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ドイルの兵士達に捕まったリアムは、王宮のドイルの前に連れて行かれた。
ドイルは皇太子の印の大きなサファイアのブローチを胸の真ん中に付け、気分はもうすっかり“次期の王”のつもりだ。リアムは一目で、ドイルの中の軽薄さ、冷酷さ、頭の悪さに気付いて、何だかガッカリしたし、このような王に捕まったことすら恥だと感じていた。
けれども、捕まったことは事実で、それも怪力のリアムですら絶対に解くことは無理な太い縄でしばられているのだ。糞忌々しいが、今はただ愛する妹が例の3人と逃げ出したことが、唯一の救いとなっていた。

「これ、その方、魔女の兄だそうだな。村に厄災を及ぼし、村人達に不幸をもたらしていたという兄妹めが! お前達のせいで、飢饉が訪れ、百姓達が飢えに苦しんだというではないか!」
 ドイルが精一杯の虚勢を保って、指を突き立てたが、リアムは「ふん」と鼻を鳴らしただけだった。
「馬鹿殿からは言われたくねぇよ」
 途端に側の兵士に殴られ、リアムの鼻から血が飛び散った。
「益々ハンサムになったな」とドイルがせせら笑う。

「お前は妹の魔女を逃したというが、どこへだ!」
「妹は魔女なんかじゃねぇ!」とドイルは怒鳴り返した。「気立ての良い、あんな優しい妹が魔女のはずねぇじゃないか!」
「だが、村人達は以前からお前達を恐れていたと行っておるぞ」
「ちっ」とリアムは舌打ちした。「それは逆だろ? 妹の方が、村人達を恐れていた。村の男達めが、妹の美貌に涎をたらしつつ近寄り、悪さをしようとしていたからだよ。というか、もともと飢饉はお前らのせいだ! こんなに雨が降っていないというのに、作物が育つはずがねぇ! それなのに、去年の倍の税をかけやがって! だから俺達庶民は、食うものが無くなってしまうのさ。恨むんなら、お天気とこの馬鹿殿を恨めよ!」

 誰かが、下を向いてクスリと嗤った。当たりだったからだが、それを見咎めたドイルはその若い兵士を引きずり出した。その場に居る全員が凍りつく。そして、リアムも。
「お前、今嗤ったな! それはどういう笑いだ? この男に対する同意の笑いか? それとも、このわたし、皇太子への当て付けなのか!?」
「め、滅相もございません!」とその若い兵士はぶるぶる震えながら釈明した。
「あなた様への当てつけなどとは!」
「嘘をつくのが下手だな、お前は!」とドイルは忌々しそうに言うと、「この兵士にも縄を!」と命じた。「あとでたっぷり鞭打ちを!」
 ドイルにとっては、敵も味方も自分を嗤う者は、ことごとく憎いのだ。

「全く、とんだ王子様だぜ。誰かとは大違いさ!」と思わずリアムが罵ると、なぜかこんな時には聡いドイルは、キッと振り返った。ドイルには、大昔、ベアトリスの館での苦い思い出があるのだ。
「その“誰か”とは誰だ! もしや、お前達……やっぱりあの呪いの王子エクリースとつるんでいたのか!」
 ハッとして後悔したがもう遅い。リアムはしまったという顔をしたまま、俯いた。
「やっぱり、お前達はあの王子とつるみ、天災を引き起こしていたのだな!」
 このドイルの言葉には、妙な説得力があった……。

                     ☆ ― ☆ ― ☆

 その頃、庭にしつらえた典雅なお茶の席で、エクリースはリュートを奏でていた。暑い位の天候のせいか、ご婦人方は皆パラソルを侍女に持たせている。そこにはアレクセイとその悪友達、ソフィア、それから少し離れてワシリーが執事イワンと共に席に就き、お小姓エクリースの奏でるリュートの音色と、甘い声の歌を聴いていた。
「本当に絵のように綺麗なお小姓ね」と婦人の一人が隣に囁く。「あれが農奴だったとは信じ難いわ。でも、以前の二人のように、いつか儚く消えていくのでしょうね。あれは可哀想で、又不思議な出来事だったわね~」
「あのアレクセイ様は、お小姓に何を求めているのかしら? いつも側に侍らせて」
 
 その囁き声を少し離れて座っていたソフィアは聞いていた。並みの人間ならとても聞こえない距離なのだが、ソフィアは何食わぬ顔でその声を盗み聞きしていたのだ。
「実はね……下女アンヌの話だと、あのお二方はおぞましい間柄と言うわよ。それとアレクセイ様には、奇妙な噂が有るとか……ふふふっ」
 ソフィアはその婦人をチラッと一瞥した。するとその婦人の背中にぞくぞくする何かが走って、彼女はショールを巻きつけた。
「何だか寒い……」
「まあ、この暑さなのに!?」と不安げな隣の婦人が驚いている。
 ソフィアの唇に、微かな冷笑が浮かんだ。

 けれども、そのソフィアもエクリースが突然苦悶の表情を浮かべたのを見て、注意をエクリースの方に向けた。
 エクリースはパタッとリュートを落すと、両手で頭を抱えながら卒倒したのだった。
「エリス!」と叫んで駆け寄るアレクセイ。ワシリーはけれども微動だにせず、その様子を伺っていた。
「あの二人は、どうやら秘密を共有しておるようだな、イワン」
「はい、左様で」とイワンはしたり顔で同意した。




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