ブックリスト登録機能を使うには ログインユーザー登録が必要です。
第三章 新しい世継ぎ 1
第三章 新しい世継ぎ



 ドイル・アンギヴィル公爵は、今絶頂の極みにあった。母サスキアの兄でもある王から、「次の王に」と言われたときの、あの天にも上る心地! 父を早く亡くした母の、あの驚愕と狂ったような喜びようは!
 そして、明日は『立太子』式の日なのだ。世継ぎの皇太子として、王が亡くなるか退位した途端、自分はこの国の王になる……思いもかけず、王になるのだ!

 もちろん、ドイルが次の王になると知った者達の中で、苦虫を噛み潰したような者も多々居ることは居た。
 シスリーは巧みに本心を隠してはいたが、確かにドイルを見る目はきつかったし、ウーリッヒはあからさまに嫌な顔をしてそっぽを向いた。
 そして、サミュエルとビクターは渋面を作り、ドイルを苦々しく思っていた。

 特に、アンネットとの間に息子をもうけ、父親となったビクターは我慢がならぬようだった。立太子式の為、久し振りに王宮に出向いた時のこと、ドイルはキンキラキンの下品な衣装に身を纏い、廊下を闊歩していた。その不遜な態度に、以前のドイルを知っているビクターは、反吐が出そうなほど不快になった。
 ドイルはまあまあの容姿なのだが、歩き方、振る舞い、態度、マナー、その全てが下卑ており、到底王の器とは思えないが、弱気になった王はやはり妹の息子を跡継ぎにしてしまったのだ。
 それ以来、ドイルの母サスキアは、それまで端を歩いていたのに、廊下のど真ん中を歩くようになったらしい。

 ドイルが近寄った時、お辞儀をするのもムカツいたが、けれども仕方なくわざと仰々しくお辞儀をすると、ドイルは足を止め、気取った様子でビクターに近寄って来た。
「おや? お前は、あのエクリース王子の召使いだった者では?」
“召使い”という言い方にも腹が立ったが、けれども大人のビクターは恭しく答えた。
「はい、さようでございます」
「あの時、ドリアン公爵邸では、色々あったな~。とにかく寒くて、ボロっちくて、侘しい館だったがね」
「あれはもう、数年前のことでした」
「そうだな。サミュエル・グールデュール殿の奥方だった……確かぁ~~~~、ベ、ベ」
「ベアトリス様でございますが」
「ああ、そうであったな! ベアトリス嬢の誕生日か何かにご招待されて行ったものだな。ま、奥方は不幸なことになってしまったが……」
「はい、まことにそのようで、サミュエル様のお悲しみは深く……」
「元々、エクリース王子が居たせいなのではないのかな。ぐぁっふぁはははは」
 ドイルの馬鹿笑いを、ビクターは歯噛みしながら聞いた。胸がむかつく。
 けれども程なくして、ドイルは真紅のマントを翻しながら、去って行った。

☆ ― ☆ ― ☆

忌々しい思いを抱きつつ、ビクターは先に来ていたサミュエルの館に出向き、その話をしたところ、サミュエルは渋面を作ったまま、しばらく無言だった。
 が、やがてサミュエルは口を開いた。
「ベアトリスをこけにした不敬の輩だったのに、今ではもうすぐあいつが皇太子か! 全く、世も末だな。もうすぐこの王国も、終わりになるかもということだ!」
「サミュエル様、何とかしてエクリース様をお探ししませんと」
「もう遅いぞ、ビクター」とサミュエルは悔しそうに言い放つ。
「明日になれば、あの糞野郎が皇太子となる。そして、その母サスキアは皇太子の母として、権勢を振るうだろう。今まで日陰の身に甘んじてきた女が頂点に立つとなれば……エクリースを探し出すどころか、もしも見つければ、葬り去ることもできる立場だ」
「母と言うものは、息子の為とあらば、何でも致しますな、イデット妃のように。そして我が妻アンネットにもそのケがあるようで」
「ハハハハ。アンネットももうすっかり母親か! ……それにしても、エクリースはどこへ行ったのだ? そしてベアトリスは、とうとう母になる前に、逝ってしまったとは」
 サミュエルは再び黙り込んだ。

「お二人方、如何なされた?」と言う声は、ソラリス先生。相変わらず、ただの鉛を金に変えることが出来ない、ぐーたら錬金術士だったが、毎日しごくのんびりと暮らしていた。
「ああ、ソラリス先生でしたか」とビクターが言うと、ソラリスはニタリと笑う。
「わたしの勘では、エクリースは確かに東方に行ったはずじゃが……だが、先ほど大鷲がわたしに言ったハナシによると」
「言った!?」と同時に二人。
「嘴で示したのよ」
「はあ?」
「それがの……大鷲は、北東に飛んで行ったそうじゃ」
「北東!?」と二人とも大声を上げた。「北東と言えば……別の国。あの寒い国では?」
「やばいですのぉ、あの国とこの国とは、国境争いのせいで国交が無いのじゃ」
 う~むとサミュエルは腕組みして、考え込んだ。






+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。