなんて、今までまったく知らなかった。おそらく、とうさんも、かあさんも、麻衣も知っていたに違いない。だからオレが女子高生になると言っても驚きもしなかったのだろう。


 そういえばオレは今朝、麻衣の言葉に泣いてしまったのだった。悪いことをしてしまったと思った。きっと麻衣も気にしているに違いない。オレは帰ったらすぐ麻衣に謝ろうと思った。



‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥



 家に帰ると玄関に妹の靴があり、帰ってきているのを確認したオレは麻衣の部屋に行こうと階段を上がりかけた。

しかし、途中で気が変わり、両親の部屋に向かった。ドアを開けてみると当然誰もいない。壁には昨日のまま、あのセーラー服がきれいに掛かっていた。


 


 オレは壁の方へ近づき、ハンガーをつかんでセーラー服をおろした。手にしたセーラー服は思ったよりしっかりとした重みがあった。


オレは詰め襟の学生服を脱ぎ、ベルトを外してズボンも脱いだ。そしてカッターシャツも脱ぎ、シャツと白いブリーフだけになった。タンスの引き出しに目が向かう・・・しかしさすがに母の下着を勝手に着るのは気がとがめた。結局シャツの上から着ることにした。


ハンガーからスカートを外してはいてみる。これはそんなに難しくはなかった。ただどちらが前か良く判らなかったが、確か母が左側で留めたのを思い出して、腰の左側でホックを留めてファスナーを上げた。


上着はそれよりずっと難しかった。何といっても衿がペラペラしているし、脇のファスナーを開けて両腕をソデに通し、被ってみたが頭がつっかえてしまった。わけがわからずもう一度脱いで見てみると、胸の三角の部分のホックを留めたままにしていたのに気がついた。


今度は胸の部分も外して着てみると、ちゃんと頭が出てきた。胸の三角の布を衿の内側にある2箇所のホックで留める。そして脇のファスナーを下げて、何とか上着も着ることができた。


そこまでは何とかなったものの、スカーフがどうにも決まらない。黒いスカーフを三角に折って衿の下に通してみるが、肩の部分を通して前に持ってくると上手く衿の中に納まらない。オレは思い出して昨日の写メを見てみたが、写真ではスカーフは衿の中にきれいに納まっていた。結局それは最後までどうすればいいのかわからなかった。仕方なくオレはそのままスカーフをくくってしまった。



 オレはドキドキしながら鏡の前に立ってみた・・・


すると、昨日とは違って妙に現実味があった。昨日は少し薄暗い中で見たためか、まるで少女にしか見えなかったが、今見てみるとそこにいるのはやはりオレ以外の何者でもない。しかも鏡の中のオレは、まるで茹だったように真っ赤な顔をしていた。


オレはベッドに座り込んで、しばらく気持ちを落ち着けようとした。ふと見ると、スカートの中で足が開いていて妙にだらしなくみえた。オレは急いで足を閉じたが、こんどはスカートの中で素足の太ももが触れて変な感じだ。それに、足を閉じると股間の物の存在を改めて感じてしまう。


そうだ、オレは女装してるんだ・・・


そう思うとなんだかいたたまれなくなってきた。やっぱり男がセーラー服を着るなんてありえない。もし今誰かに見られたら・・・そう思うとすぐにでも脱いでしまいたくなった。



 しかしオレはこの恰好で3年間くらしていかなければいけない。しかも女ばかりの中で、自らも女として・・・そう考えると自分のした決断がおそろしく無謀なことのように思えてくる。

「・・・はぁ・・・」

思わずため息が出た。


 意を決して・・もう一度、鏡の前に立ってみたが・・やはり結果は同じだった。昨日の鏡の中の少女は魔法が解けたようにいなくなり、ただの女装した男の子になってしまった。男のオレが取って付けたようにセーラー服を着ているだけだった。その姿は惨めでだらしなく、スカートはずり落ちて上着との間にシャツが見えてしまっている。オレは女の子として通学できると本気で思っていた自分が馬鹿に思えてきた。


 本当はセーラー服を着た姿で、妹に朝のことを謝るつもりだったが、こんな姿ではとても無理だ。今すぐ脱いでしまおう。そして女子校に行くなんてやめよう。



 そう思った時、2階から階段を降りてくる足音が聞こえてきた。その軽い足音は階段を降り玄関のあたりでしばらく止まると、こっちに向いて歩きだした。

「お兄ちゃん・・・帰ってるの・・・?」


 ヤバい・・・すぐに着替えなければ!

頭ではそう思っていても、身体が金縛りになったように動かなかった。足音はどんどんこの部屋に近づいてくる。


 足音は部屋の前で躊躇するように止まった。

“トントン”とドアをノックする音・・・

「お兄ちゃん・・・いるの・・・?」

小声で聞く妹の声。


(このままドアを開けずに行ってくれ!)

