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トロイが引き立てられて行った後、ジュリアの狭い小屋では沈黙が重く漂っていた。
トロイの容疑は、「ブライト王子の時計を盗んだ」という物であり、それはエクリースにとって非常なショックだったのだ。
親代わりのトロイとは余りいい関係ではなかったものの、けれどもトロイはやはり自分を庇護していた大切な人。そして愛するジュリアの夫であり、兄弟のようにして育ったグライスの父なのだから。
「僕が、ブライト兄上からの贈り物である時計を失ったのは確かだ」
とエクリースは力なく言った。「けど、だからと言って、トロイがそれを盗んだとは思いたくない」
「見たわけではないのでしょう、エクリース様! それをあの人に差し上げたと言って下されば、あの人は助かりますわ」
とジュリアが揉み手をしながら言う。
「でも嘘をつくのは嫌だ。別にあげたわけじゃないもの」とエクリースは否定した。
「兄上からの品物を、誰かにあげるなんてこと、できっこない」
「でもそれじゃ……父ちゃんは、死刑になっちゃうよぉ」
とグライスはほとんど半泣き状態だった。
「大丈夫だよ。僕が兄上や父上に何とかしてもらうように言うから。きっと拾ったけど、そのまんまにしている内に、魔が差したんだよ。少しのお金の為に目が眩んだんだ」
「少しのお金と仰いますが、エクリース様」とジュリアは初めて激しい口調で言った。
「わたし達、庶民にとっては、大層な額なんですよ!」
「そうか……ごめん……」とエクリースはうなだれた。
「でも、拾ったとしても、父ちゃんはきちんとエクリースに返すべきだったんじゃない?」
とグライスは涙のあとのある瞳を上げた。
「それはそうだし、正論だけど……でも悪魔が囁いたのよ! あの人がそんなことまでするとは思えない!」
「大丈夫だよ、ジュリア! 必ず僕が何とかするから」
エクリースは気が咎めながらも、必死になって言い張った。けれどもそれ以来、この小屋には冷たい空気が流れていくのを、エクリースは敏感に感じ取っていたのだ。
☆ ― ☆ ― ☆
酷い拷問を受けながらも、トロイは盗んだ事は否定した。そして、ひたすらエクリースが自分に与えたのだと主張したのだった。
「本当とは思えぬ」と兵士長は思ったものの、一応エクリースを召還することを、王とブライト王子に進言した。
ブライトは、即座に、
「エクリースが、わたしが贈った物をそう簡単に他人にあげるはずがない」
と主張したが、王は一応エクリースを呼び戻す事にしたのだった。
かくしてエクリースは、途中森の中で例のブルーの絹の服に着替えさせられ、王宮に召された。
王宮では、途中の廊下で、侍女達や貴族達がこの美麗に着飾った少年を見て、皆溜息を付いたのだった。
「あの可愛らしい少年は誰?」
「天使のような、ステキな少年ね」
「あのようなお美しい少年は、ブライト様以上かも知れぬ」
と王宮の人々は噂し合ったが、それがよもやエクリース王子だとは気付かず、あとになって知らされたのだった。それほど、エクリースは誰も気付かないうちに、見目麗しい美少年へと成長していた。
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