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 シスリー長老は王宮に戻ると、すぐさま王の所に謁見を願い出た。緊急の用事だと言って。王は信頼する長老の一人の用件にすぐ反応した。
 シスリーが王の謁見の間に入ると、王は9歳のブライト王子とチェスをしていた。いつ見ても、ブライト王子は輝かしく愛らしく品があり、先ほど出会ったエクリース王子とは雲泥の差があるような気がしたが、けれどもエクリースもいずれ見目麗しい王子にならぬとも限らない。
 けれども少なくとも今朝遭遇したエクリースは、ボロを纏い泥だらけの野生児のような男の子で、とてもブライトにはかないそうに無い。

「何だ、シスリー?」と王はチェスの駒を持ちながら聞く。
「ちょっとお話がございます。失礼ながら、ブライト様には少しお暇を」
「何だ、大袈裟だな」
「いえ、大事な用事ですので」
「分かった」と王は頷いた。「ブライト、ちょっと乳母と外に行ってくれないか。この勝負は又明日にでも続けよう」

「僕の勝ちですよ、どう転んでも」とブライトは勝ち誇ったように言った。
「確かにお前は少年ながらチェスが上手だな」
と言う王の顔は、満足げに輝いている。
 けれどもブライト王子は王の命令には逆らわず、一礼をして部屋から去って行った。
「いつもながら、ブライト様のお振る舞いは上品そのものですな。その上、お妃様に似てお美しい」
とシスリーは、ブライト王子が出て行った扉を見つめつつ、感心しながら言った。

「確かに、その通りだ」と王は頷いた。
「これでこの王国もご安泰でありましょう」
「そうだな。そうあって欲しいものだ」と王はなにやら考え込みながら言った。
「ところでお前の忠言とは何だ?」と王はクルリと振り返る。その銀髪が凛々しい。

「実は」とシスリーは躊躇しながら言いかけた。「エクリース様のことでございますが」
「エクリースか!」とそう言う王の言葉には、どこか棘があった。
「エクリースがどうした?」
「エクリース様は危険でございます!」
「なにぃっ!? なんと申す!」
 シスリーは思わず跪きながらも、決然と言った。

「あのお方の背後に潜む影を見たのでございます、王よ!」
「なんと! お前はあの子に会ったのか」
「偶然ではございますが、あの森の中で」
「なぜ危険なのだ」
「恐れながら……エクリース様こそ、デスティではないかとわたしは感じたのでございます」
「なんだと!? エクリースが闇の王、デスティ!? そんな馬鹿な!」
 王は憤慨して、顔を真っ赤にした。

「卑しくも長老であるわたしは、特別な才能を有している者。エクリース様の背後に蠢く何者かを感じたのでございます。今は幼児ではあらせられますが、いずれご成長の折には……」
「馬鹿を申せ!」
 そう怒鳴ると、王は拳でテーブルを叩いた。その拍子に、テーブル上のチェスの駒が当たりに飛び散っていく。

「そんな馬鹿なことが……」
「王様! すぐさまあの王子を殺すのです。でなければ、遠く異国の果てに奴隷としてお売り下さいませ!」
「何と言うのじゃ! 我が子を殺す!?」
「そうしなければ、あなた様やこの国の運命は暗闇に閉ざされ、あの王子の周りは不幸な者だらけになりましょう。
考えても御覧なさい。あの王子は、皆既日食のその時に生まれました。そしてお妃様は、お産みになられた後は、あの有様でございます。王子は、生まれつき不幸を背負っておられる。そして生きていても、いずれデスティに乗っ取られるだろう、そういう運命なのです」

シスリー長老は王に詰め寄った。その顔は必死で、何とかしてこの国を守ろうとする気概に満ち、決して私利私欲で言っているのではない事は明らかだ。王は腕を組んで、疲れたように椅子に座り込んだ。
「わたしは正直言って、エクリースを好きではない。ブライトの方が賢くて優しい。ブライトを愛しているが、エクリースは……。
 けれどもだからといって、自分の息子を殺したり奴隷に売ることなど出来ない。分かってくれ、シスリー。お前の忠誠心はまことに嬉しいが」

「それでは王様、エクリース様を秘かに見張っているというのは如何でしょうかな?」
とシスリーが提案すると、やっと王は顔をあげた。
「そうだな。それぐらいはしなければならないだろう。まだ6歳の幼児だが、子供という物はどんどん大きくなっていくものだからな」
「それでは、息のかかった者を選んで、それとなくエクリース様を見張る事に致しましょう」とやっとシスリーは元の穏やかな表情になって、一礼して去った。

「ああ! わたしは実の息子を信じることが出来ないのか!」
 王の溜息は、暗い王宮の中に吸い込まれて行く……。




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