オレはまったく動けないまま、心の中で必死に祈っていた。

しばらくそのまま何も起きなかった。オレの願いが通じたかと思った瞬間、小さくドアが開き妹の顔がのぞいた。オレは妹と目が合う前にうつむいて目を固くつぶった。


 終った・・・もう妹に謝るどころの話ではない。今のオレは妹から見れば、ひとりでこっそりセーラー服を着ていた変態兄貴にしか見えないに違いない。


オレはうつむいたまま、時間が過ぎるのをひたすら待った。このまま妹が幻滅して去っていくのをひたすら待った。


 しかし時間が経ってもドアが閉まる音は聞こえなかった。もしかして妹はドアを開けたまま行ってしまったのではないだろうか・・・そう思いそっと目を開けてドアの方を見たオレは、いきなり目の前にいた妹に心臓が止まりそうに驚いた!


「・・・あ・・あぁ・・・・」

オレは何か言い訳しようとしたが、言葉がまったく出てこなかった。

妹は黙ってオレを見ている。オレは目を逸らしたかったが、それも出来なかった。沈黙がつらい・・軽蔑の言葉でもいい・・・何か言ってくれ・・・!


そう思った時、やっと妹が口を開いた。

「・・・お兄ちゃん・・・やっぱり似合ってる!」

それは思ってもみない言葉だった。


「・・・そ・・・そんな・・・そんな・・はずは・・・」

オレはやっとかすれた声でそう言った。

しかし妹は少しはにかんだような笑顔でオレを見たまま

「・・・ううん・・お兄ちゃん可愛いよ!」と言った。

「・・・ダ・・ダメだよ・・・こんなの・・ただの女装だ・・・女になんか・・見えるはずがない・・・」

「お兄ちゃん、ちょっとこっちきて座って!」


オレは妹に言われるままドスンとベッドに腰を降ろした。ヒザがガクガクしてまるで操り人形にでもなったみたいだ。麻衣はオレを座らせると、着ているセーラー服をあちこちいじりだした。衿を後ろにずらしたり、両肩をつまんで持ち上げたり、上着の裾を引っ張ったり。そしてスカーフをほどくと、きれいに細く折り上げ、衿に通して強めに前方に引っ張ると、胸の前できれいに結んだ。

「立ってみて!」

オレが言われるまま立ち上がると、妹は上着のスソをめくり、スカートの腰の部分をクルクルと折り曲げると、グイッと上に引っ張り上げた。そして上着の裾を整えると、オレを鏡の前に引っ張っていく・・・


 オレは鏡に自分の姿がうつるまえに、思わず目を閉じてしまった。正直見たくなかった。また女装したオレを見て惨めな気持ちになるのはまっぴらだった。

「お兄ちゃん、目を開けて!ほらっ可愛いでしょう?」

オレはその声にコワゴワ目を開いてみた。するとそこにはさっきとは全然ちがうオレの姿があった。多少ボーイッシュには違いないが、それは女の子に見えなくはなかった。


 どうやら今度は妹が魔法をかけたらしい。オレは驚いて麻衣を見おろした。

すると麻衣はこう言った。

「お兄ちゃん、女の子の服はね、ただ着ただけじゃダメなの。いつも気を使って服がきれいに見えるように着てなきゃいけないのよ。」

たしかにさっきまでとは全然違って見える。

「お兄ちゃんみたいな着方じゃ変に見えてもしかたがないよ!衿はグチャグチャだし、肩の位置は合ってないし、スカートの腰の位置もぜんぜん違うんだもん。お兄ちゃんはやっぱり女の子とは少し体型が違うんだから、女の子になるなら普通のコよりもっと気を使わなきゃ!」


オレは麻衣に言われてはじめて、女の子は服を着るにも気を使わなければいけないと知った。

「・・・お兄ちゃん・・・今朝はごめんね。・・・なんか、あたし騒いじゃって・・・」

そんな・・謝らなければいけないのはオレの方だ。

「いや・・・麻衣は気にしなくていいんだ・・・オレちょっと気持ちが参ってたみたいで・・・それに・・・恥ずかしかったし・・・」

オレは麻衣の頭を撫でてやった。

「着かた教えてくれてありがとう。」

オレが言うと、麻衣は

「ううん、またわからないことあったら聞いて!」

と言って微笑んだ。




 「そうだ!お兄ちゃん、おとうさんにも見せようよ!」

オレはそれを聞くとさすがにうろたえた。

「・・・い・・いや・・・やめよう・・・はずかしいよ・・・」

「何いってるの!どうせ女子高生になったら毎日着るんじゃない。そんなに恥ずかしがってたらダメだよ!」

たしかに妹の言うとおりだった。どうせそう遠くないうちに父にも見せることになるのだ。


 麻衣はオレをリビングで待たせると、書斎に籠っている父に声をかけた。

戻ってきた麻衣の後ろには、マスクを外しながらリビングへ入ってくる父がいた。

父は驚いたように目を見開いてオレを見て・・

「有希か?! 驚いたな・・・」

オレは恥ずかしさに頬が熱くなるのを感じながら聞いた。

「・・・オ・・オレ・・・変じゃないかな・・・」

「いや・・・お前がこんなに美人だとは思わなかったよ。出会ったころのかあさんにそっくりだ。」

そういえば昨日の夜、母もそんなことを言っていた。

「・・オレ・・・信じていいのかな・・・ほんとに・・・女の子に・・・見えるのかな・・・?」

「ああ、十分女の子に見えるよ。なあ麻衣。」

「うん、お兄ちゃんきれいだもん。自信もっていいと思うよ。」

オレはすごく恥ずかしくて・・そして何だか嬉しかった。








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