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若い兵士ビクターと共に小屋に戻ったものの、ジュリアとグライスの親子はますますエクリースには冷たくなった。食べる時も無言、そして終始冷たい空気があたりに漂っていた……。
けれども一つだけ朗報があった。エクリースを見つけ出したこの若い兵士は、エクリースのお守り役としての任務を与えられ、この小屋でエクリースがドリアン伯爵のもとに行くまで共に住むようにと言われたのだ。
それはブライト王子の配慮だった。
ブライトはエクリースの身を案じていた。夫を殺されるという身になったジュリアが、エクリースにその憎悪の刃を向きかねないと、なんとなく感じ取り、そして護衛を付けるようにと配慮したのだった。
エクリースはブライトの配慮には気付いていなかったものの、どことなく純朴で誠実そうなこの兵士に、親しい感情を持つようになっていた。
けれども、トロイの処刑の日になると、ジュリアとグライスに対する奇妙な申し訳なさで、どこか胸苦しくなってくる。
「わたしどもはこれから行ってまいります」とその日の朝、ジュリアは慇懃無礼な言葉遣いで、エクリースに告げた。「我が夫の処刑をこの目で見て参りますゆえ」
その言葉遣いには、明らかな皮肉と憎しみが込められているのを、ビクターは察しエクリースを心配そうに見つめたが、エクリースはただ、
「ああ」としか言わず、横を向いた。
「それでは」
そう一言だけ言うと、ジュリアとせむしのグライスの二人は、城内に向って歩いて行った。その後姿は背中が曲がり、やるせない無念の思いを表していた。
「ねぇビクター」と、その後姿が見えなくなった頃、エクリースは若き兵士に向って親しげに言いかけた。手には、例の忌まわしい時計がある。忌まわしいが、さりとてブライトから貰った物だ。そう簡単には手放せない。
「はいっ、何でございましょう?」
「正直に言うのが悪い事なの?」
「はい……その答えは、まことに難しいですね」
「どうして?」
「時と場合によりまするから」
「僕には……分からない」とエクリースは正直に答えた。
「王子様は、今だ幼いからでございますよ。それ以上は、深く考えませぬように。それはそうと、もうあと数日でエクリース様は北の果てに赴かれるのですね」
「そちらの方が、僕にとっては気持ちが楽なんだ」とエクリースは少しだけ微笑みながら言った。「僕はここに居ない方がいい」
「それは……」
ビクターは絶句した。この目の前の幼さを残した美少年が、深い洞察を有している事に気付いたからだ。
「お淋しいでしょう」
「いいや、全然」とエクリースは答えた。
「けど、兄上と会えなくなるのは少し辛いけど」
「いや。兄上様は、こっそりとお忍びで直前にここに来られる予定です」
「ええっ!? ほんと?」とエクリースは飛び上がった。ビクターは少しだけ後悔した。このことは黙っているようにと、騎士長のウーリッヒから言われていたからだ。
けれども今更嘘だとは言えない。
「本当のことでございますよ」とビクターはにっこりと微笑み返しながら言った。
「わたしも、正直に申し上げましたね」
「ほんとだね」
エクリースも嬉しそうに言い返す。ところがその途端、不気味な鐘の音が、遠く王宮の方から響いてきたではないか。
「何なの?」
「ああ、あれは」とビクターは躊躇したが、意を決して続けた。
「処刑が行われたという合図でございます」
「そうか」とエクリースは深くうな垂れた。
「トロイは王宮の外壁から、吊るされました」
ビクターは義務的に告げた。
「まことに残念なことですが」
「僕は、ここの人達を不幸にする気は、毛頭無かったのに」
「それは分かっておりますよ、エクリース様!」
「それなのに……どうして?」
頭を上げたエクリースの瞳には涙の露があった。
エクリースがそっとビクターに頭を傾げると、ビクターはいとおしそうにその小さな頭を抱き止めた。
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