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 成り上がりの毛織物商人は、激しい拷問に直ぐ白状した。その銀の壊れた時計は、闇市である男から買ったとのことだった。兵士達は闇市に行き、瞬く間にその男を捕まえると、もっと激しい拷問を加えた。
「さぁて、この時計を持って来たのは誰だか言うべき時が来たな。そもそもこれがどなたの物か、お前は知っているのか」
と尋問した無慈悲な兵士長は、恭しくその時計を掌に載せて顔を近付けたのだった。
「知りません……そいつはどうせガラクタ同然。もう壊れてしまって修復が効かない物です。銀に値打ちがあったにせよ、ただの装飾品に過ぎないので……」
 
 これを聞いた兵士長は、その男を容赦なく殴りつけた。
「ばかもの! これはな、こちらのブライト王子の私有されていた物なのだ。祖父に当たる、元の王の持ち物であり値打ちがある無しではなく、大切な元王の形見なのであるぞ!」
「そ、そんな……」と闇市の男はガタガタと震え出した。
「そんなはずは無い。持って来た男は、けちな野郎でそんな値打ち物を持っているはずが無いような人間だった。
 奴はこう言ったのだ。これはごみ溜めで拾ったのだと」
「ごみ溜め!?」
 兵士長は益々いきり立つ。

「おそれ多くも、ブライト様の持ち物を、ごみ溜めの物だと申すのか! それだけでお前は死罪に値するだろうよ」
「やめてくれぇぇぇ~~~~!!」と哀れにも天上からぶら下がっている男は悲鳴をあげた。
「言うから、言うから、俺を死罪にはするな~!」と男は喘いだ。
「ではこれはどこから?」
「厩番の、貧相な男でトロイと言う奴だよ……そいつが、なぜこれを持っていたかは、俺は知らねぇ」

「厩番のトロイ?」と兵士長は首を傾げたが、側に居た若い兵士が耳打ちした。
「トロイと言うのは、“あの日食の暗黒で産まれた王子”エクリース様を預かっているものです!」
「なんと申す! ではそいつは……?」
「おお! 俺は破滅だ! そんな物だったとは! あの王子に係るものは、ことごとく不幸になると知っていたら、こんな代物はてこでも買わなかったのに!」
と男は喚いた。

「もう遅いな」と兵士長は冷淡に言うと、その男を鞭打った。
 絶叫が響く中、兵士長は顎で命令した。
「早速トロイを連れて来い!」
「はっ! 確かに承りました」
 若い兵士とその部下達は、深い森の奥へと駆けて行った。

☆ ― ☆― ☆

 雪解けと共に、遥か北の果てへ行かされると言うエクリースは、このところ毎日浮かない日々を送っていたが、けれども一人だけ喜んでいる者が居た。それこそ、トロイその人だ。
 トロイは早くこの厄介なお荷物を遠くへと旅立たせ、自分達の責任を放棄したかったのだ。その時は刻々と近付いている。
 けれどもトロイは知らなかった。時は無慈悲なもの。その刻々と刻む時は、今度は自分に牙を向いて来るということを。

「エクリース様。お代わりはいいのですか?」
と豆のスープを気だるそうに木のスプーンでかき回しているエクリースを、心配したジュリアが顔を覗き込んで尋ねた。
「ああ、もう要らない」とエクリースは投げやりに言い放つと、つとその木皿を向こうに押しやった。
「もういいの? じゃあ、僕が食べていい?」とグライスが頼み込んだ。最近、グライスの背中はかなり曲がり、将来せむしになるのは明らかだった。
 ジュリアはそのような息子を不憫に思っていたが、この時代ちゃんとした薬など何も無い。

「ああ、いいよ。最近さぁ、何だか食欲が無くて。決して不味いわけじゃないんだよ」
とエクリースが言い訳を言った時、扉が蹴破られ、サーっと一陣の冷たい風が吹きぬけて行った。
「な、何者なのです!?」とジュリアが驚いて立ち上がると、さっとトロイの顔が青ざめた。
 三人の兵士達は残忍な顔付きで、すぐさまトロイを羽交い絞めにした。
「お前がトロイだな! 容疑は分かっているはずだ!」
 トロイはその時、自分の運命が尽きたことを知った。



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