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エクリースを産んで以来、王妃ドロテアは高熱に犯される様になった。何日もその熱は引かず、王は生まれたエクリースのことよりも、愛する王妃の病を心配する余り、食事も喉を通らなくなっていった。
王は思いだしていた。大臣から言われたアンジェラと言う名の“魔女”の言葉を。
『真昼なのに暗闇で生まれる者は不幸を呼ぶ者。そしてその者はいずれこの世に生を受ける』
― それは、第二王子エクリースなのか……? 日食(=エクリプス)に生まれたので、エクリースという名を付けたが、それは間違いだったのかも知れない。
いや! 罪の無い無垢な幼児を、そのように思い込むとは! それこそアンジェラの復讐に他ならないのだ。わたしはそんな言葉を信じてはいけない。
けれども王の不信は強く、ほとんどエクリースに会いに行く事すらなかった。国中の名医や外国の医者までも呼び、王妃の回復に努めたかいがあったのか、ほどなくしてやっと王妃の熱は下がった。
けれども、王妃は以来ちゃんと起き上がることも出来ず、ただベッドに横になっているか、せいぜい気分のいい時に椅子に座ることしか出来なくなった。
「あなた……済みません。何も出来なくなってしまって、王妃としての勤めすら出来なくなりました。可愛い息子達と遊ぶ事もできず、あなたの夜の相手も出来なくなり、生きていても仕方の無い女になってしまいましたわ」
とある日、王妃は見舞いに訪れた王に向って悲しげに言いかけた。
「でも、息子エクリースを憎まないで下さい。あんな言葉は単なる悪ふざけ。誰でも、お産の後に身体を壊す女は多いものです。たまたまわたしがそうなったまでのこと。決してエクリースのせいではありません。息子であるあの子を恨まないで!」
王妃ドロテアは王の手を力無く握り締め、涙を流しながら懇願した。王はその横に座り、ただただ王妃の金色の髪の毛を撫でているだけだった。
「けれども、ブライト様は御妃様と同じ蒼い瞳と金色の髪を持っているというのに、エクリース様は、瞳も髪も真っ黒ですわ。何だか薄気味悪いのです、わたしは」
と王妃の一番の侍女ハイラが、溜まらずすすり泣きながら王に取りすがった。
「実を申せば、わたしも余りあの子に会ってはおらぬ」と王は答えた。
「けれども、透き通る肌にキラキラ煌く黒い瞳とつややかな黒髪は、それは見事だと乳母ジュリアは言っておるぞ」
「ジュリア様は、エクリース様の乳母ですし、ご自分の乳を飲ませていらっしゃるので、お心が傾いているのです。ま、致し方のない事ですが」
とハイラが憎々し気に言った。
「わたしは、残念ながらエクリースを愛することは出来ぬ。妃はこんな有様だし、アンジェラの語った言葉も気になってな」
「当たり前ですわ!」とハイラが同意した。
「ブライト様のように、お妃様と生き写しならともかく、ご次男は闇の中で生まれた王子様ですわよ。宮中の者はみんな、エクリース様のことを“プリンス・エクリプス”、日食王子と呼んでおられます。不幸を呼び込む定めだと申しておりますわ」
「言うな!」と王は厳しい声で制した。
「それが真実かどうかは、いずれ分かる事だ。わたしの息子を、そのような呼び方で言うのは許さぬ!」
「はい、分かりました。どうも済みません、王様。以後慎みます」
ハイラは優雅に一礼した。けれども下を向いたハイラの顔には、エクリースに対する憎悪が隠されていたのだった。
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