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 エクリースとブライトの二人は、小川のほとりに来た。小川と言ってもかなり流れは急で、春先の雪解け水の冷たいせせらぎが、思いのほか勢いを増している。
 二人の王子達は、その側の木陰に座り込んだ。風が、ブライトの金髪とエクリースの漆黒のボサボサに切られた長い髪の間を吹き抜けていく。

「エクリース、ここでの生活はどうだ? 楽しいか? 王宮の方がいいのではないだろうか」とブライトが問いかけると、
「兄上……」とエクリースは俯いて言った。「わたしは……本当に、闇の運命を司る“デスティ”なのですか? この森の住民ですら、わたしを見るとそう言うんです……指を差しながら、怖がって」
「そんなはずが無いだろう!」とブライトは、この両親から“捨てられた”も同然の弟を不憫に思いつつ、否定した。けれどもそれは嘘の否定だったのだが。

「怯えなくていい! お前はお前だ。第二王子エクリース。ただそれだけだよ」
 そう言い掛けると、ブライトは暖かい家庭の愛を知らないエクリースの肩を抱き寄せた。
「何も心配するな。わたしが何とかしてやるから」
「兄上……」
 エクリースは初めて実の兄の真意を知って、少しだけ微笑んだ。
「それにしても、その姿は酷いな」とブライトは顔をしかめながら、エクリースの着ているボロを見る。「わたしのケープをあげよう」
「いや、それは」とエクリースは身を引いた。「要りません、兄上」
「そうか」とブライトは無理強いしなかった。

 侍従がブライトの栗毛の馬を引いてやって来た。
「ブライト様、もうお時間でございます」
「なに? もう? まだ少ししか弟と話してはおらぬ」
「それで充分でございましょう」と侍従は冷淡に言い放った。「王様の命令でございます」
「ああ、分かったよ」
 そう言うと、ブライトは名残惜しそうに立ち上がった。

「この場所は綺麗な所だな。又来るぞ。その時はもっと色々話してくれ、エクリース」
「あ……はい。兄上」
 ブライトは自分より少しだけ背の低いエクリースの肩をポンポンと叩いて、その栗毛の馬に乗った。
「兄上!」と突如エクリースが叫ぶ。
「何だ!?」とブライトは馬上から答えた。
「その馬、今は殺気が……乗られないほうがいいかも……」
「何を言うのだ!? この馬はわたしの馬だぞ。いつも大人しいので有名な名馬だが」
「それは……アラブからの馬ですね」
「そうだ。アラブから分捕った名馬だそうだ」
「今すぐ降りて下さい!」
「どうして?」
「それは」
 そこまで言うと、エクリースははたと言いよどむ。自分でもなぜだか分からないが、馬の気が立っていることだけは分かる。そして馬の背後に、何かの暗い影が見えたのだ。

「兄上が危険です」
「何を言うのだ!? さあ、もう行くぞ。さらばだ、エクリース! 又会いに来るからな!」
 ブライトは片手を挙げて、エクリースに別れの挨拶をした。ところがその瞬間だった。
 突如その名馬が後ろ足だけで立ち上がると、鋭くいなないた。ブライトははずみで、激しく地面に叩きつけらてしまったのだった。
「兄上~~!!」とエクリースは悲鳴をあげた。

 臣下達、兵士達、そして側に居た騎士ウーリッヒ、それからもっと離れて立っていたシスリー長老達が慌ててブライト王子に駆け寄った。皆、顔色は真っ青で、ある者はわなわな震えている。
 一番最初に駆けつけたエクリースを腕で乱暴に突き倒し、「どけ!」と荒々しく言ったウーリッヒが抱かかえると、ブライトは足を怪我したらしく痛そうに呻いていた。
「ブライト様! 大丈夫であらせられますか!?」
とウーリッヒが問いかけると、
「ああ、大丈夫だ。ちょっと足首をくじいたらしい」
とブライトは健気に答えた。
「わたしとしたことが! 若様を守れなかったとは!」
「大袈裟だよ、ウーリッヒ、わたしなら大丈夫と言ってるだろう!?」
とブライトはやや癇癪を起こしながら叫んだ。

「ブライト様、すぐさまここを出立なされませ。早く弟君より離れるのでございます」
といつの間にか近寄って来ていたシスリーが、不気味にたしなめた。そしてシスリーは、地面に倒れているエクリースをジロリと睨み付ける事も忘れなかった。
「ここは不吉な場所。ブライト様には似つかわしくない所でございます」
「シスリー。わたしは……そんなことは……」
「さ、ウーリッヒ。殿下をすぐにそなたの馬へと」

 エクリースは馬の背後にある黒い影が無くなったのを知った。けれども、そのことについては何も告げなかった。
 その日の内に、『エクリースの呪いによって、ブライト様が御怪我なされた』との伝言が、王の元に伝えられたとも知らず。





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